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有価証券報告書 トップ自ら発信 金融庁、情報拡充へ指針 優位性やリスク分析 - 情報発信力が問われる企業に求められるものとは?

経営管理会計トピック 会計で経営を読む
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■ 日本の情報開示の姿勢が変わった!?

経営管理会計トピック

日本企業でSR・IR・PRなどの部署に携わっていらっしゃる方々には受難の時代と申しましょうか、企業からステークホルダーへの情報開示の在り方について、大きく潮目が変わり、期待値も高まっている時代になったのではとひしひしと感じている時に、このような記事が掲載されました。

2018/7/3付 |日本経済新聞|朝刊 有価証券報告書 トップ自ら発信 金融庁、情報拡充へ指針 優位性やリスク分析

「金融庁は上場企業に対し有価証券報告書(有報)に載せる情報の拡充を求める。経営者に競合相手と比べた優位性や、経営上のリスクを独自の分析を交えて発信するよう促す。取締役の報酬の決め方や持ち合い株の保有方針もより詳細に開示させる。数字の羅列の形式にとどまる有報を、実質的な投資判断の材料とすることを目指す。」

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

(下記は同記事添付の「情報開示の拡充に向けた取り組み」を引用)

20180703_情報開示の拡充に向けた取り組み_日本経済新聞朝刊

記事によりますと、早くて2019年度から、経営者目線で戦略やリスクを開示するためのガイダンスを含めた、

① 定性的な情報開示の強化・促進
② 定量的な情報の充実

を有価証券報告書に求める方針を金融庁が固めたとあります。

具体的には、「記述情報」と呼ばれる定性的な情報を充実させることで、経営者自らにビジネスの優位性や、経営上の課題について自己分析した結果を「事業の現況」として説明してもらおうというものです。

あわせて定量的な情報の拡充も求めます。

① 役員報酬:報酬の固定部分と業績連動部分の内訳、業績連動している経営指標
② 政策保有株(持ち合い株):対象銘柄数の増加、増減とその理由
③ 監査法人の継続期間
④ 指名・監査委員会:対象となった議題の開示

東証が決算の早期開示を目的に「決算短信」の内容省略化を決め、徐々に報告内容の簡略化が進み(その割には早期化の方は進んでいないとの批判もありますが)、定型の比較もやりにくくなったことから、腕の悪いアナリストからは不評の策でした。おっと辛口が過ぎましたかね。(^^;)

遂にその変化の波が有価証券報告書にも届いた感があります。事業報告書など、情報が重複する決算開示関係の事務負担を軽減することで、決算開示の早期化と内容の充実化を図る意図が当局にはあるというのが通説になっています。

 

■ 日本企業における情報開示に求められる環境の変化

こうした動きは、企業を取り巻くステークホルダー、その中でも有力な一角を占める投資家への効果的な情報開示の在り方への要求の高まりを受けたものだということが推察されます。

(下記は同記事添付の「企業と投資家の対話のパイプを太くする」を引用)

20180703_企業と投資家の対話のパイプを太くする_日本経済新聞朝刊

「企業が投資家に有益な情報を出すのは、株式市場の活性化に欠かせない。これまでもコーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)や、機関投資家の行動指針である「スチュワードシップ・コード」を策定。今回の有報の充実は、株主と経営者の対話を支えるパイプを太くする基本インフラという位置づけだ。」

コーポレートガバナンス・コードも2018/6/1に改訂され、矢継ぎ早に投資家と企業間の情報のパイプを太くしていく施策がいくつも試みられています。

こうした動きは財務データ中心だった決算短信や有価証券報告書に限った話ではありません。監査法人から出される「監査報告書」にも変化が求められています。

2018/6/13付 |日本経済新聞|電子版 決算「不適正」の理由、株主に説明を 金融庁、監査法人に要請

監査意見が「不適正」や材料不足で判断できない「意見不表明」になった場合、すなわち「無限定適正」以外の意見を出す場合に、詳しい理由を監査法人に説明するよう求める金融庁の方針が明らかにされています。ただ、監査法人は企業と守秘義務契約を結んでいるため、「監査法人が無限定適正以外の意見を出す場合は、守秘義務を解除し、監査法人が対外的に説明できる仕組みや運用方法などを検討」するまでの意気込みで取り組まれています。

これは、財務諸表の信頼性をもっと高めるために、監査プロセスの開示や会計士の意見を加える流れに沿った方針であり、企業自らの自発的な情報発信とは別視点の開示情報の充実化といえます。すべては、投資家を中心としたステークホルダー重視(保護)を意図したものになります。こうした流れは、通常は企業経営者にとってマイナス、過剰なプレッシャーや訴訟リスクの高まりと受け止められ、あまり歓迎されない施策かもしれません。

 

■ とはいえ、企業の自発的な情報発信の意味は重要である!

とはいえ、企業(経営者)自らが、積極的に定性的な情報や非財務情報を開示する姿勢には意味があると筆者は考えています。

例えば、定性的な情報、例えば、経営戦略や市場におけるリスクに関する情報開示内容の濃淡は、その企業経営者の資質を知る貴重な手がかりとなり、それが有価証券報告書など、法定の資料からも十分に窺い知ることができるようになることは、経営戦略やリスクを十分に示していない有価証券報告書を開示している企業を積極的に投資対象から外すなど、投資家の銘柄の選別に有効な手段となるからです。法定で必ず出す必要があるもの、最低限の開示義務があり、プラスαで何を出しているかのファクトと、出そうとしているかの姿勢は、それだけで十分にその企業を知る材料となるからです。

2018/5/11付 |日本経済新聞|電子版 ESG情報開示が急拡大 成長語れぬ日本の経営者 Earth新潮流 (半沢智氏)

「日本企業は、従業員や取引先、地域社会との関係を大切にしながら、顧客の満足度を重視した質の高い製品・サービスを生み出す「三方良し」の経営を古くから実践してきた。本来、ESGとの親和性は高いはずだ。
だが、日本企業への評価は世界に比べ総じて低い。投資家向け情報提供機関であるFTSEラッセルがまとめたESG評価に関する調査によると、日本企業が世界平均を上回ったESGの項目は14項目中わずか1つ。環境先進国を標榜してきたにもかかわらず、環境分野でも5項目中4項目で世界平均に及ばない。」

こうしたグローバルレベルでの日本企業の低評価は大変残念なことと、日本企業の業績向上の一端を(ほんの少しですが)担っている経営コンサルタントとしての筆者も忸怩たる思いでいます。

本記事では、日本企業が低評価になる理由を、

① 世界標準の取り組みができていない分野がある(女性活用やコーポレートガバナンスなど)
② 情報開示力の不足(目標となるKPIとその達成度評価が無い)
③ 投資家とのエンゲージメント(対話)における経営トップの説明能力の不足

という感じに分析しています。

 

■ 財務情報と非財務情報の両方を含む統合報告書に企業の情報発信力を見る!

「統合報告書」は、企業の売上高などの財務情報と、環境や社会への配慮、知的資産から、ガバナンスや中長期的な経営戦略までを含む非財務情報を投資家などに伝えるものです。欧米を中心に機関投資家が社会的責任投資(SRI)を重視するようになったことから重要視され始めました。

「国際統合報告評議会(IIRC)」が2011年9月に発行したディスカッションペーパーで示した、「統合報告書」における5つの基本原則と6つの構成要素が、世の中や、ステークホルダーが求める財務および非財務の情報開示の在り方を示す一つの有効な判断材料になると思い、下記に紹介します。

◆5つの基本原則

1)戦略を明らかに(戦略的焦点)
2)財務・非財務の情報を関連付けよ
3)将来の方針を明らかに(将来志向)
4)ステークホルダーの意見を取り入れよ(反応性とステークホルダーの包含性)
5)簡潔に、重点を絞って信頼性を高めよ(簡潔性、信頼性と重要性)

◆6つの構成要素

1)経営戦略とビジネスモデル
2)リスクとチャンスを含む、事業活動の状況
3)戦略目標と、達成のための戦略
4)ガバナンスと役員報酬
5)業績
6)将来の見通し

従来は、アニュアルレポートとCSR報告書が合体して、統合報告書になりました、という説明を多く耳にしました。さらにこれに加えて、「有価証券報告書」まで含めて、このような5の基本原則と6つの構成要素を考慮した外部開示資料に仕立てることが可能になるならば、これぞ、情報発信力の高い企業という評価につながり、そのまま適正にかつ高い企業評価につながるのではないでしょうか。

(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

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