■ 日本人の人脈構築力の実力とは?
日本人は、場の空気を読むことができる稀有な民族のひとつだと思っています。ただし、筆者は例外ですが。。。(^^;) そういう刷り込みを長い間受けてきたので、こういう若林教授の学説を目にすると、意外な点に気がいって、どうしてもブログで取り上げたくなるものです。
2016/4/18付 |日本経済新聞|朝刊 (エコノミクス トレンド)社員の人脈、業績にも影響 「見えざる資産」形成を 若林直樹 京都大教授
「ビジネスパーソンとして成功するには、良い人脈が大切とされる。社内での人脈が発展していることは、会社にとっても、職場でのコミュニケーションの活発化、まとまりの高さ、意思決定の速さ、ノウハウや情報の共有が進むとされる。
近年の経営学では社会ネットワーク理論を受けて、会社の人脈を「組織ネットワーク」と捉えて、その経営効果を分析する。ポール・アドラー米南カリフォルニア大学教授らは、経営業績を上げる効果を持つ組織ネットワークを「社会関係資本」という視点で、企業の「見えざる資産」に位置づけている。」
<ポイント>
○ 日本人の人脈構築能力は国際的に高くない
○ 社内ネットワークが社員の業務を相互支援
○ 知識移転とリーダーシップ開発への効果も
(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます
横道に逸れますが、筆者が専門としている「会計」の分野では、残念ながら、「社会関係資本」と財務諸表に乗りそうな名前がつくものでも、原則として、対価としてのキャッシュアウトの裏付けがないと、貸借対照表(B/S)に資産計上できません。それゆえ、最近富に企業活動で重要になってきている「人財」と「知識(ノウハウ)」に限って、会計上はそのままでは資産とみなされません。M&Aなどで資産再評価などを行い、買収資金として対価が明確になった場合にのみ、貸借対照表に計上されます。でも「のれん」という科目名でなんですよね。(^^;) この辺が、「見えざる資産」と呼ばれる所以で、会計学が21世紀の企業活動でも有効であるために、超克すべき課題の一つだと考えています。
閑話休題
■ 意外に低くて範囲の狭い日本人の人脈構築力
日本人社員は集団主義的なので人脈構築能力が多分高いと思われていますが、経済協力開発機構(OECD)の国際比較調査では、現実には国際的にみてそれほど高くはないという評価となっています。
(下記は、同記事添付のOECD調査結果と橋渡し型ネットワークのイメージ図を転載)
この調査によれば、正社員に限定せず同僚との付き合いが一定程度ある人の割合を見ると、日本人はOECD加盟国平均とほぼ同じで、アジアの韓国だけではなく先進国の米国や北欧よりも低い結果となっています。
また、こういう研究成果もあります。
<中尾啓子・首都大学東京教授の日米従業員分析>
「社内で地位の高い社員は日米ともに高学歴だが、日本人の場合は、米国に比べると、そのつながりのある人の学歴程度が同質的で範囲が狭い。日本企業は、組織の持つ能力を国際的に考えると、社員のネットワークのレベルと効果を検討する必要がある。」
社員の社内ネットワークが、業績向上効果を持つ場合には企業の資産となり得ます。以下、
(1)組織活動の質の高さ
(2)知識移転とイノベーション(革新)
(3)リーダーシップ開発への効果
についての考察をご紹介します。
■ 業績向上効果を持つ社内ネットワークは社会関係資本
(1)組織活動の質の高さ
「社内の人的ネットワークの発達は、職場の中でまとまりを高めるだけではなく、仕事上で同僚に対して相互支援することを強化し業績を上げる効果がある。」
(事例)
社内ネットワークは、仕事で助け合う動機や価値を普及する効果があります。日本航空の経営改革で稲盛和夫氏が京セラ式の「アメーバ経営」を導入した際も、仕事の上で同僚に対し「思いやりを持ち、誠実に」支援することの奨励が改革を促進したといいます。
(2)知識移転とイノベーション(革新)
「社内での知識やノウハウの移転促進と、それに伴うイノベーション促進への効果が見られる」
そのメカニズムは、
①社内において、業務活動に関連する社員たちの間でのネットワークが高密に張りめぐらされて信頼感を共有していると、活発なコミュニケーションが行われる
②それを通じて、社内で情報やノウハウが循環する
③その共有が進むとともに、新たな製品・サービスの革新が行われやすくなる
(事例)
米IBMは、国際的に社員たちの技術討論をするフォーラムである「IBM技術アカデミー」を作っている。
日本のサイボウズは、社員たちに対して「仕事Bar」という組織活性化策を実施しており、複数部門の社員が会議室で食事をしながら仕事に関連した「緩い話」をすることを支援している。
こうした知識移転ネットワーク活性化策がイノベーションを生み出すとのこと。
(3)リーダーシップ開発への効果
「リーダーシップとは、リーダーが組織に対してある目標に向けた活動をするようにうまく影響する能力である。そして、リーダーは、チームや組織内での人と人との接触でその能力を認識されて、皆にリーダーとして位置づけられる。」
(事例)
日本の食品スーパー大手、ライフコーポレーションは店長に研修の一環として、パート従業員と積極的でポジティブなコミュニケーションをするよう訓練し、彼らのリーダー能力開発を進めている。
■ 経営に変革をもたらすネットワークは「橋渡し型ネットワーク」
若林教授によると、
「日常的なリーダーシップではなく、経営改革を進める変革リーダーシップにおいて、その改革に、組織内で分散する多くの関連の社員や上司を巻き込めるネットワークを持つことが重要だということが理解されてきた」
これが、ロナルド・バート米シカゴ大学教授が提唱する「橋渡し型ネットワーク」。チームを超えて組織内部の色々な部門や関係者に対して幅広いつながりを持つことが効果的であるとのこと。
ジュリー・バッティラーナ米ハーバード大学准教授らの英国医療サービス機関(NHS)での68の経営改革プロジェクト事例を長期的分析によると、
・組織の改革を効果的に進められる管理職は「橋渡し型ネットワーク」を持つ傾向がある
・「橋渡し型ネットワーク」は、組織の壁を越えて改革に社員や上司を巻き込みやすい
・他方で、チーム内部の固定的で濃密なネットワークである「結束型ネットワーク」は普段の業務活動を進めるには効果的であるが、経営改革への巻き込み能力が弱い
(結論)固定的な派閥では定常業務をできるが、改革時には、組織を幅広く巻き込むことが難しいので、「橋渡し型ネットワーク」へ切り替えるべき
逆に、組織ネットワークが経営に逆作用を生じさせる点についても研究されています。
「沼上幹・一橋大学教授らの「組織の重さ」研究で示されたように、長期雇用の日本企業では管理職や経営者の社内ネットワークが長期にわたり固定的なので、過剰に発達し、むしろしがらみをうみやすい。そのために経営改革を進めることに関して、会社内の各方面から抵抗を直接受けやすくなる面もある。」
■ 組織と構成員の能力の話をすると、必ず世代論になってしまうんだよな、これが。
最近では、「ゆとり」とか、「コミュ障」という言葉がよく使われますが、若い世代では「人脈」に対する否定的な見方があり、「しがらみ」や「個人能力否定」への強い拒否反応があるようです。OECDの比較調査結果によると、必ずしも、日本人社員のネットワーク構築能力は国際的にみても高くないし、多くの日本企業の現場で品質問題や単純ミス頻発、社員の協力不足などで「現場崩壊」やその改善能力低下が問題となっているそうです。
2016/4/12付 |日本経済新聞|朝刊 「団塊」「バブル」「ロスジェネ」「ゆとり」… サラリーマン世代論 解を探しに・引き算の世界(1)
「「『ゆとり世代』は使えない」「『団塊』は熱すぎて困る」。職場や居酒屋でまことしやかに交わされる世代論。だが、世代によってどんな特徴があるのか、自分がどの世代に入るのかを知らない人も多いはず。世代間ギャップを感じたとき、相手を理解するヒントになりそうな各世代の傾向を、リクルートワークス研究所の豊田義博・主幹研究員に聞いた。」
(下記は、同記事添付の世代の変遷図を転載)
筆者は、「ロスジェネ世代」に括られるようなのですが、
「就職前に企業の倒産やリストラを目の当たりにしたため、会社の中で言われたことだけをやっていても安泰でない、転職市場でも評価される個人にならないといけない、という意識が強いのが特徴だ。「キャリアアップ」という言葉がはやり、自分の市場価値を高めるため資格取得やダブルスクールにも積極的。プロフェッショナル志向が強く、ゼネラリストである管理職になることを嫌う。」
とのこと。確かに、そう言われれば「手に職つけたい」の延長線上でコンサルタントになったのかも。そして確かに片手ぐらいの転職も経験しました。
そういう我々世代が中間管理職になって、「ゆとり世代」の若年層を指して、「今どきの若いものは、、、」とやっている風景を結構見聞きします。でもね、すでに古代ギリシア時代の遺跡から出土した石版に、「今どきの若者は、、、」という文言があるんですよね。ソクラテスやプラトンの時代から言われている若者世代批評。永遠に繰り返す世代批判。
そういう世代間ギャップを超えた、企業内現場での社員ネットワークの在り方を考えた方がいいと思います。確かに、IT企業などでは、横のつながりが強く、組織の壁を感じさせずに「橋渡し型ネットワーク」が有効なように見えているのは、世代が近いもの同士が、似た価値観でお話ができるからに違いない、と筆者は考えるのであります。こういう議論で最も実践的でかつ効果的なのは、どうやって世代間のコミュニケーションギャップを埋めるかのような気がしてきています。
そういう意味では、生まれた時からIT機器が身近にあって、世界のいろんな歴史と文化を背負った人たちと屈託なく接することができる「ゆとり世代」の人たちが最強である世の中が来るのではと思っています。ITリテラシーも、異文化コミュニケーションにも問題が無い世代という意味で。また、「世代」で一括りにするものでなく、「個人」の意識の問題かもしれませんね。いずれにせよ、社内外を問わず、コミュニケーションする相手は、自分とはバックグランドが最初から違うもんだと想定して、言葉を交わす。それくらいの心の準備と余裕があれば、うまくいきます、きっと。
(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。
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