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遺作「完結」、AIに期待 小松左京さんの作品データ提供 - もしかすると計量文献学にも革命が起きるかもしれない

経営管理会計トピック テクノロジー
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■ 人工知能(AI)が代書する時代が到来か?

経営管理会計トピック

日経新聞コラムに、小松左京さんの遺作を完結すべく、AIを駆使して続編を捜索しようというプロジェクトが進行中です。

2016/1/27付 |日本経済新聞|夕刊 遺作「完結」、AIに期待 小松左京さんの作品データ提供

「SF作家、小松左京さん(1931~2011年)の著作権管理事務所「小松左京ライブラリ」(神戸市)は27日までに、人工知能(AI)の研究グループに全作品のテキストデータを提供したと発表した。難しいとされる人工知能による長編小説執筆の実現に向け、分析用の資料として活用してもらう。
 同ライブラリを運営する小松さんの遺族は、未完の遺作「虚無回廊」を人工知能が完結させることに期待を寄せている。」

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

またぞろ、生身の人間ができないことを、どういう理屈になっているか分からないけど、魔法のように人工知能(AI)が可能にする、みたいなイメージでこの記事をお読みの方もいらっしゃるかもしれません。

このプロジェクトの経緯を続けます。

「提供を受けたのは、12年からSF作家、星新一さん(26~97年)のテキストやプロットを分析し、人工知能に短編小説を創作させる研究を進めてきた、公立はこだて未来大(北海道函館市)の松原仁教授らのグループ。星さんのプロジェクトでは、17年ごろの「新作発表」を目標に掲げている。交友もあった日本を代表するSF作家2人がそろって研究対象となる格好だ。
 同ライブラリによると、データを提供したのは約1年前で、今年で小松さんの没後5年となるのを機に発表した。松原教授は「星さんらしさを比較考量する資料として小松さんのデータを一部使い始めている。将来的には小松さんの作風を研究したい」と話す。」

分けも分からず、人工知能(AI)が、小説という形態とはいえ、芸術作品も創り出せるのなら、もう生身の人間でしかできないことはなくなるんじゃないか、との軽い恐怖も感じられるかもしれません。たしかに、人間が作曲した楽曲と、人工知能(AI)が作曲した楽曲を比べて、遜色がないという調査結果は次の著書でも触れられています。

また、巷では、ボーカロイド(VOCALOID)を使って、決して生身の人間が発声できない早口だったりするボカロ曲が流行っていたりして、カラオケボックスでも、若い人が中心に、実質は人間が歌えないボカロ曲に挑戦しているという話も聞いています。

● ヤマハのVOCAROIDの詳細はこちら
 (http://www.vocaloid.com/

ボーカロイドも進化しており、簡単なフレーズやトーンを指定するだけで、AIがリクエストに最適な楽曲を作曲するサービスまであったりします。小説や音楽など、芸術的な創作活動も人工知能(AI)の独壇場となってしまうのでしょうか。

⇒「音楽教室で文化を育て楽器市場開拓!ヤマハの音楽文化戦略 ヤマハ株式会社社長・中田卓也 2015年9月3日 TX カンブリア宮殿

■ 結局、人間が人工知能(AI)のアルゴリズムを考えるのですが、、、

プログラムが自身のバグを自動的に修正する、という再帰的なプログラムも世の中にはすでに登場しており、これが汎用的(社会的な事情や、特定の人間関係の機微も反映できるようになるの意)機能になったら、もう生身の人間は不要になるのかもしれません。

しかし、この新聞記事で使用されていると思われるAIのアルゴリズムは、これまでその道の専門家の努力の末に手に入れた一定の法則・ルール・ロジックが生かされているものと推察しています。

それは、「計量文献学」です。例えば、『源氏物語』の作者は、紫式部ということになっていますが、あなたが読んだ『源氏物語』が、本当に紫式部が一言一句書いた作品かどうかについては疑問な点があるのです。当時は活版印刷技術など存在していないので、『源氏物語』を読んで感銘を受けた読者が写本して、それが次々と書き写されて、上流貴族社会に広まっていきました。その間に、本当に紫式部が書いたフレーズや語彙が、写し手の好みに書き換えられることも頻発し、中にはストーリーまで自分好みに書き換えられたものまで存在しています。

また、『源氏物語』の続編とされている『宇治十帖』については、もっと明らかに、紫式部の作品ではないという説が有力になっています。どうしてそういう説が成立するのか? そもそも、「計量文献学」とは、WiKiから説明を抜粋すると、

「文献の特徴を数値化し、統計学的手法を用いて文献の分析や比較を行う方法、またはそれに関する学問分野。文献の著者の異同や時代の推定、同一著者の著作内容・思想と文体との関係の解析などを目的とする。」

その中で、数値化し解析する対象として、

「言語、書記体系、文の種類(散文・韻文)や内容によっても適したものが異なり、場合に応じて選択する必要があるが、例えば単語または文の長さ、特定の単語または品詞の使用率、同義語や句読点の使い方などが用いられている。」

その解析手法や有名な逸話として、

「統計解析方法も特に定まっているわけではなく、対象に応じて様々な手法が用いられる。最初に提案したのはド・モルガンと言われるが、本格的な研究は19世紀末から始められ、聖書の著者問題などが検討された。その後、種々の統計学的手法が開発されるのに伴いそれらが応用され、特に現代ではコンピュータの利用が普通になり、遺伝的アルゴリズムやニューラルネットワークも応用されている。また犯罪捜査(脅迫状等)に応用された例もある。」

ここでようやく現代のAIに話がつながってきましたね。

■ 自己改変プログラムも最初は人間が創造主です!

最初の、小松左京氏の遺作をAIに完結させようというのも、この「計量文献学」分野で積上げられた各種の統計的手法が元になっています。どうプログラムに自己改変させると最適化されるか、についてのアルゴリズムを考えるのもとりあえず人間です。でもそれらは、統計的手法により導き出される結果にすぎません。筆者も、文章を書く機会が多いのですが(このブログもその一つ)、その時の気分によって、文体も使用語彙もかなりブレブレだと思うのですが、大数の法則で統計的には傾向値を言い当てられても、確定的に「この語彙をこのシーンで必ず使用する」かどうかについて、現AIのレベルはまだ到達していないと聞いています。

さらに、人工知能(AI)に喰わせられるデータは、インターネットなど、デジタル化されたものだけ。AIが解析対象とできるデータ(ビッグデータともいう)は、現時点では、生身の人間が生活を送っているなかで得られる情報のごく一部に限定されています。人間の脳みそが処理している情報をデジタル化するためには、IoTの領域でも議論されているのですが、とんでもないセンサー機器の機能向上が求められるのです。ここはソフトウェアより、集積回路を含むハードの限界の壁が大きく立ちはだかっています。

小松左京さんの遺作再現プロジェクトの裏には、IoT、ビッグデータ、計量文献学、(ウェアラブル)センサーなど、諸処のテクノロジーや研究が礎になっていること、現段階ではまだ、人工知能(AI)が処理できるデータがデジタルに限定されていること、など、筆者の記事を読んだときに頭をよぎったことを共有させて頂きました。(^^;)

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