■ 選挙のネット投票解禁前に、企業はすでにネットを使って株主との対話が可能になっています
2013年4月に公職選挙法が改正され、インターネットを利用した選挙運動が可能になりました。同様のネットを使った、企業による株主との対話も進んでいます。まあ、ネット投票は、まだ選挙では解禁されていませんが、すでに、インターネット議決権行使については、実現しているのであります。さあ、3月決算期の会社はそろそろ決算、さらに総会対策のシーズンインです。
(参考)
インターネットによる議決権行使 | 証券代行業務 | 日本証券代行
ここ近日中に、同様にネットを使った株主との対話強化についての動向を伝える新聞報道が続きましたので、ここでまとめておきたいと思います。
2016/2/2付 |日本経済新聞|朝刊 株主総会招集通知のネット先行開示、16年度から本格化へ 経産省調べ
「株主総会の招集通知を郵送に先んじてインターネット上で開示する企業が2016年度に大幅に増える見通しだ。経済産業省の調査によると、ネットの先行開示を15年度に見送った企業のうち、57.4%が16年度には実施する予定だと答えた。議案を精査する時間を十分確保できるよう、投資家が早期開示を求めていることが背景にある。
15年度の早期開示を見送った企業のうち、333社に16年度の意向を聞いたところ、6割近い企業が早期開示に取り組むと回答。多くの企業は郵送の1~3日前にネットで公表するとしており、株主が議案を閲覧できる期間が少し長くなる。
東京証券取引所は昨年6月から適用した企業統治指針(コーポレートガバナンス・コード)で、株主に郵送するより前にネット上で招集通知を公表するよう求めた。」
(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます
ここでも、コーポレートガバナンス・コードが登場ですねえ~。日本は欧米に比べて、個人投資家の議決権行使比率が高い傾向にあります。
⇒「日本の個人投資家、議決権行使は米英超す3割 金融庁調べ」
その一方で、株主総会における議決案に対する株主提案の濫用へのリスクもひしひしと感じているとのこと。
⇒「個人投資家 「物言う株主」に 増える総会提案、経営に緊張感 乱用懸念、運用に課題 -株主権の基本を学習してから乱用ケースを見ていきましょう!」
こうした株主との対話のためのコストは、資金調達コストに正確にはね返ってきます。コーポレートガバナンスや企業業績の良否から、自ずとその企業の調達コストは実力通りのものに落ち着くと、筆者は考えるものであります。良い株主とは、口を出さない株主ではなく、資金調達コストをミニマムにする株主かもしれませんね。
■ 株主総会プロセスのネット化について、有名コラムはどう評価しているのでしょう?
2016/2/16付 |日本経済新聞|夕刊 (十字路)株主総会プロセスの電子化
「上場企業の持続的な成長と中長期的な企業価値向上の鍵は、企業と株主・投資家の建設的な対話にあるとの考え方に基づき、機関投資家の責務を定めるスチュワードシップ・コードが導入された。
しかし、日本株に投資する機関投資家の間では、株主総会日の集中に加え、招集通知受領後の議案検討期間が短く、十分な対話が難しいという不満が根強い。そこで経済産業省が研究会を設置し、ネットの活用で株主総会プロセスにおける企業と株主・投資家の対話を促進しようと検討を始めた。」
その前は、株主総会の集中開催がやり玉に挙がっていました。総会屋を排除するための会社法(旧商法から引き続いて)の幾度とない改正が功を奏し、従来の総会屋は鳴りをひそめましたが、現在でも、「物言う株主」「アクティビスト」「議決権行使助言会社」と、企業による株主総会運営のハードルは現存しています。
「上場企業が招集通知を早期にウェブ上で開示したり、機関投資家が議決権行使の電子プラットフォームを活用したりすることで、議案の検討や対話に充てられる時間が長くなるのは大変結構なことだ。
もっとも、何でも電子化すればよいとばかりに、個人株主宛ても含め、今まで郵送していた書類を全てウェブへの掲載や電子メール送付に移行するとなると、慎重な検討が必要だろう。
諸外国では、ウェブ上に情報をアップした事実を株主に通知するだけでよいとか、一定の日数以内に書面送付を請求しなかった株主には、以後郵送は不要といった制度もあるようだ。」
企業が負担すべき適正な株主総会運営コストは、外形標準的にお上がきめるのではなく、そこは会社自治の精神で、個々の企業が決められる方が筋が通っていると考えます。何度も言いますが、いい経営をしていれば、いいスポンサー(株主)がつくのです。経営品質が悪ければ、ハゲタカファンド(もうこれも死語ですかね)や、筋の悪いアクティビストから、株主還元の美名の下、即金をたかられてしまいます。
「しかし、そうした国々には、もともと個人株主による直接の議決権行使が一般的でないとか株主総会の定足数の規定が緩やかだといった制度的背景がある。
一単元の株主でもはがきの返送で個別議案に賛否を表明できる書面投票制度は、日本では当たり前だが、実は世界的に珍しい。そのおかげで日本の個人株主は、議決権行使比率が諸外国よりも高い。
彼我の違いを忘れて海外の制度を模倣すれば、対話の促進どころか、個人の上場企業離れにもつながりかねない。日本の実情を踏まえたネット活用への検討が望まれる。
(野村総合研究所主席研究員 大崎 貞和)」
良い筋の株主を集めるために、安定株主としての個人投資家をあてにして、株主優待制度などを拡充している傾向が日本企業にはあります。相応の資金調達コストと経営へのフリーハンドを得たい対価として、どれだけの手間暇を株主との対話に費やすか? 一律的に「コーポレートガバナンス・コード」「スチュワードシップ・コード」で縛るものでもないと思いますが如何でしょう?
■ 個別企業の動向を確認してみましょう
2016/3/3付 |日本経済新聞|夕刊 総会通知、早期にネットで アサヒやブリヂストン、郵送前に開示 機関投資家、議案を精査
「12月期決算の上場企業が3月に開く定時株主総会の招集通知をインターネット上で郵送より早く開示する動きが広がっている。アサヒグループホールディングスやブリヂストンは今年から前倒しでネット開示を始めた。総会の議案を吟味する時間を確保したい国内外の機関投資家からの要請に応える。3月期決算企業にも同様の動きが広がりそうだ。」
(下記は同記事添付の株主総会の様子の写真を転載)
「例年、3月初旬は12月期決算の上場企業が一斉に株主に向けて株主総会の招集通知を発送する時期だ。ブリヂストンは招集通知の郵送を始めた2日より1週間早い2月25日、自社ウェブサイトや東京証券取引所のサイトで内容を開示した。監査を済ませた損益計算書などの関係書類や総会議案をなるべく早く開示し「株主に理解を深めてもらいたい」という。」
「アサヒや協和発酵キリンも2日の郵送開始に先んじて、2月24日に株主総会に諮る議案と、英訳した資料をネットで開示した。
ポーラ・オルビスホールディングスは1日にネットで総会関連資料を開示。郵送は3月14日から始める予定だ。2015年6月に導入された東京証券取引所の「コーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)に対応した」と話している。
コードでは株主が十分に総会議案を検討する時間を確保できるように招集通知の送付を早める一方、自社ウェブサイトなどでの「電子的な公表」を求めている。」
ここでもコード、コードですか、、、疲れます。(^^;)
「日本では招集通知を発送するのは、株主総会を開く日の平均18日前。米国やドイツ、フランスの主要企業は40日以上前に送るケースが多いとされ、海外機関投資家などから早期開示を求める声が上がっていた。」
(下記は同記事添付の主要国別の総会資料の開示方法の比較表を転載)
「以前からネットで開示している企業の中には時期をさらに早める動きもある。ナブテスコは株主総会の約3週間前にウェブで公表していたが今年から1カ月前に早めた。「海外を含めた投資家に議案を精査してもらう時間を多くとった」としている。」
そもそも、日本の通知時期が遅いことが背景にあるんですよね。相対的に。
2016/3/4付 |日本経済新聞|朝刊 株主総会の招集通知 関連書類をネット開示 経産省提言
「株主総会の招集通知について、経済産業省の研究会は、議案など関連書類の電子化制度を作るべきだとする提言をまとめる。欧米の仕組みを参考に、総会前に株主に提供すべき情報を全てネット上で開示し、そのアドレスを書面で株主に郵送する仕組みが柱だ。年度内にも成案をまとめ、今夏に策定する成長戦略に盛り込む方針だ。」
「有識者でつくる経産省の研究会が4日、提言の骨子案をまとめる。現在、ほとんどの企業は株主総会の招集通知と関連書類を紙で株主に郵送している。提言では、郵送は総会日時など基本情報と、関連書類の電子版が掲載されたホームページのアドレス、議決権行使書面の3つに絞り込むことにする。」
「電子化対応は法律で義務付けることはせず、企業が自主的に選べるようにすべきだとの考え方も盛り込む。紙で読みたい株主に配慮する必要があることから、経産省は、紙を送付するよう株主から求められた場合の対応方針を各企業が定めるよう提言に盛り込む方向だ。」
→企業の選択の自由、株主の選択の自由。自由であることには対価がつきものです。会社自治の原則に従い、相応のコスト負担で相応の自由を求めてやみません。
2016/3/26付 |日本経済新聞|夕刊 株主総会の招集 通知も「対話型」 社外取締役が提言/役員の評価掲載
「株主総会の招集通知で情報発信を工夫する上場会社が目立ってきた。今月末に総会開催が集中する12月期決算企業で社外取締役の提言を掲載したり、取締役への社内評価を開示したりしている。総会の招集通知は事業報告や決算などを掲載するのが一般的だが、株主との対話を企業に求める流れが強まっているのが背景にある。」
こちらの記事は、ネット開示という手段ではなくて、開示内容(コンテンツ)の拡充の方のお話し。
「25日に総会を開いたカゴメは招集通知に、「カゴメブランドを強くする」と題し、社外取締役3人の経営提言をのせた。社外取締役による経営監視を、株主にアピールするのが狙いだ。
取締役らの社内での評価を招集通知に載せたのが、工具商社のトラスコ中山。幹部社員が中山哲也社長以外の取締役と監査役計6人を経営感覚など6つの観点から「採点」し、その結果を招集通知に盛り込んだ。キリンホールディングスも今年から全取締役の選任理由を記載している。」
「招集通知の分析をしている宝印刷によると、日経平均に採用されている企業で3月に総会を開く約7割強が取締役の選任理由を招集通知に載せた。昨年6月に総会を開いた企業で選任理由を載せたのは2割弱だった。
アサヒグループホールディングスは投資家の注目度が高い中期経営計画の記載を手厚くした。」
コンテンツ拡充の事例は、
① 社外取締役の経営提言
② 取締役(会)に対する社外取締役からの評価
③ 取締役の選任理由
④ 決算報告や業績予測に加えて、中期経営計画の説明の拡充
等に整理されます。議決権行使に当たり、どれも株主の興味を惹くものであると確信していますが、筆者が恐れているのは、この招集通知に付く説明にまで、定型フォームの押しつけや規制がかけられる可能性ですね。
良い経営者は良い株主を自然と集めるもの。ダメな経営者は、当局がどんなに規制をかけて努力させても、悪い筋の株主しか寄り付かないのです。だって、株主は自由に企業を選べるのですから。自然選択に任せるのがベストです。企業だってバカじゃありません。自社が株式市場で「レモン」に見えていると自覚していれば、自ずと情報提供を進んでやるに違いありませんから。
ちなみに、上記の取締役会の評価については、関連投稿がありますので、そちらどうぞ、合わせてお読みいただけると幸甚です。m(_ _)m
⇒「取締役会評価、二の足 企業統治指針、実施4割どまり 課題発見で成果も -コーポレートガバナンス・コードを押しつけた弊害ここにあり! 」
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