■ 熟慮によって組織力を高め、機転によって勝利を収める
「前節」でお示した5つの基本事項に基づく計略を戦いの前に採用して組織力を高めることができたなら、敵(コンペチター)に勝利する体制を整えることができます。
次は、自組織に「勢(せい)」を付与して、実際の戦いの場における補助手段とします。「勢」とは、その時々の有利な状況により従って、一挙に勝敗を決する切り札を自己の掌中に収めることをいいます。
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2節目でもう「孫子」特有の抽象論の洗礼を受けてしまいます。早速解説します。
第1節で説明した「5計」をベースに、内政(組織力強化)に努めておけば、戦う前から勝利の確率は大変高いものとなります。しかし、戦場には不確定要素が満ち満ちています。すなわち、戦にいどむということは、必然のみが支配する「計(熟慮・準備)」の領域から、偶然が支配する戦場における「勢(機転・応用力)」の領域へと踏み込むことになります。
将軍(組織のリーダー)には、千変万化する錯綜した状況下に潜む自組織の利益を見抜き、一瞬のうちに勝機(商機)を読み取る、俊敏な判断力が求められます。
ちなみに、「『権』を制する」、の「権」とは、天秤ばかりに乗せる分銅のことを言います。孫子は、将軍が身に着けているべき「勢(機転・応用力)」が、戦場において、戦況を急変させ、にわかに勝敗を決定づける決め手の比喩で使用しています。
つまり、天秤ばかりの片方に分銅をいきなり乗せれば、それまでの均衡が破れ、天秤は即座に傾斜をつけて片方に傾いてしまいます。戦場において、将軍(組織のリーダー)の状況判断ひとつが、その戦場の敵味方の力の均衡を一気に破り、戦況を自軍有利に導く、もしかするとそれまでの劣勢をひっくり返す可能性まである、と、将軍の戦場における機知を重要視しているということになります。
「孫子」は、結構リーダーに多くのものを求めています。同じく中国古典由来の儒学は、同様にリーダーの心構えを中心に説かれたものですが、実践的なリーダーの資質、という意味では、圧倒的に「孫子」側の要求水準の方が高くなります。まあ、心構え的な儒学、実践知的な孫子、現代のビジネスパーソンは、両者をうまく使い分けて学んでいただければと思います。
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