■ 餌で釣って敵を意中の場所におびき出す
巧妙に敵軍を移動させる者が、敵にあるハッキリした形(戦闘態勢)を示すと、敵は決まってその形に対応しようと行動してくるし、敵に何かの利益を与えると、敵はきまってその利益を取ろうと行動してきます。
こうした方法を用いて、狙った地点へ誘い出し、あらかじめ部隊を配置しておいて、何も知らずにやってくる敵軍を待ち構えるのです。
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「勢(組織全体の戦闘力・戦闘態勢)」を発動させて、敵を打ち破ろうとした場合、攻撃目標を定めて、打撃力で敵を打ち破ろうとするのですが、敵軍がどこにいるか所在を索敵する時間的ロスから勢いがそがれる可能性、敵軍の目前で態勢を整えていたら、敵から発見され邪魔が入って、自組織の100%の実力を出すことはできなくなる可能性など、こっちの方から敵を追っかけていては、勝率は上がりません。
そこで孫子は、自組織の「勢」が整った状態で敵を迎え撃つことを勧めています。では、どうやって敵をおびき出すのか?
①「之に形する」:攻撃態勢を見せつけて、敵をおびき出す
古代中国の戦いの事例ですと、敵国の都だとか、補給基地や交通の要衝だとか、敵が決して座視できない要地に進撃し、そこを攻撃・占領する構えを見せつければ、敵軍は必ずその地点に救援に駆けつけます。こっちは万全の備えで敵を出迎えますが、敵はおっとり刀でやってきて、移動で疲労し、軍列も整わないまま戦闘に突入せざるを得なくなります。
これは、日本の戦国時代末期、徳川家康が大垣城に籠る西軍を野戦で決着つけさせるため、大坂城を攻めると見せかけて、関ヶ原まで西軍をおびき出した戦例が有名です。
②「之に予うる」:餌を見せつけて、敵をおびき出す
古代中国の戦いの事例ですと、わざと要地を放棄して撤収すれば、敵軍は必ずその要地を占領しに出向いてきますし、自軍の一部隊をワザと戦場に孤立させれば、敵は必ずその部隊を攻撃して戦果を挙げようと出撃してくるでしょう。
したがって、この節から大事なポイントとは次の2つ
(1)勝率をあげるには、戦いの主導権を握ること
(自分の土俵で戦った方が勝ちやすい)
(2)自組織の戦闘態勢の準備と攻撃目標の設定は同時並行的に行うこと
なにせ、戦いに勝利するとは、「自軍」、「敵軍」、「勝機」の3要素を手中に収めることですから。
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