Pocket

 

 ■ ファイナンスはB/Sの右側で儲けます

経営管理会計トピック

ソフトバンクが、積極的なM&Aによる成長戦略を続けています。従来は、事業の目利きができる事業家のバックアップ(古風に言うと“番頭さん”)として、財務担当者が事業計画のために受け身で資金を用意していた感がありましたが、ソフトバンクは積極的にファイナンスでも企業価値創出に貢献しようと、能動的な財務管理が行われているようです。

2015/4/2|日本経済新聞|朝刊 ソフトバンク資金調達、個人向け社債の好機探る 今期 「アリババ株」担保も視野

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

「ソフトバンクは国内外のインターネット企業などへの投資資金を集めるため、2016年3月期も活発な資金調達に動きそうだ。低金利環境のなか、今期も個人投資家向け社債の発行の好機を探る。約3割出資する中国の電子商取引最大手、アリババ集団株の上場で生じた巨額の含み益も、調達手段の一つとして今後活用する可能性がある。」

 

■ 財務レバレッジの必要条件

昨今、株主還元策を強化し、自社株取得や現金配当の増配を指して、「企業価値の向上」と表現する方もいらっしゃいますが、これは単に、企業側に投資していた出資金を返金しただけのことです。投資先企業が複利で利潤を上げることができる事業機会のリスク・リターンと、投資家自身の資金運用のリスク・リターンを単純比較して、地震による運用の方が負けていると思うのなら、潔く投資先企業の事業資金のまま預けておいた方が得策です。

アクティビスト(物言う株主)は、そういう中長期的な運用を端から想定もせず、たんまりと現預金(手元流動性)の大きい企業の株を買い、例えば現金配当としてキャッシュバックをえて、買った株式についていた時価評価額以上のキャッシュインを目論んでいるだけです。その後、当該企業が資金不足になり、大きなビジネスチャンスをふいにすることなどお構いなしです。

そんな中、企業の財務管理担当者は、旺盛な資金需要(企業成長のために増大する資金需要)を賄うために、社内外から資金を調達してくる必要があります。株主に還元ばかりしていたら、内部留保は企業成長の原資としては当てにならないわけで、どうしても社外に資金を求めざるを得ません。株主がダメ、当然株主に還元しているから内部留保は当てにできない、とすれば、自ずと、有利子負債による資金調達しか手段が残っていません。

それを指して「財務レバレッジ」とここでは読んでいるのですが、この場合、2つの視点が重要になります。

① 返済義務を法的に追う外部借入は、自己資本に比べて圧倒的に返済リスクを考慮する必要があるため、資金需要の元の事業計画の精査をより厳密に行わなくてはならない
② 資金調達コストが一番有利なものを探索し、返済期間と借入規模に応じて、最適な調達手段を選択しなければならない

筆者が、事業会社の経理部門に配属されていたとき、財務担当者が起債による資金調達で、当初思っていたより2%程度有利な条件を勝ち取って、諸先輩方が褒めていたことがありました。若かりし頃の筆者は「たった2%で何をそんなに大騒ぎしているのか」と思ったものですが、タックスシールドを考えると、3.2%(実効税率40%として)の利益率を上げた事業を成功させたことと同義だったのだと後から気が付きました。金額にすると数十億円。コストセンターと思われていた経理財務部門がプロフィットセンターになった瞬間でした。

 

■ 積極的なソフトバンクのファイナンス戦略

新聞記事では、後藤取締役のインタビューがさし挟まれていました。ホームページおよび新聞記事では「CFO」という表記はありませんでしたが、氏は安田信託銀行(現みずほ信託銀行)ご出身で、社内取締役の中では唯一の金融機関出身なので、記事では「財務を取り仕切る」とありましたが、CFOの位置づけなのでしょう。大変参考になるので、氏の発言を記事からサマリします。

「歴史的な低金利で、資金をダイナミックに固定金利で取りにいくべき局面だ」
「グループ成長への機会損失を絶対に起こさないことが財務の使命」
「調達手段の多様化を進める方針」
「有利子負債に適正水準に正解はなく、企業価値拡大につながる案件があればレバレッジ(てこ)は拡大する」

資金不足で企業成長戦略の実施に支障が出ないよう、かつ資金コストは十分に抑制する、そうした資金調達の現場の基本姿勢が目に浮かびます。

ではどれだけ、ソフトバンクの連結有利子負債が足元で膨らんでいるのか?
新聞記事に添付のあったグラフを転載します。

(ソフトバンクの連結有利子負債推移:日本刑事新聞朝刊2015年4月4日)

経営管理トピック_ソフトバンクの有利子負債推移_日本経済新聞朝刊2015年4月4日掲載

リスクを見ながらレバレッジを拡大しているだけでなく、資金調達手段にも創意工夫が見られます。

① 個人向け社債
② 劣後特約付き社債
③ レポ取引(保有株を担保に現金と一定期間交換する)

②については若干の説明をします。
企業が社債を発行する際、通常無担保で発行される社債を一般無担保社債もしくは優先社債と呼びます。一般無担保社債と比べて、元本および利息の支払い順位の低い社債を劣後債ないし劣後社債と呼び、債務不履行のリスクが大きい分、利回りは相対的に高く設定されています。その劣後債において、破産や会社更生手続きの開始など劣後特約で定められた「劣後事由」が発生すると、一般無担保社債などの一般債務の支払いが劣後債よりも優先される仕組みになっています。

簡単に言うと、会社清算時に、残余財産権の請求について、

株式 < 劣後債 < 一般社債

という力関係にあるということです。

新聞記事では、NASDAQに上場したアリババ株の含み益を使って、上記③の資金調達の可能性があることを示唆するような記述がありました。なんと、アリババ株の含み益は約7兆8千億円に上り、ソフトバンク本体の時価総額:8兆3千億円(2015/4/3時点)に匹敵する規模です。

逆に言うと、ソフトバンクの株主価値はそのほとんどがアリババ株の含み益で説明がつくということ。それ以外は、インドなどへのM&A投資へ大きくキャッシュアウト、もしくは米国子会社(スプリント)の大きな減損損失の計上など、株主評価が厳しくなっていることの証左です。

それにしても、アリババ株の含み益しかり、スプリントの減損損失しかり、真っ当にソフトバンクの財務諸表に出てきてはいないので、

① 株主や資本市場参加者は何を見てソフトバンクの企業価値を測っているのか
② これで本当に制度会計はステークホルダーに有益な情報を提供しているといえるのか

ちと、会計の世界の末席を汚している筆者としては、考えるところが多々あった新聞記事でした。

(Visited 479 times, 1 visits today)
Pocket

ソフトバンク資金調達、個人向け社債の好機探る 今期 「アリババ株」担保も視野http://keieikanrikaikei.com/wp-content/uploads/2015/04/1-e1427893099240.jpghttp://keieikanrikaikei.com/wp-content/uploads/2015/04/経営管理会計トピック1-150x150.jpg小林 友昭会計で経営を読むソフトバンク,財務レバレッジ   ■ ファイナンスはB/Sの右側で儲けます ソフトバンクが、積極的なM&Aによる成長戦略を続けています。従来は、事業の目利きができる事業家のバックアップ(古風に言うと“番頭さん”)として、財務担当者が事業計画のために受け身で資金を用意していた感がありましたが、ソフトバンクは積極的にファイナンスでも企業価値創出に貢献しようと、能動的な財務管理が行われているようです。 2015/4/2|日本経済新聞|朝刊 ソフトバンク資金調達、個人向け社債の好機探る 今期 「アリババ株」担保も視野 (注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます 「ソフトバンクは国内外のインターネット企業などへの投資資金を集めるため、2016年3月期も活発な資金調達に動きそうだ。低金利環境のなか、今期も個人投資家向け社債の発行の好機を探る。約3割出資する中国の電子商取引最大手、アリババ集団株の上場で生じた巨額の含み益も、調達手段の一つとして今後活用する可能性がある。」   ■ 財務レバレッジの必要条件 昨今、株主還元策を強化し、自社株取得や現金配当の増配を指して、「企業価値の向上」と表現する方もいらっしゃいますが、これは単に、企業側に投資していた出資金を返金しただけのことです。投資先企業が複利で利潤を上げることができる事業機会のリスク・リターンと、投資家自身の資金運用のリスク・リターンを単純比較して、地震による運用の方が負けていると思うのなら、潔く投資先企業の事業資金のまま預けておいた方が得策です。 アクティビスト(物言う株主)は、そういう中長期的な運用を端から想定もせず、たんまりと現預金(手元流動性)の大きい企業の株を買い、例えば現金配当としてキャッシュバックをえて、買った株式についていた時価評価額以上のキャッシュインを目論んでいるだけです。その後、当該企業が資金不足になり、大きなビジネスチャンスをふいにすることなどお構いなしです。 そんな中、企業の財務管理担当者は、旺盛な資金需要(企業成長のために増大する資金需要)を賄うために、社内外から資金を調達してくる必要があります。株主に還元ばかりしていたら、内部留保は企業成長の原資としては当てにならないわけで、どうしても社外に資金を求めざるを得ません。株主がダメ、当然株主に還元しているから内部留保は当てにできない、とすれば、自ずと、有利子負債による資金調達しか手段が残っていません。 それを指して「財務レバレッジ」とここでは読んでいるのですが、この場合、2つの視点が重要になります。 ① 返済義務を法的に追う外部借入は、自己資本に比べて圧倒的に返済リスクを考慮する必要があるため、資金需要の元の事業計画の精査をより厳密に行わなくてはならない ② 資金調達コストが一番有利なものを探索し、返済期間と借入規模に応じて、最適な調達手段を選択しなければならない 筆者が、事業会社の経理部門に配属されていたとき、財務担当者が起債による資金調達で、当初思っていたより2%程度有利な条件を勝ち取って、諸先輩方が褒めていたことがありました。若かりし頃の筆者は「たった2%で何をそんなに大騒ぎしているのか」と思ったものですが、タックスシールドを考えると、3.2%(実効税率40%として)の利益率を上げた事業を成功させたことと同義だったのだと後から気が付きました。金額にすると数十億円。コストセンターと思われていた経理財務部門がプロフィットセンターになった瞬間でした。   ■ 積極的なソフトバンクのファイナンス戦略 新聞記事では、後藤取締役のインタビューがさし挟まれていました。ホームページおよび新聞記事では「CFO」という表記はありませんでしたが、氏は安田信託銀行(現みずほ信託銀行)ご出身で、社内取締役の中では唯一の金融機関出身なので、記事では「財務を取り仕切る」とありましたが、CFOの位置づけなのでしょう。大変参考になるので、氏の発言を記事からサマリします。 「歴史的な低金利で、資金をダイナミックに固定金利で取りにいくべき局面だ」 「グループ成長への機会損失を絶対に起こさないことが財務の使命」 「調達手段の多様化を進める方針」 「有利子負債に適正水準に正解はなく、企業価値拡大につながる案件があればレバレッジ(てこ)は拡大する」 資金不足で企業成長戦略の実施に支障が出ないよう、かつ資金コストは十分に抑制する、そうした資金調達の現場の基本姿勢が目に浮かびます。 ではどれだけ、ソフトバンクの連結有利子負債が足元で膨らんでいるのか? 新聞記事に添付のあったグラフを転載します。 (ソフトバンクの連結有利子負債推移:日本刑事新聞朝刊2015年4月4日) リスクを見ながらレバレッジを拡大しているだけでなく、資金調達手段にも創意工夫が見られます。 ① 個人向け社債 ② 劣後特約付き社債 ③ レポ取引(保有株を担保に現金と一定期間交換する) ②については若干の説明をします。 企業が社債を発行する際、通常無担保で発行される社債を一般無担保社債もしくは優先社債と呼びます。一般無担保社債と比べて、元本および利息の支払い順位の低い社債を劣後債ないし劣後社債と呼び、債務不履行のリスクが大きい分、利回りは相対的に高く設定されています。その劣後債において、破産や会社更生手続きの開始など劣後特約で定められた「劣後事由」が発生すると、一般無担保社債などの一般債務の支払いが劣後債よりも優先される仕組みになっています。 簡単に言うと、会社清算時に、残余財産権の請求について、 株式 < 劣後債 < 一般社債 という力関係にあるということです。 新聞記事では、NASDAQに上場したアリババ株の含み益を使って、上記③の資金調達の可能性があることを示唆するような記述がありました。なんと、アリババ株の含み益は約7兆8千億円に上り、ソフトバンク本体の時価総額:8兆3千億円(2015/4/3時点)に匹敵する規模です。 逆に言うと、ソフトバンクの株主価値はそのほとんどがアリババ株の含み益で説明がつくということ。それ以外は、インドなどへのM&A投資へ大きくキャッシュアウト、もしくは米国子会社(スプリント)の大きな減損損失の計上など、株主評価が厳しくなっていることの証左です。 それにしても、アリババ株の含み益しかり、スプリントの減損損失しかり、真っ当にソフトバンクの財務諸表に出てきてはいないので、 ① 株主や資本市場参加者は何を見てソフトバンクの企業価値を測っているのか ② これで本当に制度会計はステークホルダーに有益な情報を提供しているといえるのか ちと、会計の世界の末席を汚している筆者としては、考えるところが多々あった新聞記事でした。現役の経営コンサルタントが管理会計をテーマに情報発信します