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企業会計の基本的構造を理解する(5)「会計公準」とは ①企業実体、②継続企業、③貨幣的評価の3つから成る

会計(基礎編) 財務会計(入門)
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■ はじめに「企業公準」ありき。では「会計公準」はどこからやってきたのか?

会計(基礎編)

「企業会計原則」「会計規則」「会計法規」という会計の世界の成文法(文書の形で会計処理の原理原則や手続きが記述してあるもの)を順次解説していきたいと考えています。その前に、そもそもの「企業会計」の背景に流れる「会計的なものの考え方」をざっくりご紹介するのが本稿の目的です。

「会計公準」とは、すべての会計的所作の大前提となる「命題」「公理」のことです。大前提とは、財務諸表による数値の表示方法や計算手法など、会計にまつわるすべての行為や考え方の大本(おおもと)です。この位置づけを最初に理解するのが難しいのです。

例えば、「基本法」の下に、「施行令」や「細則」があり、その下に「実務指針」「マニュアル」が存在するとします。その「基本法」の内容を決める「法理」(そもそものその決まりを決めるルール・コンセプト)はどこに由来するものなのでしょうか?

こういう風に、演繹的に根源を求めていけば、やがてどこかで理論の壁に突き当たるか、循環論に陥ってしまいます。そこで会計はうまい具合にこの「会計公準」の素性を次のように解釈しています。

「一般に公正妥当と認められる企業実務を観察することで、そこから帰納的に抽出される会計基礎的考え方であり、会計的慣習が大幅に変われば、新たな会計公準が生まれたり、そぐわなくなった古い会計公準は自然に姿を消したりすることで、常に現在の会計の基礎前提であり続けることができる」

これは、法律の世界における「英米法」的なルール制定の考え方と同じで、いわゆる「慣習法」「判例主義(判例法)」という奴と同類です。したがって、「会計公準」がどこかの会計法規・会計規則に成文法として規定されて存在しているわけではないのです。(^^;)

 

■ 「会計公準」も構造をもっていますが、重宝されているのは「構造的公準」にある3つだけ

会計学として重厚に学問すれば、「会計公準」は下図のように構造化されていますが、あくまで学問としての整理であり、「構造的公準」に分類される3つだけ覚えておけば会計実務では十分でしょう。こけおどしで、筆者は全体像を知っているぞと見栄を切っているだけです(^^;))。

財務会計(入門編)_会計公準とは

この「会計公準」は、「会計原則」や「会計基準」が設定される場合には、当然に前提とされるものであり、通常の範囲内では「会計公準」をはずれて会計ルールが制定されたり、会計実務が行われたりすることはありません。

財務会計(入門編)_会計公準が住まう世界

 

■ 「企業実体の公準」

(別名)エンティティの公準

「株主等のオーナーとは区別された「企業」そのものの存在を仮定する」

会計の場所的単位として、企業主(オーナー、出資者、株主)とは区別された企業それ自体の存在を仮定する公準です。つまり、企業に存在する資産はすべて企業に属し、一方で負債および資本も企業実体とは区別された債権者、株主に対して持分関係を示すものとして取り扱われます。

従来は、会社法3条によって「法人格」を与えられた法的実体(リーガルエンティティ、個社をさす)を独立の会計単位とすると解されていました。例えは、「●●株式会社」という個社単位を意味します。特に、企業というものはその実在が目に見えるものではないので、個別財務諸表によって表されている会計数値の固まりや、財務諸表というレポートそのものが企業実体を表すものとしても理解されてきました。

ところが、最近では、ホールディングカンパニー(持株会社)などの法整備も進み、法人各を持つ個社が集まって企業集団を形成し、ひとつの経済的活動を行うことも珍しくなくなりました。こうした法的実体の枠を超えて、こうした企業グループをあたかも一つの企業体として捉えるために、連結財務諸表を作成する会計単位として、「企業集団」「連結グループ」も「企業実体」を有するものとして認められるようになりました。

さらに、企業集団の規模が大きくなれば、その構成要素それぞれの収益性とキャッシュポジションも知りたくなるのが人情というものです。それゆえ、連結集団-法人格のヒエラルキーを横から輪切りにして、セグメント単位(機能別、地域別、事業別、商品別、市場・顧客別など)にも実体を与え、会計報告を求めようということになりました。一昔前は、「事業別セグメント」と「地域別セグメント」と「海外売上高」を開示せよ、と紋切型だったものが、「マネジメントアプローチ」という考え方に基づき、経営者が企業集団の中で、自身の経営判断に用いている評価・意思決定単位をセグメントとする、という決まりができました。と同時に、必ずしも各セグメントの総合計が必ず連結財務諸表の値に一致しなくてもよいという決まりもあります。

つまり、「企業実体」を持つ単位で「会計報告」を求めるということから、

① 株式会社(法人) → 個別財務諸表(単体財務諸表)
② 企業集団      → 連結財務諸表
③ セグメント       → セグメント情報

という構図となります。

 

■ 「継続企業の公準」

(別名)ゴーイングコンサーンの公準、会計期間の公準、会計年度の公準

「企業活動は半永久的に続くと仮定する」

当初の企業活動は、大航海時代の冒険商人の営利活動をイメージすると理解しやすくなります。冒険商人は、一定の期間、一定の場所で「メッセ」と呼ばれる季節的・当座的な市場を開いたり、遠く新大陸やアジアへの航海をしたりして、その場限りの商売を行っていました。1つのメッセ、1つの航海そのものが「当座企業」であり、特に会計期間を区切らなくても、一回一回商売を精算(清算)して、どれくらいの儲けが上がったか分かるシンプルな仕組みになっていました。

(参考)
⇒「企業会計の基本的構造を理解する(3)静態論 vs 動態論、財産法 vs 損益法、棚卸法 vs 誘導法。その相違と関連性をあなたは理解できるか?
⇒「(決算 深読み)KDDIとNTTドコモ、手放しで喜べぬ好決算 4~6月「格安」に流れ奨励金減る - 決算の本質とゴーイングコンサーンの前提を考える

しかし、産業革命以降、現実には途中で倒産したり清算されたりする企業が中には存在するものの、企業活動が複数年にわたり、特に終わりを意識しないで商売がなされることが常態化されるようになり、と同時に、オーナーから専門家として雇われ経営者の受託責任も明確にする必要も生じ始めたので、人為的に「1年」「半年」「四半期」「月」という風に、時間軸上に企業業績を計測する「会計期間」を設けて、経営成績と財政状態を報告することが一般的になりました。

つまり、この公準により「期間損益計算」を行うことが会計に求められるようになり、通常の企業活動は継続しているものの、一旦会計期末において企業業績を明確にするために、会社を疑似的に清算して期間業績を明らかにする所作として、「決算整理」にまつわる会計処理が生まれたのです。

なお、従来は、会計期間は1年が通常で、旧商法では中間配当するために、会社法では半年決算が行われるという時代が続きましたが、

① 取締役会決議で、決算によらずに配当することができる
② より短期的な企業業績の変化の情報開示を投資家が求めている

ことから、現在のディスクロージャー制度では、四半期決算が義務付けられています。さらに、投資家への積極的な情報開示姿勢を示し、金融市場での機動的な資金調達に活かそうと、自発的に月次業績の開示を任意に行っている企業も存在します。

ただし、そういう姿勢は企業、投資家双方の立場から、短期的な会社業績偏重を促進させ、かえって中長期の企業価値を毀損するもの(ショートターミズム)と、批判的な立場を採る勢力も存在します。
(筆者もその一人です)(^^;)

(参考)
⇒「揺れる企業統治(3)「安定株主」トヨタも悩む IRよりSR
⇒「(経済教室)エコノミクストレンド 企業の短期主義、再び注目 株式非公開の増加も 「悪弊」とまでは言い切れず 鶴光太郎 慶大教授

 

■ 「貨幣的評価の公準」

(別名)測定尺度の公準、計量可能性の公準

「企業活動を測定する尺度として貨幣計数を用いること」

企業の保有財産は、建物3棟、商品5000個、生産設備80台、従業員600人、という風に様々な計量単位で表現されています。これらの数値を単純合算して、「5,683」という数字が手に入ったとしても、その合算値には何ら数学的意味は含まれていませんし、その数字を見たからといって、企業活動・企業業績に対するインサイト(洞察)は少しも得られません。そこで、企業全体の財政状態や経営成績を「お金」の単位で換算して表記し、その増減により企業業績を明らかにしようという考え方がこの公準の示すところです。

テクニカルには、すべての会計的取引が「日本円(JPY)」で行われているわけではありませんが、為替換算レートにより、複数の取引通貨をひとつの貨幣価値にまとめ上げることは、数量や重量などを換算することより圧倒的に容易な所作です。

この考え方は、為替換算以外に2つの重要な欠点(言い過ぎました、留意点です)があります。

(1)貨幣価値で表すことのできない重要な取引や保有財産は会計では無視される
好例に2つのケースをお話しします。「人財」「人的資本」という用語を目にしますが、貸借対照表には、企業活動を行い、競合との競争に打ち勝つために重要なファクターである従業員そのものが計上されることはありません。また、土地や機械設備など、目に見える「有形固定資産」は、取得に要した支払価額をベースに貸借対照表に計上されますが、「知的財産権」「IP:Intellectual Property」などは、その収益獲得価値に応じた価額で貸借対照表に計上されることはありません。

今後ますます「人財」「IP」が競争優位の源泉として重要視される企業環境となることは間違いありません。しかし、会計上はその価値を認める仕組みが整っていない。それゆえ、財務諸表をただ漫然と眺めていただけでは、その企業の真の競争力や真の企業価値は分からない、とする批判に対する有効な反証手だては今のところ見つかっていないのが現状です。

(2)貨幣価値は安定的であることの仮定を守ることが厳しい
急激なインフレーションが発生した時、何もしなくても保有している貨幣価値はインフレ率の分だけ目減りします。それは、企業活動が良好で、本来ならば「増収増益」など、企業業績がプラスに表示されるべき時であってもです。つまり、様々な財貨を取得した時点の貨幣価値で会計取引の価額を測定するという「原価主義」を大前提としているのです。

現代のビジネスはグローバル化が進み、為替市場の影響を大きく受けますし、金融工学に基づくデリバティブ商品をはじめとする有価証券などの価値の変動に日々さらされて企業活動を行っています。今日の1円が明日の1円の価値ではないとしたら、日々の為替レートや株式市場、市況品の取引相場をにらんだ「時価主義(公正価値主義)」による貨幣的評価がなされるように工夫される必要があります。

ザッカーバーグ氏や稲森和夫氏、永守重信氏といった名経営者の価値が財務諸表に計上されていないのに、その企業の財務諸表を信じていいのか? 卓越した中期経営戦略や、社風に基づく暗黙知の存在など、会計取引として認識されないが、その企業の競争力の源泉である価値は、永遠に財務諸表に乗ることはないのか? 

いいえ、実はそのチャンスはあるのです。M&Aで、企業買収する際に、そうした通常では会計取引にならない価値を「のれん(超過収益力)」として貸借対照表に計上する仕組みは現行の会計基準で認められています。まあ、そうした名経営者が率いる企業が買収対象となるケースの方が稀有ですが、、、(^^;)

財務会計(入門編)_企業会計の基本的構造を理解する(5)「会計公準」とは ①企業実体、②継続企業、③貨幣的評価の3つから成る

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