■ 会計を「制度」たらしめる「制度会計」のレーゾンデートルとは?
「企業会計原則」「会計規則」「会計法規」という会計の世界の成文法(文書の形で会計処理の原理原則や手続きが記述してあるもの)を順次解説していきたいと考えています。その前に、そもそもの「企業会計」の背景に流れる「会計的なものの考え方」をざっくりご紹介するのが本稿の目的です。
今回は、「制度会計」を「制度」たらしめている根拠がどこにあるのか、制度会計のレーゾンデートル(存在意味、存在理由)を明らかにしていきたいと思います。最初にお断りしておきたいのは、この種のお話はすぐに陳腐化することです。昨今、制度会計を取り巻くルール改定のスピードが加速度的に早まり、機能学習したことが明日も有効かどうかの保証はありません。あくまで、詳細については参考程度に、概要についてはフレームワークがどうなっているかの理解に努める、といった筆者にやさしい態度でお読みいただければ幸いです。m(_ _)m
大別して、7種類の「制度会計」が存在しています。ここで存在しているという「制度会計」というのは、ディスクロージャー制度において、外部公表用の財務諸表を作成するルールの起源が7種あるという意味です。
■ 昔は「制度会計」における「トライアングル体制」といって3つでよかった
筆者の若かりし頃、ひも解いた会計学の教科書には、必ず「トライアングル体制」の名の下、①証券取引法会計、②商法会計、③税法会計の3種が掲載されていました。しかし、今や、「証券取引法」は「金融商品取引法」、「商法」は「会社法」へ名称を変え、その他、中小企業向け会計基準、国際会計基準、米国会計基準でも、財務諸表を作成することになりました。
「①会社法」と「③法人税法」は、株式会社を含む全ての法人(約150万社)や個人事業主(約230万人)に適用される基本法です。従って、事業を営む日本の法人・個人は全て漏れなく遵守すべき会計ルールです。
「②金融商品取引法」は、上場企業や大企業(約3,700社)に適用される会計ルールの元締めです。では、上場会社や大企業の定義はどこを見ればよいのでしょうか?
「上場企業」
東京証券取引所などの金融商品取引所に上場されている有価証券の発行会社
(金融商品取引法193条の2第1項)
「大企業」
資本金5億円以上、または負債総額が200億円以上の会社
(会社法2条6号)
では様々な会計基準を制定している(していた)各種団体が決めた「会計基準・実務指針」の位置づけはどうなっているのでしょうか? 上記の会社法や金融商品取引法にいちいち、●●基準を採用しなさい、という命令が記載されてはいません。さらに、初学者を混乱させるように、この種の会計基準には「法的拘束力」が全くありません。にもかかわらず、こうした会計基準がなぜ、「制度」会計たり得るのか?
そのカラクリは、強制法である「会社法」「金融商品取引法」「税法」が会計基準を規範として尊重する旨を宣言しているからにすぎません。
「会社法」(431条)
株式会社の会計は、一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行に従うものとする。
「金融商品取引法」(193条)
貸借対照表、損益計算書その他の財務計算に関する書類は(中略)一般に公正妥当であると認められるところに従って内閣府令で定める用語、様式及び作成方法により、これを作成しなければならない。
「法人税法」(22条)
当該事業年度の収益の額及び前項各号に掲げる額は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算されるものとする。
この「一般に公正妥当と認められる」とされているのが、「④会計基準・実務指針」の類なのです。「一般に公正妥当と認められる」のフレーズは、「Generally Accepted Accounting Principles (GAAP)」の和訳であり、省略形を「ギャップ」もしくは「ガァプ」と発音します。「IFRS」を「イファース」と呼んだり、「アイファース」と呼んだり、省略形も一つに決めてほしいと思うのは筆者だけでしょうか?(^^;)
■ 残りの新参者「中小企業会計」「国際会計基準」「米国会計基準」の概要
簡単な「⑦米国会計基準」の説明から。これは、米国のGAAP、すなわちUS-GAAPを意味し、米国にて上場する企業は須らく遵守する必要がある会計基準です(でした)。日米同時上場していた企業は、米国では米国会計基準、日本では日本会計基準(それも、会社法用と金融商品取引法用の2つ)、多い場合は、3種類の財務諸表を別々に作成して、外部公表する必要がありました。そこで日本側が折れて、米国会計基準でも日本の証券取引所への上場を認めることにしたのです。
次に今や息の長いバズワードになっている「⑥国際会計基準」。正式には、「International Financial Reporting Standards (IFRS)(IFRs)」であり、和訳も「国財財務報告基準」が正式の様です。今や、米国会計基準に続き、IFRSに準拠した財務諸表でも上場が認められるようになりました。厳密には「指定国際会計基準」と呼ぶべきという論者もいます。というのは、国際会計基準審議会(IASB)が作成・公表した「IFRS」の条文の内、金融庁が告示で指示したものが「指定国際会計基準」として、金融庁が定めた「財務諸表等規則ガイドライン」「連結財務諸表規則ガイドライン」などで読み替えられるというプロセスになっているからです。
ここに、「修正国際会計基準」を含めて記載してあるのは、その道の専門家には許せないかもしれません。というのは、舶来の「IFRS」は、国際会計基準審議会(IASB)およびIASBの前身である国際会計基準委員会(IASC)が制定したものに対して、「修正国際会計基準JMIS(Japan’s Modified International Standards)」は、「IFRS」適用に踏み切れない日本企業向けに、「企業会計基準委員会」が公表した純日本製の会計基準だからです。また専門家は、「純日本製」という言葉遣いに噛みつきます?
「JMIS」のジャパナイゼーションの代表的内容は2つ。
① のれんの定期償却を認める
② その他の包括利益に計上した後に、当期純利益に組替調整(リサイクリング処理)を行う
②は、「JMIS」は「当期純利益」を重視し、「IFRS」は「包括利益」を重視している立場の違いが差異の原因です。
最後に「⑤中小企業会計」。日本製として「中小企業会計指針」など、舶来ものとして「IFRS for SMEs」があります。どちらも、企業体力が弱い中小企業に対して、財務諸表の作成(公開)作業についての過大な事務コスト負担を軽減する意味合いで制定されています。
■ 何種類もある「制度会計」の違いで気を付けることとは?
筆者の学生時代の元々の専攻は国際政治学。中でも制度比較論が好きでした。いくつもの政治制度が乱立し、その違いや由来をひとつひとつ調べ上げては、一人悦に入る青春時代を過ごしました。そこで、複数ある「制度会計」の違いについて、どこに留意すべきか? その点を強調してもしすぎることはないでしょう。筆者視点からあえて指摘したいのは次の3点です。
① 会計処理(計算処理)の哲学の違い
② 財務諸表の表示方法の違い
③ ディスクロージャー制度に基づき、公開すべき財務諸表の種類の違い
①について
日本製とIFRSについて、「純利益」重視と「包括利益」重視、連結主体では、「親会社説」と「経済的単一体説」、期間損益計算方式では、「費用収益アプローチ(損益アプローチ)」と「資産負債アプローチ」といった財務諸表で計算・表示される「利益」の質が異なる点です。
⇒「企業会計の基本的構造を理解する(3)静態論 vs 動態論、財産法 vs 損益法、棚卸法 vs 誘導法。その相違と関連性をあなたは理解できるか?」
⇒「企業会計の基本的構造を理解する(4)「会計主体論」会社は誰のモノで、会計は誰の数字か? - 連結概念の「親会社説」「経済的単一体説」の前座として」
②について
表示方法についてもさらに2種類に分かれます。
1)科目表示
会社法や金融商品取引法では、「当期純利益」「利益剰余金」の科目名が使用されていますが、法人税申告書では、「当期利益」「利益積立金」の科目名が用いられます。厳密には定義も異なるのですが、そこまで用語にこだわらなくても、という感じもないではありません。
2)決算表示
そもそも、財務諸表の体裁が異なります。
「会社法」は、どちらかというと今でも「債権者保護」を重視、言い換えると、債権者と株主の利害調整を重視しているため、出資額、融資額に対する保有財産の有高の方を気にするため、観音開き形式の貸借対照表の形式で開示されています。
「金融商品取引法」は、「損益アプローチ」を採用していることを重視しているため、一会計期間の損益も大事ですが、それがさらに複数年でどのように増殖していっているかに興味があり、せめて2期間比較(前期比較)の形式で貸借対照表を開示しようとするものです。
③について
これは、百聞は一見にしかず。文章でごちゃごちゃ説明せずに、一覧表で開示対象となる財務諸表の種類と名称の相違について確認してもらいましょう。
キャッシュフロー計算書があったりなかったり、名称が指定国際会計基準(IFRS)と日本製と違っていたり。。。
管理会計屋の筆者が何故、ここまでしつこく制度会計ルール間の相違を明らかにすることに執着するのか???
筆者の性格だと言ってしまえばそれまでですが(^^;)、それ以上に、会計情報がそれを必要としている人の立場によって様々な表示形式や計算ロジックを要するということ、そして管理会計はそのすべての要請に応えるべき、と考えているので、財務諸表を利用する人を顧客と仮に呼称するなら、どこまでも「顧客満足最大化」のために、管理会計があるべきと信じているからこそです。
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