原価計算基準(7)原価の本質① ものづくり経済を前提とした原価の本質的要件は4つ

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■ 具体的に原価とは何かを知る前に何が原価となるか、基本コンセプトを知る!

前回は、原価計算制度について、特殊原価調査との対比を含めて解説しました。今回は、原価の本質とは何かについて解説します。本テーマは大変奥が深いので、複数回の連載となります。

この条文の後、基準四において、実際原価・標準原価、製品原価・期間原価等に触れるのですが、その前提となる基本コンセプトを整理した項になります。

では詳細な説明に入る前に、「基準一」から「基準六」までの全体像はこちら。

原価計算(入門編)原価計算基準の一般的基準の構成

第一章 原価計算の目的と原価計算の一般的基準

三 原価の本質

原価計算制度において、原価とは、経営における一定の給付に係わらせて把握された財貨又は用役(以下これを「財貨」という。)の消費を貨幣価値的に表わしたものである。

前回、解説された原価計算制度における原価の本質について語られているのが本項です。つまり、特殊原価調査で用いられる原価の一般概念および意義までは限定的に解説していない、という説明範囲から明示する件(くだり)から説明が始まります。

何円とか、いくら儲かったか、いくらのコストで製品が作られたかを示すために、当然、金額でいくらと原価は計算される必要があります。それゆえの“貨幣価値”で原価を合わらすことになります。材料となる鋼材が何トン、加工時間に100時間、というのも生産される製品にかかった経営資源の消費量を表すことができますが、そういう投入財で横並びで評価できるのは同質的な製品間だけですからね。金額で表すというのは極めて会計的な考え方のひとつです。

また、“財貨”は原材料費、“用役”は加工費(労務費)という原価要素を表すものと概念的に一致しています。“経営”、“給付”は共に大切なキーワードです。これは、以下の節で改めて触れられます。

(一) 原価は、経済価値の消費である。経営の活動は、一定の財貨を生産し販売することを目的とし、一定の財貨を作り出すために必要な財貨すなわち経済価値を消費する過程である。原価とは、かかる経営過程における価値の消費を意味する。

まず、“経済価値の消費”について。これは裏返しで、背理法による説明が一番わかりやすいと考えています。

① 消費しても経済価値のないもの(例:空気)
② 経済価値があっても消費していないもの(例:工場用土地)

この2例は、いずれも原価を構成しません。すなわち、経済価値のあるものを消費して初めて原価を構成するので、経済価値があるだけとか、消費するだけ、いずれか一方だけでは原価とはなり得ないのです。2要件を同時に満たすものだけが原価となり得るのです。

次に、その消費活動は、“経営過程”におけるものでなくてはなりません。経営過程とは、何かを購入して、社内における生産活動のために消費して、新たな財貨を生み出し、顧客に販売するまでのバリューチェーンにおける消費に基づくものである必要があるのです。このことは、“経営過程”に財務活動(エクイティファイナンス、デッドファイナンスを問わず、すべての資金調達活動)は含みません。買って、作って、売るプロセス、財務会計的には正常営業循環にある活動のみです。

財務分析(入門編)_正常営業循環(キャッシュのぐるぐる)

 

■ 原価計算基準が想定する経営プロセスとは?

どうして原価計算基準は正常営業循環だけを経営プロセスと限定しているのでしょうか? それは、原価を収益(売上高)を生み出すために消費される経済活動から発生したものととらえ、収益と対応させて差額概念としての営業利益を算出するために用いるのが目的だからです。

それは、大前提として本項が、原価計算制度における原価の本質の定義であって、原価計算制度は、財務諸表作成のためにある計算機構だからです。こういわれると、P/L上の売上総利益より上に“売上原価”という勘定科目名が存在するので、原価計算は“売上原価”もしくはその算出のために求められる“製造原価”に限定したものと認識されているかもしれません。しかし、原価計算基準における原価とは、販売費および一般管理費を含んだ“総原価”を意味します。そして、総原価を売上高から差し引いた差額概念が営業利益となります。

製品の個別対応、費用の期間対応、両方を含む期間損益(=営業利益)を算出するために計算されるのが、ここでいう原価なのです。

原価計算(入門編)財務諸表作成目的による原価計算制度

念押しの繰り返しになるのですが、営業利益計算のために、営業利益獲得のために消費される経済的価値をすべて集めたのが原価であり、営業利益獲得のために、企業が行う活動が経営過程(経営プロセス)であり、くどいようですが、資金調達のための財務費用は除外されることになります。

これは、原価計算基準が想定する企業観が、“有形物”を作って売る製造業、“無形物”を作って売るサービス業を前提とし、毎期安定的な営業活動を営む市場環境で同じ事業を継続的に行うことを前提としていることに起因しているのです。

 

■ 第2項以後は次回に説明します

字数の関係で今回はここまで。整理のために、基準三の続きを以下に掲載しておきます。

(二) 原価は、経営において作り出された一定の給付に転嫁される価値であり、その給付に係わらせて把握されたものである。ここに給付とは、経営が作り出す財貨をいい、それは経営の最終給付のみでなく、中間的給付をも意味する。

(三) 原価は、経営目的に関連したものである。経営の目的は、一定の財貨を生産し販売することにあり、経営過程は、このための価値の消費と生成の過程である。原価は、かかる財貨の生産、販売に関して消費された経済価値であり、経営目的に関連しない価値の消費を含まない。財務活動は、財貨の生成および消費の過程たる経営過程以外の、資本の調達、返還、利益処分等の活動であり、したがってこれに関する費用たるいわゆる財務費用は、原則として原価を構成しない。

(四) 原価は、正常的なものである。原価は、正常な状態のもとにおける経営活動を前提として把握された価値の消費であり、異常な状態を原因とする価値の減少を含まない。

⇒「原価計算基準(1)原価計算の一般基準の体系を整理 - ざっと原価計算基準の世界観を概括してみる!
⇒「原価計算基準(2)原価計算の目的 - ①財務諸表作成目的、②価格計算目的の盲点を突く!
⇒「原価計算基準(3)原価計算の目的 - ③原価管理目的は当時のマスプロダクションをそのまま反映したものだった!
⇒「原価計算基準(4)原価計算の目的 - ④予算管理目的と短期利益計画の盛衰
⇒「原価計算基準(5)原価計算の目的 ⑤基本計画設定目的 - そもそも経営計画は何種類あるのか?
⇒「原価計算基準(6)原価計算制度 - 特殊原価調査とはどう違うのか、内部管理用原価でも制度である理由とは?
⇒「原価計算基準(7)原価の本質① ものづくり経済を前提とした原価の本質的要件は4つ
⇒「原価計算基準(8)原価の本質② 建設利息の扱いについてIFRSとの違いをチクリと指摘する
⇒「原価計算基準(9)原価の本質③ 正常なものと異常なものの扱いについてIFRSとの違いをチクリと指摘する
⇒「原価計算の歴史 - 経営課題の変遷と原価計算技法・目的の対応について
⇒「原価計算基準」(全文参照できます)

原価計算(入門編)原価計算基準(7)原価の本質① ものづくり経済を前提とした原価の本質的要件は4つ

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