原価計算基準(9)原価の本質③ 正常原価と異常原価の扱いについてIFRSとの違いをチクリと指摘する

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■ 原価とは、企業の正常な経営活動によって発生したコストだけのことを言う

前回は、4つある原価計算制度における原価の本質のふたつめ、「給付関連性」とみっつめ「経営目的関連性」について解説しました。今回はようやく最後のひとつ、「正常性」を片付けたいと思います。

では詳細な説明に入る前に、「基準一」から「基準六」までの全体像はこちら。

原価計算(入門編)原価計算基準の一般的基準の構成

第一章 原価計算の目的と原価計算の一般的基準

三 原価の本質

原価計算制度において、原価とは、経営における一定の給付に係わらせて把握された財貨又は用役(以下これを「財貨」という。)の消費を貨幣価値的に表わしたものである。

(一) 原価は、経済価値の消費である。経営の活動は、一定の財貨を生産し販売することを目的とし、一定の財貨を作り出すために必要な財貨すなわち経済価値を消費する過程である。原価とは、かかる経営過程における価値の消費を意味する。

(二) 原価は、経営において作り出された一定の給付に転嫁される価値であり、その給付に係わらせて把握されたものである。ここに給付とは、経営が作り出す財貨をいい、それは経営の最終給付のみでなく、中間的給付をも意味する。

(三) 原価は、経営目的に関連したものである。経営の目的は、一定の財貨を生産し販売することにあり、経営過程は、このための価値の消費と生成の過程である。原価は、かかる財貨の生産、販売に関して消費された経済価値であり、経営目的に関連しない価値の消費を含まない。財務活動は、財貨の生成および消費の過程たる経営過程以外の、資本の調達、返還、利益処分等の活動であり、したがってこれに関する費用たるいわゆる財務費用は、原則として原価を構成しない。

(四) 原価は、正常的なものである。原価は、正常な状態のもとにおける経営活動を前提として把握された価値の消費であり、異常な状態を原因とする価値の減少を含まない。

原価は正常的なもの、という定義がされると、それじゃ「正常とはなに?」という疑問が沸々と湧いてきます。ここでいうところの正常とは、継続性・反復性という経済活動の特徴に対応して、発生すると認識されるものと一般に解されています。マスプロダクション(少品種大量生産・大量販売)を想定した製造業をターゲットに原価計算基準が制定されましたので、毎会計期、似たような生産活動が行われるという大前提に立っています。と同時に、様々な業種・業界があることなので、画一的に、何が正常かという定義をうまく回避している条項になります。

ここでも、背理法的に、異常なものというサンプルを挙げて、これに当てはまらなければ、正常ということにしておきましょう。

●異常な状態を原因とする価値の減少は非原価
① 異常な仕損・減損
② 予期しない陳腐化に基づく固定資産の臨時償却

昨今、やたら目につく減損損失。当然、上記②に当てはまり、非原価扱いとなります。

⇒「減損損失と減価償却費の本質的違いとは? - 固定資産の資産性評価の考え方、時価主義と費用収益対応の原則の違い

 

■ 正常な原価と実際原価は微妙に違うのか同じなのか?

原価計算基準は、実際原価計算と標準原価計算の2つを原価計算制度として認めていますが、標準原価差異が大きく発生した場合はその原価差異を売上原価と期末棚卸資産への配賦プロセスを通じて、最終的には実際原価による財務諸表作成を促す規定になっています。

そして、実際原価という言葉の印象から、どんな原価差異も飲み込んで、歴史的原価として実際に発生した・かかったコストということで、実際原価が最も正しいという信奉者も世の中には大勢いらっしゃいます。

⇒「原価計算 超入門(2)実際原価と標準原価

原価計算(入門編)_原価の種類

上記過去投稿で簡単に説明させて頂きましたが、実際原価とは、正常原価のことを意味しており、異常な状態で発生したコストは、非原価として、営業外費用または特別損失に回すことになっています。

原価計算(入門編)_実際原価と異常原価の違い

上図のように、材料費の購入単価がたまたまその時に10倍に跳ね上がったり、雇ったばかりの季節工が作業に不慣れなため、3倍以上の時間がかかったり、突発的な原価上昇は、実際原価計算制度を採用していても、非原価扱いとします。それは、非継続的な経営状態から発生した原価のブレなので。ただし、資源価格高騰により、購入材料費の値上げが長期にわたることが判明した場合は、その値上げ後の購入単価を原価とすることは当然のことです。

 

■ IFRSと日本基準の主な相違点

(1)棚卸資産における正常操業度
前章の流れで何が正常かについて、操業度に焦点を当てて話を進めたいと思います。原価計算基準では、実際総合原価計算制度を採用している場合、固定製造間接費の配賦差異をはじめとした原価差異は原則として売上原価に賦課するのですが、比較的多額の原価差異が生じてしまった場合には、売上原価と棚卸資産に科目別配賦することになっています(基準四十七「原価差異の会計処理」)。

IFRSにおいては、固定製造間接費の配賦は生産設備の正常生産能力に基づいて行わなければならないことになっています。ここで、正常生産能力とは、「計画的なメンテナンスから生じる能力の低下を考慮した上で、正常な状況で期間または季節を通して平均的に達成されると期待される生産量」を意味します。

例えば、期中に生産低下または設備遊休が生じた場合であっても、各生産単位に予定配賦された固定製造間接費を増加させることはありません。その結果、実際生産水準が正常生産能力を下回ったことにより未配賦となった固定製造間接費は、その全額を当期の費用として処理することになります(IAS第 2号13)。

つまり、操業度不利差異は、認識されたその期に全額費用処理となります。問題はその次で、その操業度差異をどの単位で認識するか。IFRSは原則として、棚卸資産は個別(同種のグループ単位でくくるのはOK)の資産単位で取得原価を測定する必要があるので、配布される操業度不利差異は、各資産へ配賦する必要があります。日本的会計的慣行では、これを全社仕訳一本で、期末棚と売上原価に配賦して終わりにしている会社が結構あると思いますがいかがでしょうか。

(2)固定資産の臨時償却
平成26年度税制改正により、生産性向上設備投資促進税制(措法42条の12の5)が創設されました。生産等設備を構成する機械及び装置、工具、器具及び備品、建物、建物附属設備、構築物およびソフトウエアで、産業競争力強化法に規定する生産性向上設備に該当するもののうち、一定の規模以上のものの取得(または製作もしくは建設)をして、その生産性向上設備を国内にあるその法人の事業の用に供した場合に、特別償却または税額控除の選択適用が認められる特例税制です(措法42条の12の5第1項)。このように、臨時償却が税制的にも促進された日本の会計処理はどうなっているのでしょうか。

IFRSでは、減価償却方法の変更は「会計上の見積もりの変更」とし、耐用年数や残存価額と共に、少なくとも各事業年度末に見直ししなければなりません(IAS16.51,61)。耐用年数の変更は見積もりの変更として扱われますので、従来の償却計算で引き継がれた未償却残高を、変更後の耐用年数により当期以降の残存期間にわたって配分することが原則となります。

日本の減価償却計算(償却方法、耐用年数、残存価額)などは、「会計方針」であるとし、正当な理由が無い場合はその変更が許されません。位置づけはIFRSと異なりますが、会計方針の変更を会計上の見積もりの変更と区分することが困難な場合に限り変更が許されるとし、IFRSと同様に一般的には遡及修正までは許されません。きちんと注記を残して、残存期間の間に未償却残高を割り振っていきます。

しかし、臨時償却により、減価償却計算に適用されている耐用年数が、予見することのできなかった原因などにより著しく不合理となった場合に、取得時に遡って耐用年数を変更したと仮定した場合の未償却残高は、変更が合った会計期に特別損失として落とすことも許されています。

ふっー。全三回をかけて、原価計算制度における「原価の本質」をようやく説明しきりました。IFRSとの違いを意識するのは、現在、古典となった原価計算基準の学習を改めて行うことの意義の一つではないかと思います。

⇒「原価計算基準(1)原価計算の一般基準の体系を整理 - ざっと原価計算基準の世界観を概括してみる!
⇒「原価計算基準(2)原価計算の目的 - ①財務諸表作成目的、②価格計算目的の盲点を突く!
⇒「原価計算基準(3)原価計算の目的 - ③原価管理目的は当時のマスプロダクションをそのまま反映したものだった!
⇒「原価計算基準(4)原価計算の目的 - ④予算管理目的と短期利益計画の盛衰
⇒「原価計算基準(5)原価計算の目的 ⑤基本計画設定目的 - そもそも経営計画は何種類あるのか?
⇒「原価計算基準(6)原価計算制度 - 特殊原価調査とはどう違うのか、内部管理用原価でも制度である理由とは?
⇒「原価計算基準(7)原価の本質① ものづくり経済を前提とした原価の本質的要件は4つ
⇒「原価計算基準(8)原価の本質② 建設利息の扱いについてIFRSとの違いをチクリと指摘する
⇒「原価計算基準(9)原価の本質③ 正常なものと異常なものの扱いについてIFRSとの違いをチクリと指摘する
⇒「原価計算の歴史 - 経営課題の変遷と原価計算技法・目的の対応について
⇒「原価計算基準」(全文参照できます)

原価計算(入門編)原価計算基準(9)原価の本質③ 正常なものと異常なものの扱いについてIFRSとの違いをチクリと指摘する

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