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原価計算基準(5)原価計算の目的 ⑤基本計画設定目的 - そもそも経営計画は何種類あるのか?

原価計算(入門)
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■ 未来原価を考えるのが基本計画立案の第一歩!

前回(原価計算基準(4)原価計算の目的 - ④予算管理目的と短期利益計画の盛衰)は、予実差異分析のために、標準原価と実際原価の両方を原価情報として提供するのが、原価計算基準が想定する予算管理のための原価計算という位置づけであることを説明しました。そうすると、予算管理と基本計画の境界線があいまいなことにお気づきになると思います。原価計算基準が制定された当時の諸処の将来計画に向けた原価予想・原価見込を必要とする管理業務を整理してみたいと思います。

その前に、「基準一」から「基準六」までの全体像はこちら。

原価計算(入門編)原価計算基準の一般的基準の構成

第一章 原価計算の目的と原価計算の一般的基準

一 原価計算の目的

原価計算には、各種の異なる目的が与えられるが、主たる目的は、次のとおりである。

(五) 経営の基本計画を設定するに当たり、これに必要な原価情報を提供すること。ここに基本計画とは、経済の動態的変化に適応して、経営の給付目的たる製品、経営立地、生産設備等経営構造に関する基本的事項について、経営意思を決定し、経営構造を合理的に組成することをいい、随時的に行なわれる決定である。

基本的に、経営のための基本計画を設定するにあたり使用する原価は、未来原価(ある前提条件を置いた将来時点における予想原価)であり、実績ベースの過去原価ではありません。当然、連続性のある事業を営んでいる製造業においては、過去原価(及びそのトレンド情報)が未来原価を予測するのに、十二分の情報量、そして信頼性があることも否めませんが。

 

■ 基本計画は予算制度に代表される期間計画とどう異なるのか?

原価計算の4つ目の目的は「予算管理目的」。予算とは、ひとつの会計期間(通常は年度決算単位が多い)にわたって計数及び業務計画を立案する行為、特に計数面から短期利益計画を立案し、実績の乖離をPDCAサイクルによってコントロールすることを目的に行われるものと理解されています。では、それと基本計画はどう違うというのか?

原価計算(入門編)期間計画と基本計画の相違

「期間計画」は、シンプルに言うと、全社的な年度予算を意味し、短期利益計画の形で思いにP/L計画がメインとなります。B/Sは、期間損益計算のために、補助的に設備投資から減価償却費計画を炙り出したり、財務計画から資金調達コスト(主に支払利息)を計算するために包含されていると考えます。そして期間損益計算はできるだけ制度会計が算出する財務諸表と同じ計算機構である方が便利なので、期間原価算定のための原価計算制度(詳しくは次回に説明します)を前提にします。

「基本計画」は、シンプルに言うと、中期事業計画やプロジェクト別計画を意味します。企業活動における個々の施策単位で、業務執行計画及び計数による財務計画が立案されます。厳密に期間損益計画からは独立しているため、特殊原価調査の位置づけで、比較的自由な枠組みでコスト情報を提供します。

 

■ 予算管理目的と基本計画設定目的に厳密な違いはあるのか?

日本の「原価計算基準」における規定の前身となったのは、アメリカ会計学会「原価概念および基準委員会」の1955年中間報告でした。この中で、原価計算の目的を規定した箇所では、下記のように記述されていました。

① 財務諸表作成目的
② 原価管理目的
③ 経営計画目的
  ⅰ) 個別計画
  ⅱ) 期間計画

これが日本に持ち込まれた際に、下記のように翻案されることになります。

原価計算(入門編)予算管理目的と基本計画設定目的の関係

① 基本計画としての個別計画
いわゆる「戦略的意思決定」
・設備投資計画
・新製品計画
・生産方法の変更計画

② 業務計画としての個別計画
いわゆる「戦術的意思決定」
・製品組み合わせの計画
・自製か外注かの選択に関する計画

③ 期間計画としての業務計画
いわゆる「短期利益計画」

原価計算基準に則って計算される原価は「真実の原価」として、財務諸表作成に使用されなければならず、それは原価計算制度として、財務会計機構(複式簿記)と有機的に結合していなければなりません。そして、財務会計機構と有機的に契合した計算機構の中で、P/L上の損益計画を作成する、すなわち、これが短期利益計画であり、予算ということになるのです。これはアメリカ基準委員会の中間報告にはない日本の基準独自の位置づけなのです。

その一方で、アメリカ基準委員会による、期間計画とは独立した「個別計画」に資する原価情報の提供を、その精神を継承して「基本計画設定目的」として条項を設けました。しかし、予算管理目的を規定する条項に、個別意思決定に関する記述を盛り込んでしまったため、基準一(四)と(五)の境界線があいまいになってしまいました。2つの目的の厳密な整理のためには、製品組み合わせ計画や自製か外注かの計画という記述は、本来的には、基準一(五)に含めておけば、スッキリした、そういう逐条解説にありがちな学説に関する説明になったのでした。

もはや古典となった「原価計算基準」を読み返すのは、こうした先人の管理会計・原価計算に対する概念整理をトレースすることで、基本コンセプトの理解を改めて深めるためであって、基準委員会の揚げ足取りをすることが目的では決してありません。念のため。(^^;)

そうです、“温故知新”という言葉がありましたね。

⇒「原価計算基準(1)原価計算の一般基準の体系を整理 - ざっと原価計算基準の世界観を概括してみる!
⇒「原価計算基準(2)原価計算の目的 - ①財務諸表作成目的、②価格計算目的の盲点を突く!
⇒「原価計算基準(3)原価計算の目的 - ③原価管理目的は当時のマスプロダクションをそのまま反映したものだった!
⇒「原価計算基準(4)原価計算の目的 - ④予算管理目的と短期利益計画の盛衰
⇒「原価計算基準(5)原価計算の目的 ⑤基本計画設定目的 - そもそも経営計画は何種類あるのか?
⇒「原価計算基準(6)原価計算制度 - 特殊原価調査とはどう違うのか、内部管理用原価でも制度である理由とは?
⇒「原価計算基準(7)原価の本質① ものづくり経済を前提とした原価の本質的要件は4つ
⇒「原価計算基準(8)原価の本質② 建設利息の扱いについてIFRSとの違いをチクリと指摘する
⇒「原価計算基準(9)原価の本質③ 正常なものと異常なものの扱いについてIFRSとの違いをチクリと指摘する
⇒「原価計算の歴史 - 経営課題の変遷と原価計算技法・目的の対応について
⇒「原価計算基準」(全文参照できます)

原価計算(入門編)原価計算基準(5)原価計算の目的 ⑤基本計画設定目的 - そもそも経営計画は何種類あるのか?

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