原価計算基準(2)原価計算の目的 - ①財務諸表作成目的、②価格計算目的の盲点を突く!

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■ 原価計算基準は、取得原価主義に基づく「実際原価」を基本としている!

前回(原価計算基準(1)原価計算の一般基準の体系を整理)は「原価計算基準」の前段の能書きの構成をざっと理解して頂きました。今回から47条に及ぶ各条を丹念に読み込んでいきたいと思います。

その前に、「基準一」から「基準六」までの全体像はこちら。

原価計算(入門編)原価計算基準の体系

第一章 原価計算の目的と原価計算の一般的基準

 一 原価計算の目的

 原価計算には、各種の異なる目的が与えられるが、主たる目的は、次のとおりである。

(一) 企業の出資者、債権者、経営者等のために、過去の一定期間における損益ならびに期末における財政状態を財務諸表に表示するために必要な真実の原価を集計すること。

この目的は「財務諸表作成目的」と呼ばれるものです。この目的は財務会計との有機的結合を指示したものと理解され、専ら公表用財務諸表(金融商品取引法、会社法などの制度会計ルールが開示を要請する財務諸表)の作成のために、原価情報を提供することが前提と考えられるのが一般的です。貸借対照表の開示のためには、棚卸資産(原材料、仕掛品、半製品、完成品、貯蔵品など)、損益計算書の開示のためには、売上原価、販管費および一般管理費の価額を決めるのに原価計算を必要とします。

この時、公表財務諸表が適正に開示されるために、「真実の原価」が計算されることを条件としています。この「真実性」が何を意味するかですが、「取得原価主義」を前提とした原価で、基準では、
① 取得原価
② 予定原価
標準原価
の3つを認めています。
ただし、②予定原価と③標準原価については、実際の取得原価(歴史的原価)との差額が生じることが一般的ですので、できるだけその差額を小さくすることも要請しています。

(基準一四)
予定価格はできるだけ実際価格に近似させ、価格差異をなるべく僅少にする

(基準六)(一)3
予定価格または標準価格で計算する場合、実際発生額との差異を財務会計上適切に処理する

(基準四七)
各種原価差異の適正な処理方法の定義

つまり、原価計算基準では、予定原価や標準原価は実際原価と近似する場合に採用を許し、万一発生した差額も適正に差額処理されることを要請しています。

何を持って「真実の原価」と言い切れるのか?
あくまで原価計算基準は、所定の手付きに基づいて求められた原価を持って「真実の原価」としています。その計算機構の詳細は、(基準六)(一)の財務諸表の作成のための一般的基準の解説に譲りたいと思います。

 

■ 「財務諸表作成目的」がカバーする利害関係者はどの範囲までか?

真実の原価を報告する対象として、「出資者」「債権者」「経営者」の三者が例示列挙されています。「出資者」=株主、「債権者」=金融機関や社債購入者とするならば、配当可能利益の算定や、融資の裏付けとなる換金性のある財産(担保物件)の確保といった企業外部の利害関係者が特に気にする「損益計算書」が適正に企業業績を表しているか、「貸借対照表」が適正に財政状態を表しているか、という公表財務諸表を見る上で特に留意すべき点を網羅したものと考えるのは普通です。ではなぜ、ここにわざわざ企業内部に位置付けられる「経営者」が例示されているのでしょうか?

その理由は、内部報告用の財務諸表の作成もこの目的に含まれているからです。経営者が投資家や債権者から委任された経営責任を全うするために、企業内部の財務状況を管理監督し、時には大胆な経営判断を下す必要があります。ただ、ありのままの企業業績・財政状態を開示するためだけの原価計算ではなく、業績改善の道具として活用されるための資料を提供することも含まれているのです。

例えば、
・原価管理用の製造原価明細資料
・予算管理のための目標設定とつながった標準原価
・開示情報をより詳細にブレークダウンしたセグメント情報
・直接原価計算機構による利益管理情報

ただし、この点をあまりに強調すると、2つの弊害が大きく感じられます。
① そもそも原価管理や予算管理など、内部管理目的は別途規定してあることと矛盾しないか?
② ここにある内部管理用の原価資料はすべて財務会計ルールに準拠する必要があるか?

①について
外部報告用原価情報とソースを一にし、同じ土俵で立っている原価資料は外部報告と内部管理の両方の目的で併用されても問題ない。むしろ、同じ計算機構で出力された原価資料は整合が取れていて、説明に首尾一貫性が保たれる。

②について
あくまで、外部報告用の会計的業績をよりよく改善するための経営活動に資する原価資料の提供をここでは意味している。内部管理用に特化した、制度会計(財務会計)とは異なる計算機構に基づく原価資料の取り扱いや使用目的は別の項目で規定されている。

この辺りは、原価計算を含む管理会計に勤しむ会計人なら一度は思いを馳せるテーマでしょう。

(参考)
⇒「制管一致について(1)その前に制制一致の問題があります!
⇒「制管一致について(2)その前に制制一致の問題があります!パート2:会計基準差異とIFRS導入
⇒「制管一致について(3)会計の世界における「一神教」と「多神教」の違いとは!?
⇒「制管一致について(4)制管差異はどこまで説明されねばならないのか?
⇒「制管一致について(5)管管差異もどこまで検証する必要があるか?

 

「価格計算目的」は合っても無くてもよい項目だった!

実に残念な項目が最初から含まれています。(^^;)

(二) 価格計算に必要な原価資料を提供すること。

この目的は「価格計算目的」あるいは「価格決定目的」などと呼ばれています。ここでの「価格計算」の語には2つの含意が考えられます。

① 公共部門(政府、官庁、公企業など)が納入価格決定のために計算する
② 私企業(いわゆるプライベートカンパニー、株式会社など)が製品の売価決定という価格政策のために計算する

一般的には②の意味で理解されている(と筆者は感じている)のですが、原価計算基準がここで想定している価格計算は①の方です。②の方は、別の目的、「基本計画設定目的」に含まれておりますので、基準が完全無視しているわけではないのですが、、、(^^;)

そもそも「原価計算基準」の源流が戦時統制下での昭和12年『製造原価計算準則』にあり、基準自体も昭和37年(1962年)に公表されてから一度も改訂されていないため、戦前の匂いが少々するのも仕方がないことかもしれません。

ただし、筆者の実務体験からも、納入価格計算というのは業界によっては普通に存在しています。例えば、公共部門が発注する公共事業への入札や、防衛産業など、官公需特有の製品を収めるための原価計算(納入価格計算)を普通に一般企業が実施している原価計算実務は当たり前にあります。入札に不適切な取引の場合は、「随意契約」もありますし、一時、有名になった東電の「総括原価方式」:供給原価に基づき料金が決められるものであり、安定した供給が求められる公共性の高いサービスに適用、もあります。

ちなみに、「総括原価方式」には、
① 価格上限方式(プライスキャップ方式:price-cap regulation)
 ・特定のサービスに対して予め決められた金額以下の範囲内で料金を設定する方式
② 比較基準方式(ヤードスティック方式:yardstick regulation)
 ・自社と競合企業の費用を比較した上で、あるサービスに対する基準費用を算定した費用を元に、料金を設定する方式
の2種類があります。

このように、特定業種についてはそれが当たり前の納入価格決定のための原価計算。それも守備範囲にしている「原価計算基準」は意外に使える奴なのかもしれませんよ。(^^;)

⇒「原価計算基準(1)原価計算の一般基準の体系を整理 - ざっと原価計算基準の世界観を概括してみる!
⇒「原価計算の歴史 - 経営課題の変遷と原価計算技法・目的の対応について
⇒「原価計算基準」(全文参照できます)

原価計算(入門編)_原価計算基準(2)原価計算の目的 - ①財務諸表作成目的、②価格計算目的の盲点を突く!

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