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CVP分析/損益分岐点分析(9)利益最大となるセールスミックスをCVPチャートで表現する方法

財務分析(入門)
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■ CVPチャートを使用目的によって3種類を使い分ける!

「CVP分析(Cost-Volume-Profit Analysis)」「損益分岐点分析(break-even point Analysis, BEP- Analysis)」には、数式で解析する方法と、チャートで表現する方法の2つあることは説明しました。今回、事後的にセールスミックスによる利益創出の結果を表現したり、事前的に最適セールスミックスで利益最大を実現する販売の組み合わせを求めたり、CVPチャートで図解する方法をご紹介します。

財務分析(入門編)_CVPチャート:①固変分解モデル

財務分析(入門編)_CVPチャート:②限界利益モデル

財務分析(入門編)_CVPチャート:③限界利益線モデル(セールスミックスモデル)

前2者のチャートの使用目的は、既に解説済みです。

⇒「CVP分析/損益分岐点分析(4)チャートモデルを味わい尽くす - ビジネスモデル分析や利益モデリングを試みる!

ここで、3種類それぞれの使用目的をまとめておきます。

① 固変分解モデル
3つの売上高を表現することができる
・利益目標達成売上高
・損益分岐点売上高
・固定費回収売上高

② 限界利益モデル
限界利益額と、限界利益率をチャートに図示することができる

③ 限界利益線モデル(セールスミックスモデル)
2種類以上の、限界利益の異なる製商品/サービスを1つのチャートで図示することができる

②と③は、名称が紛らわしいのですが、たった1種類の製商品/サービスの場合でも、利益創出の具合を簡明に表現するのに、③を使用することが多々あるので、③を「セールスミックスモデル」と言い切れないもどかしさが残ります。なぜなら、売上高線と変動費線を限界利益線の1本に集約することができるため、よりシンプルなCVPチャートに仕上げることができるからです。

■ 限界利益線モデルを使って、セールスミックスを図示してみる

セールスミックス(製造業の場合は、プロダクトミックスともほぼ同義となる)を、このCVPチャートモデルで表現するためには、2つの条件を満たす必要があります。

(1)セールスミックスの対象となる製商品/サービスは、共通固定費をたった1本の固定費線で表現できる
(2)セールスミックスの対象となる製商品/サービスは、それぞれ固有の限界利益率と販売量が分かっている

(1)について
CVPチャートに複数の製商品/サービスを乗せるためには、固定費は共通費である必要があります。どの製商品/サービスを販売(または生産)しようとも、総発生額が固定的な費用だけが、共通固定費として、固定費線として表現されます。どれかの製商品/サービスの販売(または生産)量を変えてしまうと、発生額が変わってしまう費用は、共通費ではないからです。

それでは、それぞれの製商品/サービスに固有の固定費は、このCVPチャートに盛り込むことはできないのでしょうか? ここが理論解と実務解の異なるところです。実務において、あらゆる管理会計技法は使えるものであれば、少々理論的に怪しくても、どんどん使って経営改善に役立ててればいい、というのが筆者の立場です。それゆえ、個別固定費は、

① 個別の製商品/サービスにかかる変動費に含めてしまう
ただし、変動費比率(変動費単価)として、販売量に比例的に発生するものとして、管理した方がよいものに限定します。例えば、販売量の増減によって、裁量的に発生をコントロールできる裁量固定費は、中長期的に見れば、変動費にカテゴライズしても、経営管理上は左程悪さをしません。

② 共通固定費に含めてしまう
セールスミックスにおける経営判断に左右されずに、発生を回避不可能(管理不可能)な、キャパシティコストなどが、代表的な例となります。すなわち、どの製商品/サービスを優先的に販売したり清算したりしても、予め発生額が固定的であるものは、その時点で共通固定費として取り扱ったとしても、管理図法的には邪魔にはならず、意思決定に悪さをしないからです。

(2)について
事後的に分析する場合は実績値が、期末着地点予測するためには、予想限界利益率と予想販売量(生産量)が分かっていれば、CVPチャート上でセールスミックスを表現することができます。損益シミュレーションモデルにおいて、これらが分かっているということは、変数として代入することができるという意味として理解してください。

<セールスミックスモデル例>
・製品A:限界利益率:50%、販売金額:100万円
・製品B:限界利益率:10%、販売金額:900万円
・共通固定費:100万円

財務分析(入門編)_セールスミックスでCVP分析

<作図上のお約束>
・限界利益率の大きい製商品/サービスからプロットしていく

<得られる示唆>
・損益分岐点売上高:製品Aを全額となる500万円分だけ販売した上で、さらに製品Bを500万円分だけ販売したときに実現される

■ 限界利益線モデルによるCVP分析で、セールスミックスの利益最大化を図る方法

前章で図示した通り、セールスミックス(プロダクトミックス)において、利益最大化を実現するには、限界利益率の高い製商品/サービスから、優先的に販売又は生産することが要諦となります。なぜならば、

(1)最も損益分岐点に早く到達できるから
(2)経営資源の供給に限界が来る前に最大利益を実現できるから
(3)時間的な余裕があるうちに最大利益を実現できるから

(1)は、チャートを一瞥するだけで判明する周知の事実です。限界利益率が大きいということは、限界利益線の傾きがより大きいことを示します。それは、販売量が1単位増加するのに比べて、いち早く固定費線に到達できることを意味するからです。

(2)は、共通固定費の定義に基づく示唆です。製品Aと製品Bは、共通製造ラインで製造される製品と仮定します。その製造ラインでは、フル稼働しても年間1000個を造るのが上限であった場合、同じ経営資源を使って同じ1個の製品を作り出すのでも、どっちを優先して製造すればよいかは自明のこととなります。その経営資源に制約(限界)がある場合、その制約内で最大の利益を得るには、1個当たりの獲得利益がより大きいものを制約内で優先的に製造すべきだからです。

(3)は、単年度予算における利益計画を達成するために、期末を迎える前に安心して目標利益を獲得するには、より限界利益が大きいものから販売することが、時間軸上もいち早く損益分岐点を超えることで実現できることを意味しています。

■ CVP分析モデルでセールスミックスの利益最大化を図る方法に死角は無いのか?

どの管理会計技法にも欠点はつきものです。万能のように見えるCVP分析モデルによるセールスミックスにおける利益最大化の解法にも、解決しておくべき(心得ておくべき)課題があります。

CVP分析にて、セールスミックスを語る上での留意点はこの連載の最初の方で既にふれています。

財務分析(入門編)_CVP分析 数式モデルの比較

⇒「CVP分析/損益分岐点分析(2)基本モデルを理解する - 数式モデルの成り立ちについて

前章におけるCVP分析モデルにおけるセールスミックスの表現は、金額ベースモデルによるものです。それゆえ、前章の説明にある1個当たりの限界利益がより大きい製品の製造販売を優先する、という命題をクリアするには、数量ベースモデルによるセールスミックスを解析する必要があります。

「金額ベースモデル」と「数量ベースモデル」のどちらが、セールスミックス問題を解くのに有効か? それは、ミックス問題の対象とされる製商品/サービスの共通固定費の発生形態と、数量カウントの相対的容易さに依存する問題なのです。

例えば、電子部品や自動車の製造組立ラインにおいて、部品Aや部品B、CモデルのセダンとDモデルのセダンなど、何個、何台とカウンタブルで、時間軸(年間あたり総生産台数)でも、共通固定費の割り当て制約(年間製造能力)でも、一緒くたにして、数量を合計しても生産管理ができるものは、「数量ベースモデル」が有効となります。

一方で、もう少し大きい単位で、産業機械を販売する、情報機器を販売する、工事施工サービスを提供するといったもののセールスミックスを、ある経営資源の範疇の中で、即ち共通固定費の発生枠の中で、どれを一番優先して製造販売すれば儲かるか、という管理を同様のCVP分析モデルを用いたいならば、「金額ベースモデル」でしか、解を説くことはできないでしょう。産業機械の1台と、情報機器の1個と、工事施工サービスの1案件を、おなじ1つとしてカウントすることには無理があるからです。数の比較はできなくても、金額は平等に扱うことができます。ただし、複数種類の製商品/サービスを金額だけで、比較することは、それぞれの限界利益率ははじき出せても、経営資源の制約を厳密に推し量ることに困難が伴います。「金額ベースモデル」の汎用性は相対的に高いものの、正確性が相対的に落ちるのであること、忘れないで活用して頂きたいと思います。

⇒「CVP分析/損益分岐点分析(1)イントロダクション - CVP短期利益計画モデル活用の前提条件について
⇒「CVP分析/損益分岐点分析(2)基本モデルを理解する - 数式モデルの成り立ちについて
⇒「CVP分析/損益分岐点分析(3)基本モデルを理解する - チャートモデルで可視化
⇒「CVP分析/損益分岐点分析(4)チャートモデルを味わい尽くす - ビジネスモデル分析や利益モデリングを試みる!
⇒「CVP分析/損益分岐点分析(5)変動費型モデルと固定費型モデルの違い - 決算短信における業績予想の修正のカラクリ
⇒「CVP分析/損益分岐点分析(6)決算短信の業績予想修正の根拠を探る旅①まずは法人企業統計と収穫逓増から
⇒「CVP分析/損益分岐点分析(7)決算短信の業績予想修正の根拠を探る旅②線形モデルで増収率10%かつ増益率30%は1点だけ
⇒「CVP分析/損益分岐点分析(8)Excelテンプレートで、期末着地点損益予測を実際にやってみる

財務分析(入門編)_CVP分析/損益分岐点分析(9)利益最大となるセールスミックスをCVPチャートで表現する方法

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