本格的リニューアル構想中のため、一部表示に不具合があります m(_ _)m

資金調達のテクノロジー進化 - クラウドファンディングの先にあるICO(新規仮想通貨公開)

経営管理会計トピック テクノロジー
この記事は約7分で読めます。

■ 従来のIPO:Initial Public Offering(新規株式公開)の復習から

経営管理会計トピック

未公開の株式会社が取引所に自社株を公開(上場)させて、新規に資金調達することを、IPOといいます。株式上場に際し、通常は新たに株式が公募(増資、発行済み株式数も増えます)されたり、上場前からの既存株主が保有している株式を市場に売出したりします。こうして取引所を通じて、株式が証券会社経由で購入の意思を示した投資家へ広く配分されていきます。企業にとっては上場することで、直接金融市場(東京証券取引所など)から広く資金調達することが可能となり、銀行借り入れを中心とした間接金融以外の資金調達の手段を新たに得ることができます。また上場することで知名度が上がり、社会的な信用を高めることができるといった副次的メリットも期待できます。

以下は、日本取引所グループ(JPX)のホームページの新規上場基本情報から内容を簡潔にサマリしながら、チャート等は引用させて頂いております。

東京証券取引所において、新規上場とは、東京証券取引所に初めて上場をすることを意味します。

① 他の取引所に上場していない会社が上場することは、「IPO(新規株式公開)」や「直接上場」と呼ぶ
② 他の取引所に既に上場している会社が、東証に上場することを、「経由上場」(鞍替え)と呼ぶ

「経由上場」の場合も新規上場としてIPOと同じ基準に基づいた審査を受けねばなりません。

東証では、市場第一部、市場第二部、マザーズ、JASDAQ及びTOKYO PRO Marketの5つの市場があります。

(下記は同ホームページから「新規上場」の節にあるチャートを引用)

20170708_新規上場

そして、それらの市場へ上場される企業規模と財務状況の概要は次のようになっています。

(下記は同ホープページから「IPO企業の規模比較(2013~2015年)」を引用)

20170708_IPO企業の規模比較(2013~2015年)

ここで、東証一部の売上高14兆2,588億円という数字が目立ちますが、これは、2015年11月に上場された日本郵政、ゆうちょ銀行、かんぽ生命の3社同時上場の数字と思われます。

■ ITにより資金集めをより小口で不特定多数の人向けにも資金調達を可能にしたのがクラウドファンディング

クラウドファンディングはもう耳馴れた用語になっていると思われます。不特定多数の人が通常インターネット経由で他の人々や組織に財源の提供や協力などを行うことを指し、

① 寄付型(見返り無し)
② 購入型(製品やサービスを対価にする)
③ 融資型(金利を支払う。特に、これをソーシャルレンディングともいう)
④ ファンド型(分配金を支払う)
⑤ 株式型(未公開株式を譲渡)

という種類に区分されることが通常です。

(参考)
⇒「POファイナンスとクラウドファンディングは従来のキャッシュコンバージョンサイクル管理を破壊する!?
⇒「株式型クラウドファンディング、第1号事業者に 日本クラウドキャピタル、出資見返りに未公開株
(同投稿で参照した日本経済新聞記事より引用)

0842_株式型クラウドファンディング、第1号事業者に 日本クラウドキャピタル、出資見返りに未公開株

⇒「パルコ、テナント発掘へネット通じ資金 地域金融・自治体と連携 ヒットの芽、地方から探る -クラウドファンディングは株式制度の進化形だ!

そもそも、大資本家や銀行の資力だけに頼って起業していたものを、産業革命前後、社会において形成された中産階級の家計より小口の資金も効率的に集めて、より大きな資力として工業時代に適した大資本の製造業を立ち上げるために、公開株式会社制度が誕生しました。さらに、ITの力を借りて、フィンテックというバズワードも用いられることがありますが、更に機動的に、もっと小口資金の調達を楽にしようとして発明された資金調達手段がクラウドファンディングです。

2017/6/24付 |日本経済新聞|電子版 VB融資 ネットで 高利回り、残高1000億円へ

「インターネットを通じて小口の資金を募り、ベンチャー企業などに貸し出す「ソーシャルレンディング」が広がっている。2016年度末時点の主要各社の取扱残高は約700億円と前年度から倍増し、今年度は1千億円を超える見込みだ。」

(下記は、同記事添付の「ソーシャルレンディングのしくみ」を引用)

20170624_ソーシャルレンディングのしくみ_日本経済新聞電子版

■ 仮想通貨で資金調達。ICO:Initial Coin Offering(新規仮想通貨公開)とは?

フィンテックもここに極まれり(いや、まだまだ発展・進化するはずです!)。今度は、資金調達手段の効率的な方法を極めるというより、資金調達手段の対象範囲の拡大という類のものです。普通株式での増資、社債・外債・ハイブリッド社債・劣後債の発行など、ペッキング・オーダー理論にしたがって、資金調達目的(設備投資とかM&Aとか)に適合した金融商品での資金調達手段を選び取ることがコーポレートファイナンスの常道なのですが、これは飛び道具としか言いようがありません。

(参考:ペッキング・オーダー理論について)
⇒「(十字路)リキャップCBの有用性(後編)資本政策に関する株主・投資家との対話のために ~リキャップCBを題材として~

2017/6/29付 |日本経済新聞|朝刊 「ICO」米で急拡大 独自の仮想通貨で資金調達 証券介さず、秒速で億単位

「仮想通貨を活用した資金調達が急拡大している。2017年に入り海外を中心に70以上の企業が独自の仮想通貨を発行。ネット上で個人などに販売して800億円強の資金を調達した。「新規仮想通貨公開(ICO=Initial Coin Offering)」と呼ばれ、従来の資本市場の枠組みにとらわれない新しい手法として注目を集めている。」

(下記は、同記事添付の「ICOは今年に入り急拡大」を引用)

20170629_ICOは今年に入り急拡大_日本経済新聞朝刊

記事によりますと、海外市場での動向は、
・4月:米ベンチャー、グノーシスが数分で10億円強の調達に成功
・5月:米ブレイブ・ソフトウエアがわずか1分足らずで40億円相当の資金を得る
・6月:スイスのステータスがICOとしては過去最大規模の300億円超を集める
ICOは海外ベンチャー企業などを中心に急速に広がり、米調査会社スミスクラウンによると、今年のICOによる資金調達額は7億6102万ドル(約850億円)にのぼり、現時点で既に昨年の年間実績(1億252万ドル)の7倍にまで到達しているのだそうです。

従来、ベンチャー企業にとって資金調達の主流のはずであった「新規株式公開(IPO)」は、発行した株式を証券会社に仲介してもらい投資家に販売するのに対し、ICOは独自に発行した仮想通貨をネットを通じて個人も含む不特定多数に直接販売するのが相違点となっています。それゆえ、証券会社などの金融機関には頼る必要が無く(手数料を支払う義務が無い!)、発行企業がICOで得た資金に対して配当や利子を払う必要はありません。

(下記は、同記事添付の「ICOの仕組み」を引用)

20170629_ICOの仕組み_日本経済新聞朝刊

発行企業には、いいことづくめのこの仕掛け、一般投資家(資金の出し手)のメリットとリスクはどのようになっているのでしょうか?

■ 仮想通貨によるICO:Initial Coin Offering(新規仮想通貨公開)での資金調達の留意点とは?

発行企業は、既存の仮想通貨(ビットコインやイーサリウムなど)を選択してもいいのですが、それぞれの発行企業独自の仮想通貨を新たに生み出し、その譲渡の対価に既存の通貨(円や米ドルなど)を受け取る方が発行企業にぐっと有利になります。

まず、投資家(買い手)の目線から。
配当金や利子を生まないICO通貨を投資家が買ってもいいかなと思うのは、主に、需給次第で値上がり益が期待できるから。つまり、キャピタルゲイン狙いということです。ビットコイン等、既存の仮想通貨自体が法定通貨に対して値動き(相対価格の変動)の幅を持ちます。5月に40億円を調達した米ブレイブの仮想通貨「BAT」は発行後、2倍近くに上昇する場面がありました。他のICO通貨も高騰が目立ち、売買はネット上の仮想通貨取引所などで容易に行えます。

次は、発行企業の目線から。
発行企業は、投資家から直接買い戻したりはしない仕組みになっていることが多いようで、発行後の独自仮想通貨の買い取り責任などからは解放されます。ICOを実施するのはネット企業が多く、発行した仮想通貨にはネット上での利用価値を持ちます。例えば米ブレイブはウェブ閲覧ソフト(ブラウザ)の開発を手掛けており、ネット広告の出し手が閲覧した人にBATを支払い、広告の訴求力をあげるといった使い方ができます。こうしたサービスの利用価値がICO通貨の財産的な裏付けになっているとされます。

これは、クラウドファンディングの一形態、「購入型」の対価としての製品やサービスの提供価値が貨幣的価値の裏書となり、さらに、それが対象とする発行企業の提供する製品やサービスの享受という経済行為を経て、発行企業と消費者(=投資家)間のエコシステムを形成するのです。

実をいうと、筆者もまだ事業会社に勤めている頃(2000年代初頭)、経営企画部員として、ハードウェア製品の実質的な値引枠として、アフターサービスを受けられるクーポン(企業と顧客間でしか流通させないもの)を発行して、市場競争で優位に立とうとする販売戦略を提案したことがあります。当然(!?)、上層部には受け入れてもらえませんでしたが。。。ここで、江戸の敵を長崎で討つ、ではありませんが、自身の先見の明を密かに誇りに思い、当時は斬新だったアイデアを思い付いた自身をここで慰めているのであります。(^^;)

(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

コメント