(十字路)リキャップCBの有用性(後編)資本政策に関する株主・投資家との対話のために ~リキャップCBを題材として~

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■ 東証が「リキャップCB」に大人のコメントを出しました!

経営管理会計トピック

2014年8月に公表された「伊藤レポート」が発端となったROE経営。あだ花として、てっとり早いROE向上の手段として「リキャプCB」が濫用されるようになり、東証が、大人な態度でガイドラインを2017年3月17日に公表しました。

資本政策に関する株主・投資家との対話のために ~リキャップCBを題材として~|マーケットニュース|日本取引所グループ

「株式会社東京証券取引所では、このたび、上場会社と株主・投資家の相互理解を深め、持続的な成長と中長期的な企業価値向上のための建設的な対話を促進することを目的として、別紙のとおり「資本政策に関する株主・投資家との対話のために ~リキャップCBを題材として~」を公表しましたので、お知らせいたします。
本文書は、リキャップCBと呼ばれるエクイティ・ファイナンスを例にして、中長期的な視点で投資する投資家の目から見た疑問点等を明らかにすることで、投資家の資本政策に関する考え方を解説するものです。」

資本政策に関する株主・投資家との対話のために ~リキャップCBを題材として~(PDF)

2017/4/11付 |日本経済新聞|夕刊 (十字路)リキャップCBの有用性

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

「リキャップCBは、新株予約権付社債(転換社債=CB)の発行と同時に自社株買いを行う資金調達手法だ。しかし機関投資家などから、自社株買いで目先の自己資本利益率(ROE)上昇を図る小手先の方策だといった批判もある。」
「東証の文書をリキャップCBの否定と受け取る向きもあったが、実際は投資家が誤解しがちな点を指摘し、発行企業に丁寧な説明を求めたものにすぎない。」

今回は、「(十字路)リキャップCBの有用性(前編)資本政策に関する株主・投資家との対話のために ~リキャップCBを題材として~」から引き続き、東証が「リキャップCB」について上場企業と投資家との間で建設的な対話がなされるための6つの留意点の2つ目以降を紹介します。

 

■ ポイント2.自社株買いのための資金調達手段としての適切性

20170317_自社株買いのための資金調達手段としての適切性_リキャップCB_東証

ひとつめのポイントで、そもそも「自社株買いが合理的であるか」を問いました。2つめは、その自社株買いの資金調達方法としてCBがなぜ相応しいかの説明がきちんとついているか、という論点になります。

コーポレートファイナンス理論上、上場会社が資金調達する際は、ペッキング・オーダー理論に基づくものとされます。

「企業は調達コストの程度に従って資金調達の優先順位を予め決めており、その優先度に従って各調達手段を利用可能限度額まで利用し、それでも資金が不足する場合に次の優先順位の調達手段を利用する」
【財務用語解説シリーズ】コーポレートファイナンス Part2|Kyribaより)

一般的な優先順位は、
① 内部資金
   1) 手許資金
   2) インターカンパニーローン、ネッティング、プーリング、CCC向上
② サプライヤーファイナンス(取引先との支払交渉)
③ 銀行借入
④ 普通社債(SB)
⑤ 転換社債(CB)
普通株式
となります。

もっと簡単にすると、
① 内部資金調達
② デッド・ファイナンス
エクイティ・ファイナンス
という順番になります。

この優先順位は、
1)より調達コストが低いものから選考される
2)できるだけ1株当たり価値を希薄化させない
という判断で決められています。

したがって、手許現金に余裕があったり、デットファイナンスよりCBによる資金調達を優先させる場合、それなりの合理的な説明が投資家(既存株主)にきちんとなされる必要があります。たしかに、CBはゼロクーポン債(利息をつけずに発行できる)であるため、銀行借入や普通社債に比べて、金利コスト負担が小さくなります。しかし、それにはそれなりの理由があるのです。

① ゼロクーポンは企業(発行主体)から見れば、表面的には金利コスト負担なしですが、1株利益の希薄化により、転換後は既存株主がその負担を担うことになる
② 企業が金利負担ゼロでCBを発行できること自体、CB購入者にゼロ金利でも十分な利益が出るほどのオプション価格を提示していると考えることもできる

足元ではマイナス金利であることから、そもそも低金利で借り入れできるにもかからず、なぜにCBによるゼロクーポン債を発行しなければならないのか? CB購入者及び発行主体(上場企業)の利益は、既存株主の利益から移転されているだけではないのか、という問題点です。筆者は、この留意点がきちんと一般投資家(既存株主および潜在的株主)に対して説明されない罪は計り知れないほど大きいと認識しています。

 

■ ポイント3.資本政策の基本方針との整合性

20170317_資本政策の基本方針との整合性_リキャップCB_東証

「資本生産性」とは、一般的に「投下した資本が生み出す付加価値額をみる指標」と解釈されており、この場合は、ROEが当てはまるものと考えられます。それゆえ、資本生産性の向上とはROE向上と置き換えることができます。

ROE = 純利益 ÷ 自己資本
         =(純利益 ÷ 売上高)×(売上高 ÷ 総資産)×(総資産 ÷ 自己資本)
         = 売上高純利益率 × 総資産回転率 × 財務レバレッジ

ROEは上式の様に、デュポンチャートにしたがって3つに要素分解することができ、「リキャプCB」は即効性のある「財務レバレッジ」改善手法として知られています。しかし、持続的にROE向上を達成するには、顧客提供価値を増大させたり、画期的なコストダウンを実現した後に得られる「売上高純利益率」の上昇や、画期的なビジネスモデルや抜本的なサプライチェーンの効率化により「総資産回転率」の改善の方が即効性は難しいですが、持続性がある施策であることも同時に知られています。投資対象企業への中長期的なコミットメントを維持している株主にとって、持続的なROE向上策の方を歓迎するのは自然な流れです。

これを、資本再構成の視点からも補強説明してみます。リキャップCBにより、資本を減らして同額を負債増で置き換えることによって、企業体が必要とする資本量を変えることなく、足元での株主からの出資額を減じたとします。しかし、将来的に転換価格を上回る株価水準になったケースでは、CB保有者は株式へ転換を進めるため、再び資本構成がリキャップCB発行時のバランスに近いところまで戻ってしまうことが想定されます。そうなると、再び過去にリキャップCBを発行した際の資本負債バランスを取り戻すために、その他の手段を考えることができなければ、手っ取り早く、再びリキャップCBを発行する必要が生じます。一度使ってしまうと止められない劇薬になる可能性を秘めている、それがリキャップCBなのです。

 

■ ポイント4.CBと自社株買いを組み合わせることの個別事情の有無

20170317_CBと自社株買いを組み合わせることの個別事情の有無_リキャップCB_東証

リキャップCBの発行は、
① CB発行による資金調達
自社株買い
の組合せです。この二つを同時に行う理由として、個別の事情があるのなら、それをきちんと投資家に説明して理解を得る努力をしなければなりません。

例えば、
1)CB発行による資金調達を円滑に行うために、同時に自社株買いをする

CB発行による資金調達の主な目的が設備投資等、通常のCB発行と同様のものとしますが、その調達資金の一部を自社株買いに充てます。その理由は、
① CB発行が将来の新株予約権の行使により発行済み株式数を増加させることで、既存株主の1株当たり持分(利益、企業価値)を希薄化させる可能性がある
② CB購入者が株価下落のリスクヘッジを企図し、CB購入と同時に株式を空売りすることで、株式需給に影響してしまう
③ 上記②の影響と同じく、CB発行の公表段階で株価下落を誘発し、親株の株価下落でCB発行条件決定に影響する

こうした理由により、株価下落を阻止または緩和するために、自社株買いによって空売りによる需給悪化に買い向かい、ヘッジ売りによる需給悪化の影響を一部相殺するための自社株買いは、既存株主にも納得してもらうだけ一理ある理由といえます。

2)自社株買いを円滑に行うために、同時にCB発行を伴う

自社株買いをする目的は、
① 余剰資金を株主に還元するために、自社株買いで自己資本を圧縮・資本構成を調整する
② 大株主が政策保有(持ち合い株式)の解消のために株式を放出する際の需給悪化を相殺する

しかし、現実には、必ずしも思うだけの自社株をすぐに市場で買い付けることができるとは限りません。そこで、市場における自社株の流動性に比して大量の自社株買いを行う場合には、先述のCB購入者による現株の空売りを誘発し、平常時の流動性を上回る自社株買いを短期間で実現することにも道理があります。

上記2例は説明されると分かりますが、これを一般投資家に説明して、納得してもらえるだけの分かりやすい説明が実施できるかと言われれば、少々怪しいかもしれません。ちょっと、金融リテラシーを有する理由付けということです。

 

■ ポイント5.CBの条件決定の適切性

20170317_CBの条件決定の適切性_リキャップCB_東証

この留意点は、リキャップCBに限らず、CB全般に共通するものです。会社法上、CBは新株予約権付社債として、その新株予約権発行部分について、会社法上の有利発行規制が及びます。したがって、CB発行にあたっては、
① 公募であれば需要の積上げ
② 第三者割当による発行であれば、独立した第三者機関による算定書を取得
して、価格を決定するプロセスを踏むのが通常です。しかし、オプション価値の評価は複雑なため、価格の妥当性について全ての株主・投資家から納得を得ることは難しいものです。また、先述のペッキング・オーダー理論により、CBは将来の希薄化が見込まれる株主資本に違い資金調達であるため、その調達コストは銀行借入や普通社債発行などのデット・エクイティより大きいはずと理解されています。それゆえ、ゼロクーポンで調達できるとはいっても、負債部分の金利がゼロになるというメリットがあるだけでは割に合わないと考えられても仕方がない所です。CB発行条件の妥当性については、念には念を入れて丁寧な説明が必要になります。

 

■ ポイント6.CBのアップ率のメッセージ性

20170317_CBのアップ率のメッセージ性_リキャップCB_東証

この留意点も、リキャップCBに限らず、CB全般に共通するものです。
CBの転換による将来の希薄化を抑制するため、転換価格をCB発行時の株価よりも高く設定する例も少なくはありません。この転換価格の上昇比率を「アップ率」と呼びますが、このアップ率が高ければ、将来の転換可能性が小さくなりますし、あるいは転換された時に発行される株式の数も少なくなり、希薄化のリスクが薄まります。

しかし、こうしたアップ率により高目に設定した転換価額であれば希薄化を抑制できると経営陣が考えているということは、別の見方をすれば、その転換価額に株価が到達する見込みは高くないと現経営陣の本音が隠されたシグナルであると捉えられる可能性もあります。この転換価額が、現経営陣の目標株価であったり、想定する株価の上限であったりという隠されたメッセージと、実際の投資家への説明内容が相反しないように努める必要があります。

本コラム記事は次の文章で締められています。

「東証の文書をリキャップCBの否定と受け取る向きもあったが、実際は投資家が誤解しがちな点を指摘し、発行企業に丁寧な説明を求めたものにすぎない。」

「かつて転換価格が修正されるMSCBと呼ばれるCBが一部の企業に乱用され、規制強化と市場の縮小につながった。なじみの薄い資金調達手法は乱用や誤解を生みやすい。リキャップCBを正しく理解し、投資家にも納得してもらうことで、上場企業の資本政策が多様化する。」

個々の企業の資金需要と金融環境に適応した資金調達の手段のひとつとして、「リキャップCB」は十分に考慮すべき選択肢のひとつに違いありません。しかし、どんな立派な道具でも、使用者の使い方や使用意図次第で、利器にも鈍器にもなります。手っ取り早いROE改善策として使うか、株式市場で有利な調達コストで資金を得る手段とするか、それはあなた次第です!

(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

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