日本郵政が豪物流子会社巡り最大4000億円規模の減損損失の計上へ - のれんの一括償却で膿を出し切り経営が上向くと考えるのは誤解です!

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■ 日本郵政がお手軽に国際物流事業を立ち上げた見返りは最大4000億円規模の減損損失 !

経営管理会計トピック

スピード感ある企業成長を企図して海外事業にまつわるM&A手法が用いられることが多くなりました。ただでさえ、事業の目利きは難しいのに、海外、しかもこれまで手掛けたことの無い事業買収にはリスクがつきものです。

2017/4/21付 |日本経済新聞|朝刊 日本郵政が巨額減損検討 豪子会社巡り、数千億円規模か

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

「日本郵政が、業績が低迷しているオーストラリアの物流子会社を巡り、数千億円規模の減損処理を検討していることが20日、分かった。早ければ2017年3月期決算で処理する方向。年内にも政府が日本郵政の株式を売り出す計画があり、日本郵政は損失を出し切って構造改革の意思を示して市場に理解を求めたい考えだ。」

2016年度決算期にて今回明らかになった減損処理する予定は、2015年5月に発行済株式100%を現金で取得・完全子会社化したオーストラリアのトール・ホールディングス。アジア太平洋地域を中心に、フォワーディング、コントラクト物流(3PL)を手掛ける物流企業で、傘下に255社の子会社(日本郵政から見れば孫会社)を持つ一大流通網を持つ企業グループです。

同記事および当時の決算短信およびプレスリリースから窺い知る買収以降の取引を下記に簡単にまとめます。

買収金額:6093億円(内現金支出:5716億円)
のれん代:4745億円
のれん償却:237億円/年(20年定額償却:日本基準)
所有構造:持株会社である日本郵政の傘下「日本郵便」が100%所有

「のれん代は当初20年間で償却することを想定していた。だが資源安の影響でオーストラリア経済が低迷し、業績が悪化。日本郵政も協業による相乗効果を高められず、年明けにトールの経営陣を刷新し、効率化を進めている。」

このような、業績見通しが甘かった、不慮の業績変動の外部影響を被った、という説明は、経営陣の事業の目利きとその後の事業運営の巧拙の問題です。本稿では会計処理について深堀したいので、そちらの批評は別口の論者に任せたいと思います。

もう少し、新聞報道の動向を見てみます。

2017/4/22付 |日本経済新聞|朝刊 豪子会社の減損、最大4000億円規模 日本郵政が前期一括計上

「日本郵政は21日、買収したオーストラリアの物流子会社を巡り、最大4000億円規模の「のれん代」を2017年3月期に一括して償却する方向で調整に入った。同子会社の業績低迷で想定した利益を回収するめどが立たないため。海外関連の損失を一掃し、国際物流事業で出直しを図る。」

「郵政自身に海外の物流施設などを運営するノウハウは乏しく、買収後も思うような協業による利点を引き出すことができていないのが実情だ。」

事業運営のまずさは十分に分かりました。

「郵政はのれん代を毎年200億円ずつ、20年かけて均等に償却しているが、トールの業績低迷で企業価値が下がり、期待した通りの利益を回収する見込みが立たなくなった。日本郵政は会計ルールに沿って17年3月期にのれん代を一括して減損処理する方向になった。日本郵政幹部は21日、こうした処理方針を政府関係者らに伝えた。」

2015年5月に買収し、連結決算には同年7月から算入。2年も持たずにのれんを減損しなければならない状況に陥った先見の明の無さ加減が著しく目立ちます。

2017/4/22付 |日本経済新聞|朝刊 郵政 買収戦略に甘さ 豪子会社、改善見通せず 国際物流路線つまずき

「日本郵政が過去に買収したオーストラリアの物流子会社トールを巡り、2017年3月期決算で巨額の「のれん代」を一括で減損処理する。国内郵便市場の縮小が続く中、成長の切り札にした国際物流路線があだとなった。帳簿から負の遺産を消すことで日本郵政株の追加売り出しへの影響を避ける狙いだが、株価低迷や戦略の行き詰まりで先行きは不透明になっている。」

(下記は同記事添付の「国際物流強化を目指して豪物流会社を取得した」を引用)

20170422_国際物流強化を目指して豪物流会社を取得した_日本経済新聞朝刊

「日本郵政は5月中旬に17年3月期の決算発表を控えている。これまではグループの連結純利益の見通しを3200億円としていた。来週にも取締役会で減損処理を決めて適時開示する見通しで、前期の利益水準が大幅に下振れするのは避けられない。大型買収からわずか2年余りで名門と呼ばれた海外子会社のブランド力や将来性を大きく毀損し、のれん代を一括減損する事態となった。」

⇒「会計基準の選択に翻弄される企業と投資家 -新日鐵住金、アサヒ、三菱商事、三井物産、それぞれのケースを追う! そして「のれん」を語らざるを得なくなる!
⇒「「のれん」残高24兆円に拡大 7年連続最高に 今年度5%増 潜在的な減損リスクも
⇒「丸紅、原油安で損失1600億円 今期純利益48%減(1)
⇒「丸紅、原油安で損失1600億円 今期純利益48%減(2)
⇒「住商、資源戦略見直し 中村社長「見通し甘かった」 特別組織で原因究明

 

■ 巨額な「のれん」の減損損失に対して、肯定的な記述がなされる背景とは?

「のれん」の一括処理(減損損失の計上)は、とりもなおさず、(1)事業買収時の目利きの甘さと、(2)買収後の事業運転のまずさが原因です。

(1)事業買収時の目利きの甘さ
「背景にあるのは投資判断の甘さだ。同社の営業利益は16年4~12月期で66億円と前年同期の230億円を大幅に下回り、利益計画を達成するのは至難の業だ。中国減速などで資源価格が低迷し、物流の根幹をなす豪経済の回復が鈍いためだ。同社の経営陣を1月に刷新したものの、短期間で業績改善につなげるのは難しい。」(22日総合面記事より)

(2)買収後の事業運転のまずさ
「トール自身もアジアや米国など、豪州国外を開拓するために積極的なM&A(合併・買収)を繰り返し資本効率が落ちていた。多額の投資に見合う利益を安定して確保できる見込みがなくなった。」(22日総合面記事より)

しかしながら、この一連の報道記事の中に、この「のれん」一括処理が肯定的に表現されている箇所が目立ち、今回、筆者がコメントしようと思い立つ「やる気」につながりました。(^^)

「日本郵便も郵便事業の構造的な低迷もあり、収益は低水準。200億円規模の償却費が重荷になっていた。毎年償却費が発生して収益を長期的に圧迫するよりは、短期間で処理する方が投資家にもメリットがあると判断したとみられる。」(21日記事より)

「日本郵政グループ全体の17年3月期の最終利益は3200億円の見込みだ。最大4000億円規模の損失を計上するのに伴い、郵政民営化以降で初めてグループで連結最終赤字になる可能性もある。海外関連の損失リスクを吐きだすことで長期にわたる業績面の重荷も取り除かれるため、市場から一定の評価を得られるとの見方もある。」(22日一面記事より)

「現状ではトール買収で払った「のれん代」を毎年約200億円、20年間にわたって均等に償却している。極めて薄利の郵便部門でそれだけ多額の償却費用を計上し続けるのは経営上のリスクも大きい。日本郵政内には一括計上に慎重な意見もあったが、業績面の不安要因を払拭するには一括が得策だと判断した。」(22日総合面記事より)

のれんの定期償却より減損損失として一括処理した方が投資家にメリットがある、市場から一定の評価が得られる会計処理とどうしていえるのでしょうか? おそらく、その根拠となるのは、「のれん」を一括して減損処理してしまえば、翌期からの200億円の償却費負担が無くなることを意図しているのだと考えられます。だとすれば、そういう発言をする人には会計リテラシーが無い、と言わざるを得ません。一言、会計的損益とキャッシュフローが企業価値への影響の仕方に無頓着なのでしょうね。

⇒「国際会計士連盟会長「のれん、適宜再評価を」 - IFRSにみられるように、のれんを定期償却しないのは無謬性のあるグローバル・スダンダードだと思い込んでいる人へ

 

■ 巨額な「のれん」の計上がキャッシュフローと会計的損益計算に与えるインパクト

まず、今回の日本郵政(日本郵便)のトール買収取引をチャートで説明します。

経営管理会計トピック_日本郵政のトール買収

日本郵政による買収金額は、6093億円。この金額が意味するところは、TOLLの貸借対照表に計上されている資産・負債を時価再評価した差額とTOLLの元株主に支払う価値の合計値です。ここからTOLLが元々保有していた現金同等物369億円を差し引いた5716億円が日本郵政の手元から支出された現金です。つまり、TOLLの資産を元株主から買い取るのに、簿価評価額から上乗せした金額がのれん代で4745億円。これは、TOLLの支配権(株主になる権利)を元株主から買い取った、いわゆる「支配権プレミアム」といえるものです。つまり、もっともらしく、事業価値を評価して算出した買収金額:6093億円のうち、4745億円(買収金額の77.9%にも上る!)は、元々、TOLLの貸借対照表にも計上されていない「何か」に対して日本郵政が手元の現金から支払った金額なのです。

これは、2016年3月期の連結キャッシュフロー計算書でも明らかになっています。

20170423_日本郵政_2016年3月期_連結キャッシュフロー計算書

「企業価値」という言葉が多義的で、使用者や使用場面によって、意味する所がその時々で異なりますが、ここでは、企業が現在保有するキャッシュと、将来にわたって稼得するであろうキャッシュインフローの現在価値に割り引いた値の総合計だとしたら、少なくとも、2015年5月には、日本郵政の手元から5716億円のキャッシュがTOLLの元株主の手に渡っています。将来キャッシュインフローはいくらになるか、その時点で分からないので、いったん計算外に置いたとしても、買収時のキャッシュアウトは、その分、企業価値をマイナス方向にシフトさせます。

連結キャッシュフロー計算書では、その全額が2016年3月期の投資活動によるキャッシュフローとして社外流出しています。連結貸借対照表では、実体の裏付けのない支出額をいったん「のれん」として4745億円計上しておきます。そして、20年定額償却として、連結損益計算書では、毎年237億円の費用計上として、一時の支配権プレミアムに対する支出をあたかも20年の年賦払いにして、会計的損益計算ロジックに放り込んでいるだけです。

もうお分かりでしょうか? 年賦で237億円ずつ費用化しようが、買収時に全額費用計上しておこうが、日本郵政の買収時に負担したキャッシュアウトの金額は不変なのです。定額償却として費用計上を先送りしようと、減損損失として一気に費用化しようと、TOLL買収にかかった現金支出の額は変わらないのに、その後の事業運営が容易になるとか、市場(株主)から理解が得られるとか、的外れなコメントと言われても仕方がないと思いませんか?

ちなみに、日本郵政が作成したトール買収時の決算短信には次のような箇所があります。

20170423_日本郵政_2016年3月期_経営成績に関する説明

買収時に既に、トールは、現地オーストラリアの会計基準(IFRS)に基づき、減損損失を計上しているにもかからず、日本基準では「該当せず」として、無傷で連結決算してしまっています。子会社と親会社の会計基準の違いをうまく利用して、決算発表数字をコントロールする企業は、後から必ずしっぺ返しを喰らう、好例ではありませんか?

(参考)
⇒「ソフトバンク、米子会社の減損損失「反映せず」 4~12月決算

(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

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