国際会計士連盟会長「のれん、適宜再評価を」 - IFRSにみられるように、のれんを定期償却しないのは無謬性のあるグローバル・スダンダードだと思い込んでいる人へ

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■ IFRSが「のれん」を定期償却しない件は海外でも全面肯定されていなかった!

経営管理会計トピック

最近、東芝の巨額損失に伴う、半導体事業の分社化と海外原子力事業の切り離し、そして決算発表の延期は、すべてWH(ウェスチングハウス)における「のれん」の減損損失が主要因であることは周知の事実です。

⇒「東芝、原発で数千億円損失 米社買収に絡み 今期最終赤字の可能性 資本増強を検討 - その後の株価報道の方へ物申す!

そして、「のれん」を定期償却する日本の会計基準に準拠することによって、期間損益(営業利益ベース)がIFRS適用会社と比べて、相対的に過少評価されることを嫌って、コスト負担が軽くなる(と一般的には考えられることが多い)ことを狙いのひとつとして、IFRS適用へ舵を切る日本企業が増えています。

⇒「国際会計基準の導入、100社超える -ここで業種別の分布からIFRS導入の傾向を探ってみる!

さらに、日本を除くIFRSが主流になっている地域・国にある海外企業の経営者と株主、そして会計監査関係者が皆が皆、「のれん」の定期償却ではなく、減損テスト扱いを歓迎しているというのは思い込みに過ぎないことが次の記事で裏付けられました。

2017/3/25付 |日本経済新聞|朝刊 国際会計士連盟会長「のれん、適宜再評価を」

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

「世界130カ国・地域の会計士から成る国際会計士連盟(IFAC)のレイチェル・グライムズ会長は日本経済新聞に「日本で監査への信頼が高まることはアジア全体として重要」と述べ、日本が国際的な視点で会計・監査改革を進めることに期待を表明した。
 東芝の決算延期で焦点となったM&A(合併・買収)に伴う「のれん」の扱いについては「小刻みに再評価すべきだ」と語り、巨額の減損損失を一気に計上するのでなく、評価を適宜、下げたほうがよいとの認識を示した。」

(下記は、同記事添付の「レイチェル・グライムズ会長」の写真を引用)

20170325_レイチェル・グライムズ会長_日本経済新聞朝刊

ここでは、「のれん」について、「小刻みに再評価すべき」とだけ述べており、もっと「減損テスト」を厳格かつ、小さい金額であっても減損させるべきとして、定期償却させない方式を支持しているともとれます。しかしですね、会見記事の中での発言に、

「【減損会計】M&Aで純資産に多額の上乗せ価格を支払うことが増えており、それに伴い「のれん」は増加している。買収の時点では合理的と考えられた上乗せ額が本当に価値に見合っているかどうか、小まめに検証・判断して損失を認識すべきだ。個人的には償却が好ましいし、実態を映していると考える。(東芝のような個別事例は)コメントできない。」

とあり、個人的な見解として「償却」が好ましい、つまり「減損テスト」対象ではなく、「定期償却」対象とすべきであるという意見を持っていることが明らかになりました。筆者は、もともと、M&A(合併・買収)に伴う「のれん」について、「取得後の自家創設のれんを自動的に計上してしまう弊害の方が強い」という見解を持っており、頑迷な「定期償却」派の一人です。(^^;)

⇒「(経済教室)国際会計基準の展望(下) 「のれん」処理、日本型は妥当 西川郁生 慶応義塾大学教授

 

■ 通常の「のれん」「他社創設のれん」と「自家創設のれん」「自己創設のれん」の違いとは?

そもそも、「自家創設のれん」(自己創設のれん)とは何か?

2017/3/27付 |日本経済新聞|夕刊 (ちょっとウンチク)日本と米欧、考え方に違い

「多くの日本企業はM&Aを実施すると「のれん」を毎年、償却する。収益力など被買収企業の見えない資産価値は時間の経過とともに下がるという保守的な前提に立つからだ。これに対して米欧は見えない資産価値が著しく下がった時に初めて損失を計上する。米欧企業は見えない価値が経営努力によって維持できると考えるためだ。会計学者のなかには、そうした会計処理を「自己創設のれん」の資産計上と見なし、不健全と指摘する向きも少なくない。」

その前に、「のれん」の説明が必要かもしれません。

経営管理会計トピック_「のれん」とは?

買収企業(事業)を自社の貸借対照表(B/S)に組み込む際には、対象企業(事業)の総資産を再評価した簿価(600)を持ってします。しかし、対価として、現金支出か、自己株交換かで、1000の価値を提供した際に、差額の400の分だけ宙に浮いてしまいます。この分は、元々、買収対象企業(事業)の簿価に反映されていなかった企業価値(事業価値)が、M&A取引をした際に、客観的に400の分だけ表出したと考えます。これは、従来の貸借対照表に出てこなかった買収対象企業(事業)の超過収益力を表したものとして、買収元企業の貸借対照表に「のれん」という名目で計上されるのです。

こうして、他社(買収元企業)によって創出された(表に出してもらった)超過収益力は、「他社創設のれん」あるいは単純に「のれん」と呼ばれます。

一方で、営々と自企業の競争力を磨き上げ、貸借対照表にそのままでは計上されない、知財権を取得、優秀な従業員を育成、有利な商権を獲得した場合は、誰もその価値に実際には対価(現金支払いや株式交換)を支払って、第三者の目に具体的になんぼなのか、証明しているわけでないので、自己勝手に評価した「のれん」という意味で、「自家創設のれん」(自己創設のれん)と呼ばれて「他社創設のれん」と区別されます。

経営管理会計トピック_「のれん」金額の算定

注)筆者が学生の時に習った「自家創設のれん」の用語は古くなり、最近は「自己創設のれん」が一般的です。あまり意味のない呼び換えはやめてほしいのですが、、、(^^;)

 

■ どうして「のれん」を定期償却しないと、自家創設のれんの自動計上になるのか?

自社にとって魅力があるから、簿価より多くの対価を支払って、M&Aで対象企業(事業)を取得するのですよね。その魅力は、M&Aの時点で簿価より多額の評価額を支払ってもいいと思える何かの価値(知財権、人財、商権、特別な契約上の権利など)によるものです。知財権も永遠にその経済的魅力を維持できるわけではなく、優秀な従業員はいつか退職しているかもしれません。

つまり、その魅力度(超過収益力)が永年にわたり、減少していく可能性があります。逆に、その魅力度をタネにもっと価値を増やしているかもしれません。でもちょっと待ってください。買収後の超過収益力がもっと増えたとしても、勝手に貸借対照表にその評価額を自分の目分量で付け足すことは、「自家創設のれん」として客観性が無いとして禁止されています。

経営管理トピック_のれんの種類

その一方で、価値が減少する(減価する)事象を認識するのは、「減損テスト」をもってする、とされています。しかし、現実として、今現在行われている「減損テスト」が適正に運用されていると思いますか? どうして、一瞬の内に、何千億円という減損損失が一気に計上され、前期まで黒字経営だった会社が、減資や事業売却をしないとしのげなくなるような事態が起こるのでしょうか?

それは、現行の「減損テスト」が(割引)将来キャッシュフローの見積り評価で実施されており、その毎年の判定自体が何ら客観的な事実を積み上げて実行されているわけではないからです。そういう現実を是としながら、100歩譲って、適正に「減損テスト」が実施されていると仮定します。その場合、毎年の「減損テスト」で減価が起きていないという判定をするということは、即ち、M&Aで買収した企業(事業)を継続的に活用しているうちに、通常減価していっているに違いないのに、新たに企業価値(事業価値)が付加されているからこそ、「減損テスト」に耐え得るのだと、背理法的に「自家創設のれん」の計上が行われているのだと証明できるのです。

「自家創設のれん」の計上は制度会計ルールで禁止しておきながら、一方で「他社創設のれん」を定期償却または減損しないで済んでいるという事実は、自動的に「他社創設のれん」に「自家創設のれん」の企業価値(事業価値)を付与しているのと同義なのだとどうして頭の良い人たちが気付かないのでしょうか?

いや、気づいていながら、そ知らぬふりをして、目の前の営業利益を積み上げているのでしょう。そして、それに騙される一般株主こそいい面の皮です。

客観的な証明が難しい「他社創設のれん」の減価額だからこそ、保守的に定期償却した方がよいのです。だって、「のれん」と同様に、貸借対照表に計上されている「有形固定資産」「無形固定資産」にも、「定期償却」と「減損損失」が併用されているじゃありませんか。「有形固定資産」や「無形固定資産」だって、なんら経済的価値な裏付けがあって定期償却されている訳じゃありませんよ。「のれん」だけIFRSで特別扱いされている意味が分かりません。

経営管理トピック_資産の償却・減損パターン

「個人的に」という注釈がついているものの、国際会計士連盟(IFAC)のレイチェル・グライムズ会長も同意見であることに、意を強くした筆者なのでありました。(^^;)

(参考)
⇒「会計基準の選択に翻弄される企業と投資家 -新日鐵住金、アサヒ、三菱商事、三井物産、それぞれのケースを追う! そして「のれん」を語らざるを得なくなる!
⇒「「のれん」残高24兆円に拡大 7年連続最高に 今年度5%増 潜在的な減損リスクも
⇒「国際会計基準IFRSが変える(下)のれんや資産の「時価」重視 リスク管理の精度高める

(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

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