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(ビジネスTODAY)「トップ」スリムに即判断 LIXILグループ M&Aで経営層肥大化 瀬戸次期社長、就任前に大なた 役員半減

経営管理会計トピック 会計で経営を読む
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■ 役員数半減、社長報酬は全額自社株式

経営管理会計トピック

続けて、日本企業と欧米企業(または欧米出身経営者)における役員報酬の高額報酬問題、または株式報酬制度について議論してきました。今回は、相前後して実際にニュースとして飛び込んできた個別企業の経営改革(経営陣のあり方改革)として、LIXLLの事例を見ていきたいと思います。

これまでの議論の流れはこちら。
⇒「株で役員報酬、広がる 中長期の業績で評価 伊藤忠やリクルート、230社
⇒「欧米出身者の経営者の高額報酬に反発の動き - アローラ氏やゴーン氏の報酬は本当に適正か? そして日本的経営の強みとは?

まずは、次期社長の肝煎りの改革案なのか、前任者の置き土産なのかまでは不明ですが、経営体制改革の一報がありました。

2016/6/9付 |日本経済新聞|夕刊 LIXILグループ、役員53人に半減 社長報酬、全額株式に

「LIXILグループは7月に社長以下の役員数を現在の114人から53人に半減する。約6割を占める執行役員の役職をなくし、意思決定を迅速にする。社長も年間報酬の全額を株式で受け取る方式に改め、株価や業績にしっかり責任を持つようにする。経営体制の刷新を通じて早期の業績回復を目指す。同グループは15日の株主総会で藤森義明社長が相談役に退き、工具通販大手のMonotaRO会長の瀬戸欣哉氏が社長に就く。トップ交代を機に経営体制を改める。」

20160609_瀬戸次期社長_日本経済新聞夕刊

(同記事添付の瀬戸次期社長の写真を転載)

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

経営陣のスリム化とミッションマネジメントの徹底の概要は次の通り。

「現在76人いる上席執行役員、執行役員をなくし、代わりに理事の役職を設ける。社長以下6段階に分かれていた役員階層が5段階に減る。さらに業務が重複する役職を統廃合し、役員数を54%削減し、責任の明確化を徹底する。1年ごとに契約更新し、実績を重視した人材登用につなげる。役員の削減や報酬体系の見直しで、役員報酬は全体で約25%減る見通しだ。」

こうした思い切った改革に踏み切らせたのは、前任者が詰め腹を切らされた以下の子会社不正会計に伴う業績悪化が引き金となりました。

「LIXILグループは買収した独グローエ傘下の中国ジョウユウで、昨年に不正会計が発覚。累計660億円の特別損失を計上、2016年3月期の連結最終損益が6年ぶりの赤字となった。瀬戸氏は1月に事業会社LIXIL社長に就任。水回り製品のグローバル事業を自ら直接指導する体制に変えるなど、透明性が高く意思決定が速い組織づくりを進めていた。」

 

■ 経営者への報酬制度の見直しがもたらすもの

一夜明けて、次の日の朝刊には早速解説記事が特集されました。

2016/6/10付 |日本経済新聞|朝刊 (ビジネスTODAY)「トップ」スリムに即判断 LIXILグループ M&Aで経営層肥大化 瀬戸次期社長、就任前に大なた 役員半減

「LIXILグループの社長に15日就任する瀬戸欣哉氏が経営改革に乗り出す。7月に114人の役員数をほぼ半減すると9日、発表した。「経営層が肥大化している」と指摘する瀬戸氏は、今後も組織の見直しを加速させる可能性が高い。ベンチャー企業の経営者が大企業を変革する手腕が注目されたが、まずは大なたを振るうところから着手した。」

(下記は、同記事に添付のあった「経営改革の骨子」を転載)

20160610_LIXIL_経営改革の骨子_日本経済新聞朝刊

「瀬戸氏はインターネットによる工具販売という新しい業態を定着させたMonotaRO会長。改革の柱は執行役員を廃止し、役員数をほぼ半減すること。6段階あった役員階層を5段階に減らす。経営幹部の報酬を全体で約25%削減する。」

報道された「経営改革の骨子」にある5項目のうち、3点はマネジメント構造の改革、これを「組織のフラット化」の問題と認識します。残りの2点が、役員報酬の削減とCEOへは自社株式の付与といった「役員報酬」の問題と認識します。まず、報酬の問題から見ていきます。

下記は、同社の第74回定時株主総会(2016年6月15日開催)における株主招集通知から、「③ 報酬委員会による取締役および執行役の報酬等の算定方法に係る決定に関する方針」を抜粋したものです。

20160612_LIXIL_株主総会招集通知_役員報酬制度について

LIXILは、指名委員会等設置会社であり、英米流的企業統治の視点から、最もガバナンスが厳しい(=最も株主目線で経営をやってくれる)という位置づけのものになっています。それゆえ、株主総会では、報酬委員会での役員報酬制度の在り方を決める内容について、これを精査する形式を取ります。

今回の報酬制度改革で目立った論点を下記に整理します。

(1)経営者の中長期的な企業業績へのコミットメントの強化
従来から、ストックオプション制度は存在していましたが、それに加えて、「中長期キャッシュプラン」制度を新規導入します。これは名前から類推できるように、中期経営計画における業績目標の達成度に比例して変動する業績連動型の報酬制度です。

(2)外部スカウト人材への付加給付の金額設定の明朗化
外部から2代続けていわゆるプロ経営者をスカウトしてきた同社ですが、高額になりがちなスカウト人材への報酬について、名目はさておき、基本報酬とは別に、「付加給付:Tax Equalization」として、前職の報酬との差額および駐在員としての生計費補助・医療保険補助等の付加給付の支給を制度に組み込んでいます。ここでは、『外国籍の』と断り書きがありますが、これからは国籍を問わず、このような付加給付のような手当は当たり前となる世の中になるでしょう。

それでは簡単に、報酬体系をまとめてみます。

● 取締役
 ① 基本報酬(固定給。他社との相対的水準による調整あり)
 ② ストックオプション
● 執行役
 ① 基本報酬(業績比例給)
 ② 単年度の業績連動報酬(年一回の賞与)
 ③ 中長期の業績連動報酬(中計での目標設定期間終了後に配分)
 ④ ストックオプション

社外からのプロ経営者のスカウトが前提で、役員報酬における人材獲得競争に負けない価格提示を可能にすること、そして、一度就任してもらったら、社内外を問わず、業績結果にコミットメントし、成果に報いる報酬にすること、こうしたドライな報酬制度であることが分かります。思わず、『欧米かっ!』といい意味で突っ込みたくなる内容です。

 

■ 組織のフラット化がもたらすもの

もうひとつの論点、国内の経営幹部の半減という改革案から、「組織のフラット化」を取り上げたいと思います。

一般的には、組織階層が深くなると、組織内の意思決定において次のようなデメリットが生じるとされています。

① 意思決定が遅くなる(下から稟議が上がって真の決定権者に到達するまで時間がかかる)
② 責任の所在があいまいになる(稟議の承認者の数が多くなることの弊害)
③ 情報の歪曲化・劣化が激しくなる(伝言ゲームで当初入手した情報が歪む)

一方で、「スパン・オブ・コントロール(span of control)」という概念もあり、マネジャー1人が直接管理している部下の人数や、業務の領域には自ずと制約が生じるというもので、一般的に言われている限界は、1人の管理職につき、適正な部下の数は5~7人程度と言われています。誰ですか、「俺はもっと多くの部下を直接統治できているぞ!」とおっしゃっている人は。そういう人には、その何十人と直接面倒を見ている部下の仕事内容や部下の性格(仕事の進め方など)について胸を張って、全部把握していると言えますでしょうか。筆者は2,3人でもひいひい言っている状態です。

ここでは、複雑な多階層の計算は難しいので、ケースを単純化して、全従業員の人数と管理職の人数の比から適正管理職人数を算出する簡易法をご紹介します。

単純に、全従業員数 × 1/7 = 管理職の適正人数

という風に計算します。
(実際には、労働生産性から適正人員数を部門別に割出し、その後にスパン・オブ・コントロール比率(ここでは、1/7)をかけます)

現在の全従業員数が、競合他社比較や、業績目標からかけ離れており、水膨れしている場合は、計算結果の管理職の人数も多くなりがちになるので、まず適正従業員数の算出から行うというのが正道なのですが、、、

お節介かもしれませんが、LIXILのFY14:有価証券報告書にある従業員数(平均臨時雇用者数含む)が、66,807人なので、

66,807人 × 1/7 ≒ 9,544人

管理職(課長レベル以上? 部下無し課長は実質対象外ですが)は、現在の在籍人員が適正であるという前提に則れば、約9,500人が適正水準であるはずです。さて、実態はどうなのでしょうか。あえて外部公表データから迫るのがこのブログでのやり方なので、LIXIL関係者の方々、実際に組織表と見比べて、組織の重さを実感してみてください。

下記に、興味深い参考文献を挙げておきます(内容が凄いのに絶版なんて、、、)。

(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

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