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欧米出身者の経営者の高額報酬に反発の動き - アローラ氏やゴーン氏の報酬は本当に適正か? そして日本的経営の強みとは?

経営管理会計トピック 会計で経営を読む
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■ 高額な欧米出身の経営者に対する報酬について

経営管理会計トピック

前回、日本企業(3月期決算会社)の株主総会シーズンを控え、ひとつのテーマとなるであろう役員報酬制度への株式報酬の組込みについてざっと内容を解説しました。

⇒「株で役員報酬、広がる 中長期の業績で評価 伊藤忠やリクルート、230社

高止まりする役員報酬への抑止策として、または企業業績成果とのリンクや中長期的な経営へのコミットメントを引き出すために、役員報酬について、自社株式支給で応えていく仕組みはひとつの解かもしれません。

これに先立ち、欧米出身の経営者(日本企業、外国企業を問わず)への高額報酬に対する拒否反応が出てきています。今回は、そうした海外企業の動向を踏まえ、CEOをはじめとする経営者の高額報酬にまつわる動向をまとめてみました。

最近の欧米出身経営者の高額報酬を取り上げた記事を順にいくつかご紹介します。

2016/4/30付 |日本経済新聞|夕刊 ゴーン氏報酬「反対」54% ルノー株主総会 採決、拘束力なし

「【パリ=竹内康雄】フランスの自動車大手ルノーが29日開いた株主総会で、2015年のゴーン最高経営責任者(CEO)への報酬を約725万ユーロ(約8億8300万円)とする議案に54%が反対した。この採決に拘束力はなく、取締役会は総会後に報酬委員会と共同で、報酬額を維持するとの声明を発表した。
 もともと企業幹部の高額報酬に批判的だった筆頭株主の仏政府が反対したほか、一部の株主も反対に回った。反対が過半となるのは初めてで、AFP通信によると、15年は58%、14年は64%が賛成していた。」

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

⇒「日産「切り札」が威力 仏政府から譲歩勝ち取る 「会社法308条」ルノー株買い増しで議決権消す

記事によりますと、ルノーの取締役会はゴーン氏の高額報酬を維持する理由として、純利益が5割近く伸びた15年の好業績を挙げています。しかし、取締役会は報酬委員会に16年以降の報酬のあり方を検討するよう要請した、ということで、仏政府の反対姿勢が取締役会に対して一定の牽制となったと言えます。14年に制定した新法(フロランジュ法)に基づき、仏政府が保有するルノー株の議決権は2倍になりましたが、ルノーとの取り決めで20%分までしか行使していないという背景がありますので、ルノー取締役会も、仏政府の意向をある程度汲み取らざるを得ない力学が働いた結果とも言えましょう。

 

2016/5/26付 |日本経済新聞|電子版 ソフトバンク、アローラ氏に80億円の期待と重圧

「■「ゴーン氏8人分」の報酬

 アローラ氏の報酬額は、6月下旬に開く株主総会の招集通知で明らかになった。2016年3月期に払った報酬の総額は80億4200万円で、株式による報酬18億7100万円も含まれている。
 アローラ氏は2014年に米グーグルからソフトバンクグループ入り。孫社長の有力な後継者候補として脚光を浴びたが、その後に明らかになった報酬額でも注目を集めた。初年度の2015年3月期は入社に伴う契約金を含めて165億円あまりを支払っていたからだ。
 今回明らかになった2016年3月期の報酬は契約金がなかったことから半減しているが、それでも水準そのものは高いといえる。ちなみに、日産自動車のカルロス・ゴーン社長が2015年3月期に受け取った報酬額は10億3500万円。つまり、アローラ氏は契約金抜きでも「ゴーン氏の8人分」の報酬を受け取った計算だ。
 米役員報酬調査会社エクイラーが2015年に米主要企業の経営者の報酬についてまとめたランキングによると、IT(情報技術)業界の有力経営者であるオラクルのラリー・エリソン氏が6726万ドル(70億円超)、ディズニーのボブ・アイガー氏が4370万ドル。単純比較は難しいが、アローラ氏は、この2人を上回り、米マイクロソフトのサティア・ナデラ氏の8430万ドルに迫る水準である。」

20160526_ソフトバンク_孫社長とアローラ副社長_日本経済新聞電子版

決算発表するソフトバンクグループのニケシュ・アローラ副社長(右)と孫社長(10日午後、東証)

⇒「ソフトバンクのアローラ氏 600億円分の自社株買い 長期関与の意思明確に

ライバル企業がうらやむような経営者人材に高額報酬を払うのは、今や世界の常識のようになっています。その言い分は、マイクロソフトなど米国の有力企業や日産自動車、そしてソフトバンクグループのようなグローバル企業は、自社の競争力の源泉は人材であり、なかでも経営者の優劣こそ、企業の浮沈を左右すると考えられているからです。しかし、経営者の高額報酬を巡っては批判がつきまといます。現在進行中のアメリカの大統領候補の予備選でも主要論点になっているように、欧米を含めて世界中で格差問題への関心が高まるなか、高額報酬への視線は厳しさを増し続けています。

「アローラ氏の高額報酬は今のところ、「期待料」も含まれているのかもしれないが、すべての投資家が納得しているわけではない。例えば、ソフトバンクグループの株式を保有する米法律事務所ボーイズ・シラー・アンド・フレクスナーは今年に入り、アローラ氏の実績や適性に疑問を示す内容とみられる書簡を送っている。
 この書簡に対し、孫正義社長は「アローラ氏に全幅の信頼を置いており、1000%信頼している。今後の素晴らしい貢献を期待している」とのコメントを出しているが、株主が求めているのはアローラ氏の実績そのものである。それは、様々な批判があっても実績でねじふせてきた孫社長が一番分かっているはずだ。」

高額報酬に対する唯一の絶対的に有効な反論は、企業業績の向上だとも言えます。その点では、目立ってアローラ氏の業績貢献が可視化・顕在化されているとは言い難く、批判が高まるのも無理はないような気がします。

 

■ 高額報酬は、経済合理性があるかを問う。当たり前だが、株主の経営参加権としては当然の発言

CEOの高額報酬が当たり前の欧米企業でも、最近の業績低迷や不祥事に照らして、その風当たりが強くなってきています。

2016/5/17付 |日本経済新聞|朝刊 大企業トップ 高額報酬に逆風 英BPや米シティ、株主総会で反対相次ぐ 経営の透明性重視

「欧米の大企業トップの高額報酬に逆風が吹いている。仏自動車大手ルノーや石油メジャーの英BPの株主総会で、最高経営責任者(CEO)の高額報酬への反対票が半数を上回った。株主は業績に加え、経営の透明性も重視し始めている。生活の厳しさを叫ぶ国民の声を背景に政治家らも巨万の富を得る経営者に厳しい視線を向けている。」

20160517_BPのダドリーCEO_日本経済新聞朝刊

BPのダドリーCEO=ロイター

「BPのボブ・ダドリーCEOへの報酬に株主の59%が異を唱えたのは当然だった。BPは原油安にメキシコ湾原油流出事故の和解金が負担となり、15年12月期に過去最大の最終赤字を計上。にもかかわらず報酬は前年比2割増の1960万ドル(約21億3千万円)を提示した。同社の場合、投票結果に拘束力はないが、同じく原油安に苦しむ英蘭ロイヤル・ダッチ・シェルがCEO報酬の大幅カットを決めたのとは対照的だ。」

20160517_ヴィンターコーン・フォルクスワーゲン前社長_日本経済新聞朝刊

引責辞任したヴィンターコーン・フォルクスワーゲン前社長=ロイター

「「過剰な経営陣の報酬が強引な経営行動を促し、不正の原因となった」。排ガス不正に揺れる独フォルクスワーゲン(VW)に要求を突きつけたのがVW株の約2%を保有する英投資会社ザ・チルドレンズ・インベストメント(TCI)だ。15年12月期に最終赤字となったVW。同年9月末で引責辞任したマルティン・ヴィンターコーン前社長の報酬は731万ユーロにのぼり、このうち成果報酬分が587万ユーロを占める。TCI創業者のクリストファー・ホーン氏は「すぐに新しい報酬制度を導入する必要がある」と訴えた。企業の業績と役員の報酬額が連動しないのは、過去の実績を反映するなど複雑な報酬制度を採用する企業が多いことが背景にある。」

その他の企業でも役員報酬の他、経営方針を含めて株主からの圧力により、変わったケースが出てきています。

(下記は同記事添付の株主総会での意見表明で経営方針が変わったケース一覧表を転載)

20160517_株主の圧力で企業経営が変わるケースが増えている_日本経済新聞朝刊

アクティビストによる経営陣の入れ替えといった、一般株主の声(サイレントマジョリティ)の反映とはまた違った問題をはらんでいるケースも見られますが、いたずらに経営者の足を引っ張らない程度の牽制があった方が、経営規律が緩まなくてよい、という意見にも納得できましょう。

また、米英独日の4か国で、職務権限の大きさでどれくらいの報酬の開きが生じるか、衝撃の比較グラフも掲載されていたのでこれを転載します。

20160517_欧米は職務権限が大きいほど日本に比べて報酬水準も高くなる_日本経済新聞朝刊

米英流の、高額報酬でCEOを惹きつけ、代わりに暴走しないように、「執行」と「監督」を分ける企業統治方法を採る(社外取締役や委員会方式など)やり方と、独日の監査役会制度など、衆知を結集し、企業内関係者相互の穏やかな牽制による社内統治の方法もあります。こうした企業統治の実質的な運営方針の違いにこそ焦点を当てて議論すべきで、形式的に、米英流の社外からの牽制ありきの制度(コーポレートガバナンス・コード、スチュワードシップ・コード、社外取締役、委員会設置会社など)を、形式的に導入するだけでは、うまく機能しないと思われますが如何でしょうか。

話を高額報酬に戻しますと、
「トップの報酬水準は日本に比べ欧米が高い傾向にある。報酬の一部を株式で支給する米国はとりわけ高い。その米国にも変化が訪れている。スタンフォード大学コーポレートガバナンスロックセンターの調査では米国人の74%がCEOは「報酬をもらいすぎだ」とみている。株主からの圧力も高まっており米金融大手シティグループの16年の株主総会ではマイケル・コルバットCEOら経営陣の報酬を巡る議案で反対票が30%を超えた。」

とあり、高額報酬については、
① 業績比例分が高い
株式報酬分が高い
事も理由になっています。それゆえ、日本企業で積極的に導入されようとしている株式報酬制度も、企業統治方式のみならず、経営者報酬まで英米流を見習おうとするのか、という見方もできます。英米流がグローバルスタンダードで、それがベストプラクティスとは、短絡的な思えないのですが。。。

 

■ 株式報酬はもろ刃の剣。株式会社制度の基本精神に立ち返ると???

筆者は残念ながら、学部では主に国際政治を学んでおりましたので、アカデミックに企業経営の本質に迫ることはできないのかもしれませんが、そもそも株式会社制度は、事業拡大(資金調達)を容易にするために発明されたシステムであり、そこでは「所有」と「経営」の分離が基本精神としてあったと理解しています。アドルフ・バーリとガーディナー・ミーンズが1932年に発表した”The Modern Corporation and Private Property”の中で指摘した概念が「所有と経営の分離」。1929年当時のアメリカにおける巨大企業の株式は、特定の個人ではなく、非常に多くの人々に分散して所有されており、その経営は株式をほとんど所有していない専門的な経営者によってなされるようになっているということが明白となりました。

つまり、株式が持つ経済的利得にのみ関心を持つ流動的な株主が資金の出し手となり、一方で経営的な専門知識を有する経営者が実質的に企業運営を担当する。その委託-受託関係(エージェンシー問題)にまつわる問題を解決するために、経営者側から資本主側へ業績説明責任(会計責任:アカウンタビリティー)が意識されることになり、それが企業会計制度の充実化を促してきたと認識しています。それゆえ、筆者もコーポレートガバナンスの問題は、経営管理会計のテーマとしてこうして学習を進めているわけです。

そもそも、経営者による株式報酬枠の拡大が意味するところは、従前の「所有と経営の分離」がうまく機能しない世の中になり、経営者にも株主視点が欠かせない、ということを意味します。「所有と経営の一致」の方が究極的には企業業績が高くなるのではないかという結論を導きます(少なくとも筆者の頭の中では)。

それは、つまるところ、オーナー経営者が最強! ということになります。オーナー経営者が、自己の経済的リスクをかけて、間接金融(もはやこの言葉も死語になりつつありますが)による資金調達を行って、資金調達も事業運営も自己責任で行った方が最も経済合理的に企業は運転されるということです。

目先の報酬制度の変更や、流行のコーポレートガバナンスごっこにいそしんでいる人たちは、株式会社制度のそもそもの発祥理由と、最も効率的・経済合理的な企業経営のルールはなにか、真剣に考える必要があると思います。90年代後半から、英米流のコーポレートガバナンスがもてはやされ、日本的経営の短所がずっと自虐的に指摘され続けてきました。小職は、日本の製造業中心のコンサルテーションに携わっているからか、日本の製造業の強みは現場の職人的仕事のやり方にこそあるというビリーフ(信念、悪く言うと思い込み)があります。インダストリー4.0とか、IoT、AIと声高に叫ばれていますが、そうした最新のテクノロジーを活用することにうしろ向きであっては決していけませんが、何が自社の強みなのかについて、今一度自問自答する必要があるのではないでしょうか。

日本企業(特に製造業)がグローバルでの競争に打ち勝つためには、日本的経営の強み、自社の強みをきちんと精査することが重要で、形式的に株式報酬制度の導入や、英米流の企業統治を真似れば生き残れるわけでないことに早く気がつくべきではないでしょうか。

(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

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