■ 会計数字を見て、どれだけ「?」を頭の中に思い浮かべることができるか?
よく新人に尋ねられるのですが、「会計リテラシーとして大事なことは何ですか?」「簿記はどこまで知っておかないといけませんか?」という問いを受けることがあります。
簿記に関しては、最低限、複式簿記の構造と、財務諸表の左右配置は知っておかないと、決算書が読めないので、本当にできるだけ勉強しておくことをお勧めします。
⇒「簿記を全く知らずして決算書(財務諸表)が本当に読めるようになるのか?」
⇒「(キャリアアップ)中小企業診断士トップに 取得したいビジネス関連資格 本社など調査 やはり英語、簿記上位」
しかし、簿記を知っていることと、会計リテラシーがあることは、残念ながら同義ではありません。自動車を組立・整備できる人と、自動車を上手に運転できる人は異なることもあります。ただし、自動車を整備できる(自動車の機能を知っている)人が持つ知識が運転に習熟することを妨げることは決してない。会計リテラシーと簿記の関係も同じことです。
大事なのは、決算書を見て、頭にどれだけ「?」を思い浮かべることができるか? 当然、簿記を知っていた方が、より多くの「?」を思いつくかもしれない、という関係です。
■ 決算発表を見て「?」に思わないといけないことはどれだけあるか?
さてさて、季節柄、3月期決算会社の決算発表が続いております。私が各社の決算発表を見る際に、自然と注視するところはいくつか定まっているのですが、ここでは最初歩の着眼点をケース別に話していきたいと思います。
(1)増収増益
売上高と利益が前年対比で増えているからといって、諸手を挙げて歓迎! とは決してなりません。ビジネスが急拡大すればするほど、取引ボリュームの増加によって、在庫と売上債権が増加し、運転資金の枯渇を招く恐れがあります。また、ビジネス基盤を強化するために、投資を加速させる原資をどこに求めているかを確認する必要があります。
運転資金の問題は、いわゆる黒字倒産の原因となります。簿記をただ知っているだけだと、会社清算決算書を見事に作成することはできても、黒字倒産を防止するための打ち手を考え出すことはできない、ということです。
まずは、P/Lの収益状況を確認の後、B/Sで資金と投資の状況を確認します。
(参考)
⇒「ソフトバンクのレバレッジ経営、アーム・ホールディングス買収を2重のキャッシュフローで読み解く!」
さらに、上場企業ならば、次にキャッシュフロー計算書の営業CFとFCFの確認に入るわけです。資金といって、直ぐにC/Sを見るわけではなく、きちんと見る手順とポイントがあるわけです。
(2)増収減益
売上高が増えて利益が減るので、私としては、この三類型の中で一番きわどいモノ扱いしています。期末の押し込み販売で売上を作っているのかもしれません。また、トップラインで目くらましするために、収益性の低いビジネスに手を出しているのかもしれません。
⇒「不適切会計の手段 -利益操作(2)収益の早期計上の続き」
⇒「不適切会計の手段 -利益操作(3)架空収益の計上」
その一方で、継続事業は問題のない収益性の維持と収益の拡大を見せているものの、将来投資に力を入れているために、期間利益を一時的に犠牲にしているだけかもしれない場合もあります。その見極めが大事なのです。この時、勘定科目としては、設備投資やR&D費用と売上高や総資産との相関を見ていきます。また、セグメント情報から、どのセグメントへの将来投資を加速させているのか、既存事業の収益性が犠牲になっていないか、等を炙り出します。
(3)減収増益
売上高が減っているのに利益が増えている状況。これも、結果は同じでも原因が様々なので、その要因分析に一番腕が鳴るところです。例えば、複合企業における選択と集中。不採算事業を切り離したりすると、売上高は切り取られますが、赤字事業が社内からなくなる分、利益が増加します。これは、いい減収増益といえるでしょう。
その一方で、ひたすらリストラを繰り返し、コスト圧縮に一心不乱となる。中には大切な将来投資まで削ってまで今期の利益創出に振り向ける場合もあります。こういう場合は、コストの内訳分析や、売上高R&D比率とか設備投資と減価償却費のバランスなどが理屈に合っているかを点検することになります。
おやおや、お話が何か財務分析に集中してきましたね。(^^;)
このように、決算をどう読み解くか、気になる方は、本ブログの「財務分析(入門編)」をどうぞ!
筆者による入門者向け財務分析手法は下記から参照できます。
(参考)
⇒「財務分析テンプレート『9 Matrix Financial Analytics』(無償版)取扱説明とダウンロード」
知っていることと分かっていることは、天と地ほど、違いがあるのです。
(連載)
⇒「会計リテラシーとは(1)数字を見て素直に疑問が浮かび上がってくるか?」
⇒「会計リテラシーとは(2)複式簿記で表現される数字だけを見て管理会計やっていると言えるのか?」
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