■ ここにきてAIは万能でないと。ほっとするようながっかりするような。。。
人工知能(AI)の研究プロジェクトのひとつに、「東ロボくん」があります。いつの日にか、東大の入試試験をAIがクリアできるのか、AI研究の最前線のお話です。
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2016/2/21付 |日本経済新聞|朝刊 AI、弱点は「常識知らず」 状況把握が苦手、活用に課題
「受験シーズンたけなわだ。国立情報学研究所(NII)などが開発を進めている人工知能(AI)の「東ロボくん」も、2021年度の東大合格を目指している。成績は上がってきたが、意外な弱点があることがわかってきた。機械の脳は、人間が経験を通じて獲得した膨大な「常識」を持たず、そのことが文意の理解や状況の把握のハンデとなる。問題は入試に限ったことではなく、今後の人工知能の活用を考えるうえで、重要な課題となりそうだ。」
(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます
(下記は、記事添付の挿絵を転載)
東ロボ君の現状の成績は次の通り。
「「数学と歴史は胸を張ってよいレベル」。2015年11月、東ロボくんの成果報告会で、出題したベネッセコーポレーションの担当者はこう評した。東ロボくんの開発がスタートしたのは11年度。13年度に初めてセンター試験の模試を受けたときの偏差値は45だったが、今年度は57.8。受験生の平均点を超えた。
世界史は安定して8割の得点を取れるようになった。数学は、筑波大学チームが作った数列の問題を解くアルゴリズムで点を伸ばした。「昔の私より、東ロボくんの方が成績が上です」と、チームの照井章准教授は笑う。」
以外にも、理科系に苦手発見!
「一方、物理は苦戦を強いられている。最大の壁は、問題文の理解だ。数式や定型の表現が多く、設問の意味が1つに定まる数学と違い、物理ではまず、文章で説明された状況を把握する必要がある。
例えば「時速40キロで走る自動車から後方に投げたボールの運動」について聞かれれば、人間なら誰でも、道を走る自動車の窓から外に向かってボールを投げる光景を思い描くだろう。その背後には、これまでの経験で培ってきた膨大な知識の蓄積がある。「自動車とは人が乗って動くものだ」「ボールは外に向かって投げた」「自動車には重力が働いている」。どれも問題文には書いてないが、当然の前提となっている。」
つまり、AIが自然言語からなる問題文のみを対象に問題を解こうとしますが、人間は、問題文からだけでなく、それまでの日常生活で得られた知恵も総動員して入試問題に当たっているという新事実がここに明らかになりました。
「だが日常生活を送った経験がないコンピューターは、そうした「常識」を持たない。そのため問題文の説明から、常識を頼りに状況を把握することができないのだ。」
「プロジェクトを率いるNIIの新井紀子教授は、物理への挑戦を「ロボティクスの今後を占うのに重要な取り組み」と位置づける。それは将来、家庭や町中で働くロボットが身の回りの出来事をどこまで把握できるかを占う試金石となる。」
■ AIは非常識な存在、そして入試問題文は常識が無いと解けないという新事実!
AIは頭脳だけ。これを搭載したロボットを人間社会に役立つものとするには、AIに山のように膨大な情報を与えないといけないことが分かりました。そこで、「IoT」とか「センサー」が登場します。生身の人間が外界から、そして書物やネットの世界から得ている知識をどうやって自分のものにするのか、そのメカニズムが明らかになると、AI搭載の人間に近づくロボットに一歩前進ということでしょうか。
「人間の常識を、辞書のようにロボットに与えることは可能だろうか。物理の解答プログラムを開発したNIIの稲邑哲也准教授は「現実世界と言葉は1対1対応しておらず、難しい」と指摘する。
例えば「かばんを持つ」と「かばんをぶらさげる」はほぼ同じ動作を表しているが、「かばんを持つ」と「鉄棒を持つ」の「持つ」はまったく違う。人間が状況把握に用いるあらゆる常識をロボットに教えるのは不可能に近い。」
IBMのワトソンのように、現在のAIが自然言語処理、計数データ処理に特化して進化しているだけでは、東ロボくんのようなAIは能力を伸ばすことができないということです。
「「常識」は、経験から得られるものだけではない。人間は生まれたばかりの赤ん坊でも、例えば「空腹になったら食べなくてはいけない」「動いているものに注目する」ことを知っている。それは生物進化の長い歴史の中で、人間が獲得した「常識」だ。
我々が現実世界で下す判断や行動の多くは、そうした「常識」に基づいている。一方、生身の体がないコンピューターやロボットは、何ら「常識」を持っていない。どれだけAIが進歩しても、コンピューターが人と同じようにこの世界を認識するようにはならないとみられる。」
人間の脳には、3種類の記憶があると言います。
1.エピソード記憶
・初恋の相手などの自伝的出来事、台風などの社会的出来事の記憶
2.意味記憶
・誕生日などの個人的な事実、言葉の意味などの社会的に共有する知識の記憶
3.手続き記憶
・自転車の乗り方や自動改札の進み方など体で覚えた記憶
そのいずれもが異なる脳領域の記憶で、その記憶のメカニズムもバラバラなのだとか。AIをつくることは、人間の脳の理解、認知神経科学に対する研究を進める必要があるのではないかと最前線の研究者は気付き、脳科学者とのコラボがあちこちで既に起こっています。
■ それじゃ、今のAIが活躍できる分野ってどこなの?
「NIIの新井教授は「物理の試験結果は、自動運転車(の開発)に重い課題を残したと思う」と話す。たとえば運転中に何かが飛び出してきて、進めばぶつかるが、避ければガードレールに衝突するような場合、人間は状況を瞬時に把握し、自己防衛を最優先しつつ、できれば他者も守ろうとして、とっさの判断を下すだろう。だがロボットに、そうした判断は難しい。」
なんと、今一番ホットな自動運転の分野。新井教授によればこれが難しいとのこと。
2016/2/12付 |日本経済新聞|夕刊 米運輸省「AIは運転手」 グーグル「無人運転車」実用に追い風
「【シリコンバレー=小川義也】米グーグルが開発中の自動運転車について、米運輸省は搭載されている人工知能(AI)を法律上の「運転手」とみなす見解を示した。自動車の安全基準などを定める当局が、同社の自動運転技術に一定のお墨付きを与えた格好。「ドライバーレスカー(無人運転車)」の実用化を目指すグーグルにとっては追い風となる。」
熱狂に水を差すようですが、これが真実なのでしょう。
記事は続けてこう綴っています。
「かつてアイザック・アシモフは、「人を傷つけない」「自分を守る」など、ロボットが守るべき3つの原則を提唱した。だがこの原則を守るには、目的のためにどんな行動を取るべきかを判断する必要がある。それには何よりも「常識」が必要なのだ。」
「人工知能のゴールは、おそらく人間の知能ではないだろう。ロボットの特徴を生かし、ロボットにしかできないタスクを担う、新たな知能を目指す必要があると専門家の多くは考えている。新井教授は「人と機械の生産性のベストミックスを探るのが大事だ」と指摘する。」
「人工知能は今後、どこに向かうのか。具体的な形はまだ見えていないが、東ロボくんが今後、そのヒントをくれるかもしれない。」
今の技術水準のAIに何ができるのか、そして何をやらせると人間社会の役に立つのか?その道具性にちょっとだけ切り込んでみましょうか。
■ 今のAIが特異なものを見つけてきました!
今のAIは、大前提として、電脳世界のデジタルデータ(ビッグデータ)を喰わせて、データ処理をさせる必要があります。それゆえ、「常識」をどこまでデジタル化し、AIに喰わせるか、そこが問題なわけです。じゃあ、開き直って、デジタルデータを取り込むだけでデータ処理(統計処理)できる分野で今の技術レベルのAIを使い倒せばいいじゃないか、と思うのであります。
2016/2/17付 |日本経済新聞|朝刊 お金のデザイン、ロボットが運用指南 顧客特性で判断
「独立系運用会社、お金のデザイン(東京・港)は16日、ロボットが資産運用を指南するサービスを始めると発表した。世界の上場投資信託(ETF)から40本前後を選び、年齢や運用期間など顧客の特性に応じた組み合わせを判断する。
サービスの名称は「THEO(テオ)」。顧客がインターネットを通じて年齢や資産運用の経験など9つの質問に答えると、約2分で最適なETFの組み合わせを提案する。最低投資金額は10万円で、顧客に代わって運用する一任契約となる。
手数料は年1%と既存の一任運用サービスに比べ低めに設定した。谷家衛会長は「金融知識の乏しい個人の資金運用ニーズに応える」と話している。
こうしたサービスは「ロボ・アドバイザー」と呼ばれ、米国では20社近い企業が競争している。」
ハイ、ひとつ見つけました。デジタル化したビッグデータ解析を得意とする現在のAIなら、これ使い勝手ありそうですね。ただし、別の投稿でも触れましたが、実際に接客するとなると、生身の人間によるコンサルテーションが必要なようです。それこそ、依頼者の好みや家族構成や将来の夢など、「常識」で判断する部分がありますから。
カブロボファンドの隆盛や、人間味のある接客の組み合わせの必要性については、下記の過去投稿もご参考ください。
⇒「フィンテック(FinTech)の最新動向(4)「金融ニッポン・トップシンポジウム」で語られたフィンテック 日本経済新聞より」
ではもうひとつ。
2016/2/27付 |日本経済新聞|夕刊 水漏れの相談、人工知能で応対 東大発VBとアクトコール、人手不足に対応
「水漏れなど住宅トラブルの修繕サービス大手のアクトコールは東大発ベンチャーなどと組み、人工知能(AI)を使ってコールセンターの電話応対などを自動化するシステムを開発する。声から言葉の意味や顧客の感情を読み取り、的確に答える。人手不足に対応し、業務環境を改善する。
アクトコールが今月設立したAI開発子会社ジーエルシー(東京・港)と、東大発のフェアリーデバイセズ(同・文京)などAI関連技術を持つベンチャーが連携する。年内にアクトコールのコールセンターに導入、来年外販を始める計画だ。」
これは、音声認識デバイスを使って、自然言語の入力を受け付け、現代のAIのお得意のデータ解析に当てるというもの。今って、言葉遣いなどで、発声者の感情まで読み取ることができるのですよ。ちょっとそれは怖い気がします。メンタリストに心読まれている感じ。
「水漏れやトイレ詰まりなど困りごとの状況や氏名などを音声で質問し、応急対応を助言。料金などの質問にも答える。AIが言葉を文字にして意味を瞬時に判断する。声の大きさや抑揚などから感情を判定し、緊急性が高いと判断すれば人に代わる。AIが人の脳のように応対パターンを学び、回答精度を高める。」
まだまだ人間のサポートという感じ。
「フェアリーデバイセズはスマートフォンに音声認識技術が採用された実績を持つ。共同開発には、AIで不動産価格を推定し割安物件を薦めるサービスを手掛けるイタンジ(東京・港)、ビッグデータ解析会社かっこ(同)なども参加する。
開発費は2千万~3千万円前後を見込む。アクトコールは自動化で人材配置を効率化する。応対件数の増加で売り上げが拡大すれば、数年で開発費を回収できるとみる。
外販ではまず年30件程度の受注を狙う。システムの価格は検討中だが、小規模事業者向けの簡易サービスでは1拠点で1カ月あたり数万円で使えるようにする考えだ。」
ここは経営管理会計的な分析を。上記のように、企業がコア技術を伸ばすために、事業化・商用化して、キャッシュを回収しながら、R&Dを進めるのがとても健全。お客と一緒にテクノロジーを育てていく感じになります。これは、開発者(開発企業)に経験値が溜まり、同時に開発費も確保できる。R&Dコストの負担増から、途中から資本力のある企業や投資ファンドに研究成果を横取りされるよりよぽっど理想的なのです。
つまり、R&Dコストのセルフ・ファンディング(自己金融)。自分がやりたいことは自分のお金で。
それが実践できていれば筆者の人生はもう少し楽しくなるのかも。。。(^^;)
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