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トヨタ、次世代経営者育成 カンパニー制導入発表 ポスト1000万台、意思決定迅速に

経営管理会計トピック 会計で経営を読む
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■ 日本最大企業の3年ぶりの大組織変更の行方は?

経営管理会計トピック

日経新聞のリーク記事を元に、組織管理デザインのケーススタディとしてトヨタ自動車の組織変更も先日すでに取り上げていました。

⇒「組織管理(4)- 組織デザインのケーススタディ「資生堂」「トヨタ」「ソニー」の狙いは?

今回は、3月2日のトヨタ自動車の正式なプレスリリースと、それを元にした新聞記事をベースにしてお届けします。いやあ、日本最大私企業の組織変更に、組織変更マニアである筆者の食指が動かないわけがありません。

2016/3/3付 |日本経済新聞|朝刊 トヨタ、次世代経営者育成 カンパニー制導入発表 ポスト1000万台、意思決定迅速に

「トヨタ自動車は2日、社内カンパニー制を4月に導入すると発表した。「小型車」「高級車」など車のタイプに基づくカンパニーを設け、各カンパニーのトップが製品企画から生産まで責任を負う。意思決定のスピードを速めながら次世代の経営者を育てる狙い。プレジデント(社長)を「量産」しポスト1000万台時代の持続的成長につなげる。」

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

まずは、新組織図です。これは、プレスリリースより新聞記事添付のイメージ図の方が分かりやすいので、下記に転載します。

20160303_トヨタ自動車の新しい組織のイメージ_日本経済新聞朝刊

組織変更のあらましは次の通り。

1.機能別組織の解体→事業部制組織へ
「「製品企画」や「車両系生産技術・製造」など機能別の本部を解消し、小型車、乗用車、CV(商用車・ミニバン)の3カンパニーに再編する。レクサスは既に移行しており、トヨタの全車両の企画から生産までを4カンパニーが担当する。」

→製品群ごとに7つのカンパニー体制へ移行し、中短期の商品計画や製品企画はカンパニーが担う。

→従来、機能軸の組織であった技術と生産技術を先行・量産でわけ、各カンパニーに振り分ける。

→グループ内で車両の開発生産を担う車体メーカーも各カンパニーに参画する。
① トヨタ自動車東日本は「小型車(コンパクトカー)」カンパニーへ
② トヨタ車体は「CV」カンパニーへ
③ トヨタ自動車九州は「レクサス」カンパニーへ

→責任・権限を各プレジデントに集約、企画から生産まで一貫したオペレーションを実施

2.地域別営業組織の併設
「2013年に設けた「第1トヨタ」(先進国)「第2トヨタ」(新興国)は営業組織として存続。」

3.技術開発・部品生産系組織もカンパニーへ

4.ヘッドオフィス
→カンパニーへの機能移管と、ヘッドオフィスとしての戦略策定・企画機能を集約
①「未来創生センター」を新設
•外部の研究機関やトヨタグループなど社外の力を積極的に取り込みながら、将来の技術/ビジネスを「長期視点」「社会視点」で創造していく役割として新設。
②直轄部署の再編(コーポレート戦略部を新設)
•中長期戦略企画を担う組織を集約。長期視点に立った経営の方向性の策定と経営資源の最適化を図る。
③その他直轄部署・各本部の変更
•基本は各カンパニーや地域本部の原価・収益、基幹システムなどガバナンスを支える仕組みづくりを推進するとともに、あわせて機能の一部を各カンパニーに振り分け。

 

■ むりやり、あら探しをやってみましょうか。

できるだけ批判的精神でもって、あら探しをしてみたいと思います。その前に、プレスリリースから章男社長のメッセージをまずは汲み取りたいと思います。

1.機能別組織間のコミュニケーションの壁を取り払う
現在の仕事の進め方は、従来の延長線上にあり、従業員や関係者の頑張りに頼っている部分も多く、また機能間の調整に時間を費やすという問題も顕在化してきていた。今回の体制変更のポイントは、「機能」軸ではなく、「製品」軸で仕事をしていくことによって、機能の壁を壊して調整を減らし、すべての仕事を「もっといいクルマづくり」とそれを支える「人材育成」につなげていくことである。

2.ビジネスユニットの損益責任を明確化
ガバナンスの観点においても、新たな9つのビジネスユニットが互いに競争、切磋琢磨し、ヘッドオフィスと連動することで、企業価値の向上が図れるものと考えている。

日経新聞が挙げた問題点は以下の通り。

1.サプライヤーに対する窓口は分散してしまう
「新組織についてある取引先幹部は「窓口が4つに分かれたら手間が増す」と指摘する。」

2.組織変更疲れが生じないか
「地域が軸の大規模再編から3年での見直しに「組織に手を入れると内向きにエネルギーを使う」(グループ会社首脳)と否定的な声もある。」

3.カンパニー制の部分最適化
「豊田章男社長は「組織再編そのものが解決策ではなく仕事の進め方を変えるきっかけ」という。社内カンパニー制導入で各カンパニーが部分最適を求めたり、かえって社内調整が増えたりした例もある。問題の芽を摘みつつ新たな成長モデル構築が求められる。」

 

■ それでは筆者の採点はどうなんだ?

恐れ多くて、日本最大企業の組織変更の良し悪しを語る立場にありません。しかし、管理会計屋として、ビジネスユニットの損益責任の明確化については、難儀するだろうと予想します。

損益管理単位は、仕入れ、内部での開発・生産、そして外販と、商取引が内部組織だけで完結した方が、損益責任が明確になります。つまり、他のビジネスユニット(カンパニー)と、社内取引が発生した場合、その取引には当然マージンを乗せるはずです。そのマージン率がどうやって適切であると、判定することができるのでしょうか?

筆者も若いころ、外部市場の取引価格を参考値にして、社内仕切価格を決めればいい、と実務を全く理解していない時はうそぶいていました。しかし、今は違います。最低発注保証量はどれくらいか、約束納期は? そういう細かい取引条件によって、在庫リスクや固定費の回収計算が大きく変動します。そういうコスト要因は、すべて取引価格に影響します。今回のトヨタの組織変更で、機能別組織から製品軸組織への変革、というのは結構なことなのですが、「先進技術開発」「コネクティッド」はおいといても、「パワートレイン」の販売先はグループ外だけではきっとないでしょう。そして、「第1トヨタ」「第2トヨタ」は、4つの車両生産ユニットから、内部仕切価格で車両を社内購入するのでしょう。それぞれの取引価格算定次第で、各ビジネスユニット(カンパニー)の損益は大きく変動します。

そして、「カンパニー」を名乗る以上、損益責任がまさか、損益計算書(P/L)上の当期純利益、売上高利益率だけにとどまることは無いでしょう。貸借対照表(B/S)上の、ROA、ROIC、CCCなども、カンパニー長の経営責任になるのではないでしょうか。そのいずれも、社内取引価格の算定は邪魔になります。その家族マージャンでの点数棒の奪い合いで、日本の電機業界の管理会計・経営管理は疲弊してきました。自動車業界もそれに倣う必要はありません。

ということで、カンパニー制という、いまや日本でしか、隆盛を極めていない組織形態を採用する有力企業がまた一つここに増えることになります。どうやって組織が儲かったか、を知るためには、P/L、B/S、C/Sをきちんと見ることが必要なのですが、カンパニー制というリーガルエンティティと資本関係を全く無視した組織構造は、その難易度を上げるだけです。

ソフトバンク2.0を標榜するソフトバンクが、3月7日に公表した組織変更の方が、よっぽど管理会計屋的には、理想的な形態なのですが、、、

2016/3/8付 |日本経済新聞|朝刊 ソフトバンクグループ、国内・海外ごと統括会社 米スプリント、アローラ氏直轄に

「ソフトバンクグループは7日、海外事業と国内事業をそれぞれ統括する中間持ち株会社を月内に設けると発表した。高い成長が見込める海外事業と堅実な事業拡大をめざす国内事業を分離して経営しやすくする。海外統括会社は孫正義社長が自らの後継者に指名するニケシュ・アローラ副社長が最高責任者に就く。ベンチャー投資を主導してきたアローラ氏は経営再建中の米携帯電話子会社スプリントの立て直しも担うことになり、手腕が一段と問われそうだ。」

(下記は、記事添付の新組織イメージ図を転載)

20160308_ソフトバンクの組織変更_日本経済新聞朝刊

ソフトバンクの組織変更のプレスリリースはこちら

でも、筆者が若いころ、組織変更を繰り返す経営陣に苦言を呈したところ、筆者がお仕えしていたCFOに、こう諭されたことがあります。

「管理会計のために会社組織があるんじゃない。会社組織をうまく運営するために管理会計(が提供する管理数値)があるんだ」

このセリフは、コンサルタントになった今でも大切に胸に刻んでいる言葉の一つです。


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