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自治体の会計、企業方式導入 栃木・益子町と奈良・香芝市、4月から 資産・負債を日次管理 - 公会計の基本を勉強しておこう!

経営管理会計トピック 実務で会計ルールをおさらい
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■ 自治体の「公会計」に企業会計バリの複式簿記を導入するメリットは?

経営管理会計トピック

総務省肝煎りの地方公会計の整備促進に対する施策実行の先鞭として、栃木県益子町と奈良県香芝市にて、4月から『複式簿記』による財務システム導入・稼働の一報がありました。

2016/1/26付 |日本経済新聞|夕刊 自治体の会計、企業方式導入 栃木・益子町と奈良・香芝市、4月から 資産・負債を日次管理

「栃木県益子町と奈良県香芝市は4月から、総務省の統一基準に沿った複式簿記方式の財務システムを導入する。歳入と歳出を把握する従来会計に加え、民間企業のように資産と負債の状況も管理する。同省によると、全国の自治体で初めて。両市町は公共施設の建て替え支出を計画的に見直したり、財政事情を住民に分かりやすく説明したりするのに役立てる。」

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

関連新聞記事は次の通り

2013/7/1付 |日本経済新聞|朝刊 (列島追跡)公共投資の判断に活用 会計に複式簿記、自治体に要請

2013/7/13付 |日本経済新聞|朝刊 総務省、自治体の会計方式統一 来年度にも 資産台帳の作成要請

以下、先頭記事における自治体の公会計に複式簿記を導入するメリットの説明をサマリします。

「従来の自治体会計は収支を示す単式簿記方式で、税収と借金はともに歳入に計上している。複式簿記では企業会計のように資産と負債の状況も分かるようにする。
 総務省は自治体の財政状況を正確に把握するために統一基準を定め、全国の自治体に2017年度末までに導入するよう求めている。益子町と香芝市は全国に先駆け、約2年前倒しで導入する。」

これは分かりにくいかもしれませんが、「単式簿記 - 現金主義」から「複式簿記 - 発生主義」への転換により、現金の出入り(収支)だけを記帳していたところから、有形固定資産の減価償却や、職員の退職給付関連費用も認識しようという意図によるものです。

「両市町のシステムは収入や支出を毎日入力すれば、自動的に日次で複式簿記の財務状況を管理できる。東京都などは既に複式簿記を導入しているが、固定資産の評価法などがばらばらで自治体間の比較が難しかった。」

この記述は、直接的には『複式簿記』とは関係ありません。
① 日々取引を記帳する
② 固定資産評価法(固定資産台帳への記録方法)を統一する

は、単式簿記でも複式簿記でも会計取引を記録するのに、必要な所作と計上基準(ルール)統一の問題なので。あえてこのコメントをしたのは、「複式簿記」を導入しないと日次で会計取引明細が分からない、とか、固定資産計上基準が統一できない、という誤解を与えそうな気配を感じたからです。

企業会計においても、会計取引が毎日継続的に発生しない、さらに、月次で収支や損益を把握していれば十分に経営判断できる場合は、月次処理(というか月次決算)だけで、計数管理は事足ります。たしか、10~20年前に、「日次決算」は流行し、筆者も「日次決算システム」を構築させられましたが、その導入効果はどれくらいのものだったか、疑問符がつくものでした。

また、固定資産計上基準は、複式簿記から離れて、というか、複式簿記で会計記録を取る前に、資産評価ルールを統一しておくだけの話。そのルールに従って会計帳簿に資産評価額を記録していくのは、複式簿記か単式簿記かは無関係です。ちなみに、企業会計においても、ソフトウェアや仕入諸掛りなど、そもそも固定資産台帳への登録金額が曖昧になる対象がありますし、減価償却方法に至っては、税法基準も含め、複数種類から選択できるので、之と言って統一的な償却ルールが一つだけ存在している、というものではありません。
(これをかっこよく言うと、「会計の相対的真実」という!)

■ じゃあ、総務省が推進している自治体の「公会計」の取り組みを少しご紹介しましょう!

新聞記事は簡明に事実や課題を伝えるためのもの。せっかくなので、総務省発表の資料から少々「公会計システム」について知識を蓄えてみましょうか。

まずは、総務省の公会計施策の入り口ホームページはこちら。
● 統一的な基準による地方公会計の整備促進
  (http://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01zaisei07_02000110.html

地方自治体の公会計システムを複式簿記に改めるその動機は、

「人口減少・少子高齢化が進展している中、財政のマネジメント強化のため、地方公会計を予算編成等に積極的に活用し、地方公共団体の限られた財源を「賢く使う」取組を行う」
(通達 総財務第14号「統一的な基準による地方公会計の整備促進について」より)

● 地方公会計整備のあらましはこちら<PDF形式>  

 (http://www.soumu.go.jp/main_content/000334406.pdf

ここで明らかに掲げられているのは、次の3つ。
① 発生主義・複式簿記の導入、
② 固定資産台帳の整備
③ 比較可能性の確保

● 統一的な基準による地方公会計マニュアル(概要)<PDF形式>
 (http://www.soumu.go.jp/main_content/000334407.pdf

ここでの筆者による注目ポイントは、
① 名前はどうあれ、B/S、P/L、S/S、C/Sの財務4表を作成する
② 連結財務諸表も作成する

それじゃ、総務省の地方公会計のマニュアルページをご紹介しておきます。
● 統一的な基準による地方公会計マニュアル(平成27年1月23日)<PDF形式>
  (http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/kenkyu/chikousuijitu/91516.html

ここに、大作となる「統一的な基準による地方公会計マニュアル(全体版)」<PDF形式>
があります。なんと、PDFで276ページ。。。頭から独習したい方は心して読み進めてください。

ざっと概要を把握されたい方向けに、ここから分かりやすいチャートをいくつか抜粋してみますね。あくまで筆者視点で恐縮ですが。。。

1.単式簿記と複式簿記

20160126_単式簿記と複式簿記

解説文には、「複式簿記では、ストック情報(資産・負債)の総体の一覧的把握が可
能」とあります。これは会計取引をどうやって分かりやすく見せることができるか、表形式の問題なので、厳密な意味での「単式簿記」と「複式簿記」の違いではありません。念のため。「貸借対照表」という一覧形式の資産・負債早見表があるだけです。10歩ゆずってそこでの複式簿記のメリットは、「資産」「負債」の評価額が、「発生主義」ベースで捉えられるという点で、それは次の2.のトピックになります。

 

2.現金主義会計と発生主義会計

20160126_現金主義会計と発生主義会計

解説文には、「発生主義会計では、減価償却費等といった見えにくいコストも含む正確なコストの認識が可能となり、経済的事実の発生に基づいた「適正な期間損益計算」を行うことができます。」とあります。筆者がこの「公会計基準」に違和感を持っているのは、株式会社のような営利団体ではない地方自治体の「期間損益」を計算することで、何が得られるかが不明な点です。まさか、地域住民にこの期間損益の一定分を現金配当したり、住民税を減額してくれるわけではありますまい。かた、首長の給与を業績比例制にして、この期間利益の多寡で変動させようとも思っておりますまい。

「例えば車については、複数年の利用が可能である中で、取得年度に一括で費用を計上するのではなく、利用可能な年度(耐用年数)に渡って費用を配分することとなります(このことを「費用配分の原則」といいます。)。上記会計手続きを「減価償却」といいますが、車を例にとると、以下のとおりとなります。」

という記述から、わざわざ「費用配分の原則」を持ち出して減価償却を持ち出していますが、一方で、発生主義会計の欠点として「投資損失引当金といった主観的な見積りによる会計処理が含まれる」とも言っています。つまり、企業会計で常識になっている発生主義による費用計上にはそもそも見積り要素が含まれているので、客観的な信頼性・公正性に欠けるきらいがあるが、それを上回るだけの期間損益計算の必要性があるのです。

(参考)
⇒「利益情報の意味
 ・分配可能利益
 ・業績評価利益

 

3.地方公共団体と民間の会計

20160126_地方公共団体と民間企業の会計

だから、「住民の福祉の増進」のために「期間損益」情報がどう活かされるのかが分かりません。

解説文では、
① 見えにくいコスト(原価償却費など)を住民や議会に報告する必要がある
② 設備の将来更新投資額を把握する必要がある
③ 固定資産台帳の公開により、民間企業からPPP/PFIの提案を受けやすくする
という企業会計方式導入の目的が語られています。これらのどれも、複式簿記や発生主義会計を採用しないとえられない果実なのかは会計音痴の筆者には理解できません。

 

4.統一的な基準による財務書類の概要

20160126_統一的な基準による財務書類の概要

20160126_統一的な基準による財務書類の概要

まんま、企業会計の財務諸表の構成と同じ。

 

5.統一的な基準による財務書類作成の流れ

20160126_財務書類作成の流れ

これもまんま、企業会計と同じ。

 

6.財務書類活用の方針

20160126_公会計データの分析活用目的

「行政内部での活用」はいわゆる「管理会計」、「行政外部での活用」はまんま「制度(財務)会計」の目的と合致しています。「行政内部での活用」における、①財政指標の設定はこの後さらに詳細を、②セグメント分析は、いわゆる減価償却を考慮した資産価値の評価手法があれば事足ります。③適切な資産管理は、企業会計を持ち出すまでもなく、きちんと台帳管理して下さい、ということ。

仮に、フルバランスでB/Sを作成しても、上記②だけの活用目的ならば、それは、「鶏を割くに焉んぞ牛刀を用いん」そのもの。これは、筆者が得意領域(と勝手に思っている)企業会計における管理会計制度設計にいえることです。「そんな細かい分析データを用意しても、あなたはそれを使いこなすことできませんよねぇ~」ってやつ!(^^;)

 

7.財務書類分析の視点

20160126_財務書類分析の視点

ここまでさんざん公会計をくさしてきましたが、この表の出来栄えはなかなかのものです。6つの分析の視点が挙げられていますが、そのすべてにおいて、「住民等のニーズ」がきちんと記述されている所が素晴らしいです。企業会計における管理会計制度設計でも、「そんな細かくてマニアックな財務指標は一体だれが使うの?」という場面によく出くわしますから。そんな時の筆者の決まり文句はこうです。「いやあ、立派な分析指標ですね。これを使うと誰のどういう意思決定に役立てることができるのですか?」まともな答えが返ってきたら合格!

結論!
「複式簿記を持ち出す前に、きちんと記帳する習慣をつけること」
「期間損益の計算が目的ではなく、保有資産の減価償却後の正当な価値を把握すること」
「財務指標を設定する場合は、住民ニーズがきちんと救えているかに留意すること」

お粗末様でした。

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