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日本株、日銀が最大の買い手 今年4兆円超 海外勢の売り吸収 - 外国人投資家を呼び込む政策はどこまで有効だったのか?

経営管理会計トピック 経済動向を会計で読む
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■ アベノミクスは日本株浮揚に貢献したのか?

経営管理会計トピック

日本政府を挙げて、アベノミクス政策により、外資を日本株式市場に呼び込み、株価浮揚による資産効果で経済政策の好転を生もうと、ここ4年間、日本株市場を取り巻く様々な政策や個別企業の反応がありました。今回、一応、その結果が2016年の投資家別日本株売買状況として公表されました。

2016/12/25付 |日本経済新聞|朝刊 日本株、日銀が最大の買い手 今年4兆円超 海外勢の売り吸収

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

「2016年、日本株の最大の買い手は日銀――。12月半ばまでの投資部門別売買動向を基に集計したところ、日銀の上場投資信託(ETF)購入額が4兆3千億円超と他部門を上回り最大になることが確実になった。昨年に比べ4割増え、外国人投資家の売りを吸収した。」

(下記は、同記事添付の「2016年の投資家別日本株売買状況」を引用)

20161225_2016年の投資家別日本株売買状況_日本経済新聞朝刊

同記事による本年の日本株売買動向は次の通り。
・外国人が3兆5千億円強を売り越し
(11月の米大統領選以降は、2兆円超買い越しだが、上半期の売りを挽回できず)
・年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)などの売買を含む信託銀行が約3兆5千億円を買い越し
・日銀はETFにより4兆3千億円購入して今年最大の買い手となった
(今年7月に追加金融緩和策としてETFの年間購入額目標を3兆円から6兆円に倍増させ買い入れペースが速める。取得価格ベースのETF保有額は11兆円だが、三菱UFJ国際投信の試算によると時価は14兆円で約3兆円の含み益)

結局のところ、大胆な金融政策という名の下、日銀とGPIFの買いだけが目立つ2016年の日本株市場ということになりました。株価は需給だけで決まるものではありませんが、持続的な株価上昇は、株式市場へ外部から資金が流入することにより発現することは明らかです。アベノミクスが意図的に株式市場に資金を投入し、他の参加者がそれに追随して、更に日本株を購入してもらう意図がありましたが、数字を見るに限り、その企ては2016年に限っては、失敗に終わりました。外国人投資家と個人投資家が売り越しに終わったからです。

 

■ アベノミクスによる外国人投資家誘致の政策を確認してみる

日本経済における各種施策はそれ単発では、それ専用のお題目を掲げ、地下水脈でどうつながっているのか不明確であり、また、各種利害が絡むので、一概にただ一つの政策目的を達成するために、全ての政策がひとつの意図で実施されていたとは、既存メディアも言いにくい所です。そこは個人ブログ特有の無責任な口の軽さを逆手にとって、取りまとめてみたいと思います(と言われているだけで、本人は至極真っ当に論評しているわけですが)。(^^;)

そもそも、アベノミクスは、政府(日銀やGPIF含む)主導で株価維持政策を行うのではなく、それに各投資主体が追随しやすく、様々な施策を打ってきました。

(1)「伊藤レポート」によるROE≧8%
単刀直入に、外国人投資家は、純投資目的で、相対的に短期的なリターンを求めます。そのために一番わかりやすいのが、投資家の持分である「純資産(自己資本)」がどれくらいの利回りで運用されて投資対象企業に利益として配当原資、自社株買い原資など、株主還元に回すことができるのかを示すことです。
このROE:8%は一朝一夕に実現できることはなく、無駄に、「株主還元性向100%以上」という血迷った資金政策まで登場する始末。その過剰反応は今や一休み。各企業もROE革命については、一息ついたところです。

(2)「コーポレートガバナンス・コード」「スチュワードシップ・コード」
この精神を受けて、東証ルールで独立社外取締役を2名以上選任としたり、持ち合い株式(政策保有株式)の所有に対する説明責任を課して売却を促したりと、外国人投資家(特に英米の機関投資家)が従来、日本企業に不信感を持っていたポイントを払しょくするために、英国のケイレポートを参考に、日本版コーポレートガバナンス・コードが導入されました。その後、金融機関(機関投資家)の投資先企業への監視の甘さを改善するために、機関投資家のあるべき姿を規定したガイダンス(解釈指針)としてのスチュワードシップ・コードがほどなく導入されました。

(3)会社法改正による新しい会社機関の設置
外国人投資家に日本株を買ってもらうには、日本企業の企業統治の形態を、欧米企業(といっても英米流ですが)に合わせれば、外国人投資家も不信感を持たずに日本企業の株式を購入してくれるだろうと、会社法を改正し、会社機関を意英米流に衣替えしました。
・指名委員会等設置会社(New)
・監査等委員会設置会社(New)
・監査役会設置会社(社外役員設置の規制強化)

英米の大企業では、「所有」と「経営」が完全分離していることが大前提にあり、会社の所有者である株主を代行し、株主の利益(権利行使)を代弁するために、経営者を「監視」する役目として、そもそも取締役が選任されており、中でもより監視力を強化するために、社外取締役(社外役員)の要件厳格化と増員を推し進めてきました。

(4)金融庁による企業情報開示の新ルール設定
インサイダー取引規制強化の一環で、簡単に要約すると、一人のアナリストに開示した情報は、同時に同内容レベルの情報として、その他の一般投資家にも開示することを強く求める規制です。これも、英米ルールを日本市場にも適用しようというものです。

 

■ アベノミクスが外国人投資家招致にこだわる理由とは?

外国人投資家と共に、個人投資家層を厚くすることも企業は取り組んでいます。特に、中長期的な保有が見込め、かつ、サイレントマジョリティとして企業経営に都合の良い資金の出し手という見方が一部に根強いからです。

⇒「株主優待、金券が半数弱 長期保有の個人に的 - 株主平等の原則の遵守か、持ち合い株式の解消の受け皿として個人株主を優遇するか

しかし、個人投資家層を厚くし、少なくとも、持ち合い株式の解消の受け皿としては力強さに欠けるようで、企業財務担当者の頭を悩ませ続けている所です。

2016/12/22付 |日本経済新聞|朝刊 数字が語る行く年来る年(5)96% 公的マネーが大株主 市場の選別機能に懸念も

「1万9033円。日経平均株価の年末終値がこの水準を超えれば5年連続の上昇となる。隠れた買い手は日銀と、公的年金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)だ。2つの公的マネーが株主の上位10位以内に入っている企業は東証1部の96%に上ることがわかった。官製相場は株価の下支え効果があるが、株価形成にゆがみをもたらすなど問題も多い。」

(下記は、同記事添付の「日銀のETF買い入れ額(累計)は増えている」を引用)

20161223_日銀のETF買い入れ額(累計)は増えている_日本経済新聞朝刊

公的マネーの買い増しは企業の持ち株比率を左右することになり、東証1部では1917社で公的マネーが10位以内の大株主になっています。1部上場会社全体(2000社)の96%を占めるに至りました。

「最も保有比率の高い筆頭株主になっているのは24%(484社)。ほぼ4社に1社に相当する。民間で最大級の株主、日本生命保険でも1%にとどまる。」

(下記は、同記事添付の「公的マネーが大株式とみられる主な銘柄」を引用)

20161223_公的マネーが大株式とみられる主な銘柄_日本経済新聞朝刊

公的マネーの効用とその特徴は、
(1)ブースト効果
「相場を下支えする一方、外国人買いと相まって株高に弾みを付ける「ブースト効果」を併せ持つ。」

(2)官製相場の問題点
「個別企業の業績や株価の割安感に関係なく資金が流入するため、市場の選別機能が弱まりかねない。」

(3)浮動株の減少
「日銀の買い増しで市場で流通する株式(浮動株)が減れば、小口の売買で株価が振れるリスクも高まる。」

(4)株価形成メカニズムへの悪影響
「日銀のETF買いは株価を下支えする効果がある一方で、業績などに関係なく幅広い銘柄を購入するため、株価形成をゆがめる」

それゆえ、日本政府(特にアベノミクスを推進する経済幹部)は、日銀やGPIFの株式購入の悪影響を少しでも緩和するために、外国人投資家(特に、英米の機関投資家)を日本株式市場に呼び込むために、上記のような政策を矢継ぎ早に実行に移している状態なのです。

筆者がまだ学生の頃、公的資金が日本株を買い支えることを揶揄して、PKO(Price Keep Operation)という言葉が一時、流行ったことがあります。その当時の比ではない、日銀による日本株の購入高。これが、日本国民が、投資ファンドマネージャーとしての腕を買って、日銀に虎の子の手元資金を預けている意識を持っているうえで、信用して運用を任せているのなら筆者も何も言いませんが、多くの国民は自分の資金を運用してもらっているという意識は希薄に違いありません。

だって、大胆な金融緩和で、本来は家計の手の内にあるはずの貨幣価値が市中、それも日銀の手元に移管され、それがETFで個別株の購入に充てられていることを分かっている人は少ないですから。

(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

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