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仮想通貨だけに留まらない。経済取引の根幹を変えてしまうブロックチェーン2.0(2) - ビジネスブロックチェーンの安全性と将来性について 日経BigDataより

経営管理会計トピック テクノロジー
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■ 落ちない、書き換えられない、管理者がいないブロックチェーンとは?

経営管理会計トピック

今年も、AI(人工知能)、IoT、ビッグデータに並んで語られるであろうフィンテック。その中でも、ビットコインに代表されるブロックチェーン技術。その進化と、仮想通貨以外への応用の可能性を概説します。本稿は、日本経済新聞電子版に転載された、日経BigDataの連載記事である「ビジネスブロックチェーン(上)(中)(下)」を参考に構成しました。

(参考)
⇒「禁忌に触れた仮想通貨 「ザ・ダオ」の教訓 「Disruption 断絶を超えて」特別編 - ブロックチェーン2.0の死角と問題点について
⇒「ビットコイン、金融政策失墜が背景 岩村充早大教授 「Disruption 断絶を超えて」特別編 - 中央銀行の歴史と政府からの独立性を考える。法定通貨と仮想通貨の相克から

2016/12/15付 |日本経済新聞|電子版 管理者不在のブロックチェーン 安全で落ちない秘密 ビジネスブロックチェーン(中)

「「落ちない」「書き換えられない」、そして「管理者がいない」。ビットコインを7年以上止まることなく動かしているブロックチェーンの仕組みはどうなっているのか。その技術概要を紹介する。」

(1)システムダウンを防ぐ「P2Pネットワーク」
「ブロックチェーンは、P2Pネットワークで稼働するシステムである。このネットワークに参加するノードは、同一のブロックチェーンソフトウエアを動かし、同一のブロックチェーンデータを保有する。これにより、いくつかのノードが突然停止した場合でも、データの損失やシステムのダウンが起きにくくなる。」

(下記は同記事添付の「ピア(ノード)とピアがつながるP2Pネットワークの仕組み」を引用)

20161215_ピア(ノード)とピアがつながるP2Pネットワークの仕組み_日本経済新聞電子版

この技術自体は、実はブロックチェーン特有のものではなく、すでにインターネットがこの技術的基盤の上に成り立っています。

<メリット>
① 高スケーラビリティ:
全ての端末が等価であり、特別な機能や役割を持った端末が存在しないため、接続するユーザ数が膨大になっても特定の端末に負荷が集中しにくい
② 低コスト:
要求されるサーバ装置性能が低くなり、通信回線も通信帯域幅の細い安価な回線で済む。このコスト差は、端末数が増えれば増えるほど顕著となる
③ 耐障害性の高さ:
あらかじめ同じデータを共有した端末を複数用意することができれば、データを受け取る側はどれか一つとでも接続可能であればデータ受信を継続可能である

あえて、ブロックチェーンは最後の③についてのメリットが強調されているだけです。

(2)改ざん防ぐ「暗号」と「ハッシュ」
ビットコインの場合、下記の情報がひとつひとつの取引データ(トランザクション)の含まれている必要があります。

・ 送信者のアドレス
・ 受信者のアドレス
・ 送金金額
・ 手数料
・ 直前のトランザクションのハッシュ

「アドレスは公開鍵暗号方式によって管理されている電子署名であり、トランザクション送信者の公開鍵で検証できる。受信側のみが持つ秘密鍵(公開鍵と対になっている)を使いデータを復号化(解錠)するため、安全性が高い。」

この方式も既に、Webサイトやメールサービスにおいて実用化されている技術で、ブロックチェーン特有のものではありません。また、各トランザクションは直前のトランザクションの「ハッシュ」を常に含んでおく必要があります。

「ハッシュ値は任意の長さのメッセージから出力する固定長のランダムな値のことで、ハッシュ値から元のメッセージは逆算できない。その結果、改ざんへの耐性が高く、履歴を遡ることができるハッシュチェーンが構成される。」

(下記は同記事添付の「暗号学的ハッシュ関数とハッシュ値」を引用)

20161215_暗号学的ハッシュ関数とハッシュ値_日本経済新聞電子版

まさしく、このハッシュ値が取引ごとに記録されており、遡及的に改ざんの有無と改ざん者の特定を可能にするところが、ブロックチェーンが従来のテクノロジーと一線を画するところです。聞くとシンプルで従来技術の応用ですが、それを考えつく発想とそれを実現する環境を構築する所がすばらしいと考えます。画期的な発明とは案外そういうものかもしれません。

(3)管理者なしに取引の正しさを決める
「離れた場所にある多数のコンピューター(ノード)で動くブロックチェーンにおいて、どのトランザクションを“正しいもの”とするかを決める仕組みを、「コンセンサスアルゴリズム(合意アルゴリズム)」と呼ぶ。
 通常のシステムでは、中央の管理者(がコントロールするコンピューター)が、各トランザクションの正しさを検証し、確定していくが、ブロックチェーンでは、合意アルゴリズムによって、参加する各ノードが検証作業をする。」

ビットコインでは、「プルーフ・オブ・ワーク(PoW=仕事の証明)」という合意アルゴリズムが発明されました。

(下記は同記事添付の「PoWの仕組み」を引用)

20161215_PoWの仕組み_日本経済新聞電子版

「PoWに参加するノードは、P2Pネットワークを漂う多くのトランザクションデータから任意のものを選び、これに直前のブロックのハッシュと、ナンスと呼ばれる任意の値を合わせて、後述するマイニングに用いるブロックの元データを用意する。」

この時、これらのデータを使ってハッシュ関数で計算します。そこで得られる値はナンスを変えるごとに異なる値になり、ナンスを変えながらひたすら計算を繰り返し、ある一定値より小さな値が得られた時点で、そのノードが投入したデータをいわゆる「ブロックチェーン」におけるひとつの「ブロック」として認めることとします。こうして最初に計算できたブロックを正当なものとするのが、PoWにおける合意ルールで、この合意がその取引の正当性を証明するのです。

さらに、その正当性の証明には2つの補強材料が存在します。

① とてつもないコンピュータの処理能力を要すること
PoW参加者全員を騙す・裏をかくでっち上げの情報を作り上げることは、PoW参加者全員のPoW作業を再現したうえでウソの情報を上書く必要があるため、そんな処理能力を保有することが事実上難しいのです。それでも、数多くの参加者が共犯者になれば、改ざんが可能になるかもしれません。それを防止するために、

② 検証する「採掘者」を集める仕組みがあること
「マイニングとは、前述のPoWの過程において、ハッシュ計算によって“当たり”を求める行為そのもののことだ。ナンスを変えながらハッシュ計算を繰り返す様を、金山からひたすら金を掘り当てる行為になぞらえてこの言葉が用いられている。参加者は「マイナー(採掘者)」ともいわれる。」

ビットコインでマイニングに成功した場合、12.5BTC(ビットコインの単位)と、ブロックに取り込んだトランザクションが支払った全手数料がそのノードに与えられます。これが経済的なインセンティブとなって、多くのマイナーが自分のコンピュータを稼働させてマイニングにいそしむことで、改ざんする悪意のある者の共犯者がでないように、あるいは共犯者グループが勢力を維持できないようにビットコインのネットワークが維持される仕組みになっているのです。

 

■ 落ちない、書き換えられない、管理者がいないブロックチェーンとは?

2016/12/16付 |日本経済新聞|電子版 「ブロックチェーン2.0」へ 普及の課題と未来 ビジネスブロックチェーン(下)

「管理者が不在でも「落ちない」「書き換えられない」…。ビットコインとブロックチェーンの大きな可能性に注目が集まる一方、その課題も浮き彫りになってきた。さらなる普及と発展のために、技術面の改良が求められている。
 今後、ブロックチェーンの用途の広がりや、利用者数の増加を実現する上では、技術的な課題がいくつか残っている。」

(下記は同記事添付の「ブロックチェーンはビットコインの利用から始まった(写真は決済の様子)」を引用)

20161216_ブロックチェーンはビットコインの利用から始まった(写真は決済の様子)_日本経済新聞電子版

ビットコインのブロックチェーンでは1ブロック当たり1メガバイトの容量しかないため、ブロックに取り込めるトランザクションは1秒に7件程度しかありません。また1ブロックの「プルーフ・オブ・ワーク(PoW=仕事の証明)」に10分かかるため、即時性の高い処理には使いづらいものとなっています。

「そこで、これらの課題を改善した新たな仮想通貨やブロックチェーンが多数考案・開発されており、「ビットコイン2.0」や「ブロックチェーン2.0」と呼ばれている。」

そうした次世代の仮想通貨は下記の通り。
・Ethereum(イーサリアム)
「合意アルゴリズムを改善し、あらゆる処理が理論上可能な(「チューリング完全」と言われる)スクリプトを搭載することで、「ワールドコンピューター」を目指す」
・Hyperledger
・mijin
・Orb

また、ビットコイン自体にも継続的に改善が進められています。
例えば、
① ブロックサイズの拡大
② マイクロペイメントチャネルによって小口取引をブロックチェーン外で処理
などが検討されています。

・マイクロペイメントチャネルとは
「少額決済を繰り返す場合は各回の手数料を抑えるために、ブロックチェーンに記録するのは一連のトランザクションのうち最初と最後だけにする。その間の取引はオフチェーン(ブロックチェーン外で処理する)技術を使うというもの」

 

■ 権利の取引をブロックチェーンで実現して「スマートコントラクト(賢い契約)」を実現する!

今後、ブロックチェーンを仮想通貨以外のネット上での取引に応用することが考えられています。ビットコインのブロックチェーンで管理されているのは、ビットコインの残高(金額)のやりとりです。この各トランザクションに書き込まれているビットコインの金額が「数字」として記録されており、この「数字」を、貨幣価値である「金額」以外のものに置き換えてみると、様々な取引に応用することができるのです。

例)「株式」「土地の権利」など

こうした応用には、単に仮想通貨のやり取り以上の価値があると考えられています。

(1)DVP (Delivery Versus Payment)
「通常の商取引では、権利の移転と同時に金銭のやりとりも発生するから、それも併せてブロックチェーンに記録すればよい。金融用語で「DVP(Delivery Versus Payment=証券の受け渡しと同時に決済を行うこと)」と呼ばれる取引も仮想通貨建てだが実現できることになる。」

(2)マルチシグネチャ等
「取引に条件をつけることを考える。例えば、複数の人が承認したら支払いが行われるとか、一定の条件が達成されたら権利の移転と同時に対価の支払いが行われる、とかである。前者は「マルチシグネチャ」と呼ばれる仕組みで実現されており、仮想通貨取引所などで、決済の誤送信など、トラブル防止策として用いられている。後者は、例えばデリバティブ取引や、会社役員への成果報酬の支払いなどへの応用が考えられている。」

仮想通貨を用いて、ネット上で経済的取引ができるとするならば、その対価となる財・サービスの交付自体も、ネット上の取引情報に取り込んでしまおうという考え方です。もちろん、貨幣価値の移転を伴わない単なる情報のやり取り(誰が所有権を持っているか等の登記情報など)もその対象範囲となり得ます。まるで、会計仕訳のように、相手勘定科目が自動に決まる便利さです。

 

■ 「スマートコントラクト(賢い契約)」は自律分散型組織で実現する!

「このような仕組みを、「スマートコントラクト」と呼ぶ。直訳すれば「賢い契約」となるが、何らかの事前の取り決め(=契約)を、電子的に処理する仕組みだ。この考え方は以前からあったが、ブロックチェーンを用いれば、当事者間に中立な第三者を置かなくても不正を排除した処理が実行できる、と注目されている。」

(下記は同記事添付の「スマートコントラクトによる自動執行の例」を引用)

20161217_スマートコントラクトによる自動執行の例_日本経済新聞電子版

仮想通貨の流通をめざしたビットコインより、そもそもスマートコントラクトの実行環境としてブロックチェーンを活用するためのプロジェクトとして開発されているのがイーサリアムです。プログラム自体や、プログラムの演算とその結果が全てブロックチェーンで管理、処理、検証される環境構築を目指しています。

応用できるケースとしては、
・企業におけるバックオフィス業務
・商取引におけるエスクローサービス(商取引の安全性を保証する仲介サービス)
などが想定されており、

そのメリットとしては、
・信頼性を担保するためのコスト低減
・契約不履行に起因する係争案件の減少によるコスト削減
が見込まれています。

「各企業、組織、団体は第三者機関を必要としなくなることで、「DAO(Decentralized Autonomous Organization=自律分散型組織」として再構築されることも考えられる。従来型組織は人間が管理者となるのに対し、DAOは契約・規約・プロトコルといった取り決めが組織を管理する。」

(下記は同記事添付の「DAOの概念図」を引用)

20161217_DAOの概念図_日本経済新聞電子版

そして、残念な事件がありました。このDAOの環境にて、50億円の詐取未遂事件が発生しました。クラウドファンディング手法で集めた約156億円で、半自動の投資運用・リース事業会社を設立したのですが、悪意あるハッカーが勝手に子会社を作って、集めたお金の3分の1をその子会社に移してしまったのです。

原因は、イーサリアム自体には無く、半自動で資金運用するプログラムの方にかけられたハッキング行為でした。この事件からの教訓は、だから仮想通貨やブロックチェーンがやっぱり怪しいものだ、というものではなく、IoTもそうですが、便利なものごとの裏には、必ずセキュリティの罠が存在することを忘れてはいけない、というものです。

この、イーサリウムの「ザ・ダオ事件」や、ビットコインの「マウントゴックス事件」をしっかりと教訓にして、日進月歩どころか、分進秒歩みのテクノロジーと経済的フレームワークに対するイノベーションの手を休ませることはいけないと思うのであります。

⇒「仮想通貨だけに留まらない。経済取引の根幹を変えてしまうブロックチェーン2.0(1) - ビジネスブロックチェーンの仕組みと可能性について 日経BigDataより

(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

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