■ 理念・価値観の浸透がカギ
加賀谷准教授による、2013年に経済産業省と日本IR協議会が日本企業の最高財務責任者(CFO)を対象に実施した調査を活用し、過去25年間で企業価値を増大できている価値創造企業が価値創造企業たるゆえんを洗い出した論説をできるだけ簡単にサマライズしてお届けします。
<ポイント>
① 形式的要件達成だけでは競争力高まらず
② 企業価値を高めた企業は資本生産性意識
③ 保守的な会計処理を重視する姿勢不可欠
2015/9/4|日本経済新聞|朝刊 (経済教室)企業統治何が必要か(中) 企業統治何が必要か(中)経営改革、投資家の視点で 加賀谷哲之 一橋大学准教授
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「日本の企業統治が転換期を迎えている。政府は成長戦略「日本再興戦略」で、企業や経済の持続的成長を支えるため、企業統治改革を打ち出した。多くの企業が自己資本利益率(ROE)目標の設定や独立社外取締役の導入、持ち合い株式の解消などに向けた取り組みを推進している。こうした中で東芝などの会計問題が起きたことで、企業統治の有効なあり方について問い直す声が増えている。」
日本政府が、成長戦略に企業統治改革を組み込んだ狙いは、他律的に企業を規律づける枠組み(独立社外取締役、ROEなどの資本生産性の向上、投資家視点の強化など)を導入することでした。しかし、こういう形式的な要件を満たすことだけを追求しても、結果として持続的な競争力を高めることにはそのままでは直結しません。
逆説的に、近年、欧米ではアクティビスト(物言う株主)資本主義、四半期資本主義といった市場や企業のショートターミズム(短期志向)をいかに克服するかという議論が展開されており、皮相的・形式的なグローバルで共通な仕組み・枠組みの導入は、かえって企業競争力にネガティブ(否定的)な影響を与えかねないことが分かっています。
■ 国際基準追随では不十分
こうした中で、グローバルに共通な仕組みをいかに活用して企業価値を高めてきたか、日本の成功企業の特徴を下記に整理します。
(上記のグラフは新聞記事からの抜粋)
(1)
「投資家に長期的な競争優位の構築のための活動や環境経営、社会貢献、企業の社会的責任(CSR)などの活動を丁寧に説明している。」
(2)
「企業理念や共通の価値観を、経営目標や計画にとどまらず、既存事業見直しや改革、従業員教育や国際展開に積極的に活用している。」
(3)
「経営計画を策定・開示するだけでなく、その進捗を「見える化」し、報酬と結びつける傾向がある。仮に計画が未達の場合もその原因を外的要因のみに求めず、内的要因にまで踏み込んで説明し、計画達成に必要となる施策を検討している。」
(4)
「ROEなど資本生産性を意識した経営目標を掲げるだけでなく、それを予算配分の決定や既存事業からの撤退、投資家向け広報(IR)活動、経営者報酬の決定、教育・啓蒙に結びつけている。」
(5)
「企業統治を巡る取り組みで、経営者の任命・報酬プロセス、取締役の任命プロセスに重点を置いている。」
こうした企業価値創造企業に見られる特徴をさらに整理すると、
①「ROE」をはじめとする資本生産性を意識した経営目標を企業行動の変革に結びつける努力はするものの、一方で、企業理念や共通の価値観(ミッション)を企業内外で共有するようにも努力することで、行き過ぎた当期利益への偏重を防いでいる
②「業績目標や経営計画の達成にこだわるものの、未達の場合にはその原因を企業内部要因にまで踏み込んで見直し、達成に向けた施策を企業内外に向けて説明する傾向がある」
こうした、企業価値創造企業の特徴が明らかになるにつれ、これからも企業価値創造企業であり続けるための必要条件が2つ出てきます。
①「単に数値の定義を理解するだけではなく、業績の変動の背後で起きている課題や機会を見抜き、企業行動の変革に結びつける財務リーダーの育成」
②「経営者は、自発的に保守的な会計処理を行うことで、経営の健全性を確保すること」
→これには、少々解説が必要でしょう。IFRSの採用などで議論されているのですが、会計基準の国際的統合化・収斂化を契機に、会計処理における予測・見積もりの余地が増大し、結果として会計処理の適正性を判断する際のグレーゾーンが拡大しています。それゆえ、「保守主義の原則」にしたがい、固めの見積りによる収益計上が、社内外のステークホルダーへの会計責任の説明により求められている、という現状があります。
「企業統治」は、「企業価値」創造のため。ためにする形式的な「コーポレートガバナンス」整備は、“百害あって一利なし”です。
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