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原価計算基準(20)原価計算の一般的基準 ③予算管理のための一般基準 – 製品別原価予算管理の難しさは半端ない!

原価計算(入門)
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■ 原価計算の理論的総括の最終回

これにて、原価計算基準の「第一章 原価計算の目的と原価計算の一般的基準」の最終回となります。ここで原価計算基準における理論的な解説が終了となります。

原価計算(入門編)原価計算基準の体系

これが原価計算基準の体系となります。まだ、最初の箱が終わろうとしている所です。

では詳細な説明に入る前に、「基準一」から「基準六」までの全体像はこちら。

原価計算(入門編)原価計算基準の一般的基準の構成

原価計算基準における「六 原価計算の一般的基準」を簡単にまとめると次の3つになります。

(1)財務諸表作成のための一般的基準
(2)原価管理のための一般的基準
(3)予算管理のための一般的基準

前回は(2)の説明でしたので、今回は(3)となります。

 

■ 原価計算の3ステップのどこで予算編成と予算統制を行うか?

(三) 予算とくに費用予算の編成ならびに予算統制に役立つために、

12 原価計算は、予算期間において期待されうる条件に基づく予定原価又は標準原価を計算し、予算とくに、費用予算の編成に資料を提供するとともに、予算と対照比較しうるように原価の実績を計算し、もって予算統制に資料を提供する。

この条文で示されているように、原価計算制度における原価計算の3つ目の基準は、予算編成、予算統制に役立つ原価情報を提供することです。予算編成は、予算・目標を立てること、予算統制は、原価に限って言えば、原価統制、原価管理と同義であり、予定原価や標準原価から外れないようにコストコントロールすることです。コストコントロールは、原価発生総額自体を抑制すること、生産数量1つ当たりの原価を抑制することで実現します。後者は、単価と数量のバランスで管理することになります。

前置きはこれくらいにして、具体的な原価計算プロセスを再確認します。

原価計算(入門編)_原価計算の3ステップ

(1)費目別計算
この段階で行われる予算編成、予算統制は、事前に全社で費目別にどれくらいの原価(費用)が発生するかを読みに行って目標額のシーリングを決め、期中はそのシーリングを守るように発生とか支払額を気にし、事後は、目標額を飛びぬけたか、それとも下回ったかの結果を計算するとともに、その乖離幅の原因を分析します。

(2)部門別計算
上記の、費目別の原価予算編成、予算統制は、誰かの責任範囲を明確にした方が、効き目が強くなります。みんなの責任より、あなたの責任にした方が、人は与えられた目標や責任が己の努力に直結することが目に見やすくなるので、努力の成果が分かりやすくなるし、他人からの責任追及からも逃れにくくなるからです。よって、ステップ1と2を組み合わせて、部門別・費目別予実管理表で実務的には、原価(費用)発生元別の原価予算管理を行います。

原価計算(入門編)費目別・部門別の原価予実管理

ここで、管理可能費のお話を追加します。製造ラインAにとって、材料費と労務費は自部門で発生金額の増減をコントロールできる管理可能費です。なぜなら自部門で発生するものだからです。ただし、経費は、補助部門での実際発生額を実際配賦基準でただ受け入れるしかありません。

しかも、配賦基準値として採用されている自部門の活動時間を、30hから20hに削減したにもかかわらず、経費の配賦額は、60から80に増額になっています。このような共通費の配賦マジックについては、後続の稿で説明することになります。

 

■ 予定原価とか標準原価とか、製品別原価の予実管理のお話

(3)製品別計算
ここで初めて、製品1個当たりの原価に焦点があたります。流通業や製造業では、この製商品1個当たり原価(単価)が企業業績の生殺与奪を握ると言っても過言ではありません。予算管理に用いることのできる、この製品1個当たりの原価(単価)のはじき方は、予定原価や標準原価を取り上げた稿に説明を譲ります。

原価計算(入門編)製品別の原価予実管理

上図の左上に位置している製品原価表から読み取れることは、

① 発生原価総額は20増えてしまった
② 製品数量は1個多く生産することができた
③ 単価は@2だけ下げることができた

これだけでは、原価発生金額の増減を生産数量と単価と関連付けることは少々難しい。そこで、上図の右下に位置している、原価差異Boxとよばれる、面積で原価発生金額を図示し、予算額と実績額の差異を、単価が上下したことによる単価差異、数量が増減したことによる数量差異にブレークダウンして示す手法があります。

この原価差異Boxを読み解くと、下記のようなことが分かります。

① 生産数量を4個から5個に増やしたことで、総原価も28だけ増えてしまった
② しかし、増産効果から、単価を製品1個当たり@2だけ節約することができた
③ 結果として、予定していた原価より多くを使ったが、1個当たりの原価単価は低減できた

予算よりも1個だけ多く生産できたので、これを全部売り切ることができれば、そして販売単価が予算通りだったら、おそらく、原価発生金額が+20と増えてしまいましたが、企業全体の業績は良くなっているはずという予想が立つのです。

この先は、原価の予実管理を超えて、製品別損益管理の世界になるので、一旦ここで説明を終わりにしたいと思います。

 

■ (蛇足)予算編成プロセスと「費用予算」について

企業によって、なぜ予算編成プロセスが様々な形態を採るのでしょうか? 予算編成プロセスがどの会社でも同じなら、世の中にはただ1つの予算編成パッケージソフトが販売されていれば、筆者のような経営コンサルタントがいちいち予算編成の仕組みを各社に導入する手間が省けるというものです。そうすると、筆者はおまんまの食い上げになってしまいますが。(^^;)

予算編成は、その企業固有のビジネスと経営体制に伴う「制約」が何かによって、順番が異なってくるのです。つまり、生産能力が過少でボトルネックの企業は、①生産能力の増強をはかる、②最も限界利益が大きくなる販売機会を見つける、いずれかの手段を採用することで、企業全体の業績を向上させることができます。当然、予算編成はその目的を達成するために組まれるわけです。

このように、

① 何が制約か?
② 制約条件を克服する手段として何を選ぶか?

で、議論する、つまり予算を立てる順番が変わるのです。

原価計算(入門編)一般的な予算体系と費用予算

上図は、そうした個別企業の事情を勘案しない、一般的な教科書における予算体系です。しかも、いわゆる「原価情報」を用いる「費用予算」を青く塗ってあります。しかしですね、販売予算を立てる際に、原価情報を使わずに、即ち利益がどれくらいになる販売予算になるのかを勘案せずに、販売予算を立てている企業はどれほど存在するのでしょうか?

おそらく、何らかの、標準原価や前年実績原価などの原価情報を入手して、販売予算を立案時に、短期利益計画(年度予算上の利益計画)の概算をはじいているものだと筆者は固く信じるものであります。

⇒「原価計算基準(1)原価計算の一般基準の体系
⇒「
原価計算の歴史 - 経営課題の変遷と原価計算技法・目的の対応について
⇒「原価計算基準(18)原価計算の一般的基準 ①財務諸表作成のための一般基準 – 取得原価主義に基づいた全部実際原価を提供する
⇒「原価計算基準(19)原価計算の一般的基準 ②原価管理のための一般基準 – 原価管理は誰かの努力と使命感によって行われている!
⇒「原価計算基準(全文参照できます)

原価計算(入門編)原価計算基準(20)原価計算の一般的基準 ③予算管理のための一般基準 - 製品別原価予算管理の難しさは半端ない!

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