組織における分業(3)分業の利益とは(短期と長期を合わせて8つ)

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■ 分業によって組織が得られる利益とは

わざわざ人為的に複数の人間を集めて組織化し、それぞれの働き手に分業させて、ひとつの事業を成し遂げようとして、会社はどんどん巨大化していきます。人が集まれば、人々の間のコミュニケーションの負荷が高まり、それをうまく収めるための調整コストも組織の大きさに比例して増大します。それでも、組織が巨大化・肥大化を止めることができないとするのならば、それほどに、分業で仕事をさせることのメリット(利益)が、組織化による負の経済効果(調整コスト、組織化コスト)を上回っていると考えられているはずです。

組織管理(入門編)組織化のコストと分業のメリットの関係

上図のイメージのように、組織の巨大化はどこまで、分業のメリットが組織化コストを上回る正の経済効果が発現すると見込まれないと、正当性を持ち得ません。ここでは、分業のスタイルごとに、どういった分業のメリット(分業の利益)が得られるのか、経済学的または会計学的にアプローチしてみたいと思います。

 

■ 分業の仕方によって期待される分業の利益のタイプが異なる - 短期的メリット

まず、分業のされ方には、以下のような分類軸があります。

① 垂直分業 ⇔ 水平分業
② 並行分業 ⇔ 機能別分業

①は、マネジメントと現場という縦の指示命令系統で分業する「垂直分業」と、特に命令系統を意識するのではない「水平分業」の区別になります。
②は、水平分業の中のお話で、同種の作業や同種のアウトプットを期待されているけれど、作業タスク単位が比較的独立して機能することが許されている「並行分業」と、それぞれの役目が有機的に結びついている「機能別分業」に分けるものになります。

この時、それぞれの分業の形態の別に、どういった利益(メリット)を享受することが期待されているのでしょうか。以下、水平分業のされ方による分業のメリット(分業の利益)発現のパターンを見てみます。

組織管理(入門編)短期と長期からなる分業のメリット

(1)共通費の配賦
最近、ひとつの会社だけ単独で大きな物流施設を構えるのではなく、異業種または同業間でも物流設備を共有したり相互利用したりできるように、設備利用の単位当たりコストを下げようという動きが活発になっています。また、ITの世界でも、社内の情報インフラを所有するのではなく、社外のクラウドサービスを必要に応じて利用しようという動きがあります。これらはすべて、ひとつのリソースの多重利用を目指し、「もったいない」という経済性を重視したものです。

施設・設備の共同利用、知財権・ノウハウ・ブランドなどのインタンジブル資産の共同利用、販売チャネルの共有など、共通資源・共通工程にかかるコストを最終的なアウトプットで割り算することで、最終成果物の単位当たり共通費をグンと下げることができる効果を狙ったものです。

(2)経済的スタッフィング
これは、デヴィッド・リカードが提唱した自由貿易の優位性を説いた、各国が比較優位に立つ産品を重点的に輸出する事で経済厚生は高まる、とする「比較生産費説」に出てくる「比較優位」という概念と同じものです。

高度なノウハウを持った仕事ができるAさんは、おそらく労働市場で高い賃金を支払う必要があるはずです。一方で、簡単な仕事ならできるBさんは、Aさんより安い賃金で雇用することができます。となれば、Aさんにしかできない仕事はAさんに優先的にやってもらって、誰でもできる仕事はBさんに振る。そうすることで、会社が支払う総賃金額を最小限に抑えることができます。これは、「バベッジ原理」とも呼ばれています。

(3)段取り替え時間の節約
例えば、自動車の組み立てラインで、違う車種の組み立てを同じベルトコンベアに載せて作業するとき、ずーと同じ車種を流していれば、ベルトコンベア方式が達成可能な最高の能率で作業をすることができます。しかし、世の中が多品種少量生産となっているので、違う車種も流す必要があるとき、部品供給の準備とか、組立に必要な工具の準備とか、いろいろと車種の切り替え時に準備作業に時間がとられてしまいます。その分、能率が落ちるのを防ぐ必要があります。

これは、品種による段取り替えの問題です。これは、残念ながら、一般的な機能別分業で解決できないものです。専用の生産ラインを維持できる程度に生産数量を確保できれば、段取り時間を不要とする専用ラインでの運用で何とかする話です。

一方、工程別にも段取り替えの時間を必要とします。プロセス系の作業で、材料準備作業→材料配合作業→充填作業→品質管理作業など。それぞれが、それぞれの工程ラインの持ち場を離れることなく、あるいは、段取り替えをせずにずーと同種の作業をやっていれば、同じ人が異なる機能タスクを果たすための作業種類を入れ替えるために準備する時間を無くすことができます。ここでの段取り替え時間の節約はこの工程別の段取り時間の節約を意味しています。

(4)計画のグレシャムの法則
ハーバート・A・サイモンが提唱した「計画のグレシャムの法則」とは、「ルーチンワークは、ノン・ルーチンワークを駆逐する」、すなわち、「悪貨は良貨を駆逐する」(グレシャムの法則)を応用したものです。

いつも通りのきまりきったルーチンワークを人々に与えると、そのルーチンワークだけで頭がいっぱいになって、長期的な計画を立てたり、その長期的な計画に基づいた改善活動に億劫になったり、あるいは、抜本的に仕事のやり方を変えようとする創造性の大きい作業は面倒くさくなって、ついつい後回しになってしまう、という現場実態を表したものです。

この悪影響を排除または軽減するために、長期を考える仕事や創造性の高い仕事と、短期的な毎日のスケジュールや締め切りに追われる仕事をやる人を分けることで、解決することがあります。これを、それぞれの機能別に分業したと筆者は考えているので、これを機能別分業に分類しているのですが、従来の学説では、これはどちらかというと「垂直分業」によるメリットと考える方が主流です。

※ Command & Control の世界観の経営管理に縛られている人は、これを「垂直」的な分業と言いたいのでしょうか、現代では、オペレーションとコントロールやマネジメントは縦関係で捉えない考え方の方が主流になっています。

 

■ 分業の仕方によって期待される分業の利益のタイプが異なる – 長期的メリット

各メリットを説明する前に、「短期」と「長期」の区別をはっきりさせておきます。長期は、

① 会計的には、目安として1会計期間(1年)を超えるものを長期
② 経営の構え(組織体制、生産や販売プロセスの形態とその処理能力)が変わるのが長期
③ 時系列的に、施策を打った時点と、効果が発現する時点の間に複数年のギャップがある場合は長期

という定義で説明をする前提と置いています。

(5)専門家の利益
これは、短期と長期と両方に現れるものです。次の習熟曲線との効果と密接なので、一緒に説明してしまいます。人は得意不得意が必ずあるものです。一部の超天才を除いては。Aさんは体が丈夫なら肉体労働で、Bさんは真面目で根気がある気性ならば、品質チェック作業で、Cさんは右脳的ヒラメキの才能があるのなら、商品企画作業で、それぞれの得意分野で成果を上げてもらおう。みんなが得意分野を持ち合わせることで、組織全体の生産性や経済性が最高能率になる、という考え方がこの専門家の利益です。ジェネラリストよりスペシャリトの知恵・スキル・経験を持ち寄ったほうがメリットがあるというわけです。

(6)習熟曲線
上記の「専門家の利益」は、時間軸を考えていないものです。その瞬時に専門家の知恵を最大限に活用しようというものです。常に、リアルタイムで最適な専門家を都度都度、雇って適職にアサインできていればいいのでしょうが、財・サービス市場や金融市場に比べて、クラウドソーシングのテクノロジーの進歩やマッチングサイトのサービス充実化が見られる現在でも、相対的に労働市場はまだまだ流動性に欠ける部分があります。

それゆえ、社内で同じタスク・作業・課業をずっとやり続ければ、経験値があがり、その与えられた仕事の範囲内では、長期雇用を前提に、その人はやがてスペシャリストになって、専門家と同等のスキル・知見をもって成果を出してくれるようになると考えるのです、それが、「習熟曲線」の考え方で、

① 分業による作業範囲の固定化・限定化は、習熟の早期化に貢献する
② と同時に、達成レベルをより高める効果がある

と、長期的スパンでの組織へのメリットを想定する考え方となるのです。

(7)自動化・標準化の利益
機能別分業は、作業をどんどん細かくブレークダウンしていけば、ある程度、固定化・定型化することができます。定型作業はコンピュータが得意です。現在のRPA(Robotic Process Automation)の技術進歩にはめざましいものがあります。それまで熟練工でも単純工でもやっていた作業をある程度、情報のインプット、定型作業(プロセス)、成果(アウトプット)を形式化できれば、どんどん機械化・自動化することができます。それは、人件費より安いITコストで作業が代替されれば、コスト(支出)面で組織に利益をもたらせます。また、機械にやらせることで作業品質の固定化・高度化も図れたり、場合によっては24時間フル操業や、休日などの就労カレンダーにも捕らわれない作業計画立案が可能になったり、組織にとっては多様ないい面が出てくるのです。

⇒「AI(人工知能)に職を奪われるかを恐れる前にRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)の影響を考えるのが先!
⇒「満員御礼!2017/7/12 日本CFO協会主催 CFO NIGHT!! 『経理業務へのRPA導入および運用事例』

(8)規模の経済
並行分業では、基本的に作り方(技術やプロセス)を変えずに、量的拡大をするためには、追加的な経営リソースの投入を必要としています。それは、生産数量にある一定比率での正比例の形でコストを要求するものとなります。
(共通費の配賦の効果を除く範囲で)

一方、機能別分業は、これまで解説してきた、経済的スタッフィング、段取り替え時間の節約、専門家の利益、習熟曲線など、生産数量の増大と生産品目の多様化にあわせて、生産方法(技術やプロセス)を柔軟に対応させることで、その時点時点の制約条件、経営資源の限界値において、最良・最高・最適な資源利用をミクロ経済学的には実現することができます。

組織管理(入門編)規模の経済

つまり、これから何年か作業をする上で、一番やりやすい方法と一番低コストで、生産設備の準備や分業のやり方を工夫できることが、平均費用を長期的にも低減させていく効果として享受することができるのです。これを、機能別分業における規模の経済の発現だと筆者はみています。

結果として、プロダクトライフサイクルの短縮化、多品種少量生産、などの経営環境の変化に対応するべく、組織は「機能別分業」による「分業の利益」「分業のメリット」を上記に上げられるような形で享受しようと日々、組織デザインと事業開発を両輪で行っているのです。

(連載)
⇒「組織における分業(1)分業のタイプ 垂直分業、水平分業、機能別分業、並行分業の違いとは
⇒「組織における分業(2)事業部別組織は並行分業、機能別組織は直列型・機能別分業で
⇒「組織における分業(3)分業の利益とは(短期と長期を合わせて8つ)
⇒「組織における分業(4)分業がもたらすデメリットとその対応策とは①ミクロ視点:働く人の意欲低下について
⇒「組織における分業(5)分業がもたらすデメリットとその対応策とは②マクロ視点:外集団均質効果を緩和するには?

組織管理(入門編)組織における分業(3)分業の利益とは(短期と長期を合わせて8つ)

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