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ERPはいつでも適切な管理会計レポートを提供してくれるか?

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ERP導入は管理会計レポートの環境を変えてくれるか?

ERP(Enterprise Resource Planning) をグローバルで統一する意気込みで全社導入したとしたら、管理会計レポートはどうなるでしょうか?

グループ企業や各部門の隅々までマネジメントの目が届かない。コーポレートスタッフは、マネジメントが要求するレポートを適時適切に提供することができない。新製品がいつリリースするか予定は分からない。顧客の喜ぶ声もクレームも届かない。そういうとき、「ERPを導入すれば全部問題が片付くんじゃね?」と思いついた人が、大きな声でERPの全面導入の掛け声をかけることになります。

その結果、マネジメントは適時適切な管理レポートを無事に手にすることができるのでしょうか?

ERPへの期待と実現される機能のズレ

論者によってERP導入のメリット・デメリットの説明の仕方はいろいろです。まず、ERP導入に対する期待値、特に、そんなにITには詳しくないマネジメント層や中堅スタッフの心の内に想像を巡らせてみることにします。

報告書がなかなか出てこない。出てきても何が書いてあるかよく分からない。ERP導入でシステムが統一されたら、子会社や事業部ごとの業績も分かりやすくレポートで見ることができるんじゃないか?

いちいち、手作りでレポートを作っているから報告が遅くなるのよね。業務をシステム化すれば、ITが自動的に管理レポートを作成してくれるからスタッフも楽になるし、レポート提出も早期化されるわ。

マネジメントからいつも形式が違うレポートを出せと注文が来るけれど、ERPが入れば、そういう苦しみから解放されるんじゃないか? 好きな時に好きな形に整形されたレポートが提供されるようになるに違いない!

なるほど、そういう願いは天に届くことがあるかもしれませんが、必ずしも、天にましますERPの神様がそうした声に応えてくれるかどうかは不明かもしれませんね。^^)

ERPが設計者の意図を汲んで自然と備えている機能は大まかにいうと次のようになります。

  • SCM(Supply chain management)
    複数機能間の業務の流れを整理してくれる
  • One fact one place
    同じマスタを複数業務で共有することができる

ERPが自然に備えている機能が、ERP導入前の期待に沿ったものを本当に実現してくれるか、今一度考えてみる必要があるようです。

ERP導入で失敗する13の原因 まずは知ることから始めましょう~
ERPの導入は決して簡単ではなく、多くの企業が様々な原因で失敗しているシステム。本記事では、ERP導入で失敗する原因を13の項目にまとめ、網羅的に把握いただくことで自然と取るべき対策が見えてくると思います。

ERPができることは2つ

(1)SCMに沿った業務の流れの整理

在庫見込み生産の製造業を想定してみます。

まず、消費者市場における需要予測を行います。需要予測と自社の生産能力を期間ごとに比較してみます。生産能力に空きがある場合は在庫を積み増しして、生産能力に余裕がない場合に備えて置けるように、原材料の発注の手配をします。注文があったら、在庫から注文主(顧客)が指示する場所まで製品をお届けします。場合によっては、販売後のクレーム処理を受け付けます。

ERPは、上記のような複数の機能組織を横断するような業務も、製品ライフサイクルにしたがって、どういうつながりや前後関係にあるかを整理して、作業の流れをユーザにとって分かりやすくしてくれます。

(2)データやマスタの共有

従業員マスタをイメージしてみます。

人事部門では、従業員のパフォーマンスや上司の評価ポイントにしたがって、人事考課を行い、ボーナスや年俸を決定します。時には、残業時間や有給休暇取得といった勤務管理情報を適切に保管していきます。

経理部門では、人事考課や勤務管理情報にしたがって、残業代や手当、基本給やボーナスの支払い伝票を作成して、従業員の指定口座に相当金額を振り込みます。

このとき、Aさんの勤務評価がB+でボーナスは2.5か月分、残業時間が12時間/月、今月末も確かに在籍しているからボーナスは満額支給されます。一方、Bさんの勤務評価はA++でボーナスは4.2か月分、残業時間は5時間/月、残念ながら、今月30日付けで退職したため、残業代は支払うが、ボーナスは受給資格を失うものとします。

この場合、Aさんにボーナスが支給されずに、Bさんにボーナスが支給されることは理不尽ですよね。人事部門が使う従業員マスタと、経理部門が使う従業員マスタが一つのものとして管理されていて、人事考課・残業時間・在籍期間に至るまで情報が一元管理されているからこそ、人事考課や勤務管理の情報をもとに各自の預金口座に適切な金額を振り込むことができるわけです。

注)筆者は、「勤怠管理」という用語が嫌いなので使用しません。「勤」:心力をつくしてはたらく。せいを出す。「怠」:なまける。心がたるむ。進んで仕事をしない。おこたる。会社が個々人の働き方を指して、精勤している、怠けている、という判断を下すなんて時代錯誤もいいところ。そういう精神論は令和の時代にはふさわしくありません。^^)

ERPが備えている機能は、各パッケージごとの特徴がそれぞれあったとしても、共通したものはこの2つだけのような気がします。そして、この2大機能に即したものしか、レポートとして提供されることはありません。ここが大事なポイントです。

このポイントを外してしまうと、的外れな期待をしたために、ERPを過大評価したり、過小評価することになり、ERPプロジェクトに取り組んだ人たちの苦労が報われなくなることにつながります。

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ERPに向ける適切な期待を持とう

これまでの複数の経験を抽象化して、一つの事例として説明します。例えば、A製品の製造不良問題が起き、品質コストが極端に膨らんだとします。マネジメントとしては、品質問題の発生の真因を探求するべく、A製品の品質コストの推移を表すレポートの提出を求めます。

しかも、クレーム処理費、検品業務費、不良品の回収費用、リワーク原価(作り直し)の明細の報告を求めます。果たして、A製品の品質コストレポートは、一体いつまでマネジメントにこのまま報告され続けるべきなのでしょうか?

ここにいくつかの問題が潜んでいます。

まず、特別なレポートがマネジメント向けに本当に必要かを問わなければなりません。品質管理部門長に、マネジメント(取締役会、経営会議など)は、自社製品の品質管理業務の責任とそのために採るべき施策を実行できる権限を委譲・委任しているのではないでしょうか。

品質管理部門長からしかるべきフォーマットで、品質問題の真因の報告と、その対処法の内容と、その対処のためにかかった増加コスト(通常のオペレーション以外に追加で発生した特別支出にかかる過去実績と将来見通し)の3点セットを特定時点で報告されればそれでよいのではないでしょうか。

ちなみに、品質コストの業績に与える影響は、品質管理部門コストと売上高(全社ベースでも当該A製品のどちらでも可)の比率をウォッチしてさえいれば、継続的な品質コストレポートは提出不要かもしれませんよ。

作業品質を上げるためのトレーニング費用、検品作業コスト、作り直し原価、クレーム対応費用、不良品回収費用などは、品質管理業務設計の中で普通に登場するもので、ERPがデータ蓄積・データ集計を得意とするところですよ。そういう生のデータを取り出して、合計値だけ拾って、報告書にちょっとつけておけば事足ります。

大事なのは、品質管理部門長が採った施策が本当に適時適切か、その結果として品質コストが最小限に抑えることができたかです。もっというと、顧客の信頼を取り戻すことができたかを評価する情報を優先させてマネジメントにレポートされるべきでしょう。

ERPは業務に沿ったデータを蓄積・集計し、定型レポートで表示することが得意です。アドホック(その場限りの要求次第の)レポート作成は、情報系システム(BIやDWHが得意とするところ)にお任せする必要があります。

また、内部統制(内部牽制、内部監査)は、業務として予め設計されてERPに通常機能として組み込んでおかないと、業務遂行のためではなく、業務のチェックのためのレポートは簡単に出すことはできません。

各部門で問題が起こるたびにマネジメントレポートが増えていく会社はちと問題があります。そういう会社は、販促、広告、R&D、購買など、各機能で問題が起きるたびにアドホックレポートを定型報告レポートに次々と無限に追加していきます。そして、後任のレポート担当者も前例踏襲主義になり、言われるがままレポートを増やしていきます。

やがて、どこかでマネジメントの一人が、無限に増えていくレポートの山を見て、うんざりして、レポートのリストラを指示するまで、この無間地獄は続くことになります。

ERP(基幹システム)の導入失敗|多くの企業が間違っているERPの導入方法とは? | 施工管理・業務管理システムなら【アイピア】
近年クラウドERPパッケージ(以降ERP)や国産のERPの登場により中小企業のERPの導入をする企業が増加しています。しかし一方で、「ERPの導入を失敗した」という話も増えています。

最後に大事なことをまとめます。

  • マネジメントは特に、権限と責任の委任に厳しくなること。
    部下の仕事にいちいち口を挟まない。挟むときは、期間限定や特定課題に焦点に当てる等、権限移譲関係を崩さないように注意する
  • ERPが得意な業務管理データを扱う定型レポートを真面目に設計すること。
    アドホックレポートの作成の指示を出すこと自体が特例である自覚を持つ

これらを忘れると、下記のような無間地獄があなたの会社を待っています

  1. 各組織で起きる問題を的確に明らかにしてくれるレポートが存在しないことにやきもきする
  2. 何でもわかるレポートを求めてERPのグローバル統一を決定する
  3. ERPが気が利くレポートを出してくれないので、BI/DWHおよび人間系作業でアドホックレポートを山ほど作る
  4. 我慢してERP導入のための業務標準化に従った割には、報われていない感が社内に蔓延する
  5. ERPの設計が悪いということになり、次世代のERP導入プロジェクトが立ち上がる

この無間地獄を回避するためには、そういうことにこだわることを諦め、解脱するか、腕のいいコンサルタントを雇うしかありません。えっ、結局最後は自己宣伝かって。 いやー、もう年なんで、ERP導入は現役引退させて頂いておりますので。。。^^;)

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