いろんなファイナンスの種類分け
ものごとを理解するのに、分際や範囲を明らかにすることが早道であることが多いです。 「ファイナンス」「金融」と呼ばれているもののカテゴリをつまびらかにすることで、ファイナンスの本質に迫ろう、というのがこの連載のテーマです。
前回に引き続き、法人(事業会社)の立場で10の視点によるファイナンスの種類分けをした整理表は下記の通り。専門家の一般的な類型化とはやや趣きが異なることをあらかじめご了承ください。
No. | 視点 | 種類 |
---|---|---|
1 | 主体 | ・金融機関(銀行、信用金庫など) ・法人(金融機関以外の事業会社) ・個人(家計、消費者) ・政府(公共機関、非営利団体など) |
2 | お金の出し方 | ・出資 :株式、持分等の地位を取得する形で財産を提供 (出資法で制限して、会社法・ 保険業法 で内容を定める) ・融資:貸付金を弁済する約束の上で利息をつけて貸す形で財産を提供 ( 金銭消費貸借契約に基づく ) |
3 | 貸手と借手 の関係 | ・直接金融:貸手と借手がお互いに直接の金融取引の当事者となる ・間接金融:貸手と借手の間に、仲介業者(金融機関)をはさむ |
4 | 借手から見た 資金調達方法 | ・サプライチェーン・ファイナンス :グループ企業間の取引効率化から資金融通 をする ・サプライヤーファイナンス:売上債権の流動化で資金融通をする ・デッドファイナンス:債権者からの融資で資金調達(負債) ・エクイティファイナンス:出資者からの投資で資金調達(資本) ・アセットファイナンス:企業の特定の財産を裏付け・担保に資金調達 (証券化) |
5 | 企業の内外に こだわると、 | ・自己金融:「内部金融」 企業が会社内部から直接資金を調達(捻出) →通常、内部留保と減価償却費が原資となる ・外部金融:企業外から資金を調達 - 企業間信用(≒サプライヤーファイナンス) – 借入金融(ローン、銀行借入、シンジケートローン) – 証券金融(社債発行、株式発行) |
6 | 誰からお金を 集めるか | ・公募: 広く一般を対象に勧誘して投資を募集 ・シンジケート団引受: 複数の金融機関で結成される団体が 買取引受、残額引受 を行う(販売力強化と売れ残り対応目的) ・プロ私募: 適格機関投資家 (金融のプロ)向けに投資を募集 ・少人数私募: 適用される法律によるが、50人未満に限定募集 |
7 | 借手の弁済義務 の範囲 | ・コーポレートファイナンス:企業価値に対する金融で、企業の財産すべてを もって弁済の義務を負う ・プロジェクトファイナンス:企業内の特定の事業における将来キャッシュフロー だけが弁済義務を負う |
8 | 7を融資に限定 | ・リコースローン: 借手の信用に基づいて融資を行い、返済の原資は借手 の全財産 ・ノンリコースローン:責任財産を特定・制限し、抵当以外の資産に対する請求 を受けなくて済む |
9 | リスクの大小 | ・シニアファイナンス: 返済順位が高く、比較的ローリスク・ローリターン ・メザニンファイナンス:シニアに比べて返済が滞った時の弁済順序が劣後するが、 金利を高めにするなど、ハイリスク・ハイリターン |
10 | 支払利息の有無 | ・無利子負債:支払利息が表面上は発生しない(買入債務、未払金) ・有利子負債:支払利息が発生する(銀行借入、社債、CP) – 割引債(ゼロクーポン債): 額面より低い価格で発行される、利息が ゼロの債券 。 額面価格と発行価格の差額(償還差益)が利息相当分 – 利付債: 額面で発行され、所有者に対して毎年決まった時期に利息が 支払われる債券 |
金融主体の違い
誰が資金を調達するかによって、規制法や採用できる手法が全く異なるのが、リアル世界ではなく、バーチャル世界にデータとして存在する金融の特徴でもあります。
政府の場合は、「金融」という用語より「財政」という用語のほうがぴったり適合します。例えば、日本政府の財源には、
- 税金
- 国債
- 貨幣発行益
の3つがあります。真ん中の「国債」は、 国家が財政上の必要によって国家の信用によって設定する金銭上の債務で、いわずもがな証券発行という方式で行う借入金を意味します。
ファイナンスの類型化を用いると、 下表のとおりです。
No. | 視点 | 種類 |
---|---|---|
1 | 主体 | 政府 |
2 | お金の出し方 | 融資 |
3 | 貸手と借手の関係 | 直接金融 |
4 | 借手から見た資金調達方法 | デッドファイナンス |
5 | 企業(組織)の内外にこだわると | 外部金融、証券金融 |
6 | 誰からお金を集めるか | 概念的には公募(根拠法によると該当なし) |
7 | 借り手の弁済義務の範囲 | コーポレートファイナンス(用語として不適切だが 発行体の信用力に基づくの意) |
8 | 7を融資に限定 | リコースローン(根拠法はもっと複雑) |
9 | リスクの大小 | シニアファイナンス |
10 | 支払利息の有無 | 有利子負債 |
個人の場合は、消費者金融(昔はサラリーマン金融、サラ金という言葉もありました)周辺を調べる必要があります。金融機関の場合は、欧米と日本で、投資銀行と商用銀行、普通銀行と証券会社の用語と線引きの仕方が微妙に異なります。
まあ、最近の米国では、グラス・スティーガル法や最近お亡くなりになったポール・ボルカー氏によるボルカー・ルールの適用・運用が金融危機のたびに揺れるので、銀行業と証券業の線引きの仕方については、その都度確認が必要です。
この連載では、主に、企業財務、事業会社のファイナンスを取り上げていきます。
金銭消費貸借契約とは
前回も「equity」(エクイティ:持分)のところで触れましたが、経済史において、先にしていたのはデッドファイナンス、融資という形の金融取引。それだけでは債務者(借手)の負担が大きすぎて、法的に擁護してあげる必要が生じたため、「持分」という財産権が編み出されたわけです。この「持分」はご存じの通り、「株式」のご先祖様ということになります。
では、融資の典型的な法的契約の形式である「金銭消費貸借契約」の中身をみてみましょう。
とっても砕けて説明すると、「借りたお金は全額ちゃんと返済するから、今、お金貸して!」
まず、契約法から見ると、「消費貸借契約」というものが存在しています。
- 借りたものは、モノ・カネを問わず、消費していったんなく無くなってしまう(⇒消費)
- 約束した期限までに、借りたものと同質でかつ同量のモノ・カネを返す約束する(⇒貸借)
「金銭消費貸借契約」では、やり取りされるのがモノではなく、「カネ」に限定した契約の形式となります。
- 借りたお金は消費して無くなってしまう
- 約束した期限までに、借りたお金はきちんと弁済する
- いうまでもなく、借りる対象は「お金」である
「弁済」というのは法律用語で、 債務を履行して、債権を消滅させることをいいます。債務は借手がお金を借りているという事実で、債権(債券ではありません)は貸手の返金請求権があることです。債務を履行するというのは、債務者から債権者へ借りたお金を全額返済することです。
ただ、法律用語的には、返済は元金(元本)の一部を返金する場合でも使えますが、弁済は、元金(元本)全部を返金する場合に用いられる、より厳密な使い方をする言葉です。
さて、ここで一般的な常識と齟齬が発生します。お金を借りたら利息を払うのは当たり前なのに、どうして「金銭消費貸借契約」の成立要件に「利息の支払い」が入っていないのでしょうか?
利息の支払うことが当たり前の人とそうでない人がいる
こういうと、借金を踏み倒す人、利息を払わなくてドロンしてしまう人をイメージされるかもしれませんが、そうではありません。金銭消費貸借契約は、 要物・不要式契約といって、 借主が将来の弁済を約束し、貸主が借主へ金銭を交付した段階で有効になる契約で、「借用書」「借用証書」がなくても成立します。
ただし、「借用証書」を作っておいたほうが後々、揉め事になったときに参照することができ、裁判になったときに一定の証拠能力を発揮するだけのことなのです。では、この肝心要の「借用証書」に支払利息の取り決めがなかった場合、法律的にはどう対処することになるのでしょうか。
消費貸借契約(民法587条)に基づく貸金債権は、利息を払いますよ、という「特約」がなければ利息が発生せず、特約(利息契約)が定められてはじめて利息が発生します。 さらに利息契約が結ばれているけれど、利率の取り決めがない場合に限り、民法第404条では、年5分(5%)の利息を支払うこととなっています。
この利息契約がある場合に具体的に何%と特別に決められている利息を「約定利息」、利息を払う約束はしているけれど、利率を決めていない場合、法律で決めている利率を採用するのですが、それを「法定利息」というのです。
上の例は、一般の人を含む原則論で、商人(商法で誰が商人かは定義がきちんとある)間の取引、または商取引(何が商取引かの定義も商法で定められている)となる場合、商人は営利目的で商行為をするのが当然として、商法第514条にて年6分(6%)とちょっと高めの利率が設定されています。商人が行う商取引は原則無利息ではないところからスタートします。一般人とは真逆の設定になっています。
ちなみに、一般人と商人の間の金銭消費貸借契約が成立する場合、商人側にだけ、商法が適用されます。これも面白い事実!
一般人に当てはめる利率を「民事法定利率」、商人に当てはめる利率を「商亊法定利率」といいます。1%の違いより、原則「無利息」なのか、原則「有利息」なのかという考え方の方が興味深くはないですか?
実際には、万人が借金を完済できないわけで、その場合、担保から元利金を回収するなどの金融と法律の手練手管が存在します。そういう丁々発止のプロ相手だと疲れるので、「エクイティ」という考え方により、債務者を持分を有している人(株主)にして優遇しようという動きにつながるわけでした。
ファイナンスの種類分けからファイナンスを知る(2)
① 金融主体の違いで、企業財務のほか、消費者金融と財政が存在する
② 「金銭消費貸借契約」は、債務者がお金を使ってしまうが元本の弁済義務を負っていること、債権者が元本の回収請求権を持っていることが要件
③ 商取引、商人の行う取引においてのみ、支払利息はあって当然だが、民間の貸し借りでは、利息特約がない限り、利息の支払い義務は法的にはない
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