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ファイナンスの種類分けからファイナンスを知る(1)エクイティファイナンスは横暴な金貸しから債務者を守るために誕生した

ファイナンス_アイキャッチ ファイナンス(基礎)
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いろんなファイナンスの種類分け

ものごとを理解するのに、分際ぶんざいや範囲を明らかにすることが早道であることが多いです。生物とは何かを知るために、無生物とはどういう存在か、生物には何が含まれるのか、という思考を巡らすことです。細菌は生物だけど、ウィルスは生物というカテゴリにはまるかどうかちょっと怪しいと福岡伸一教授は著書で言及されています。

というわけで、一般的に「ファイナンス」(金融)と呼ばれているもののカテゴリをつまびらかにすることで、ファイナンスの本質に迫ろう、というのが今回のテーマです。

せっかちな読者のために、先にファイナンスを区分する類型の方を先に提示しておきましょう。ただし、専門家の一般的な類型化とはやや趣きが異なることをあらかじめご了承ください。

なぜなら、複数の視点で一つの「ファイナンス」を種類分けすると、必ずそこには「論理和(or)」や「論理積(and)」がつきまとい、いちいち例外を挙げていると、それ自体が初学者の理解を妨げるからです。いい感じにいい加減にゆる~く分類することで、初学者に分かりやすく、を目的に作表しています。

下表は、主に法人(事業会社)視点で、企業財務の類型化を行っています。

No.視点種類
1主体金融機関(銀行、信用金庫など)
法人(金融機関以外の事業会社)
個人(家計、消費者)
政府(公共機関、非営利団体など)
2お金の出し方出資 :株式、持分等の地位を取得する形で財産を提供
出資法で制限して、会社法保険業法 で内容を定める)
融資:貸付金を弁済する約束の上で利息をつけて貸す形で財産を提供
金銭消費貸借契約に基づく )
3貸手と借手
の関係
直接金融:貸手と借手がお互いに直接の金融取引の当事者となる
間接金融:貸手と借手の間に、仲介業者(金融機関)をはさむ
4借手から見た
資金調達方法
サプライチェーン・ファイナンス :グループ企業間の取引効率化から資金融通
をする
サプライヤーファイナンス:売上債権の流動化で資金融通をする
デッドファイナンス:債権者からの融資で資金調達(負債
エクイティファイナンス:出資者からの投資で資金調達(資本
アセットファイナンス:企業の特定の財産を裏付け・担保に資金調達
証券化
5企業の内外に
こだわると、
自己金融:「内部金融」 企業が会社内部から直接資金を調達(捻出)
→通常、内部留保と減価償却費が原資となる
外部金融:企業外から資金を調達
 - 企業間信用(≒サプライヤーファイナンス)
借入金融(ローン、銀行借入、シンジケートローン)
証券金融(社債発行、株式発行)
6誰からお金を
集めるか
公募: 広く一般を対象に勧誘して投資を募集
シンジケート団引受ひきうけ: 複数の金融機関で結成される団体が 買取引受、残額
引受 を行う(販売力強化と売れ残り対応目的)
・プロ私募: 適格機関投資家 (金融のプロ)向けに投資を募集
・少人数私募: 適用される法律によるが、50人未満に限定募集
7借手の弁済義務
の範囲
コーポレートファイナンス:企業価値に対する金融で、企業の財産すべてを
もって弁済の義務を負う
プロジェクトファイナンス:企業内の特定の事業における将来キャッシュフロー
だけが弁済義務を負う
87を融資に限定リコースローン: 借手の信用に基づいて融資を行い、返済の原資は借手
の全財産
ノンリコースローン:責任財産を特定・制限し、抵当以外の資産に対する請求
を受けなくて済む
9リスクの大小シニアファイナンス: 返済順位が高く、比較的ローリスク・ローリターン
メザニンファイナンス:シニアに比べて返済が滞った時の弁済順序が劣後するが、
金利を高めにするなど、ハイリスク・ハイリターン
10支払利息の有無無利子負債:支払利息が表面上は発生しない(買入債務、未払金)
有利子負債:支払利息が発生する(銀行借入、社債、CP)
割引債(ゼロクーポン債): 額面より低い価格で発行される、利息が
ゼロの債券 。 額面価格と発行価格の差額(償還差益)が利息相当分
利付債: 額面で発行され、所有者に対して毎年決まった時期に利息が
支払われる債券
公募の投資信託と私募の投資信託とどう違いますか?
投資信託は、募集の方法により「公募ファンド」と「私募ファンド」に分類することができます。 公募ファンドとは 広…

例外的な扱いをするべきその他の〇〇ファイナンス

最初から、初学者の理解のために大雑把に種類分けしているといいつつ、一方で網羅性もなくては分類すること自体に意味が生まれません。上表に入れていない言葉を補注として説明します。

  • ストラクチャードファイナンス: 「仕組み金融」 株式債券などの伝統的な資金調達手段ではなく、取引上の仕組み(Structure)を工夫することで組成される新たな金融商品による資金調達。例えば、企業の特定の資産をSPCに移転後に証券化することでキャッシュを得る
  • リースファイナンス :リース会社とのリース契約により、即時(リース対象資産使用開始)に全額キャッシュアウトを回避できる分、支払リース料に支払金利分が含まれる

ストラクチャードファイナンスは、デッドファイナンスやエクイティファイナンスの置き換えと受け止められることも多いですが、その名の通り、複雑な金融取引の組み合わせです。有体ありていにいうと、デッドファイナンス、エクイティファイナンス、アセットファイナンスの組み合わせという位置づけのほうがいいかもしれません。

リースファイナンスは厳密にいうと、見かけは利息支払いの取引ではありません。また、日本とそれ以外の国・地域ごとに、会計処理の細かいルールが異なります。ここに、イスラム金融の要素まで含めて考えると、商取引全般の話(商行為法・企業取引法)にまで広げて議論しなくてはならないため、ここでは説明を省きます。

↓ストラクチャードファイナンスの説明です

資金調達・ファイナンスサポート 〜富山綜合法務事務所〜
富山綜合法務事務所では、資金調達・ファイナンスを取り扱って扱っています

エクイティファイナンス と デッドファイナンス

企業財務を語るには、まずこの大御所から片付けないといけません。「出資」が「エクイティファイナンス」、「融資」が「デッドファイナンス」と対応します。この二分法が企業財務における基本パターンともいえます。

まず、エクイティファイナンス(出資)からですが、日本を代表する証券会社のホームページでこの用語を調べてみました。

エクイティファイナンス|証券用語解説集|野村證券
野村證券の証券用語解説集「エクイティファイナンス」のページ。新聞やニュースなどでも使われる証券用語をわかりやすく解説しています。キーワード検索やよくチェックされている用語もご覧いただけます。

新株発行、CB(転換社債型新株予約権付社債)など新株予約権付社債の発行のように、エクイティ(株主資本)の増加をもたらす資金調達のこと。発行会社から見ると、原則として返済期限の定めない資金調達であり、財務体質を強固にする効果がある。
一方で、投資家から見ると、調達した資金が中期的な利益の拡大に貢献する投資に充当されない場合、一株当たりの株式価値が薄まることとなるため、通常、エクイティファイナンスを実施する場合は、株主に対する合理的な説明が必要になる。
これに対して、銀行借入・普通社債などのように他人資本が増加し、返済期限の定められた資金調達のことをデットファイナンスという。

エクイティファイナンス|証券用語解説集|野村證券
エクイティファイナンス | 金融・証券用語解説集 | 大和証券
大和証券の「エクイティファイナンス」の用語説明のページ。

新株発行を伴う資金調達のこと。
公募増資第三者割当増資など新株を発行するファイナンスに加え、転換社債型新株予約権付社債(CB)などによる資金調達も含みます。つまり、エクイティ(株主資本)の増加を伴う資金調達はすべてエクイティファイナンスといいます。企業にとっては返済する必要のない資金調達というメリットがある半面、1株当たりの株式価値の希薄化による株価下落といったリスクもあります。

エクイティファイナンス | 金融・証券用語解説集 | 大和証券

どちらの定義も、エクイティファイナンスそのものが何かを説明していますが、デッドファイナンスとどう違うのか、いまいちクリアには説明してくれていません。唯一「返済する必要のない(返済期限がない)資金」というポイントでしょうか。

残念ながら、返済期限の定めのない(永久に償還されずに利子の支払いが続く)「永久債(コンソル公債:consols )」というものが存在しますので、この定義も実は微妙です。

世界で増加する永久債の発行 | 大和総研
永久債という債券をご存じだろうか。永久債とは、償還期限の定めがない債券のことをいう。

コモン・ローからエクイティが分離されて「持分」が誕生した

ここはもう少し、深掘る必要があるようです。
エクイティ」というカタカナはもともと英語で「equity」。ビジネスではごく普通の「普通株式」という訳語より、一般的には「 公平、公正、衡平法 」という訳語のほうが先に来ます。そういえば、「equal」と音が似ていますね。

この「equity」が持つ本来の原義からすると「持分もちぶん」と訳出するのがぴったりです。というのは、英米法の世界において、 コモン・ロー (common law) で解決できない私的な分野に適用される法準則のことを指すからです。

コモン・ローは、イングランドのコモン・ロー裁判所が下した判決が集積してできた判例法体系です。 それに対して、エクイティは、コモン・ローの硬直化に対応するため大法官 (Lord Chancellor) が与えた個別的な救済が、雑多な法準則の集合体として集積したものです。

コモン・ローは契約法、不法行為法、不動産法(物権法)、刑事法 が主な担当範囲で、 エクイティは信託法などの法分野を担当しました。信託法はまことに私的な財産の管理・処分から得られる利益の取り扱いを定めるもので、会社法(株式会社の基本的ルール)の基になりました。

従来のコモン・ローでは、例えば、債務者が、100万円の借金が返済できなかったら、担保として差し入れていた1,000万円の全額を債権者が取り上げるという定めがなされていました。まさに、デッドファイナンスの考え方です。

これでは、あまりに債務者がかわいそうである、債務者と債権者の間の公平(衡平)な扱いが必要として、担保の1,000万円を換金して、100万円だけ債権者に返し、900万円は債務者の手元に残すとする判決を英国王の側近である大法官が下したことがエクイティの始まりなのです。

コモン・ローから、債務者の救済のため、エクイティという法体系が誕生し、同時に、デッドファイナンスしかなかった金融の世界に、15世紀の英国にエクイティファイナンスが産声を上げたのです。

このことから、「equity」とは「資産から負債を差し引いた残り」を意味するようになり、現在の日本の会計基準やIFRSでも、「資産」は「資産」から「負債」を差し引いたものと定義されています。

よって、株主が有する権利のひとつして、「残余財産分配請求権」: 会社などの法人の所有者たる株主・持分保有者が、会社の解散時に債務を弁済した後に残る財産に関して分配を請求することができる権利 、というのが存在しているところに「equity」の面影を窺い知ることができるのです。

わかる経営管理 資本とは何か~資本の会計第1回

ファイナンスの種類分けからファイナンスを知る(1)

① ファイナンスの種類分けの視点は10個あり、これの組み合わせで大抵は定義できる

② 人類の歴史上、まずデッドファイナンスがこの世に存在していた

③ 相対的に弱かった債務者の立場を守るため、エクイティ(持分)という概念を作った

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