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不適切会計の手段 -利益操作(5)当期の費用を翌期以降に繰り延べる

会計(基礎編) 財務会計(入門)
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■ 費用計上に至るまでのツーステップ そのワンステップ目で止めれば費用は見えなくなりますが、、、

会計(基礎編)

今回から、数回に分けて、利益操作の目的のひとつである「利益の過大表示」のための「費用の過少表示」を取り上げます。これまでは、収益(売上)や利益そのものをどうにかして大きく見せる手段を説明してきましたが、利益計算するための相手側のコストをどう減らすか(経済実態的には減額されていないのですが、、、(^^;))? その手練手管を見ていきましょう。

その前に、参考にしている図書の紹介から。

この図書の内容を受けて、筆者が整理した不適切会計の全体見取り図は下記のとおり。

経営管理会計トピック_不適切会計の類型

では、「費用の過少表示」のための、先人の苦労(?)を解析していきます。

当期の費用を財務諸表上で小さくするには、大きく分けて、2つの方法があります。
1.本来、当期の発生費用を翌期以降に繰り延べる →計上タイミングを遅らせる
2.費用そのものを隠蔽してしまう →会計として費用の発生を認めない

今回は、1.の「当期に発生させるべき費用の計上タイミングを遅らせる」手法を順に見ていきたいと思います。その手法は次の4つです。

(1)通常の営業費用を不適切に資産計上する
(2)コストの償却を遅らせる
(3)資産を減損した価値で評価減をしない
(4)回収不能債権と回収可能性のない投資に費用を計上しない

ここは複式簿記のおさらいから。「コスト(ここでは原価、費用そして損失をまとめてこう呼びます)」は、通常は貸借対照表の借方にワンステップ目でいったん資産計上されてから、ツーステップ目で、損益計算書の借方に「コスト」として振り替えられます。ただし、ワンステップ目が、目にもとまらぬ早業だったら、いきなりツーステップ目から始まったように見えることでしょう。例えば、現金で一般経費を支払った場合など。

通常、ワンステップ目は、「支出」「支払」、すなわち現金等価物が会社から流出したときで、それは会社にとって将来の便益(売上とか)を表わすだけなので、資産として貸借対照表に一時的に計上されます。それが、実際にその便益(売上などの果実)を受け取った時点に、その便益に対応する資産だけが「コスト」として損益計算書に振り替えられます。これが簿記会計の基本形で、この仕組みを悪用するところから、今回の不適切会計の手法が始まります。

 

(1)通常の営業費用を不適切に資産計上する

前章で説明したワンステップ目で寸止めした場合、いつまでもコストがコストとして認められずに貸借対照表(B/S)の資産に留め置かれたままになります。こうした悪用例に、
① 通信業者が他の通信キャリアから通信ラインを借りる際の賃借料(利用料)を設備として貸借対照表に計上する
② マーケティング・コストや新規顧客獲得コストを償却資産とする
③ サプライヤーに支払う購入資金を「預け金」として資産化する
④ 完成していないソフトウェアの開発費用をソフトウェア資産として計上する

ここで補足説明を。
②はUS-GAAP特有のもので、実際に将来の便益(売上増加など)に貢献することが証明されたなら、支出額全額を当期のコストとせずに、償却資産として定期償却していいというもの。日本基準では到底認められにくいものですが、日本でも実例がないわけではないようです。特に新産業の広い意味でのIT業界では、、、(ここでゲームアプリとか言い出すと、、、おっと筆が滑りました、、、)。

③は、実際には仕入代金で、仕入れたものを既に販売していようがいまいが、「サプライヤーに預けている保証金です」、と言い張るケースのものです。実際に当事者との契約がどうなっていようが、経済的実体として、仕入れたものが販売されれば、仕入コストは費用化されなければなりません。逆説的に、現金支出が無くても。。。

④は、いわゆる「製品マスタ」完成前の開発費用は、将来のソフトウェアの販売による収益獲得がまだ確実といえないため、支出即全額費用扱いとする「保守的」な経理処理の精神によるものです。しかし、「「製品マスタ」が完成しました。今、ちょっとしたバグ取りやマイナーチェンジをしています」と言い張ると、そのために費やした現金支出はなんと、棚卸資産とすることができます。

 

(2)コストの償却を遅らせる

ここではあまりに有名になりすぎた「定率法」から「定額法」への償却方法の変更については文字数を割きません。経済的実体的にはおいといて、会計法規的には、「みだりな変更はだめ」としか定められていませんし、特にIFRS採用の場合は、経済的裏付けの証明が強く要求されているので、おいそれと「定率法」自体の採用が難しくなっていますから。最近はこの課題は、課題とされることが少なくなりました。

最近の経済事象での実例を下記に2つご紹介します。

① モーゲージ証券(住宅ローン債権)の買い取り価格の調整
② コンテンツ商品の即時償却や評価減

①については、詳細な金融知識が本当は必要なのですが、ここではできるだけ簡単に説明すると、あなたの住宅ローン債権を銀行からとある金融機関が買い取った時、あなたが銀行からローンを借りた時の金利と、銀行から住宅ローンを買い取った時の金利の差額を、ローン支払い期間にわたって、償却計算する必要があるのですが、これをサボってやらないというごまかしが横行した時期がありました。

さらに、ローン期間は見積りで計算されます。というのは、あなたがローンを一括繰り上げ返済したり、支払を遅らせたりしたら、そもそもの償却計算のやり直し(これをキャッチアップ調整という)をする必要があります。これもサボってしまうのです。

この手を使った米国のとある金融機関があのサブプライム危機の引き金となりました。

②については、コンテンツものというのは、ソフトウェアにしろ、エンターテインメント系のフィルムにしろ、販売本数や販売期間とその販売金額などを予測し、その予測値比例で棚卸資産を均等割りして、在庫と売上原価への按分を行っているはずです。そして、大概のケースでは非常に高い確率で、その予測は悪い方向にはずれます。その場合、予想外に売れなかった分は、即時費用認識するか、評価減するひつようがあります。これをサボると、本来、コスト認識すべき金額をいつまでも、またはできるだけ長い期間、資産として貸借対照表に預けておくことができます。

 

(3)資産を減損した価値で評価減をしない

これは、逆説的なのですが、最近、大規模な減損損失の発生により、多額の赤字決算になるケースが多くないでしょうか? それは、毎期毎期、いわゆる「減損テスト」を行ない、適切に在庫や固定資産の減損処理をやっていないことの証明ともいえます。だって、毎決算期に慎重に「減損テスト」を行っていれば、ある時突然に多額の「減損損失」が、思いもよらない金額で発生することはあり得ませんから。

多額の減損損失を計上する会社は、
① そもそも想定外のリスクが急遽到来してしまったという事故にあった
② うすうす感づいていたが、閾値を一定レベルに設定して、減損損失の認識を遅らせていた
かのいずれかです。もし、①なら、ビジネスモデルがそもそも高いボラティリティを有しているのですから、いざ損失が発生した際には、その経済的・経営的備えがなされていなければなりません。記者会見で、「想定外のリスクが実現となった」と言っているようでは経営者失格です。

そして、②なら、意図的に損失が明るみに出るのを遅らせた罪は、①より重いものがあります。①は無能、②は無能+悪意、です。

 

(4)回収不能債権と回収可能性のない投資に費用を計上しない

前述の(1)から(3)までは、コストから作り出された資産で経営者から将来の便益を生み出すことを期待されているもの(棚卸資産、設備、前払費用など)の費用化の遅延について説明しました。この(4)は、これとは別に、同じ貸借対照表の資産に計上されるものの、売上や投資から作り出される資産で現金のような資産と交換されるもの(売掛金や投融資資金など)の話となります。

① 滞留売掛金に適切な引当金を計上しない
② 引当金の取り崩しだけ行い、新規の引当金繰り入れを行わない
③ 減損した投融資への評価減を行わない

①について、企業は定期的に、顧客の不払いを反映して、「貸倒損失」というコストを損益計算書に計上する必要があるのですが、これを前もって積み立てておいた「引当金」を取り崩す、すなわち、資産計上されている不良売掛金と、負債計上されている引当金とを相殺する会計処理で処置するのが通例です。しかし、滞留つまり不良債権化したことが分かった時点で、その金額分を「引当金繰入額」として「コスト」認識する必要があります。実際に、現金の流出や売掛金勘定の相殺に前もって、経営の意思として帳簿上で行われます。これを意図的にサボるのです。

つまり、実際に不良債権化し、回収不能(例えば顧客企業が倒産・破産するなど)になる時点まで、損益計算書には全く手を触れない、コスト計上をギリギリまで遅らせることを意図的に行います。

②については、①で説明した「引当金」の処理のうち、後段の相殺のみを行い、新規の「コスト」認識、つまり「引当金繰り入れ」をサボることで、当期のコストを小さくすることができます。この繰り入れをサボると、引当金残高と売上債権残高の比率が著しく変化することが、貸借対照表を眺めていれば一目瞭然です。その上、繰り入れの政策を変更した理由も会計監査人に説明する必要があります。ビジネス上のさもありなんな詳細な事情(得てしてつくり話が多い)を説明されては、会計監査人もどこまで実態を追えるのか???

③については、奇しくも前述の(3)のケースとカラクリは同じです。しかもたちが悪いのは、本業のビジネスには無関係の投融資案件の場合です。外部の会計監査人もどうその信憑性を確かめるか、ビジネス実態に関する情報が手に入りにくいため、より一層の監査技術を問われる一件となります。

ここまで、当期費用を翌期以降に繰り延べる手段について説明しました。次回は、同じくコストを小さく見せるために、そもそもコストの認識金額を小さくしてしまう手段についての説明を試みたいと思います。




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