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経営戦略概史(16)マイケル・ポーター ポジショニング派のチャンピオン登場② - 戦略3類型とバリューチェーンは経営戦略論不朽の名作!

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■ ポジショニング派のチャンピオンは、徹底的に儲けるための方策を考えさせる!

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「経営戦略」の歴史を、三谷宏治著「経営戦略全史」(以下、本書)をベースに説明していきます。前回の続きで、マイケル・ポーターのお話です。彼は、ミクロ経済学(ビジネス経済学)を修め、徹底的に企業の目的、存在価値は「儲けること」を追求することであるととことん割り切って競争戦略を論じます。

しかし、その後、その反動が出たのか、「共有価値創造:CSV(Creating Shared Value)」ということを言い出し、「自社の独自資源と強みを、社会が抱える課題に照らし合わせ、
新しい製品やサービスによって解決する」という趣旨のことを主張し始めます。その前に、徹底的に競争戦略を論じていた当時(80年代)まで、時計の針を戻しましょう。

再び、
『競争の戦略』(1980年)
① ファイブフォース分析(5力フレームワーク)
戦略3類型(コストリーダーシップ、差別化、集中)
『競争優位の戦略』(1985年)
③ バリューチェーン

の、②から説明を再開します。

 

■ 「戦略3類型」で儲かるポジショニングを選べ!

①ファイブフォース分析(5力フレームワーク)で、まず「儲蹴られる市場を選べ」。そして次に、その市場で、自社を「儲かるポジション」に位置付けろ、ということを、コンペチターとの相対的関係性の中で、たった1つの選択肢を示しました。優柔不断にあれもこれも大事、ではなく、自社の市場における位置付けが決まれば、自社が採るべきポジショニングもたった1つに定まる! と言い切ったのです。これには、実務家、学者ともに大いに受けることになりました。

本書より、ポーターの戦略3類型を整理します(詳細には4種類になりますが)。

経営戦略(基礎編)_ポーターの戦略3類型

まずは「ファイブフォース分析」で戦うべき(儲かる)市場を1つ選定した後、その市場の中で、全体を相手に戦うか、それとも自社が有利になりそうな市場の一部(ニッチ)のみを対象として戦うかの選択を行います。後者を「集中戦略(Focus)」と呼びました。前者の全面対決の方策としては、究極の2択しかない、と言い切ります。「コストリーダーシップ戦略(Cost leadership)」か「差別化戦略(Differentiation)」かのいずれかです。

集中戦略では勝てるところで勝つ、ということに徹底してこだわります。そして「勝つ」ためには、何を勝利条件とするか、企業間競争の「目的」を明確にするところから始まります。一定のシェア確保なのか、利益の拡大なのか、新規参入企業の追い落としなのか、、、

そうした「目的」と「集中」は、ナポレオンの戦い方を徹底的に研究したクラウゼヴィッツが記した「戦争論」や「ランチェスターの第2法則」で明確化されます。それを経営戦略に明示的に導入したのがポーターなのです。

(参考)
⇒「戦略論の古典 クラウゼヴィッツの『戦争論』から学べること
⇒「戦略論の古典 クラウゼヴィッツの『戦争論』における「目的」と「目標」
⇒「戦略論の古典 クラウゼヴィッツの『戦争論』における「戦略」

コストリーダーシップ戦略では全社的な低コスト体質を徹底的に利用します。競合より低コストを実現した分を、顧客に還元して低価格のプライシングを提示し、価格競争で優位に立ってもいいですし、マージン(流通粗利)を厚くして、チャネル(卸や小売り)を囲い込んだりする原資に活用します(例:フォードのT型フォード)。

差別化戦略では顧客に対する付加価値の高さで競います。例えば、アップルは最後発として携帯音楽プレイヤー市場に乗り込み、高品質(高音質ではない)高価格のiPodで市場を席巻しました。製品機能、販売形態(チャネル)、決済手段(販売金融、分割払い、従量課金など)、アフターサービスなど、競合他社が簡単に模倣できない価値を消費者に提示することで勝負します。

競争市場を選び取ったり、その中で全面競争かニッチ戦略かの選択を迫ったりする姿勢は、コトラーによるマーケティング理論、「市場細分化論(セグメンテーション)」「STP理論」
→第12回)に通じるものがあります。「コストリーダーシップ戦略」は、BCGの「経験曲線理論(市場シェアを獲得してコストを下げる)」(→第13回)に通じるものがあります。それに加え、何よりシンプル。この三拍子で、ポーターの「ファイブフォース分析」「戦略3類型」は、一躍競争戦略論の主流となり、彼は、経営戦略論における「ポジショニング派のチャンピオン」と称されるまでになりました。

 

■ ポーターにとって「経営戦略」が「ポジションニングの選択」に帰結したことの意味

本書によりますと、
ポーターが記した『競争の戦略』には、具体的な企業・事業戦略のケースはほとんど記載されていません。HBSがお得意のケーススタディというスタイルからほど遠い構成です。ポーター自身が、「あの本は基本的には産業についての本だ。」と言い切った通り、この本にあるのは個別企業戦略ではなく、産業と産業構造分析だったのです。しかし、ポーターは経営戦略論を、「経済学的なポジショニング(「儲けられる市場」と「儲かる位置取り」)の選択問題に還元してみせたのです。

ポーターの師匠であるクリステンセンやアンドルーズたちの「戦略そのものも戦略策定方法も、ビジネス環境次第で無限の組合せが存在する」という見解とは決別し、

① ビジネス環境は定型的に(ファイブフォースで)分析しうる
② 分析の答は戦略3類型というパターン化できる

という結論を導き出しました。彼こそ、大テイラー主義の権化となったのです。

 

■ 「バリューチェーン」は、ケイパビリティ重視から生まれたが、、、

ポーターの論説は「ポジショニング派」に分類され、それと対を成すのが「ケイパビリティ派」です。しかし、ポーターは「ケイパビリティ」を全く無視していたわけではく、「ポジショニング」によって「儲かる位置づけ」を得た企業がその優位性を持続させるためのひとつの方策として、「バリューチェーン」による企業プロセスの管理に着目したのです。

本書(P147・148)に従って、簡単にまとめます。

『競争優位の戦略』(1985年)で、「バリューチェーン(Value Chain)」が初登場します。バリューチェーンは、企業の諸活動を5つの主活動と4つの支援活動の9つに分類します。古くはファヨール(フェイヨル)の『産業ならびに一般の管理』(1979年)(→第5回)、近くはマッキンゼーの「ビジネス・システム」(1980年)にも通じるものがあります。

● 主活動
 ① 購買物流
 ② 製造オペレーション
 ③ 出荷物流
 ④ マーケティングと販売
 ⑤ サービス

● 支援活動
 ① 調達活動
 ② 技術開発
 ③ 人的資源管理
 ④ 全般管理(インフラストラクチャー)

経営戦略(基礎編)_ポーターのバリューチェーン

上記の整理は、「ERP:Enterprise Resources Planning(基幹系情報システム)」のモジュール体系とも重なりますし、「BPR:Business Process Re-engineering(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)」の対象領域選定の拠り所にもなっています。

まあ、「本歌取り」として、通常皆さんが目にする「バリューチェーン」はその使用者により若干の(かなりの?)カスタマイズがなされていることが再確認できると思います。

企業の各部門の諸活動を、「価値創造の連鎖」として一表にまとめ上げた「バリューチェーン」は、その抜群のネーミングセンスにより、今でも色褪せずに立派に通用しています。ポーターは、ここで初めて市場における企業の位置取りとしての「ポジショニング」ではなく、企業の内部活動に目を向けます。その目的は、「いかに高業績を持続させるか」。企業の中長期の持続的成功のためには、「ポジショニング」だけでは不足で、そのポジショニングを維持するための「よい(儲ける)企業能力(ケイパビリティ)」が必要であると。

現代ビジネスでは、「ポジショニング派」VS「ケイパビリティ派」という対立構図で捉えがちですが、ポーターはあくまで「ポジショニング」実現の補助手段として「ケイパビリティ」を捉えていました。

① ケイパビリティ強化は、ポジショニングの手段である
ケイパビリティも、活動プロセス(バリューチェーン)中心で、リーダーシップ論や組織、企業文化論はほとんど入らない
(本書P148より)

ポーターによるポジショニング派に対抗する論客は登場するのか?
それは次回以降、お楽しみに!(^^;)
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