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攻めのIT経営銘柄18社 日産や大阪ガスなど、経産省と東証が選定(1)

経営管理会計トピック テクノロジー
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■ また新しいインデックスが登場!今度はIT経営銘柄

経営管理会計トピック

経済産業省と東京証券取引所がタッグを組み、IT経営を実践している会社を抽出。それらの会社でインデックスを組んでみたら、日経平均より高パフォーマンスだったので、これらの銘柄を推奨します、ということみたいです。
(ただし、東証発表のプレスリリースには、「「攻めのIT経営銘柄」の取組を通じ、我が国における「攻めのIT経営」が 一層推進されることを期待しています。」とあり、「特定の銘柄を推奨するものではない」との断り書きが書いてあります)

そのグラフを本ブログに転載したかったのですが、東証発表資料には、無断転載禁止とあるので、リンクのみご紹介します。

以下に、関連ホームページのリンクをまとめました。

(1)経済産業省の発表ページ
⇒「攻めのIT経営銘柄」(説明会:2014/12/19)
⇒「説明資料
⇒「平成26年度「攻めのIT経営銘柄」を発表しました~いち早く「攻めのIT経営」に取り組む上場会社18社を選定!!~」(銘柄公表:2015/526)

(2)東京証券取引所 ニュースリリース
⇒「「攻めのIT経営銘柄 詳細資料」(PDF形式:3,016KB)

(3)東京証券取引所 説明資料
⇒「攻めのIT経営銘柄」レポート(PDF)

2015/5/27|日本経済新聞|朝刊 攻めのIT経営銘柄18社 日産や大阪ガスなど、経産省と東証が選定

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

「経済産業省と東京証券取引所は26日、「攻めのIT(情報技術)経営銘柄」として日産自動車や大阪ガスなど18社を選んだ。ITをビジネスモデルの変革にまでつなげた優良企業を公表することで、日本企業のIT活用能力を高めたい考えだ。
IT経営銘柄は東証に上場する約3500社を調査対象とした。IT活用の具体策などを評価した上で自己資本利益率(ROE)が各業種の平均を上回る企業を1業種につき1社選んだ。
例えば、大阪ガスは過去10年に蓄積した約400万件の修理データを基に、携行する必要のある部品を予測するシステムを構築した。食品トレー大手のエフピコは受注の1時間後に無駄のない配送計画を確定するシステムが評価された。
経産省によると、今回選ばれた銘柄の過去10年間の運用成績は、日経平均株価の伸びの約1.2倍だった。」

選定手順や、個別企業のIT経営度の内容評価は追って行うとして、結論から言うと、結局、選定基準に、過去3年間における同業他社より「ROE」が平均して上回っていること(2014年3月末を基準)というのがあるため、高「ROE」の企業が選定されているということになります。

ただし、これまで財務的分析面でしか、高ROEが語られていなかったのに対し、今回の取り組みは、非財務のIT経営度が高ROEの要因になっている、そういうIT経営が進展していて結果として高ROEにつながっている企業を選定している、という点では、他の財務一辺倒のROE賛歌レポートより、大変興味深いレポートになっています。

 

■ 選定手順や採用基準の説明前にどの企業がエントリーしたのか?

うだうだ手順・基準の説明に入る前に、栄えある選定企業を以下にリストアップします。

銘柄コード 企業名 業種
1928 積水ハウス株式会社 建設業
2502 アサヒグループホールディングス株式会社 食料品
3402 東レ株式会社 繊維製品
7947 株式会社エフピコ 化学
5108 株式会社ブリヂストン ゴム製品
5411 JFEホールディングス株式会社 鉄鋼
6301 株式会社小松製作所 機械
6501 株式会社日立製作所 電気機器
7201 日産自動車株式会社 輸送用機器
7731 株式会社ニコン 精密機器
7862 トッパン・フォームズ株式会社 その他製品
9532 大阪ガス株式会社 電気・ガス業
9020 東日本旅客鉄道株式会社 陸運業
9467 株式会社アルファポリス 情報・通信業
8031 三井物産株式会社 卸売業
8316 株式会社三井住友フィナンシャルグループ 銀行業
8766 東京海上ホールディングス株式会社 保険業
8439 東京センチュリーリース株式会社 その他金融業

「KOMTRAX」で有名な「小松製作所」が入っていますね。当然といえば当然かもしれませんが。でも、IT経営と聞いて、真っ先に頭に思い浮かぶあの企業たちがエントリーされていないので、やはり、「ROE」のスクリーニングが結構効いているのだと思います。

 

■ コンセプト設定に対する疑問

(1)どうして、高いIT経営度が企業経営に対して好成績を収める = 株価向上(企業価値増大)といえるのか?

これは、次のグラフ(IT投資と生産性の相関)が示されて説明されています。
(経済産業省:2014/12/19の説明資料より)

IT投資と企業業績の相関について

縦軸に「生産性」、横軸に「IT投資」を取った散布図になります。グラフに使用されているデータの信憑性を確認するために、注でついている出典の論文も読んでみましたが、横軸は、従業員一人当たりのIT投資額の所属業界からの乖離度(まあ指数評価しているからこれはOK)であることが分かりましたが、縦軸の「生産性」は、具体的な数値の裏付けが取れませんでした。

これはいろんな財務(数値)分析をされている方は良く体験する話だと思うのですが、「生産性」と「付加価値」という2種のデータは、よくそのデータ定義を確認することをお勧めします。よく見聞きする指標ですが、意外に定義がしっかりしていません。

(2)日米企業を比較して、IT投資の「守り」と「攻め」を分類 -「守り」と「攻め」の違いは?

JEITA、IDC Japanの調査結果を引用しているのですが、「守り」と「攻め」がどう仕分けられているのか? そして語感的に「守り」はダメと言われているようで何かしっくりきません。

ちょっと説明文を引用してみると、
「IT活用の目的が「ITによる業務効率化/コスト削減」に主眼が置かれており、米国と比較をしても、「ITを活用したビジネスモデル変革」、「ITによる製品/サービス開発強化」等の「攻めのIT」に対する重要性の認識が十分ではないとみられます。」

日本企業は、「業務効率化/コスト削減」目的でITを利用しており、それは「守り」。
米国企業は、「ビジネスモデル変革/製品・サービス開発」目的でITを利用しており、それは「攻め」。そして、「攻め」の方が好ましい。。。

競争戦略の学説からちょっとこの分類に対して疑問を投げかけたいと思います。

CSCインデックス社の経営コンサルタント、マイケル・トレーシーとフレッド・ウィアセーマが、1995年、「ナンバーワン企業の法則」の中で提唱した概念によると、優良企業となるためには3つ方策があるとなっています。

① オペレーショナル・エクセレンス
② 製品リーダー
③ カスタマー・インテマシー

このうちの①に対応するのが、「業務効率化/コスト削減」ではないでしょうか? 何か、アップルやグーグル企業だけがエクセレントカンパニーというわけでもないでしょうに。

しつこいのですが、この「攻め」と「守り」の各項目を以下に列挙してみますので、皆様の目からも、「守り」の中にもなかなかの施策があることを共感していただきたいと思います、

(経済産業省:2014/12/19の説明資料より)

我が国企業のIT投資の傾向

「守りのIT投資」
① プライベートクラウドの導入のため
(じゃあ、パブリッククラウドなら「攻め」なの?)
② 定期的なシステム更新サイクル
③ 未IT化業務プロセスのIT化のため
(ITのカバレッジが増えたわけだから積極策なのでは?)
④ ITによる業務効率化/コスト削減
⑤ 法規制対応のため
⑥ 売上が増えているから
⑦ 利益が増えているから
⑧ 会社規模が拡大しているため
(⑥~⑧がなぜ「守り」なのか?)

「攻めのIT投資」
① モバイルテクノロジーへの投資
(流行りものに投資すると「攻め」?)
② 市場や顧客の変化への迅速な対応
(成熟市場の場合は?)
③ 新たな技術/製品/サービス利用
(流行りものに投資すると「攻め」?)
④ ITを活用したビジネスモデル変革
⑤ ITによる製品/サービス開発強化
⑥ ITによる顧客行動/市場の分析強化
(ビッグデータ、データサイエンティストを意識?)
⑦ 事業内容/製品ライン拡大による
(守りの方の⑥~⑧とどう違うの?)

 

■ 選定基準における論点

選定プロセスについては以下の通り。
① 「攻めのIT経営」アンケート調査を実施(アンケート回答企業の未選定対象)
② 第1次審査:アンケート調査回答(選択式項目)によるスコアリング(IT投資以外)
③ 第2次審査:財務指標によるスクリーニング(ここが直近3年ROEが業界平均以上)
④ 最終審査:銘柄選定委員会による審査(有識者の合議)

手順自体にはここでは何も申しません。スコアリングおよび合議で検討されたであろう判定基準が興味深かったので、下記に紹介しておきます。

1.経営計画における攻めのIT活用・投資の位置づけ
(例)自社の経営理念や目標等を盛り込んだ経営計画の公開状況 トップのIT活用に対する関心 等
2.攻めのIT活用・投資の企画に関わる社内体制及びIT人材
(例)ITを活用した事業革新のための新規事業を企画する組織体制の状況 IT人材の確保状況 等
3.攻めのIT活用・投資の実施状況(事業革新のためのIT活用・投資)
(例)事業革新のための投資の内容 ビッグデータ、モバイル、クラウド等の新技術の活用状況 等
4.攻めのIT投資の効果及び事後評価の状況
(例)IT投資を行った事業の目標達成状況 IT投資を行った事業の売上高、営業利益の変化 等
5.攻めのIT投資のための基盤的取組
(例)情報セキュリティ方針策定と実行状況 情報システムの中断・停止に係るBCP策定と実行状況 等

1.はIT計画の整備状況、2.はIT統制組織と人材、3.はIT投資内容、4.は財務的結果指標、5.IT運用状況、をそれぞれちゃんと評価するぞ、ということです。こういうストラクチャーでIT経営度を見るのは、結構なことだと思います。各社、IT中計の立案、CIOサポートオフィスの活動指針作りなどに、大変参考になるのではないでしょうか?

本レポートは筆者にとっても大変興味深く、もっと読み込んで、続報を皆様にお伝えしたいと思います。

また、関係者の方々からの反論・補足意見も大歓迎です。

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