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人工知能の実力 - 日経新聞連載コラムより

経営管理会計トピック テクノロジー
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■ 人工知能(AI)の実力を探る!?

経営管理会計トピック

日本経済新聞(朝刊)で3回にわたり、「人工知能の実力」というコラムが掲載されました。最後まで目を通させていただきましたので、記事内容をサマリして整理するとともに、筆者の見解も少々付け加えさせていただこうかと思います。記事内容は、全般的に「Why」「What」より、企業や研究機関がどのように(How)、人工知能を開発し、商用化するかと言うところにフォーカスが当たっていました。では、3回のサマリに早速入ります。

■ 人工知能の実力(上) iPS細胞の成長 予測 ロボット制御 最適化も

2015/7/20|日本経済新聞|朝刊 人工知能の実力(上) iPS細胞の成長 予測 ロボット制御 最適化も

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

「人工知能が活躍の場を広げている。生命科学の研究や異常の検知など、人間の守備範囲と思われていた分野にも進出し始めた。人工知能はどこまで来て、どこへ向かおうとしているのか。我々はこの技術とどのようにつきあっていくことになるのか。人工知能の現在の実力と、今後の可能性を探る。」

「試験管の中のiPS細胞がどんな細胞になるかを、人工知能が予測する――。京都大学iPS細胞研究所は、iPS細胞から目的の細胞を作る研究に、人工知能を活用している。」

京都大学が活用している人工知能は、プリファード・ネットワークス(PFN)が培った技術を使っています。その使い方は、

「iPS細胞を培養する温度や加える物質などの条件、そのときに働く遺伝子、どの細胞に変化したかという実験結果を人工知能に学習させ、狙った細胞を作るのに適した条件を予測させる」

というもの。こうすると、従来は研究者が試行錯誤していた実験の条件設定や実験結果の仮説検証を人工知能が代替することで効率的(時間が節約されるの意)になるだけではなく、研究者が思いもつかなかった関連性を人工知能が見つけてくれることが期待されています。つまり、従来の計算の高速化だけでなく、アイデアの創出までAIに委ねようということ。もちろん、計算の高速化がアイデア創出にAIを活用しようという前提条件となっていますが。

これを可能にするのが、

「「ディープラーニング(深層学習)」に代表される機械学習。複数の装置が経験をリアルタイムで共有しながら学習する「分散学習」を得意とする」というやつです。

「ディープラーニングによって大量のデータからコンピューターが自力で法則を見つけられるようになり、人間が逐一教えなくても目的が遂行できるようになった。その結果、人工知能に文章や画像、音声など、ありとあらゆる実世界の情報を処理させる研究が活発化した」

とあるように、ルールベースの場合は、人間がいちいち条件を厳密に設定したり、機械学習でも従来のものは、人間が膨大なデータをAIに食わせてやったりする必要がありました。それが、AIが勝手にやってくれることになり、孝行息子が成長して独り立ちした感になっています。

こうした進歩は、決してアルゴリズム自体だけの改善だけで実現するわけではなく、ハードウェアの性能向上や通信速度の上昇がそれを助けています。

そこで、前述のPENは米シスコシステムズと共同で、分散学習でクラウドコンピューティングの負荷低減の研究を進めています。その一例が、監視カメラの画像診断です。従来は、画像情報をサーバーまで送信して、サーバーで集中演算させていましたが、この演算をルーターにやらせようというのです。

「監視カメラの画像をすべてサーバーに伝送して異変を判断すると、通信に時間がかかり即応できない。そこで通信経路を振り分けるルーターに人工知能を搭載し、異常が起きた時の画像の特徴についてのデータを共有。分散学習によって異常の有無を判断し、異常時だけデータをサーバーに送る。通信量を減らし、遅れを解消する狙いだ。」

まさしく、「AI」が「クラウドコンピューティング」と「IoT」の申し子、もしくは成功の秘訣となりそうです。

■ 人工知能の実力(中)「深層学習」で自ら賢く 人の脳まね情報処理

2015/7/27|日本経済新聞|朝刊 人工知能の実力(中)「深層学習」で自ら賢く 人の脳まね情報処理

「人工知能が注目されるきっかけになったのが「ディープラーニング」(深層学習)と呼ぶ技術の登場だ。人の脳をまねた情報処理の仕組みで、大量データの中に潜む複雑な特徴を自力で探し出す。ロボット制御や画像解析、工場での故障検知、病気診断など、多くの応用が期待されている。」

この深層学習の最も大きい利点は、

① 画像や音、制御信号など種類の異なる情報を全て組み合わせて学習できる
② 人が気づかないデータの特徴も見つけ出せる

①は、センサー技術が発達し、様々な感覚(圧力、温度、色調、加速度など)を一体のものとして処理できるようになり、より人間の知覚に近い所で計算処理ができるようなったことを意味しています。

②は、上記①が実現したことで、人間自体があいまいに情報処理していたもの(人間の脳ミソは楽するために、見えないものを勝手に補完したり、見たくないものは見えなくしたりするものなので、、、)を機械の目(脳?)で正確にとらえることができることを意味しています。

ここでも、「超人間」の技術というシナリオで語られています。しかし、「超人間」ではなく、「別人間」なのではないでしょうか? 人間の脳による情報処理は、人間という有機生命体が生存・コピーするのに都合がよいように進化してします。だから、AIが見えているものも、人間の脳が見えていないと処理するからと言って、人間の脳の方が劣っていると本当に言えますでしょうか?

これに関連する現在のAIの弱点なるものを記事では次のように伝えています。

「コンピューター内部の複雑な処理を人が理解しにくい点だ。IT(情報技術)企業の担当者は「中身がブラックボックス化していて、顧客のデータを分析して得た結果の理由を説明できない」と語る。」

将棋の世界で初めて平手でプロ棋士に勝利した「ponanza」を開発した山本一成さんも、「なぜソフトがその一手を打ったのか人間には理由が分からなくなっている」と語っています。

この発言を、AIが「超人間」と捉えるから、聞いて背筋がぞっとする人が出てくるかもしれませんが、「別人間」と考えれば、その通りと納得できそうです。だって、現時点の科学で、犬や猫の克明な意識の変化は人間にはわかりっこありませんから。AIも別種の生物(?)と考えれば、恐ろしくも何ともありません。そういうもんです。

■ 人工知能の実力(下)頭脳労働、ロボもこなす 雇用減の対策必要に

2015/7/27|日本経済新聞|朝刊 人工知能の実力(下)頭脳労働、ロボもこなす 雇用減の対策必要に

「木造注文住宅のアキュラホーム(東京・新宿)は8月から、ソフトバンクグループのヒト型ロボット「ペッパー」1台を夏のインターンシップ(就業体験)の一環として採用した。ペッパーはさいたま市内の住宅展示場のモデルハウスで、従業員5人とともに、客の呼び込みや接客スタッフとして働く。」

その他に今回のコラムには、AIが様々な人の職業に代替している(するだろう)事例が紹介されています。

・みずほフィナンシャルグループがペッパーを接客要員として入行
・福祉施設で高齢者の相手をするロボットも相次ぎ登場
・弁護士支援(なり代わって)として判例集め作業の代替
・不正発見のための文書解析
・医師の暗黙知を学習して医療上の判断を支援

そして、その脅威を次のように表現しています(少々長い引用です)。

「AIやロボット導入によって少子高齢化に伴う労働力不足を緩和できるとの期待が大きい。だが、自動運転技術が普及すれば運転士が不要になり、工場でも1人の従業員がより多くの生産ラインを監督できるようになる。長期的には、社会全体の雇用は確実に減る。

日本の2014年の就業者数は人口のほぼ50%にあたる約6350万人。技術進歩に伴って雇用が減る「技術的失業」について研究している井上智洋駒沢大学講師は「汎用人工知能が普及するとみられる2045年ころには人口の1割くらいしか働いていない可能性もある」と予想する。

AIやロボットが極限まで普及すれば、生産性は高まるものの、それに見合った需要がなければ経済は成長しない。職業のあるなしによる格差も広がる。井上講師は「AIという技術進歩に見合った需要を創出するため通貨供給量を増やすなどの対策が必要。格差是正のためベーシックインカム(最低所得保障)の導入も有力な選択肢だ」とみる。」

この種の問題は、AIに限ったことではなく、長い人類の歴史の中で、
① 技術進歩により不要・陳腐化した労働
② 需要と供給のバランスから消えた労働
というものは数限りなくあって、今回はAIによってそれが発生するだけのことです。

この辺の議論は、下記の過去投稿もご参照ください。
⇒「日曜に考える(創論)ロボット普及が変える世界 -人工知能(AI)について

この点について、ひとつ思考の材料になる記述もありました。

「ペッパーは人の感情を読み取る「感情エンジン」という人工知能(AI)を搭載している。ロボットを動かすアプリを開発した生活革命(さいたま市)の宮沢祐光代表は「様々な状況に対応して客とコミュニケーションができる能力を持たせられる」という。」

ビックデータ解析により、統計的に正しかろう判断をする上に、「感情エンジン」を積んで、より完璧な人間によるサービスが受けられる、そのこと自体は大変すごいことです。

この日本語は、シニカルに表現していて、「完璧」というのは、
① 論理的には間違わない
② 感情的には人間的に判断する
というものです。

ですが、「間違う」というか「正しさ」を求めないのも人間の脳ミソの動きに確かに存在します。それは、「人間」が「人間」であるために進化してきた脳ミソに付けられた一種の「くせ」。その「くせ」までAIに搭載する必要はないと考えています。

この「くせ」というのは、アルゴリズムにとって、不要なもの、ノイズに過ぎません。もし仮に、このノイズまで見事に再現してAIに搭載したとしたら、いや搭載しようとする開発者の動機はいったいどういうものなのでしょうか?

それは、「人類社会に役に立つ道具としてのAIを生み出す」という科学技術の問題から、「人間そのものをサイバースペースの力を使って再現する」という倫理の問題となります。倫理を持ち出すまでもなく、道具性を追究しないで、より人間性に近いものを再現する必要性がどこにあるのでしょうか?

実は、そういうAIにも使い道があります。あなたが親しくしていた友人や愛する家族が死んでしまったが、AIでそのまま友人・家族を再現できるとしたら???

新たに人格を持った存在を作り出す行為自体に意味がある時、まさにその時、人間の写し鏡となるAIを作る動機となり、そうしたAIの需要も発生するというものです。

これは、AIの進化を「人類の最も効果的な道具」とするか、「人類の再生手段」とするか、事を分かりやすくすると、この分岐に重大な意味が込められている、そしてその判断は今、求められている、と警鐘っぽく今回の投稿を締めさせていただきます。m(_ _)m

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