自分の眼力に自信が無いとき
このシリーズは、G.W.ワインバーグ著『コンサルタントの秘密 - 技術アドバイスの人間学』の中から、著者が実地で参考にしている法則・金言・原理を、私のつまらないコメントや経験談と共にご紹介するものです。
外部リンク G.W.ワインバーグ氏の公式ホームページ(英語)
皆さんも各自のお仕事において、チェックリストをあらかじめ用意しておいて、検証したい項目群の抜け漏れや冗長性を確認することも多いことと思います。ここでは、チェックリストと洗濯物リストのちょっとした視点の違いに触れつつ、仕事のレビューの仕方について考えてみたいと思います。
ワインバーグ氏によると、コンサルタントとしては、自力で課題を発見することができるセンスが必要なのだそうです。これまで気づかなった課題を見つけ出すことを、「そこに無いものを見る方法」として、3つの術(すべ)があると解説しています。
- 自分の限界に注意を払う
- 他の人を利用する
- 洗濯物リストを使う
忘れているものは何かを思い出す方法
ワインバーグ氏の定義によりますと、2つには次のような違いがあります。
チェックリスト:
存在していなければならない項目のリスト
洗濯物リスト:
忘れているかもしれなくて、洗わなくてはいけないかもしれない項目(洗濯物)のリスト
はっきりした定義のない状況で仕事をするときは、成功のためにはかくかくしかじかの要素がなければならぬというようなことを前もっていうことは、たぶん不可能である。だから洗濯物リストの方がまさるのだ。自分のリストにあまり自信を持ちすぎないことが大切なのだ。そうでないと、何か重大なものを見落とす可能性が、ますますふえる。
G.W.ワインバーグ著「コンサルタントの秘密―技術アドバイスの人間学」(P85-86)
コンサルティングの現場にて、他の案件による経験に基づく記憶に都度都度頼るのではなく、見落とされがちな項目リストを積極的に準備しておいて、ここぞという時にそれで検討作業や現状分析、ブレインストーミングの結果サマリのレビューに用いることがあると思います。
例えば、
・ミーティング(ブレインストーミング)で必要な心構え7つ
・プレゼンテーションの準備に必要な5項目
・報告書作成にあたって忘れてはいけない6項目 など
つまるところ、「③ 洗濯物リストを使う」は「① 自分の限界に注意を払う」「② 他の人を利用する」と同根のもので、自分の経験や記憶を過信しないで、謙虚に、より正確でより効率的な方法論を自分の中に持ちましょう、ということになります。
手順をチェックすることの重要性
洗濯物リストの有効な使い方は、何が欠けているのかをスクリーニングすることで明らかにすること以外に、何が欠けているのかを探し当てる方法論がどれくらい効率的で有効なものであるかを測定・評価することにも使えます。
最初に、洗濯物リストを頭の中から忘れて、目の前の課題について、これまでの検討作業で打ち漏らしたものが他にないか、うんうん唸りながら洗い出してみます。そしてひねり出した項目群と洗濯物リストを突合させます。もし、洗濯物リストにあるのに、ひねり出した項目群にはないものが存在したとしたら、それは、自分が欠けている項目を捻りだすために実行した思索・思考の方法論とかアプローチが不完全であったからかもしれません。
このように、洗濯物リストは直接的に、何が検討漏れを起こして欠けているのかを教えてくれるだけではなく、間接的に、欠けているものを探し当てる考え方自体の妥当性の確認も行ってくれるということです。
ですので、普通よりましなコンサルタントは、過去案件での経験を糧に、自分オリジナルの洗濯物リストを手中に収めてあって、常にそれを後進し続けている人たちである、と言えなくもありません。
保守的な手順になっていないか
よい手順を使ったからといって、100%見落としをなくせるとは限りません。しかし、いけていない手順を使えば、ほとんど確実に何かを見落とすことは間違いありません。今のやり方が自分にとって不十分な手順だと自覚できていれば、新しい手順に試せば、何らしか得ることがきっとあるハズです。
ワインバーグ氏の次のようなメタ思考を十二分に発揮した文章は一読ではなかなか理解することは難しいかもしれません。
若くて混乱していたころ私は、そのうちもっと年を取って賢くなりたい、またそうはなれないまでも、せめて私を賢そうに見せてくれるような頼り甲斐のあるアイデアのリストを見つけたい、と願っていた。だが、私もやがて年を取り、人生の保守的現実を知るに及んで、若者の行き過ぎた夢にはついて行けなくなっている。
G.W.ワインバーグ著「コンサルタントの秘密―技術アドバイスの人間学」(P86)
彼は、自分自身が編み出した「洗濯物リスト」を使って欠けているものを探し当てる方法論自体が、さらに有効性を書いてしまう条件は何か、にまで思考の縁(へり)を延ばしています。
すでに言及したように、最初に洗濯物リストの存在をすっかり頭の中から追い出し、先入観をなくして問題を洗い出してリスト化する。そのリストが完成したら、その際に洗濯物リストと突合して抜け漏れ・冗長性を確認する。そのうえで、自分が当初作成したリストが、洗濯物リストと突合させても、なお大変筋が通って問題が無いように見えるときは、それ自体が既に問題を孕んでいる可能性が高い、ということです。
つまり、
「二つや三つ筋の通っていない項目が出てこないようなら、手順が保守的すぎるのだ」
洗濯物リストが最善のものに更新されていないか、思いつくまま項目を洗い出す思考法が陳腐化しているかのどちらかである、ということです。そして、ワインバーグ氏は、その思考法を積極的に改善していくのに、人間が人間である限界、すなわち生身の肉体を持った存在である限界まで意識化しているということです。
これは、現代のAIが人間の代替になるか、という問題の中核を占めるテーマのひとつです。
AIを持ち出すまでもなく、私を含めて一般人は、せめて、洗濯物リストを上手に使って、自分の思考が十分に保守的になっていないか、意識して思考を進めていければいいなあと思います。^^;)
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