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コンサルタントの秘密 – 技術アドバイスの人間学(44)そこに無いものを見る方法② - 他の人を利用する

経営コンサルタントのつぶやき_アイキャッチ 本レビュー
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自力で課題を発見できないとき

このシリーズは、G.W.ワインバーグ著『コンサルタントの秘密 - 技術アドバイスの人間学』の中から、著者が実地で参考にしている法則・金言・原理を、私のつまらないコメントや経験談と共にご紹介するものです。

外部リンク  G.W.ワインバーグ氏の公式ホームページ(英語)

自分をあまり頼りにせず、自分の欠点を補うために、他人の協力を仰ぐことは、個人のプライドや意地以外に、結果を重んじることを大事と思うのなら、とても賢いやり方だと思います。「聞くは一時の恥聞かぬは一生の恥」と言いますし。

ワインバーグ氏によると、コンサルタントとしては、自力で課題を発見することができるセンスが必要なのだそうです。これまで気づかなった課題を見つけ出すことを、「そこに無いものを見る方法」として、3つの術(すべ)があると解説しています。

  1. 自分の限界に注意を払う
  2. 他の人を利用する
  3. 洗濯物リストを使う

ダイバーシティ、インクルージョンの大切さ

まず、ワインバーグ氏の次の言葉を噛み締める必要があると思います。

人の多様性は、とかくコンサルタントをイライラさせるものとなる。新しい環境に行くごとに、人それぞれの特性を考慮しなければならないからだ。だが、欠けているものが見えるようにしたいという場合には、多様性は味方である。「私は何を見落としているでしょうか。」という質問をできるだけ多くの人に投げかけてみるがよい。

G.W.ワインバーグ著「コンサルタントの秘密―技術アドバイスの人間学」(P83-84)

今、盛んに議論されている、「ダイバーシティ(Diversity:多様性)」「インクルーシブ(:Inclusive完全な包括)」を30年以上も前に先取りして提唱していることがお分かりだと思います。

「ダイバーシティ・マネジメント」は、個人や集団間に存在するさまざまな違いを「多様性」として認め、逆に組織の競争優位の源泉として生かすために組織内文化や制度、プログラムプラクティスなどの組織全体を変革する活動につなげることです。

「インクルーシブ教育」は、人間の多様性や個人の尊重等を強化し、障害者が精神的および身体的な能力等を可能な最大限度まで発達させ、自由な社会に効果的に参加することを可能にすることを目的とし、障害のある者と障害のない者が共に学ぶ仕組みをいいます。時には「インクルージョン教育」と呼ばれることもあります。

(注:障害の「がい」の字の漢字表記につきまして、この記事作成時点ではまだ議論が成熟していないと判断し、「害」の字をあてています)

この2つの概念が21世紀の社会と経済を良い方向に進める重要なファクターとなると考えています。そういう意味では、トランプ大統領の政策がもたらしているとされている効果は、部分最適にすぎないと信じています。

「この募集文では女性差別ととられかねない。修正しなくては」――。ゲーム機器や自動運転技術などの開発で知られるエヌビディアは求人にあたり、文言の確認を慎重に進める。
確認するのは人工知能(AI)だ。シリコンバレー企業の間にも「エンジニアは男性向き」「女性は力強いリーダーに向かない」といったアンコンシャスバイアス(無意識の偏見)がある。AIは文章にバイアスが潜んでいないかどうかくまなくチェックする。

「この募集文では女性差別ととられかねない。修正しなくては」――。ゲーム機器や自動運転技術などの開発で知られるエヌビディアは求人にあたり、文言の確認を慎重に進める。
確認するのは人工知能(AI)だ。シリコンバレー企業の間にも「エンジニアは男性向き」「女性は力強いリーダーに向かない」といったアンコンシャスバイアス(無意識の偏見)がある。AIは文章にバイアスが潜んでいないかどうかくまなくチェックする。

「この募集文では女性差別ととられかねない。修正しなくては」――。ゲーム機器や自動運転技術などの開発で知られるエヌビディアは求人にあたり、文言の確認を慎重に進める。

確認するのは人工知能(AI)だ。シリコンバレー企業の間にも「エンジニアは男性向き」「女性は力強いリーダーに向かない」といったアンコンシャスバイアス(無意識の偏見)がある。AIは文章にバイアスが潜んでいないかどうかくまなくチェックする。

2019/11/4 |日本経済新聞シリコンバレー、男社会の壁破れ AIが求人文言確認

自然言語を操る力をめきめきとつけているAIの効果的な使い方がこんなところにも普通にあるのかと気づかされました。^^;)

問いかけの技術

さらに一歩見込んで、他の人にどんな尋ね方をしたらより効果を期待できるものでしょうか。ワインバーグ氏は、「アウトサイダー」「インサイダー」を使い分けるというアイデアを提供しています。

組織内の物事をよく知っているという意味で、コンサルタントが提示した現状分析や課題解決方針が適切かを、昔からの状況に照らして吟味してくれるのがインサイダーです。一方、アウトサイダーには、新鮮で素朴、異なるレベルや異なる枠割・立場による視点から、思いがけない気づきをもたらせくれることを期待して聞きます。

ここでワインバーグ氏の経験談を簡単にご紹介します。ワインバーグ氏はITコンサルタントなので、このケースも、プログラマの生産性を上げることがテーマでした。ワインバーグ氏は、これまで組織が試した施策や、これから試したい施策の検討の抜け漏れを確認したいと思いました。

しかし、その組織では、プログラマの一人でもほしいと言いだしたものは買うか作るというのが不文律だったので、それ以上、プロジェクトメンバ内からアイデアも出ないし、これで抜け漏れが無いか確認もできない状態にまで煮詰まってしまいました。

ワインバーグ氏は、らちが明かない会議に新鮮な空気を取り入れようと休憩をはさむことにし、トイレに行く途中で清掃員のおじさんに、この職場に足りないものは何だろう、と気楽に問いかけたそうです。おじさんは、こう答えました。

「黒板を拭いてくれ、っていわれたことがないねえ。」

その組織では、どの会議室の黒板(現代風に言えばホワイトボード)も、所狭しと書き連ねられたプログラムコードやアイデアで埋まっており、決まって「消すな」という注意書きが書かれていました。書いては消す、考えてはアイデアを更新する、という思考作業に同時並行的にそれらの黒板は活用されていない、ということが、アウトサイダーの口から明らかになったのです。

この経験談ひとつで、いかに、「ダイバーシティ」「インクルーシブ」が組織に大切か、お分かりいただけたかと思います。その組織は、およそ考えられる限りのどんなツールにもこと欠いていませんでしたが、ツールの有効な利用を保証する手順にこと欠いていた、ことが明らかになったわけです。

異文化を調べる勇気と効用

清掃員のおじさんに、プログラマ組織の立ち居振る舞いについて、気がついたことは何かを聞くという行為は、アウトサイダーに、組織内(インサイド)に欠如しているものが何かを調べるための有効な手段のひとつです。清掃員はプログラマとは異なる文化の中で生きているので、プログラマには見えないものが見えるのは当たり前なのです。

あらゆる組織とは、その構成員同士の間で成立する「コンテキスト(context:文脈)」の中でコミュニケーションをするのが、脳の負担を最小限にする効率的なやり方だからです。

もし、違う文化を見つけ出すことができたならば、今調べている文化と比較することで、今調べている文化(組織)がどのような特徴を持っているのか、明らかにすることができるわけです。無脊椎動物が存在しているから、脊椎動物の特徴が他と比べて分かるわけです。

外部のコンサルタントを雇う価値があるのは、この自組織内のコンテキストに染まっていない人からの、中立的でかつ自然な形による客観的な指摘を得ることだけにある、といっても過言ではないと思っていますが、いかがでしょうか?

ちなみに、下記は、経営コンサルティング現場で常に考えている私の思考態度です。

ものごとを俯瞰的に分析したい → 質問力を鍛える → 他人を利用する → 同時に自分の限界がどこかをわきまえる

そういう意味で、傾聴の心構えを持つのと、自分の限界に注意を払うことは、同じ姿勢・態度の表裏ということができます。

関連記事 コンサルタントの秘密 – 技術アドバイスの人間学(43)そこに無いものを見る方法① - 自分の限界に注意を払う

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