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コンサルタントの秘密 – 技術アドバイスの人間学(43)そこに無いものを見る方法① 自分の限界に注意を払う

経営コンサルタントのつぶやき_アイキャッチ 本レビュー
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自力で課題を発見するためには

このシリーズは、G.W.ワインバーグ著『コンサルタントの秘密 - 技術アドバイスの人間学』の中から、著者が実地で参考にしている法則・金言・原理を、私のつまらないコメントや経験談と共にご紹介するものです。

外部リンク  G.W.ワインバーグ氏の公式ホームページ(英語)

大変興味深い話なのですが、ワインバーグ氏には自覚しているコンサルタントとしての急所があるというのです。もっと興味深いことに、その急所を救うための手立ても分かっていて、それを実践しているというのです。では、それをひとつずつ丁寧に見ていこうではありませんか。

ワインバーグ氏によると、コンサルタントとしては、自力で課題を発見することができるセンスが必要なのだそうです。これまで気づかなった課題を見つけ出すことを、「そこに無いものを見る方法」として、3つの術(すべ)があると解説しています。

  1.  自分の限界に注意を払う
  2. 他の人を利用する
  3. 洗濯物リストを使う

自力で課題を発見することの大切さ

具体的な術の話に入る前に、ワインバーグ氏が「欠如しているものに気づく能力」すなわち、「そこに無いものを見る能力」を養うことの大切さを確信した実体験が生々しく取り上げているので、そちらも簡単にご紹介しておきたいと思います。

コンサルタントがクライアントの現場に入って気づけるようになっていた方がいい変化や違和感の例

  1. その組織に女性が一人もいない
  2. その組織に35歳から50歳までの人がいない
  3. (クライアント側の)プロジェクトリーダーが退社してしまった人たちについて語るとき、残念そうでない
  4. 誰も社内研修について言及しない
  5. 仕事場に私物が一切置かれていない
  6. 新しいITシステムが提供する機能をだれも使ったことが無い
  7. プロジェクトの納期について誰も触れたがらない

ある一部の方にとっては、これらの事例は「あるある」かもしれません。^^;)

このような場面に出くわしたとき、ワインバーグ氏が、これらの状況に気づけたからこそ、彼のコンサルティングを助けたのだ、と語っているのを読んで、私は大いに賛同する他にできませんでした。

コンサルタントはよく状況や人間を観察する力や洞察力が必要と言われたりもします。まあ、私はできることしかできないので、自分が完璧ではないということは十分承知しています。私もワインバーグ氏が、このような一見してそれとはわからないことに気づけるようになる工夫については、それを今日からでも実践してみたいと思うものばかりです(実際に本書を最初に目にしたときから実践していますが)。

自分の限界に注意を払うとは

ワインバーグ氏は、「誰も助力を頼んできていない場合、とかくそれ(助力を依頼されること)に気づかない」という欠点があったと述懐しています。本書の初版が日本で出されたのが1990年なので時代を感じさせますが、次のような対応策をとったと記述されています。

注)Windows95は1995年発売でしたので、皆さんが知っているGUI(Graphical User Interface, グラフィカル・ユーザ・インターフェース)として当たり前の、アイコンをクリックしたり、マウスでドラッグしたりして、という操作は、この当時はまだ一般的ではなく、コンピュータは恐ろしく敷居の高い代物でありました。ましてや、スマホのスワイプやタップなんて。^^;)

ワインバーグ氏は自分の欠点があらかじめ分かっているので、もし、誰かから仕事の依頼したい旨の電話があった場合、必ず相手に簡単な依頼内容の確認ができる手紙をください、とお願いするそうです。また、クライアント先に訪問して、相手と会話している際であっても、その場で口頭にて何かを依頼されたとして、必ずその要請内容をメモにまとめてもらうことをお願いするそうです。

さらに、会話の中で即答が求められたときですら、ワインバーグ氏が思いついた回答をいったんノートに書きだして、そのノートを相手に読んでもらって、文字情報として確認を依頼するのだそうです。

人はたいていの場合、相手の要請を正しく聞き取っていないというコンサルティング業界の真理はこの頃から知られていたのですね。面倒くさいですが、一度文字に起こしてお互いに読み合せすることで認識の齟齬を防止するこのTipsは現代でも通用する工夫だと思います。

一度あることは二度目もある

「二度あることは三度ある」。いいえ、自分の身の上に起きた、自分の脳のクセというのは、一度その存在が分かれば、必ず二度目が訪れます。

ワインバーグ氏が緻密なロジックでこれを説明してくれているので、逆にこの前提説明がまどろっこしく感じるのでもありますが、次の言い回しは、私が気に入っているレトリックのひとつです。

コンサルティング業務がなされる状況は、その現場現場ごとに異なるものなので、欠けているものに関する一般法則を立てることは難しいです。しかし、コンサルティング業務のどんな現場でも決して欠かしてはいけないものが一つだけあります。

あなたが、前回のコンサルティング現場で、仕事中にXとYとZを見落としたとしたら、「ボールディングの逆行原理」により、あなた自身にそのXとYとZを観察する力が欠けていたからです。そして、あなたがその観察力の欠如について、何らかの手を打たない限り、おそらく、あなたは、次のコンサルティング現場でも、同様の見落としをするはずです。

さらに、ワインバーグ氏の筆舌は滑らかになり、彼がお勧めする技法は価値が高いと彼自身は考えているけれど、読者全員にとって必ず役立つとは限らないかもしれない。読者のクライアントが気分を害するという可能性すらある。だから、ワインバーグ氏は、個々の技法をお勧めするつもりはない。むしろ、下記のような一般的な技法をお勧めしたい。こういうレトリックで紹介された文章とは、

自分がたいていのとき見落とすのは何かを調べて、それを自分がまた見落とさないようにするための道具を設計しよう。

G.W.ワインバーグ著「コンサルタントの秘密―技術アドバイスの人間学」(P83)

ワインバーグ氏の著書が好まれる理由は、書いてあるテーマが興味深いことはもちろんのこと、具体的な事例も豊富で分かりやすい上に、このようなレトリックのすばらしさも多分に影響しているのでしょう。彼の文章には、高校数学で習う集合論(必要十分条件など)や背理法など、数学的バックボーンが十二分にあるんだろうなあ、と思わせるレトリックが数多く、そういう視点からも楽しめる著作となっています。

道徳的な「謙虚であること」のお勧めではない

多くの先人の尊いお言葉には、次のようなものがあります。

「無知の知」または「不知の知」

(ソクラテス)

子曰く、由や、汝に知ることを誨(おし)えん乎、之れを知るを知ると為し、知らざるを知らずと為す、是れ知る也

(孔子『論語』)

たとえ愚かな者であっても、自分は愚かであると知っている者は賢者である。愚か者であるのに自分は賢いと思い込み、そのように振る舞う者がいたら、それこそ本当の愚か者といわなくてはならない

(釈尊『発句経』)

別に、道徳的見地から、謙虚に何も知らない態度を示して、知者の傲慢さを他者に与えないように、という教訓めいたものは、これらの金言には一片もありません。いずれも、ワインバーグ氏の「自分の限界に注意を払う」のと同じく、気づけないことに気づける自分になるための知恵なのです。実利のある態度の効用を説くものです。

この人類にとって公共財ともいえる金言たち。大切にしていきたいものです。

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