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コンサルタントの秘密 – 技術アドバイスの人間学(49)三の法則 - 思考の手綱をゆるめてみる(その3)

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批判的精神を養うための5つの知恵

このシリーズは、G.W.ワインバーグ著『コンサルタントの秘密 - 技術アドバイスの人間学』の中から、著者が実地で参考にしている法則・金言・原理を、私のつまらないコメントや経験談と共にご紹介するものです。

外部リンク  G.W.ワインバーグ氏の公式ホームページ(英語)

今回は、自分の内面深くに思索をめぐらすというより、他人からのメッセージを批判的精神で検証し、裏に潜む意図を十分に理解し、表層に現れている問題の真因を探り当てるというものです。

さて、思考の手綱をゆるめるために、我々は「三の法則」を用いて、自説が成り立たない条件や弱点を3つ挙げることで、批判的に自説を検証する視点を養おうとしていました。その批判的精神を涵養するために、次の5つの手段がありました。

  1. 類似性を探す
  2. 極限値に変えてみる
  3. 境界線の外に目を向ける
  4. 説明の顔をしたアリバイに注意する
  5. 情緒的不調和の原因を探る

これまで、「三の法則」とともに、「1. 類似性を探す」「2. 極限値に変えてみる」「3. 境界線の外に目を向ける」は説明済みですので、「4. 説明の顔をしたアリバイに注意する」を見ていくことにしましょう。

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推理ドラマの真犯人のアリバイに注意するよりも

TVの2時間ドラマで殺人事件が起きたとき、手の込み過ぎた出来過ぎのアリバイがある人こそ真犯人である確率が高いことはよく知られていることです。一緒にドラマを楽しんでいる人の中で最初に犯人を言い当てることに喜びを感じるのなら、そういう視点をもってドラマを見るのがいいでしょう。そして、一緒にドラマを見ている仲間にこう告げるのです。「この人が犯人だと思うよ。だって、アリバイに手が込み過ぎてわざとらしいから」

あなたは、真犯人をすぐに探し当てる推理力の高い人間という評価を得るとともに、一緒に推理ドラマを見る仲間としては最悪の評価を得ることは間違いありません。

せっかくの推理力なのですから、TV視聴でその貴重な能力を費消するのではなく、もっと生産的なものに適用する方が人生が豊かになります。仕事でもプライベートでもいいので、とある説明を受けたとき、それが何か欠けているものに対するアリバイではないか、注視してみるようにしたらいいのではないでしょうか。そうした洞察力から知見は、推理ドラマの犯人捜しより、ずっとあなたの人生をよくしてくれると思います。

説明の顔をしたアリバイに注意する

ワインバーグ氏はユーモアを込めて、この説明のアリバイ問題を次のように紹介しています。

あるホテルに宿泊した際、備え付けのバスルームでシャワーを浴びようと扉を開けると、

お客様の安全のため、お風呂の段差にご注意ください!

という標識が壁にあったそうです。以前にそのホテルに宿泊したときにはなかったので、誰か別の宿泊客がバスタブから落ちた後、急遽、準備された注意書きである疑いが深いことは明らかです。

この標識が有している意味は、もちろん、宿泊客の安全に配慮するためのものであることは間違いありません。しかし、それ以上に、次に誰か別の宿泊客が同じような事故に遭い、ホテル側が訴えられないように、法律問題からホテルを守る意味のほうが強いとは感じませんか?

もし、ホテルが本当に宿泊客の安全性配慮を最優先にするのならば、そうした段差の大きいバスタブは最初から設置するべきではなかったし、一度事故が起きた時点で原因が段差になると気が付いたから、即刻改装工事をして、そもそも段差を解消すべきです。

私もビジネスホテル暮らしが長かったので、いろいろ経験させてもらいましたが、ビジネスホテルの場合は、ユニットバス方式を採用しているので、そのまま丸ごと取り替えることで、少ない工期でバスルームだけを取り替えることは簡単です。一室ずつ対応していけばいいので、ホテル全室を休業する必要もありません。

これは、ホテルが最初にすべきだった宿泊客の安全配慮義務を怠ったから取られた弥縫策にすぎず、しかも、宿泊客に注意義務を転換するような、ちょっとずるいやり方です。ホテルが物事をきちんと最初にやるべきことを当たり前のようにやることを怠ったことがもたらすうれしくない結果からホテルを守るための標識なのです。

あなたの仕事の中でアリバイを探す効果

ワインバーグ氏はITコンサルタントなので、企業のソフトウェア(業務アプリケーション)そのものや、そのソフトウェアの基準書やマニュアルを点検する仕事も引き受けます。とあるコンサルティングの依頼で、マニュアル見直しの仕事の依頼を受けたときのことです。

そのマニュアルに、奇妙な規則があり、それは製品コードを表すとある文字列の組み合わせを使用禁止にするものでした。それは、「AAA-」始まりの製品コードは追加してはいけないというものです。例えば、「AAA-001」「AAA-098」は使ってはいけなくて、「ABB-001」「CVG-999」は設定してもいいという感じです。

不審に思ったワインバーグ氏がその理由を追求していくと、そのソフトウェアを開発したチームが、プログラムの中で、「AAA-」始まりのコードを、特殊なプログラム制御用の変数に使用していたことが判明しました。

これは2つの意味で大きな罪です。ひとつは、ユーザにいらぬ配慮を強制すること。ユーザの使い勝手が悪くなることを、ユーザビリティが低くなる、といいます。ふたつは、保守性が悪くなること。ソフトウェアは必然的に改修が圧倒的に多くのケースで発生します。当初制作したチーム以外のメンバが適切に改修できるようになっていなければ、改修が別の不具合を新たに生み出すかもしれません。この状態は、保守性を損なっている、といいます。

最初の失敗が後々尾引いてを、屋上屋を架すようなルールや手順があなたの周りには必ず一つや二つぐらいきっとあるに違いありません。

アリバイ作りをしなければならなくなる理由

ここで、それでは後々にアリバイ作りをしなくてよい方法とは何かを考えてみることにします。そのためには、なぜアリバイが必要になるのかについて、今一度、深く考えてみましょう。

成文化された規則が、昔一度だけ起こった問題を、楽に片付けるために制定されるという例は多い。

G.W.ワインバーグ著「コンサルタントの秘密―技術アドバイスの人間学」(P92)

あつものりてなますを吹く

中国の古典「楚辞」にある言葉で、熱い吸い物で舌をやけどしたひとが、今度は生肉の刺身をふうふうしながら食べたことに由来するものです。

その規則が制定された事件そのものはやがて忘れ去られますが、その規則はそのままシステムや組織の中でしぶとく生き残って、また同種の問題が起きる危険が隠されていることを暗示してくれています。

ある書類の不備で大きな契約上の失敗が発生したので、以後は必ず承認者からレビューした旨の承認印をもらうようにした。承認者になり得る人は忙しい人ばかりなので、納期までに承認してもらうようにメールで自動通知機能をこしらえた。メール自動通知機能は、依頼者が日付をあえて指定しないと、書類そのものの納期がプリセットされてしまう。そこで、依頼者が承認期限を設定しそこなってもいいように、本来の納期の2週間前に承認依頼納期を自動セットするようプログラムを改修した。今度は、2週間のリードタイムでは間に合わない事案が増えてしまい、現場での書類仕事を効率化するために、代理承認機能を付加することにした。代理承認ができる人の条件は、、、、

はっきり言って、無限地獄です。^^;)

アリバイを発見したら

まず、皆さんが仕事の中で「これは最初の設計者のミスによるアリバイではないか」と感じたら、徹底的に洗ってください。おそらく、同根の問題が裏に100個ぐらい潜んでいると思って間違いありません。

ハインリッヒの法則:
1つの重大事故の背後には29の軽微な事故があり、その背景には300の異常が存在する

「説明の顔をしたアリバイ」は、そのルール、システム、制度の弱点に間違いありません。ここで、改めて「三の法則」を思い出しましょう。

自分の計画を駄目にする原因が三つ考えられないようなら、思考過程の方に何か問題がある。

G.W.ワインバーグ著「コンサルタントの秘密―技術アドバイスの人間学」(P89)

「説明の顔をしたアリバイ」は、設計者の思考過程における弱点に違いありません。これを、他人のアリバイ探しに適用するのも大事ですが、もっと大事なのは、あなたの提案に対して、セルフチェックをすることです。

えっ、私が設計するシステムですか? 完璧に決まっているじゃないですか。だって、最初から、「これはアリバイです」と宣言してから納品しているので。^^;)

次回はようやく「⑤ 情緒的不調和の原因を探る」に辿り着きそうです。^^;)

みなさんからご意見があれば是非伺いたいです。右サイドバーのお問い合わせ欄からメール頂けると幸いです。メールが面倒な方は、記事下のコメント欄(匿名可)からご意見頂けると嬉しいです。^^)

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