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コンサルタントの秘密 – 技術アドバイスの人間学(50)三の法則 - 思考の手綱をゆるめてみる(その4)

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批判的精神を養うための5つの知恵

このシリーズは、G.W.ワインバーグ著『コンサルタントの秘密 - 技術アドバイスの人間学』の中から、著者が実地で参考にしている法則・金言・原理を、私のつまらないコメントや経験談と共にご紹介するものです。

外部リンク  G.W.ワインバーグ氏の公式ホームページ(英語)

ようやく、批判的精神を養うシリーズの最終回となります。今回は、「5. 情緒的不調和の原因を探る」を取り上げます。今回は、左脳よりも右脳も使って問題を解決しようというものです。頭でっかちの人は、ついつい見聞きする情報をロジックだけで解析しようとするものですが、人間相手の場合、時には「感情」が頭をもたげてくることもあるのです。

さて、思考の手綱をゆるめるために、我々は「三の法則」を用いて、自説が成り立たない条件や弱点を3つ挙げることで、批判的に自説を検証する視点を持つ必要があります。その批判的精神を涵養かんようするために、次の5つの手段がありました。

  1. 類似性を探す
  2. 極限値に変えてみる
  3. 境界線の外に目を向ける
  4. 説明の顔をしたアリバイに注意する
  5. 情緒的不調和の原因を探る

これまで、「三の法則」とともに、「1. 類似性を探す」「2. 極限値に変えてみる」「3. 境界線の外に目を向ける」「4. 説明の顔をしたアリバイに注意する」は説明済みです。

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いずれも、左脳的アプローチでした。「5. 情緒的不調和の原因を探る」は、右脳的直観力が必要とされます。さて、あなたは右脳と左脳のどちらを使ってコミュニケーションをしていますか。もし、自分がどちらの脳力に頼っているか知りたい人は次の記事もご参考ください。

合理的アプローチの限界について

ワインバーグ氏がコンサルティングの現場に足を踏み入れた時、しばしば次のように思うのだそうです。

依頼主が地団駄を踏み真っ赤になって、「合理的にやらなくっちゃ!」とわめくのに出会ったことがおありか。この種の、合理性への不合理な要求に出会うと、私は新鮮な提案をする勇気がなくなってしまう方だが、しかしそれはまた私に自分が問題の情緒的部分を見落としていたのかもしれない、ということを思い出させてくれる。

G.W.ワインバーグ著「コンサルタントの秘密―技術アドバイスの人間学」(P92)

まず大前提として、外部のコンサルタントが招聘される理由からわきまえておかないといけません。社内の優秀な社員の皆さんが一生懸命に、かつ合理的な方法で課題解決に取り組んでも、いいアイデアが出てこないから、コンサルタントに声がかかるわけです。

とするならば、のこのことコンサルタントが乗り込んでいって、「ロジカルシンキング」という(本当の意味で問題を斬れないことの象徴としての)木刀をブンブン振り回して、現状分析のセッションを繰り返しても、問題解決の糸口に辿り着けないことは多々あることは、想像に難くありません。

ですので、そういう場合は、合理的アプローチはやりつくされた可能性の方が高いので、高い報酬をもらうコンサルタントは、別のやり方を試す価値があるということになります。ひとつには、別のとるべき合理的アプローチが無いか、探してみる手口もあるはありますが、解決能力の高い順に試されているはずなので、残された手口は、実行に難題がある方法か、効果が薄いものしか残っていない可能性大です。

ここは、思い切って、むしろちょっと不合理なやり方を試してみませんか? というのが今回のメインテーマになります。

不調和の洞察について

人というものは、目の前に提示された問題が大きければ大きいほど、解決が難しければ難しいほど、みながみな「合理的」に振舞おうとしがちです。しかし、物事というものは、それを認知する人間側の心理状態の方に問題解決のヒントが隠されているかもしれないのです。

私は、デカルトやスピノザの「思惟する私が存在するという自己意識の直覚」という概念が結構お気に入りでして、客観的か主観的かの二元論にあまり興味がありません。この感覚をもっと実際的に分かりやすくワインバーグ氏が実体験をもって説明してくれています。

コンサルタントである彼は、最初に社内の関係者のヒアリング調査から問題解決の糸口を見つけようと試みます。そして、いつものようにヒアリングしている時に、次のようなことに気が付きました。

依頼主の一人が、「同僚との関係が大問題です」と彼に説明するのですが、その説明の仕方が実にリラックスした姿勢と声によるものだったそうです。次に、彼と上司の間の関係に話題を移されたとき、依頼主の一人がもじもじしはじめ、声には緊張の色が見え隠れしていました。しかし、発話されたセリフは「いいえ、上司との間には問題はありません」

この気づきを、ワインバーグ氏(実際には彼の同僚だった著名コンサルタントが使った言葉ですが)は、言い得て妙な表現で紹介しています。

言葉と音楽が合っていなかったら、そこに欠けた要素がある。

G.W.ワインバーグ著「コンサルタントの秘密―技術アドバイスの人間学」(P93)

依頼主に対するヒアリング調査において、欠けていたのは、使われている言葉と表現されている情緒の間の調和だったのです。コンサルタントにとって必要な素養というのは、この不調和をいかに効率的に感じ取ることができるのか、「何が欠けているのか」を見つけることができるのか、ということに尽きるのです。これをワインバーグ氏は「不調和の洞察」と名付けました。

情緒的要素に思いを巡らせてみる

口から発せられた言葉と、内心で感じている思いとがかけ離れている場合、その発話者の情緒的要素を分析してみる必要があります。残念ながら、私は心理学を大学で専攻していません。あくまで、必要に駆られて読んだ書籍による知識レベルなのですが、同種の指摘がなされている良書はたくさん出ています。

ワインバーグ氏のこの点に関する作法は大変参考になります。彼は情緒的要素をより効果的に見出すために、あえて、最初に感じとった不調和とか違和感が何であるかを口に出して、後は相手の出方をじっと観察して待つ、というものでした。

「上司の方とのすばらしい関係の話をされるとき、手を震わせておられるのに気づきましたが、、、、、。」

あえて不調和を解決しようとせずに、そして不調和を無理に解釈しようともせずに、単に相手の意識的な注意のもとに置いて、相手が自分の本当の感情を言ってくれるのをじっと待つのです。

ここで、参考までに、アメリカの心理学者レオン・フェスティンガーによって提唱された、「認知的不協和:cognitive dissonance」という概念もご紹介しておきます。

不協和の存在は、その不協和を低減させるか除去するために、なんらかの圧力を起こす。

複数の要素の間に不協和が存在する場合、一方の要素を変化させることによって不協和な状態を低減または除去することが可能

不協和を低減させる圧力の強弱は、不協和の大きさの関数である。

認知的不協和の度合いが大きければ、不協和を低減させる圧力はその度合いに応じて大きくなる。

具体例として、競馬などのギャンブルで、馬券をいったん購入(意思決定)したら、キャンセルすることができないので、馬券購入後は自分が選んだ馬の勝利に対して自信を深める、という「キャンセルできない選択肢の後悔を最小化する = 決定後の不協和」などが有名です。

音楽を聴く相手は誰?

ありがたいことに、ワインバーグ氏はこの手法をさらにコンサルタントやビジネスパーソンに使いやすいように拡張してくれています。

当然、依頼主(相手)から聞こえてくる不調和(音楽)は、依頼主の内面の直接窺い知ることができない情緒的状態がふとした瞬間に漏れた音を聞き逃さない、というは大事なことです。しかし、なかなか相手のふと漏らす音楽を聞き逃さない、というのは、それなりに訓練が必要です。

しかし、皆さんは、もう一人の音楽を聴くべき人を常に知っているはずです。それは、「自分」です。自分の場合、情緒的状態を知りやすく、多くの場合は、自分自身の音楽(情緒的不調和)には敏感なハズです。

この手法を組み合わせると、次のようなことも可能になります。依頼主とのインタビューをしているとして、なかなか相手の「音楽」を聴き取ることが難しい場合、依頼主のインタビューにおける受け答えを聴いた自分の感想なり、自分の印象をより感情的(右脳的)に捉えて、自分の中に沸き起こる違和感(情緒的不調和)を観察してみるのです。

依頼主が極めて冷静に、ロジカルに話しているのに、それを聞いているあなたの感情にさざ波が立ち、なにか、怒りとか悲しみとかが生じたとしたら、それは、相手の話の中に何らかの「情緒的不協和」が潜んでいる可能性がないか、探知能力を磨くことにつながるのです。

これをワインバーグ氏は次のようにまとめてくれています。

「ブラウンのすばらしき遺産」
言葉は役立つことも多いが、音楽に耳を傾けることはつねに引き合う。自分の心の中の音楽は、特にそうだ。

G.W.ワインバーグ著「コンサルタントの秘密―技術アドバイスの人間学」(P94)

話はぐるっと一回りして、相手をよく知るには、自分自身を知ることが大事で、課題解決の腕を上げるには、自分自身の内心に欠けているものを見出すことが早道だということです。これが、「三の法則」を用いて、自分の建策の誤りを発見するための「批判的精神を養うための5つの知恵」のオオトリなのは、十分に理解できるのでありました。^^)

(おまけ)
よって、人間が抱える問題というのもは、すべて人間関係にもとづくものだとする「アドラー心理学」も、人間関係に悩む自分の心と向き合うことが大事という意味で、今回のメインテーマとつながっています。こちらも合わせて目を通されることをお勧めします。

みなさんからご意見があれば是非伺いたいです。右サイドバーのお問い合わせ欄からメール頂けると幸いです。メールが面倒な方は、記事下のコメント欄(匿名可)からご意見頂けると嬉しいです。^^)

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