■ (続)敵軍における各種の兆候から、意図や実情を汲み取る!
第9章44節の続き。
13.敵兵の窮状を知る
兵士が杖にすがってやっと立っているのは、敵兵が飢えて衰弱しているからです。
水汲みにやってきた軍属が、自ら真っ先に水を飲むのは、敵兵が飲水に渇いているからです。
進撃の利益を知りながら進撃してこないのは、敵兵の体が疲労し、精神が倦んでいるからです。
多数の鳥が群れ止まっているのは、すでにその兵営に敵兵がいないからです。
夜中にお互いに呼び交わす声がするのは、敵兵が怯えて仲間の所在を確認するからです。
14.士気の低下を知る
軍営の中が騒がしいのは、敵将に兵士を統率するだけの威厳が失われているからです。
旗指物が動揺しているのは、敵軍の戦列が混乱しているからです。
監督官が兵士を叱りつけているのは、敵兵の士気が下がり、だらけているからです。
軍馬に兵士用の穀物を与え、輜重用の牛を殺して兵士に肉食をさせ、兵営に水瓶もぶら下げられておらず、兵士たちが野外にたむろしたまま幕舎に戻ろうともしないのは、追い詰められて死にもの狂いになっているからです。
15.忠誠心の低下を知る
ねんごろに物静かな口調で上官が兵士たちに語りかけているのは、部下の兵士たちの心が軍の上層部から離れているからです。
やたらに恩賞を出しているのは、兵士たちの士気の低下に苦しんでいるからです。
やたらに刑罰を科しているのは、疲れ果てて兵士たちが命令に服さなくなっているからです。
→始めは兵士を粗暴に扱っておきながら、後になって兵士たちの離反を恐れるというのは、指揮者の配慮が粗暴で足りないことの証左です。
16.駆け引きの裏を知る
使節が出向いてきて贈り物を差し出して謝罪するのは、しばらく休戦をして軍隊を休息させたいからです。
→敵軍がいきり立って自軍の正面に突進してきながら、手前で止まったままいつまでも合戦しようとせず、かといって自軍の正面から撤退もしないときは、必ず慎重にその相手の様子を観察しなければならない。
(出典:浅野裕一著『孫子』講談社学術文庫)
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前節に引き続き、戦場で敵軍の観察を怠るな、という戒め集になります。
現代ビジネスにそれらの具体的観察ポイント自体が有効であるとは決して言えないのですが、当事の戦場に思いを馳せた時、孫子の観察眼の鋭さ、描写の生々しさについては、その高い水準を思わせるに十分でしょう。
孫子は心理戦を上手に戦うことを進めています。現代ビジネスにおいても、従業員の士気の高さや忠誠心のレベルについて、顧客サービス(接客など)の品質や、提供製品の製造品質(失敗コストや予防品質コストは結局高くつく)の低下は、企業業績に大きく響くところです。コンペチターの社員の様子を窺い知ることができれば、その会社の従業員満足度のレベルが分かります。従業員満足度が低いと、それが顧客サービスの品質低下につながり、顧客満足度が下がります。顧客満足度が下がると、企業業績が落ちます。
それは、あたかもBSC(バランスト・スコアカード)におけるKPI管理を行う場面で、従業員満足度が時間差で、財務的業績の悪化(もしくは改善)を指し示す先行指標になり得る、という現代ビジネスにおける経営管理の要諦を既に、古代中国の戦場で孫子は十分に理解していたとも言えるでしょう。
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