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■ なぜ企業の成長性を気にするのか

管理会計(基礎編)
「成長性分析」のお話をこれからするのですが、まず、何のために企業の成長性を財務数値から確認したくなるのでしょうか。この領域の指標にご興味をお持ちの方は、一度、自分の胸に手を当てて考えてみて頂けないでしょうか。「今期の売上高が前年対比で30%増加(1.3倍)」と聞いて、この企業はなぜ大丈夫と安心できるのでしょうか?
人が企業の成長性を財務数値で確認したくなる動機は、大別すると次の2つになります。
【目的1】これまでの経営戦略(事業運営・施策実行)がうまくいっているかの検証
【目的2】将来どれくらい成長するか、その伸びしろと成長スピードはどれくらいかの予測

【目的1】について
うまく事業運営がなされていれば、自然に拡大再生産が行われるという経済観念からくる一般常識が分析対象となる企業の成長性を確認したいと思わせます。つまり、「増収増益」はうまく経営した証拠、というわけです。
【目的2】について
たとえば、投資家などは、投資対象の吟味のため、投資候補の企業が投資した後、どれくらい成長して利益をもたらしてくれるのか、複数の投資候補企業から1社を選別するために、成長の可能性が一番高い企業を言い当てたい、という動機からというわけです。
それぞれ、動機が不純とか、分析目的をはき違えている、と言いたいわけではなくて、「成長性分析」をそういう動機で行いたいのなら、それなりのふさわしいツールを使用する必要がある、そして目的に応じた指標の見方も心得ておく必要がある、ということを主張したいだけです。
次章以降、かいつまんでそのTips(こつ)を説明していきたいと思います。

■ 企業の成長性を見る目を養う

「対前年比率:25%」などの、成長性指標を見る際、心構えというか、どういう目線でその数値を眺めるのか、その数値から何を読み取ろうとするのか、観察者側にある程度の用意が無いと、表示された数字はただのアラビア数字と「%」記号の羅列にすぎません。
① 出てきた数値を、過去の大まかな経験知と比べてみる
② 出てきた数値を、業界平均と比べてみる
③ その会社の数年間の数値の変化を調べてみる

①について
経済発展が著しい新興国での販売実績や、市場拡大スピードが速いIT業界における売上高の趨勢値などと、成熟した国内市場での販売実績や、商品ライフサイクルが成熟期に入ったものをだけを取り扱って、残存者利益を享受している企業の売上高の変動幅は、明らかに、異なります。
前者は、年率何百パーセントの伸び率の世界かもしれませんし、後者は、前年対比でプラスになれば上出来なのかもしれません。どこが適正値なのか? それは成長性指標を見る立場の人が、数字を目にする前にある程度予見や仮説を持つ必要性があることを意味しています。
②について
自分なりの、成長性指標に対する経験知や仮説が無い場合は、手っ取り早く、分析対象企業が属する業界の平均値や、コンペチタ-との比較をお勧めします。ただし、これにも注意点があります。同じ業界に属している(と思っている)企業たちが、等しく同質的な市場競争をしているわけではない、という事実を踏まえて頂きたいと思います。
たとえば、トヨタ自動車の売上高の成長性をコンペチタ-と考えられている日産自動車や本田技研工業と比べることに、通常は何ら違和感がないかもしれません。ただし、トヨタは金融事業や住宅事業を持っています。ホンダは二輪車事業を持っています。トヨタと日産とでは、経済成長著しいアジアの新興国でのシェアがそもそも違います。
<参考>
新興国は、インフレ率や経済成長率、為替変動など、各国でマクロ経済環境が大きく変わります。名目値である会計上の売上高などの数字は、そうしたマクロ経済の影響を大きく受けてしまいます。そういう売上高を素で比較して、こっちの方が大きい、小さいと議論するだけでは、分析にかける時間はもったいないですよね。
成長性指標で、競合とどういう視点で比較検証したいのか、それによって、一般的に競合企業といわれる企業の数字を丸々持ってきて並べてみても、得られるインサイト(洞察)は少なくなってしまうかもしれません。
③について
たとえば、売上高の成長性を見たい場合は、「売上方程式」とか「レベニュードライバー」、利益の成長性を見たい場合は、「バリュードライバー」といった指標の組み合わせで、どのように売上や利益の成長要因が説明されるか、その分析対象会社の直近数字を各種指標にブレイクダウンして、時間軸に沿って並べて眺めるだけでも、その企業の戦略の優劣が透けて見えることがあります。
⇒「売上方程式

■ 単に前年対比を眺めていれば済む話ではありません

長い前置きになりましたが、それでは、実際にこれから解説する成長性指標を順に紹介しておきます。算式としての指標だけでなく、それをどういう形(グラフなど)で見るのが効果的か、そういう話もしていきます。
・足元の事業運営の良否を判断するために
1.前期比較分析
(1)実数
(2)差数
(3)成長率
① 対前年成長率(単年度成長率)
② CAGR(Compound Average Growth Rate)(年平均成長率)
(4)指数(基準年成長指標)
※ ここまで代表例で「年」を基準にしています
2.トレンド分析
(1)傾向分析(上記1.の指標を複数期間並列表示)
(2)前年同期比分析
(3)Zチャート
・将来の企業成長を予測するために
3.モンテカルロシミュレーション(本シリーズでは名前の紹介のみ)
4.回帰分析(本シリーズでは単回帰分析のみを扱います)
5.持続可能な成長率(sustainable growth rate)
次回」から具体的な手法の説明に入ります。お楽しみに!
財務分析(入門編)_成長性分析(1)理解の動機と表示方法の種別

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http://keieikanrikaikei.com/wp-content/uploads/2015/03/9313ed6460f7d58b8e62d9b27fdfc19d-e1428166718340.jpghttp://keieikanrikaikei.com/wp-content/uploads/2015/03/9313ed6460f7d58b8e62d9b27fdfc19d-150x150.jpg小林 友昭財務分析(入門編)■ なぜ企業の成長性を気にするのか 「成長性分析」のお話をこれからするのですが、まず、何のために企業の成長性を財務数値から確認したくなるのでしょうか。この領域の指標にご興味をお持ちの方は、一度、自分の胸に手を当てて考えてみて頂けないでしょうか。「今期の売上高が前年対比で30%増加(1.3倍)」と聞いて、この企業はなぜ大丈夫と安心できるのでしょうか? 人が企業の成長性を財務数値で確認したくなる動機は、大別すると次の2つになります。 【目的1】これまでの経営戦略(事業運営・施策実行)がうまくいっているかの検証 【目的2】将来どれくらい成長するか、その伸びしろと成長スピードはどれくらいかの予測 【目的1】について うまく事業運営がなされていれば、自然に拡大再生産が行われるという経済観念からくる一般常識が分析対象となる企業の成長性を確認したいと思わせます。つまり、「増収増益」はうまく経営した証拠、というわけです。 【目的2】について たとえば、投資家などは、投資対象の吟味のため、投資候補の企業が投資した後、どれくらい成長して利益をもたらしてくれるのか、複数の投資候補企業から1社を選別するために、成長の可能性が一番高い企業を言い当てたい、という動機からというわけです。 それぞれ、動機が不純とか、分析目的をはき違えている、と言いたいわけではなくて、「成長性分析」をそういう動機で行いたいのなら、それなりのふさわしいツールを使用する必要がある、そして目的に応じた指標の見方も心得ておく必要がある、ということを主張したいだけです。 次章以降、かいつまんでそのTips(こつ)を説明していきたいと思います。 ■ 企業の成長性を見る目を養う 「対前年比率:25%」などの、成長性指標を見る際、心構えというか、どういう目線でその数値を眺めるのか、その数値から何を読み取ろうとするのか、観察者側にある程度の用意が無いと、表示された数字はただのアラビア数字と「%」記号の羅列にすぎません。 ① 出てきた数値を、過去の大まかな経験知と比べてみる ② 出てきた数値を、業界平均と比べてみる ③ その会社の数年間の数値の変化を調べてみる ①について 経済発展が著しい新興国での販売実績や、市場拡大スピードが速いIT業界における売上高の趨勢値などと、成熟した国内市場での販売実績や、商品ライフサイクルが成熟期に入ったものをだけを取り扱って、残存者利益を享受している企業の売上高の変動幅は、明らかに、異なります。 前者は、年率何百パーセントの伸び率の世界かもしれませんし、後者は、前年対比でプラスになれば上出来なのかもしれません。どこが適正値なのか? それは成長性指標を見る立場の人が、数字を目にする前にある程度予見や仮説を持つ必要性があることを意味しています。 ②について 自分なりの、成長性指標に対する経験知や仮説が無い場合は、手っ取り早く、分析対象企業が属する業界の平均値や、コンペチタ-との比較をお勧めします。ただし、これにも注意点があります。同じ業界に属している(と思っている)企業たちが、等しく同質的な市場競争をしているわけではない、という事実を踏まえて頂きたいと思います。 たとえば、トヨタ自動車の売上高の成長性をコンペチタ-と考えられている日産自動車や本田技研工業と比べることに、通常は何ら違和感がないかもしれません。ただし、トヨタは金融事業や住宅事業を持っています。ホンダは二輪車事業を持っています。トヨタと日産とでは、経済成長著しいアジアの新興国でのシェアがそもそも違います。 <参考> 新興国は、インフレ率や経済成長率、為替変動など、各国でマクロ経済環境が大きく変わります。名目値である会計上の売上高などの数字は、そうしたマクロ経済の影響を大きく受けてしまいます。そういう売上高を素で比較して、こっちの方が大きい、小さいと議論するだけでは、分析にかける時間はもったいないですよね。 成長性指標で、競合とどういう視点で比較検証したいのか、それによって、一般的に競合企業といわれる企業の数字を丸々持ってきて並べてみても、得られるインサイト(洞察)は少なくなってしまうかもしれません。 ③について たとえば、売上高の成長性を見たい場合は、「売上方程式」とか「レベニュードライバー」、利益の成長性を見たい場合は、「バリュードライバー」といった指標の組み合わせで、どのように売上や利益の成長要因が説明されるか、その分析対象会社の直近数字を各種指標にブレイクダウンして、時間軸に沿って並べて眺めるだけでも、その企業の戦略の優劣が透けて見えることがあります。 ⇒「売上方程式」 ■ 単に前年対比を眺めていれば済む話ではありません 長い前置きになりましたが、それでは、実際にこれから解説する成長性指標を順に紹介しておきます。算式としての指標だけでなく、それをどういう形(グラフなど)で見るのが効果的か、そういう話もしていきます。 ・足元の事業運営の良否を判断するために 1.前期比較分析 (1)実数 (2)差数 (3)成長率 ① 対前年成長率(単年度成長率) ② CAGR(Compound Average Growth Rate)(年平均成長率) (4)指数(基準年成長指標) ※ ここまで代表例で「年」を基準にしています 2.トレンド分析 (1)傾向分析(上記1.の指標を複数期間並列表示) (2)前年同期比分析 (3)Zチャート ・将来の企業成長を予測するために 3.モンテカルロシミュレーション(本シリーズでは名前の紹介のみ) 4.回帰分析(本シリーズでは単回帰分析のみを扱います) 5.持続可能な成長率(sustainable growth rate) 「次回」から具体的な手法の説明に入ります。お楽しみに!現役の経営コンサルタントが管理会計をテーマに情報発信します