■ ようやくグラフ(チャート)でCVP構造を可視化します!
前回まで、CVPの基本構造を数式モデルで延々説明してきました。数学が苦手な筆者が説明してきたので、分かりづらい解説になっているかもしれません。そこで、今回は、同じCVP基本構造をグラフ化(チャートで図示)して、視覚的に理解を深めてみようという趣旨の回になります。
恐らく、管理会計の中上級者の方なら、教科書で「CVP分析」「損益分岐点分析」の解説ページを開いて、下記のグラフ(チャート)を目にしていない人はいないでしょう。
では、グラフ(チャート)の見方を説明します。以後、本シリーズでは「チャート」に呼び名を統一しますね。
※ グラフ:互いに関係のある二つ以上の数量を図に描いたもの
※ チャート:情報の視覚的表示、図・表・グラフ等のこと(→こっちが広義)
・Y軸(縦軸)
売上金額、変動費、固定費、利益額といった、金額指標をみるためのもの
・X軸(横軸)
経営活動量、すなわちCVPのうちのV:Volume を示すもの。数式モデルでも解説した通り、販売活動でボリュームを表示することを決めた場合、「売上高」の場合は、売上金額、「売上数量(販売数量)」の場合は、売上数量で表示される。この違いは大事! 金額基準の場合は、円、ドル、ユーロなど、金額換算された貨幣価値を用います。数量基準の場合は、個、トン、メートル、ガロン、、、といった度量衡、SI単位などを用います。
・売上線
教科書には、問答無用で角度45°で書きなさい、と説明されていますが、理由まで記述しているものは少ないように思います。筆者が考えるところでは、これには3つ理由があります。
① 横軸の経営活動量に「売上金額」を採用した場合、45°で書かないと、Y軸とX軸とで、間尺が異なってしまう(1円当たりの長さが異なってしまう)
② 固変分解を最小二乗法(最小自乗法)で行った場合の、相関分析の作図上のお約束
③ 上記①②から、45°で記述した方が、視覚的に縦横の比率がそろうので、見た目で金額・物量の状態を把握しやすい
・固定費線
経営活動量(例えば売上高)がいくら変化しても、一定額しか発生しない前提のコストが固定費。だから、X軸に平行に引かれるのです。
・変動費線
ここでは、固定線に積み重ねて表記する作図法を採用しています。そもそも、変動費は、売上高(または売上数量)に比例的に発生するので、売上がゼロの場合はゼロ。売上が増えるにしたがって、同じ比率のまま増えていく前提(これが1次関数の意味)なので、固定費線とY軸の交点から、「変動費率」または「変動費単価」の大きさの角度で直線的に引かれます。ちなみに、45°は、ラジアンでいうと、約0.785。変動費率が40%の場合は、18°か、約0.314ラジアンで線を引いてください。
注)視覚的効果などを無視する、または経営活動量に数量基準値を採用している場合には、必ずしも、売上線が45°でなくてもいいので、変動費線の角度は、売上線の角度と作図するチャート内での相対的バランスだけで設定しても構いません。要は、自分で使う分なら目分量でいいということ。
・損益分岐点
ここまで、損益分岐点の内容説明をしていないのですが、視覚に訴えれば一目瞭然でしょう。損益分岐点とは、黒字でも赤字でもない収支トントンの場所。つまり、売上高と総費用(変動費と固定費の合計額)が一致するところ。それゆえ、上記チャート内で、固定費線の上に積上げられた変動費線と売上線が交差する点、これが損益分岐点、ということになります。
よく間違われるのは、「損益分岐点」から垂線を下して、Y軸と交差した点を「損益分岐点」と呼ぶこと。こう記述してある教科書もあるくらいなのでビックリなのですが、Y軸が「売上高」ならば、このY軸との交点は、「損益分岐点売上高」、Y軸が「売上数量(販売数量)」ならば、「損益分岐点売上(販売)数量」と呼ぶのが正解。
■ チャート作図法 「金額ベース」と「数量ベース」の違いに注意!
数式モデルでうるさく言った2つの手法の根本的な意味の違いは、チャート作図でも大事になります。さすがにここでは、経営活動量を「売上」に決め打ちでお願いします。
① 売上高ベース
(ポイント)変動費線の傾きは、「変動費率」である!
② 売上数量ベース
(ポイント)変動費線の傾きは、「変動費単価」である!
作図上の注意点として、変動費線の傾きの単位と、Y軸の計測単位の2つが意味するところをきちんと押さえておくことです。後から、実際の数字を代入していって、実現利益や損益分岐点を求めるのに、「単位」を間違ってしまうと、計算結果も間違ってしまいますので。
■ チャート法で「CVP分析」を実際にやってみる!
それでは、実際にチャートを使って、実現利益を計算してみましょう。使用するチャートは、売上高ベース(金額ベース)のものとします。
(設例1)
・実際売上高:2500
・変動費率:40%
・固定費:1000
のとき、実現される利益額を求めてみてください。
売上高と、固定費は絶対額で示されているので、まずは変動費を、変動費率から求めてみます。変動費率は40%と与えられているので、
実際売上高:2500 × 40% = 1000
よって、
実現利益 = 実際売上高 - 変動費 - 固定費
= 2500 - 1000 - 1000
= 500
これら与件の、もしくは計算結果として得られる値は、チャート上では、売上線上にプロットされる実際売上高点からY軸に垂線を下ろし、それぞれ変動費線、固定費線、Y軸との交点からなる線分の長さで表現することができます。筆者のような数学ダメ人間でも、このチャートがあれば、なんとか利益や費用を計算することができそうです。
ちなみに、上記のチャートは少しいたずら心を出して描いています。売上線や変動費線は、実際売上高点から下される垂線(チャート上は黒の点線で表記)までで打ち止めになっていますが、固定費線だけ、点線を超えて右方に伸びています。
Y軸は経営活動量を示し、このチャート上では、売上高で表されています。それゆえ、売上線や変動費線はここまでしか伸びることができません。実際売上高より先の方に変動費が発生することは、このモデル上は絶対にありません。しかし実務上では、直接材料費等は、買い貯めて、在庫する場合があります。こうした直材費のうち、在庫に回った分はこのモデル上では相手にしません。だって、経営活動量(ボリューム)を表す代理変数に「売上高」を採用したから。直材費の在庫増減は、直接的に売上高に無関係ですので、このモデルでは一切無視されます。
一方で、固定費の方は、売上高がいくらになろうと、構わずに一定額が発生するという前提でこのCVP分析モデルを構築しているので、固定費線は永遠に続きます。なんなら、Y軸上で経営活動量がマイナス値を取っていても、このモデル上では一定額だけ発生していると仮定します。これが、前々回にご説明した、<CVP分析が有効である前提条件>でこのCVP分析モデルの正確性に対する疑問点を生じさせるポイントになります。まあ、そうした異常な状態は、そもそもCVP分析の担当範囲外です。そういう割り切った世界ならこそ、こうしたシンプルな分析手法が有効性を発揮するというものです。
■ ここまで来たら、チャート法で「損益分岐点」を出しておきますか!
前章の設例を一部改変して、損益分岐点を求める問題にしてみましょう。
(設例2)
・変動費率:40%
・固定費:1000
のとき、損益分岐点売上高を求めてみてください。
すみません。これはちょっと計算しなければならず、チャートを眺めているだけで、損益分岐点売上高:1667 がふっと浮き出してくることはありませんでした。(^^;)
こういう時は、数式モデルを使います。金額ベースのモデルを思い出してください。
売上高 = 変動費率 × 売上高 + 固定費 + 利益 なので、
この式の売上高に、「損益分岐点売上高」という名前を付けて、
損益分岐点売上高 = 40% × 損益分岐点売上高 + 1000 + 0 (←だって、利益がゼロなのが損益分岐点売上高だから)
(1 - 40%)× 損益分岐点売上高 = 1000
損益分岐点売上高 = 1000 ÷ 60%
≒ 1667
検算で、変動費を求めてみると、
変動費 = 40% × 損益分岐点売上高
= 40% × 1667
≒ 667
どうです? チャート上の表記と一致したでしょう。
ここまで、3回の連載で、みなさんは、CVP分析の基本モデルを4つ学ぶことができました。
(1)数式モデル
① 金額ベース
② 数量ベース
(2)チャートモデル
① 金額ベース
② 数量ベース
この4つを武器に、後は、縦横無尽に、変動費と固定費と売上高をバッサバッサ斬り倒して、損益分岐点や目標売上高をいとも簡単に導き出してください。
⇒「CVP分析/損益分岐点分析(1)イントロダクション - CVP短期利益計画モデル活用の前提条件について」
⇒「CVP分析/損益分岐点分析(2)基本モデルを理解する - 数式モデルの成り立ちについて」
⇒「CVP分析/損益分岐点分析(4)チャートモデルを味わい尽くす - ビジネスモデル分析や利益モデリングを試みる!」
⇒「CVP分析/損益分岐点分析(5)変動費型モデルと固定費型モデルの違い - 決算短信における業績予想の修正のカラクリ」
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