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■ 自社株買いは単なる株価操作か

経営管理会計トピック
上場企業の2014年度上期(4~9月)の自社株買いが、1兆8500億円と半期で08年度上期以来6年ぶりの多さになったそうです。

2014/9/23付 |日本経済新聞|朝刊
 自社株買い高水準 上期、6年ぶり 資本効率を重視

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます
記事では、

「前回ピークの08年上期(略)はリーマン・ショックの局面で、株価下落に歯止めをかけるのが主な目的だった。これに対し足元では、株主還元強化や自己資本利益率(ROE)向上につなげる自社株買いが目立っている」
とありますが、08年度も今回も株価向上が狙いとしか思えません。最近の紙面上の報道では、、、

■ 自社株買いに積極的な経営の意思を見る

自社株買いの効果として、確かに「一株当たり利益の上昇」→「一株当たりの投資価値上昇」→「株価上昇」という流れになる蓋然性が高いと思われます。しかし、優秀な経営者はもっと経済合理的に自社株買いをしているのだと解釈しているのは筆者だけの思い込みでしょうか?
管理会計トピック_自社株買い 
上表をご覧ください。
①現在、事業に投下している資産が500、余剰資金が100ある状態で、当期純利益を50だけ獲得している状態
②余剰資金を使って自社株買いすることで、余剰資金を株主に返却した状態
③使用資産ベースのROAが10%だが、余剰資金を無駄に寝かしておくわけにはいかないので、1%の利益率しかリターンのない事業に余剰資金を追加投資して、当期純利益を51に増やした状態
筆者の見解からすれば、マイナスの利益率にならない投資案件ならば、その投資を実行すれば、ROEは上昇させることができます。しかも、ビジネスも広がり、将来の成長のネタを見つける機会も増えると思うのですが、、、
しかし、自社株買いの効果には勝てませんが、その手を使ってしまってはプロの事業者・経営者としては負けではありませんかね???

■ それでも、経営者が追加投資を選択しない理由

上記で、1%でも(マイナスでない限り)リターンが望めるなら、利益額もROEも増えることを簡単なモデルで説明しました。しかし、経済の実態はもう少し複雑なようです。
下図は、「法人企業統計調査」から全産業の「現金・預金」「純資産」の10年分の時系列データをグラフにしたものです。
経営管理会計トピック_法人企業統計_現金・預金 
経営管理会計トピック_法人企業統計_純資産 
キャッシュが積み上がるとともに、純資産(自己資本)も増えていっていることが手に取るようにわかると思います。これは、日本の企業全体が事業拡大のための投資を積極的に実施せず、内部留保をせっせと貯めている状況を表しています。そんなに、投資機会が見つからないのでしょうか?少しでもプラス(たとえ1%でも)なら利益額もROEも上昇するはずなのに、、、
下図は、「総務省統計調査」から全品目平均の「消費者物価指数(CPI)」の10年分の時系列データをグラフにしたものです。
経営管理会計トピック_総務省統計調査_消費者物価指数(CPI) 
ここからわかるように、「デフレーション」がずっと進行していることが分かると思います。
「デフレ」とは、簡単に言うと、「物価が下がる」つまり、相対的に「持っている現金の価値が上がる」ことを意味しています。
そうです。
企業は、キャッシュをB/Sに持っているだけで、何らリスクを負って新規事業に投資しなくても、利益が上がっていたのです。この場合、会計ルールによる損益計算をベースとした「利益」でなく、「企業価値」と言い換えた方がよいかもしれません。FY03からFY12までの10年間でCPIが1.2ポイント下がっています。年利とか複利とか難しく考えなくても、たった1%のリターンしか望めない投資案件より、キャッシュをそのまま持っていた方が得になることは火を見るよりも明らかであります。
何もしないことが企業経営のためになる。
「動かざること山の如し」
「デフレ」って本当に怖いですね。「アベノミクス」による経済政策が成功して「デフレ」を脱却することを願うばかりです。

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小林 友昭経済動向を会計で読む■ 自社株買いは単なる株価操作か 上場企業の2014年度上期(4~9月)の自社株買いが、1兆8500億円と半期で08年度上期以来6年ぶりの多さになったそうです。 2014/9/23付 |日本経済新聞|朝刊  自社株買い高水準 上期、6年ぶり 資本効率を重視(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます 記事では、「前回ピークの08年上期(略)はリーマン・ショックの局面で、株価下落に歯止めをかけるのが主な目的だった。これに対し足元では、株主還元強化や自己資本利益率(ROE)向上につなげる自社株買いが目立っている」 とありますが、08年度も今回も株価向上が狙いとしか思えません。最近の紙面上の報道では、、、 ■ 自社株買いに積極的な経営の意思を見る自社株買いの効果として、確かに「一株当たり利益の上昇」→「一株当たりの投資価値上昇」→「株価上昇」という流れになる蓋然性が高いと思われます。しかし、優秀な経営者はもっと経済合理的に自社株買いをしているのだと解釈しているのは筆者だけの思い込みでしょうか?   上表をご覧ください。 ①現在、事業に投下している資産が500、余剰資金が100ある状態で、当期純利益を50だけ獲得している状態 ②余剰資金を使って自社株買いすることで、余剰資金を株主に返却した状態 ③使用資産ベースのROAが10%だが、余剰資金を無駄に寝かしておくわけにはいかないので、1%の利益率しかリターンのない事業に余剰資金を追加投資して、当期純利益を51に増やした状態 筆者の見解からすれば、マイナスの利益率にならない投資案件ならば、その投資を実行すれば、ROEは上昇させることができます。しかも、ビジネスも広がり、将来の成長のネタを見つける機会も増えると思うのですが、、、 しかし、自社株買いの効果には勝てませんが、その手を使ってしまってはプロの事業者・経営者としては負けではありませんかね??? ■ それでも、経営者が追加投資を選択しない理由上記で、1%でも(マイナスでない限り)リターンが望めるなら、利益額もROEも増えることを簡単なモデルで説明しました。しかし、経済の実態はもう少し複雑なようです。 下図は、「法人企業統計調査」から全産業の「現金・預金」「純資産」の10年分の時系列データをグラフにしたものです。     キャッシュが積み上がるとともに、純資産(自己資本)も増えていっていることが手に取るようにわかると思います。これは、日本の企業全体が事業拡大のための投資を積極的に実施せず、内部留保をせっせと貯めている状況を表しています。そんなに、投資機会が見つからないのでしょうか?少しでもプラス(たとえ1%でも)なら利益額もROEも上昇するはずなのに、、、 下図は、「総務省統計調査」から全品目平均の「消費者物価指数(CPI)」の10年分の時系列データをグラフにしたものです。   ここからわかるように、「デフレーション」がずっと進行していることが分かると思います。 「デフレ」とは、簡単に言うと、「物価が下がる」つまり、相対的に「持っている現金の価値が上がる」ことを意味しています。 そうです。 企業は、キャッシュをB/Sに持っているだけで、何らリスクを負って新規事業に投資しなくても、利益が上がっていたのです。この場合、会計ルールによる損益計算をベースとした「利益」でなく、「企業価値」と言い換えた方がよいかもしれません。FY03からFY12までの10年間でCPIが1.2ポイント下がっています。年利とか複利とか難しく考えなくても、たった1%のリターンしか望めない投資案件より、キャッシュをそのまま持っていた方が得になることは火を見るよりも明らかであります。 何もしないことが企業経営のためになる。 「動かざること山の如し」 「デフレ」って本当に怖いですね。「アベノミクス」による経済政策が成功して「デフレ」を脱却することを願うばかりです。現役の経営コンサルタントが管理会計をテーマに情報発信します