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セブン&アイ・ホールディングス 鈴木敏文前会長兼CEO退任まで(3)コーポレートガバナンスに関する論点整理① - 日本経済新聞まとめ

経営管理会計トピック 会計で経営を読む
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■ セブン&ホールディングス ハイブリッド型ガバナンスの功罪

経営管理会計トピック

前回とはうって変わって、一連の騒動の流れの復習というより、この騒動にかこつけて、新聞記者を含む有識者が様々に、コーポレートガバナンスについてコメント頂いておりますので、筆者独自観点で選抜したものをご紹介します。

注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

2016/4/13付 |日本経済新聞|夕刊 (十字路)ハイブリッド型ガバナンス

「セブン&アイ・ホールディングスの鈴木敏文会長が退任を表明した。傘下のセブン―イレブン・ジャパンの社長人事について、自身の案が取締役会で否決されたことがきっかけだ。これについて企業統治(コーポレートガバナンス)が機能した結果と評価する向きがある。」

こう評価される論拠は次の通り。

1)株主の経営参加権(共益権)が機能
発行済み株式のおよそ10%を握る創業家、米アクティビスト(物言う株主)のサード・ポイントも全体の35%程度を握る外国人株主を代表して、セブンの社長交代に懸念を表明したと見ることができ、株主の意見が人事権に反映され、カリスマ経営者の暴走を止めた

2)社外取締役の外部視点が経営に反映
指名報酬委員会の賛意を得られなかった人事案が、取締役会に諮られた。当然、2名いる社外取締役が反対した人事案である事実が、取締役会での過半数の賛成を得ることが出来なかったことに大きく作用している

 

■ アクティビストの経営参加権行使の正当性と功罪を考える!

上記1)について、アクティビストの人事への介入が正当でかつ、力の行使に問題が本当に無いか、落ち着いて考える必要があると筆者は考えています。

2016/4/12付 |日本経済新聞|朝刊 (GLOBAL EYE)米「物言う株主」、人事で存在感 投資家から幅広い支持

この記事では、米国企業におけるアクティビストが他の投資家の支持も受けて、取締役指名において、米調査会社シャーク・リペレントによると、米ではアクティビストが要求したメンバーによる取締役就任件数は15年に127。前年比20増え、過去最高になったといいます。

(下記は、同記事添付の米アクティビストが獲得した取締役数のグラフを転載)

20160412_米アクティビストが獲得した取締役数_日本経済新聞朝刊

「アクティビストが15年に獲得した取締役数127のうち117が、株主総会で争わず、アクティビストの要求に沿う格好で決着している。外部の目をより経営に生かす企業側の改善意欲もあるだろうが、委任状争奪戦に発展して、株主との敵対関係が明確になる事態を防ぎたいとの思いがあるとみられる。」

「「委任状争奪戦を回避できた」。米化粧品大手エイボン・プロダクツのチャン・ガルバト取締役会議長は胸をなで下ろした。アクティビストから経営体制変更を求められていた同社は3月28日、社外から取締役を1人招くと発表。同時にアクティビストは独自の取締役案を取り下げた。
実はアクティビストが15年に獲得した取締役数127のうち117が、株主総会で争わず、アクティビストの要求に沿う格好で決着している。外部の目をより経営に生かす企業側の改善意欲もあるだろうが、委任状争奪戦に発展して、株主との敵対関係が明確になる事態を防ぎたいとの思いがあるとみられる。」

つまり、会社側としては、委任状争奪戦(プロキシーファイト)にエネルギーを費やすよりは、アクティビストの言い分を通して穏便に済まそうという傾向が強くなってきたということです。しかし、これは裏を返すと、純然たる持ち株における賛意を正確に測っての意思決定(人事権の行使)となっていないことを示しています。

以下は同記事に記載のあるアクティビストへの批判的な意見が存在する米企業での事例紹介です。

「「飛行機を飛ばすのはヘッジファンドではなく、パイロットだ!」。今月6日、PARキャピタル・マネジメント、アルティメーター・キャピタル・マネジメントという2つのファンドが入居するボストンのビル群の前で、ユナイテッド航空のパイロットが抗議活動を繰り広げた。
両ファンドは合計でユナイテッドの株式7.1%を保有する。ファンド側は「過去数年の業績不振と、まずい意思決定に失望してきた」(アルティメーター)として、新たに取締役6人を選出するよう要求。一方、ユナイテッド側は別の取締役を3人選任する案を譲らず対立が深まっている。」

株式保有数%でその意思を通す力、その力の行使は合法的であることは間違いないのですが、その主張と手法は、

「株価が割安な企業を緻密に分析し、余剰資金の有効活用や不採算部門の分離など株主価値向上策を提案。「機関投資家などからも好意的に評価されている」(米系証券会社幹部)」

と評価され、

「アクティビストが標的にする米企業で構成した「スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)アクティビスト・インデックス」は年初から0.1%安。アクティビストの成績は良いといえない。投資先に対するトップ交代などの抜本的な改革要求は今後も増えそうだ。」

と歓迎する向きもあるようですが、アクティビストが主張する株主価値向上策は、企業そのものの中長期的な成長への投資を、現在の株式所有者への分配に回しているだけかもしれません。数%の所有比率でその他の株主の支持も集め、企業経営者に企業価値を株主価値へ移転することを歓迎するのは、短期的な視点の株主の支援があるからと考えざるを得ません。

『悪貨は良貨を駆逐する』

「株主価値向上」の美名の下、将来投資分の分配を引出し果実を得た後、将来を見通せる株主はそのままその会社を去ります(株式をさっさと売却します)。筆者は寡聞にして、バフェットが分配(現金配当)増や、目先の株価向上のために会社分割を要求した事実を知りません。機関投資家の支持もむべなるかな。

 

■ 「ハイブリッド型」って、何でも横文字で言えばいいというもんじゃない!

前々章の2)について、取り上げたコラム記事では次のように説明されています。

「セブン&アイは組織形態では監査役会設置会社に分類され、委員会は任意で設置されたものだ。任意の委員会だから経営への影響力や株主への説明責任などについて、あいまいなところが残る。
監査役会設置会社が社外取締役を交えた委員会を任意で設置する形態を、ハイブリッド型ガバナンスとも呼ぶ。効果をあげている会社は多いが、時に分かりにくく限界もある。カリスマ経営者の退任劇がそれを示した。」

会社法的な機関設置の趣旨に則る/則らないにかかわらず、鈴木氏は、任意機関の指名報酬委員会で、5時間以上にわたり、持論の新体制について説明を尽くしたと言います。その上で、社外取締役が反対の意を表し、賛意を得られぬまま取締役会にその人事案が付されることになりました。新聞報道では、指名報酬委員会で合意を得られぬ人事案を取締役会に回すのは強引だとか、一部では誤解があって不法行為であるとの批判の声が聞かれました。

アクティビストがプロキシーファイトをちらつかせ、任意機関であるはずの指名報酬委員会の賛意が得られないと批判される。合法か否かという視点より、なにやら空気感で「正義」「正当性」が語られる傾向があるのは頂けませんね。正々堂々と持論を主張し、それこそ法に則って、取締役会での過半数の賛意を得られないことを持って、代表取締役CEOとして信任を得られなかったとして退任する。鈴木氏の立ち居振る舞いのほうが、よっぽと筋が通っていると思いますが如何でしょうか。
(あくまで、コーポレートガバナンス視点での話であり、人事案の内容の適否を論じているのではありません。念のため)

 

■ セブン&アイは、日本型コーポレートガバナンス改革の最前線にいた!

この点については、次の解説記事も。

2016/4/24付 |日本経済新聞|電子版 何とか動いたセブン&アイのOS  編集委員 小平龍四郎

「セブン&アイ・ホールディングスが、コンビニ子会社の井阪隆一社長をグループのトップにする人事を決めました。鈴木敏文会長は全役職から退きます。一連の人事は日本の企業統治(コーポレートガバナンス)改革の現状をよく映しています。企業にとってのガバナンスをパソコンやスマホの基本ソフト(OS)にたとえる向きがあります。改良を重ねていたセブン&アイのOSも、何とか動きはしたようです。」

ではその仕組みが機能した流れをひとつ。

2014年2月に、日本版スチュワードシップ・コードが作成され、投資信託や投資顧問などを中心に短期間で200を超える機関投資家は対話を通じて企業の問題点を改善し、議決権を行使することで経営に規律を与えるということを始めます。さらに、2015年6月から適用が始まったコーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)は、企業に「2人以上の社外取締役の選任」や「株主との対話」を求めました。同コードは東京証券取引所の上場ルールに採用されたため、上場企業にとってはかなり強い強制力を持つようになりました。

そこで、セブン&アイを眺めてみると、当時の取締役会は15人。このうち4人は会社と関係の薄い独立社外取締役。コードが求める社外取締役の最低人数は「2人」のところ、外国人投資家は「最低3人」を要求することが多いですが、この基準も満たしたセブン&アイの外国人株主比率は約35%と、日本企業として高い部類に入ります。サード・ポイントは、3分の1超を握る外国人株主の代弁者となります。

そうした外国人投資家の目も意識し、セブン&アイは今年3月、任意の諮問機関である指名報酬委員会を設置していました。4人のメンバーには同社社外取締役でもある伊藤邦雄(一橋大学大学院商学研究科特任教授)と米村敏朗(元警視総監)の2氏が名前を連ね、委員長も伊藤教授が務めていました。

(下記は、同記事添付の日本の上場企業の会社機関設置分類グラフを転載)

20160424_任意の指名報酬委員会を設置する上場企業は多い_日本経済新聞電子版

「セブン&アイは監査役会設置会社の形態のまま、社外取締役が主導する任意の指名報酬委員会を設置するという、ハイブリッド型の統治形態です。日本企業は監査役会設置会社が圧倒的に多いのですが、そのなかで任意の指名委員会や報酬委員会を設けている会社も450社近くあります。いわゆる米英型とされる指名委員会等設置会社や、社外取締役を増やす目的で認められた監査等委員会設置会社より、ハイブリッド型が多いことが日本の特徴です。権限や機能がはっきりしないと批判されることもあった任意委員会が存在感を放った点でも、セブン&アイの人事劇は日本のガバナンスの今を映しています。」

ふっふっふっ。夕刊のコラム記事「十字路」のペンネームの正体のひとつがこれで分かってしまいました。(^^;)
筆者のこの発見の楽しみを共有できる人も日本経済新聞の愛読者に違いありません!

⇒「セブン&アイ・ホールディングス 鈴木敏文前会長兼CEO退任まで(1)発端はサード・ポイントの株式取得から始まった - 日本経済新聞まとめ
⇒「セブン&アイ・ホールディングス 鈴木敏文前会長兼CEO退任まで(2)指名報酬委員会から臨時取締役会までの流れ - 日本経済新聞まとめ
⇒「セブン&アイ・ホールディングス 鈴木敏文前会長兼CEO退任まで(4)コーポレートガバナンスに関する論点整理② - 日本経済新聞まとめ
⇒「セブン&アイ・ホールディングス 鈴木敏文前会長兼CEO退任まで(5)コーポレートガバナンスに関する論点整理③ - 日本経済新聞まとめ
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