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セブン&アイ・ホールディングス 鈴木敏文前会長兼CEO退任まで(4)コーポレートガバナンスに関する論点整理② - 日本経済新聞まとめ

経営管理会計トピック 会計で経営を読む
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■ セブン&ホールディングス 取締役会の投票方法

経営管理会計トピック

前回と同様、セブン&アイ・ホールディングスのコーポレートガバナンスがどのように機能したのかについて、新聞記者を含む有識者の様々なコメントに対して、整理をしていく第2弾になります。

注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

2016/4/16付 |日本経済新聞|朝刊 (大機小機)取締役会と秘密投票

「取締役会の採決は挙手で行うものだと思っていた。しかし、このほど大きな関心を集めた大手流通企業の重要子会社の社長人事を否決した取締役会の決議は、無記名の秘密投票だったと報道されている。会社法は採決の具体的な方法については何も規定していないから、取締役会が秘密投票で行うと決めれば法的にはそれでよいのかもしれない。」

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

会社法を確認しますと、

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(取締役会の決議)
第三百六十九条 取締役会の決議は、議決に加わることができる取締役の過半数(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)が出席し、その過半数(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)をもって行う。

2 前項の決議について特別の利害関係を有する取締役は、議決に加わることができない。

3 取締役会の議事については、法務省令で定めるところにより、議事録を作成し、議事録が書面をもって作成されているときは、出席した取締役及び監査役は、これに署名し、又は記名押印しなければならない。
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との記載があるだけで、定款で「記名」「無記名」を別途定めていない限り、その会社の裁量に任される問題です。ただし、上記の第2項にある通り、選任されるか否かの井阪氏については、「特別利害関係者」であると推定されるので、「棄権」票があるのは頷けますが、2票とは、もう一人の棄権者はだれか知りたいところです。つまり、株主からすると、取締役会は、上記第3項にもあるとおり、議事録がきちんと残され、誰がどの決議について賛成か反対の意思表示したのか、確認でき、取締役としての信認の根拠の一つとできることを前提としています。それゆえ、無記名投票というのは、合法の範囲内かもしれませんが、かなり企業統治上の問題があると言わざるを得ません。

同コラムでも次のように表現しています。

「取締役は株主総会で選ばれる。社長選任などの重要人事は、取締役会で決められる。重要人事は取締役会の権能のうち最重要なものの一つだ。従って取締役会での議論や投票行動は、投票権を有する個々の取締役にとっても、株主総会で取締役を選任する株主にとっても、選任対象者の資質を判断する上で重要な情報であるはずだ。」

「取締役会決議が秘密投票で行われるならば、取締役の任務遂行に関する重要な情報がわからなくなる。この点からだけでも秘密投票が常態化するのは良くないのだろう。ちなみに民主国家においては議員の選挙は秘密投票だが、議会での議員の投票行動は公開されるのが原則のはずだ。」

アメリカの上下院議員は、選挙に当たって、議会での投票率がひとつの議員活動の適正評価の基準になっています。さらに、重要な法案は特に、基本的には、どの法案に賛成したか、反対したかを公表し、政治的スタンスを明確にしたうえで、支持者の支援を得る仕組みになっています。

鈴木氏がこわいから、無記名投票でないと自分の意思を表明できない取締役は、その時点で任に耐えないものと思われても仕方ないと思います。逆に、真意を諮るために無記名にせざるを得なかったセブン&アイの取締役会は、その時点で、トップたる鈴木氏が後継者育成および経営チームのチームビルディングに失敗していると評価されても仕方のない事実でもあります。

 

■ セブン&ホールディングス 経営者トップ交代の難しさ

偉大な経営者であればある程、引き際というか、後進への道の譲り方が重要になってきます。過去の偉大な経営者の言葉から始まる次の記事をご紹介。

2016/4/18付 |日本経済新聞|朝刊 (経営の視点)鈴木氏退任後のセブン&アイ どうなる創業家ガバナンス 編集委員 石鍋仁美

「ダイエーの創業者、中内功氏は、ワンマン経営の弊害を問われると「僕はワンマン経営者ではない」と答えるのが常だった。「取締役会で皆が賛成すれば、いつでも解任されるんですから」。そう語る中内氏を目の前で見て、半ば冗談、半ば本気と感じたものだ。」

「「創業者のトップ交代は難しい」。こちらはセブン&アイ・ホールディングスの源流であるイトーヨーカ堂を創業した伊藤雅俊氏の言葉だ。13年前、本紙連載「私の履歴書」にそう記している。65歳で鈴木敏文副社長(当時)に社長を譲るつもりが、踏ん切りがつかぬまま68歳に。そこに総会屋事件が起こり、期せずしてトップ交代となる。
 「後継者問題には総会屋事件で結論が出た。ヨーカ堂はいわゆる創業家の後継問題に揺れることはなかった」と連載で振り返る。」

今回の鈴木氏の退任劇を指名報酬委員会や社外取締役など、昨今流行のスチュワードシップ・コード、コーポレートガバナンス・コードに従った、社外の視点を経営に生かす新しい企業統治の制度が機能した例だと評価する声が多いことも事実です。しかし、記者会見で鈴木氏が強調した引退の理由は、創業家の支持を失った点でした。つまり、コード、コードとうるさく言っても、ある一定程度の持ち株比率と創業家という重しは、それなりにコーポレートガバナンスを機能させる要素となり得るということです。

「経営者としては引退したが一定の株は持つ。大株主だが純粋な投資家とは違う。そんな創業家は、会社や経営者とどういう関係であるべきか。伊藤氏はかつて「漬物石」に例えた。ガバナンス(統治)の要との意味だと解説するが、同時に「その振る舞い方にお手本はない」とも語っている。」

「近年創業者や創業家メンバーが現役社長の去就に関わろうとする例が目立つ。「創業者(家)ガバナンス」との新造語も耳にした。カリスマ性を持つ先輩かつ大株主の判断に、薫陶を受けたトップが重みを感じるのは自然だろう。だが創業家の関与が皆の納得する「正当性」を備えるかどうかはまた別問題だ。」

そもそも、気鋭の経営学者:入山章栄氏の近著「ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学」でも、日本最高の後継社長は「婿養子」である、とし、ファミリービジネスの強みを説いています。

筆者の好きな歴史から例を取ってくると、ローマ帝国が最大版図を誇った五賢帝時代は、全てローマ皇帝の座を婿養子で代をつないでいきました。また、江戸時代中後半の名君と呼ばれているお殿様は、そのほとんどが婿養子でした。例えば上杉鷹山とか。だって、優れた資質を持っているから、そもそも名家の後継ぎとして選ばれているわけで。歴史的には当たり前のことなのです。

したがって、現代ビジネスに置き換えて、創業家ガバナンスについては、自動車業界でトヨタとかスズキとか、ポルシェAGとフォルクスワーゲン・グループを支配するのは、女系の傍流であるピエヒ家と併せたポルシェ一族。でもここはお家騒動が微妙に例の事件に絡んでいたりして、どうも好例とばかりはいかないようですが。フォードもまたしかりですね。この業界に限っては、日本と欧米では、創業家の力量が企業業績や不正への効きが正反対のようです。やはり、創業家ガバナンスは、日本文化に最適なのでは? などと少々砕けた考えを持っていたりしています。(^^;)

⇒「セブン&アイ・ホールディングス 鈴木敏文前会長兼CEO退任まで(1)発端はサード・ポイントの株式取得から始まった - 日本経済新聞まとめ
⇒「セブン&アイ・ホールディングス 鈴木敏文前会長兼CEO退任まで(2)指名報酬委員会から臨時取締役会までの流れ - 日本経済新聞まとめ
⇒「セブン&アイ・ホールディングス 鈴木敏文前会長兼CEO退任まで(3)コーポレートガバナンスに関する論点整理① - 日本経済新聞まとめ
⇒「セブン&アイ・ホールディングス 鈴木敏文前会長兼CEO退任まで(5)コーポレートガバナンスに関する論点整理③ - 日本経済新聞まとめ
⇒「セブン&アイ・ホールディングス 鈴木敏文前会長兼CEO退任まで(6)迫真 迷走セブン&アイ まとめ記事を1本にまとめる! - 日本経済新聞まとめ

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