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■ AIがバフェット氏を超克する日は来るのか?

経営管理会計トピック

ウォーレン・バフェット氏は、現代で最も成功した投資家の一人です。その投資スタイルは、バイ・アンド・ホールド。とにかく、自分基準の企業価値を算定し、市場の揺らぎの中でその企業価値から株価が乖離したタイミングで買い(売り)を入れる。買いを入れたときには、長期保有が前提。その投資スタイルをAIが真似て、バフェット以上に成績を残す時代が本当にやってくるのでしょうか?

2017/4/12付 |日本経済新聞|朝刊 〈FT特約〉知恵に欠ける人工知能投資 バフェット氏にかなわず

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

「株式市場で稼ぐ極意を心得ている人がいたら、自分だけの秘密にしておくだろう。金融市場でなんとも不思議なのは、最も優秀な投資家が投資の秘訣を公然と明かしながら損をしているようには見えないことだ。」

バフェット氏は、自分の投資手法を繰り返し世間に説明し、手の内はすべて公表されています。その上、米国株式市場の規制のおかげで、バフェット氏がどんな銘柄を保有し、いつ売買したのか、常に直近3ヶ月の取引記録をいつでも見ることができます。これを真似ようと思い立ったら、いつでもバフェットのように成功している投資家の明かされている秘訣にしたがって株式取引をすれば、誰でも同程度の成功を成し遂げることができ、バフェット氏の優位性はとっくの昔に消え失せてしまうのではないでしょうか?

Warren Buffett KU Visit.jpg

WiKiより)

バフェット氏が投資する基準は次の4つ。
① 事業の内容が簡単に理解することができる
② 長期的に業績が良いことが予想される
③ 経営者に能力がある
④ 魅力的な価格である(本来価値よりお買い得になっている)

これは本当に奇妙なことです。手を明かしているのに、それを逆手にとってバフェット氏を打ち負かすどころか、その業績を上回る投資家が現われていないのは。

(参考)
⇒「バフェット氏率いるバークシャー 米国最強の複合企業に 事業会社利益8割超 資金融通に強み
⇒「著名投資家バフェット氏、車販売会社を買収 米でさらにM&A検討
⇒「ここがヘンだよ!日本の株”主”会社(3)(ゼロから解説)「複利」を投資の味方に 投信、毎月分配型は利点生かせず

「成功している投資家が秘訣を明かせば、簡単にまねされて、強みは消えてしまうのではないのか。コンピューター主導の投資戦略の開発に大金を投じている人たちはそう考え、人工知能(AI)投資では独自の知識を必死で守ろうとする。」

「「人工知能」という言葉の厳密な意味と使い方は人によって異なるが、AIは投資の世界に革命を引き起こす力を持ち、やがてバフェット氏のような投資家の素朴な知恵は時代遅れになるという考え方が急速に受け入れられている。」

AIを用いたアルゴリズムで、生身の人間が行う投資判断を出し抜くことを目指している技術者&野心家たちの間では、投資の世界にAIが革命を引き起こし、やがてバフェット氏のような投資家の素朴な知恵による投資スタンスは打ち負かされると考えられています。

(参考)
⇒「AI(人工知能)が人事部と経理部から人間を駆逐する日はいつか? - HRテックとフィンテックの影響は?
⇒「(新産業創世記)「土俵」が変わる(1)AI社長の下で働けますか 決断が人の役割 - 経営判断を下す日立のAI

 

■ ロボアドバイザーやビッグデータ解析がやっている本質とは?

「そうした野心的なファンドの一つであるエマAIの創業者は、アルゴリズム取引は手掛けずに「文字通りアナリストの複製」を目指すと言っている。他のプログラムには織り込まれない欧州の金融政策といった事柄を考慮に入れるのだという。」

AI投資ツール「ロボアドバイザー」を開発・利用している人たちは、自分自身の投資スタイルに関するいくつかの質問に答えるだけで、ロボアドが最も適切なポートフォリオを提示してくれると信じています。その提案の裏に隠されたアルゴリズムの正体を知ることもなく。過去の株価変動および、その変動に影響を及ぼしているであろう各種変数をビッグデータ解析し、もっともらしいアルゴリズムで「これで儲かりまっせ」という組合せを提案してくれるのですが、過去トレンドデータから本当に将来予測が可能なのでしょうか。しかも投資主体が望む価格変動する方向に。

どんなに大量のビッグデータを扱って、何百種類の変数と株価の相関関係から、いくつかの仮説を打ち出して、儲かりそうな選択肢を提示してきても、あくまでそれは「相関関係」であって、「因果関係」ではありません。回帰分析で得られる「相関関係」は、たまたま株価と同じ(または正反対の)動きをする変数を見つけ出しているだけで、その変数の動きが株価自体を動かしているという、

原因 → 結果

という「因果関係」をあわらしているとは限らないのです。しかし、バフェット氏は長年の市場観察と金融理論から培った投資法則と売買タイミングを身に付けています。その投資法則は、必ずしも定量化されて、「回帰分析」される対象データがあるものではありません。

「エマAI」が「文字通りアナリストの複製」を目指していると言っても、所詮、デジタル処理できるデータを相手にしているのです。そこでのデータ処理のためのロジックの基礎は「相関分析」に代表される統計解析手法にすぎません。統計解析処理自体が本当に儲かる投資判断ができるかを自己証明することは理屈として難しいでしょう。

 

■ バフェット氏が本当に市場で勝ち続けられている本質的な理由を考えてみる!

本記事が指摘しているバフェット氏の成功の秘訣は次の通り。

(1)バフェット氏が成功しているのは判断ミスをしている人が反対売買をしているから
「バフェット氏が投資手法をオープンにしたままでこられたのは、市場で大多数の人々が間違いを繰り返しているがゆえに強みを保てるからだ。人間をまね、人間のゲームで人間を打ち負かす技術を創り出そうとしている新種のファンドは、人間の投資家の最も悪い特徴をすべてまねるだけに終わるかもしれない。」

(2)定性的な企業価値判断の材料はアルゴリズム処理ができない
「人々が市場について考える材料にしようとする情報やデータの大部分は、個別企業の浮き沈みに当てはめてもほとんど意味を持たない。コンピューターは大量のデータ処理に強みを発揮するだろうが、経営者の性格やブランドの持久力に関する見極めなど、バフェット氏が卓越性を示してきた質的な判断には苦しむかもしれない。」

本記事は、次の言葉で締められています。
「金融市場は誕生以来、欲望と恐怖に突き動かされてきた。どれほど技術が進歩しても、人間の本性は変わらない。大資産家のカール・アイカーン氏は、こう言い表している。「AIを研究して金持ちになる人がいる。私は人間生来の愚かさを研究して金を稼ぐ」」

ビッグデータを相手にして儲けられるのではない。市場で勝とうとしている愚かな判断をしてしまった人をうまい具合に負かすことで儲けられるのだ。

行動経済学のロジックが進化し、AIに搭載されて、愚かな人間同士の駆け引き自体がアルゴリズム実装された時、AIが本当の意味で人間に投資の世界でも勝利するはずです。でもそれって、人間の脳内の思考が全て明らかにされて、AIで再現された時。本当にそういう時代がやって来るのか、来るとしてそれはいつ頃なのか、筆者には分かりません。しかし、ひとつだけ分かることは、AI内で人間の思考が再現できるという事実は、もはやそれはAIではなくて、自我を持つ人間の思考体(攻殻機動隊的に言えば、義体化率100%)を作り出すことと同義と思うのであります。

(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

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〈FT特約〉知恵に欠ける人工知能投資 バフェット氏にかなわず - AIが人間に投資で勝利する意味は、AIが完全義体となる時であるhttp://keieikanrikaikei.com/wp-content/uploads/2015/04/1-e1427893099240.jpghttp://keieikanrikaikei.com/wp-content/uploads/2015/04/経営管理会計トピック1-150x150.jpg小林 友昭テクノロジー人工知能,AI,ビッグデータ,相関関係,因果関係,ウォーレン・バフェット,行動経済学,アルゴリズム,ロボアドバイザー,回帰分析,攻殻機動隊■ AIがバフェット氏を超克する日は来るのか? ウォーレン・バフェット氏は、現代で最も成功した投資家の一人です。その投資スタイルは、バイ・アンド・ホールド。とにかく、自分基準の企業価値を算定し、市場の揺らぎの中でその企業価値から株価が乖離したタイミングで買い(売り)を入れる。買いを入れたときには、長期保有が前提。その投資スタイルをAIが真似て、バフェット以上に成績を残す時代が本当にやってくるのでしょうか? 2017/4/12付 |日本経済新聞|朝刊 〈FT特約〉知恵に欠ける人工知能投資 バフェット氏にかなわず (注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます 「株式市場で稼ぐ極意を心得ている人がいたら、自分だけの秘密にしておくだろう。金融市場でなんとも不思議なのは、最も優秀な投資家が投資の秘訣を公然と明かしながら損をしているようには見えないことだ。」 バフェット氏は、自分の投資手法を繰り返し世間に説明し、手の内はすべて公表されています。その上、米国株式市場の規制のおかげで、バフェット氏がどんな銘柄を保有し、いつ売買したのか、常に直近3ヶ月の取引記録をいつでも見ることができます。これを真似ようと思い立ったら、いつでもバフェットのように成功している投資家の明かされている秘訣にしたがって株式取引をすれば、誰でも同程度の成功を成し遂げることができ、バフェット氏の優位性はとっくの昔に消え失せてしまうのではないでしょうか? (WiKiより) バフェット氏が投資する基準は次の4つ。 ① 事業の内容が簡単に理解することができる ② 長期的に業績が良いことが予想される ③ 経営者に能力がある ④ 魅力的な価格である(本来価値よりお買い得になっている) これは本当に奇妙なことです。手を明かしているのに、それを逆手にとってバフェット氏を打ち負かすどころか、その業績を上回る投資家が現われていないのは。 (参考) ⇒「バフェット氏率いるバークシャー 米国最強の複合企業に 事業会社利益8割超 資金融通に強み」 ⇒「著名投資家バフェット氏、車販売会社を買収 米でさらにM&A検討」 ⇒「ここがヘンだよ!日本の株”主”会社(3)(ゼロから解説)「複利」を投資の味方に 投信、毎月分配型は利点生かせず」 「成功している投資家が秘訣を明かせば、簡単にまねされて、強みは消えてしまうのではないのか。コンピューター主導の投資戦略の開発に大金を投じている人たちはそう考え、人工知能(AI)投資では独自の知識を必死で守ろうとする。」 「「人工知能」という言葉の厳密な意味と使い方は人によって異なるが、AIは投資の世界に革命を引き起こす力を持ち、やがてバフェット氏のような投資家の素朴な知恵は時代遅れになるという考え方が急速に受け入れられている。」 AIを用いたアルゴリズムで、生身の人間が行う投資判断を出し抜くことを目指している技術者&野心家たちの間では、投資の世界にAIが革命を引き起こし、やがてバフェット氏のような投資家の素朴な知恵による投資スタンスは打ち負かされると考えられています。 (参考) ⇒「AI(人工知能)が人事部と経理部から人間を駆逐する日はいつか? - HRテックとフィンテックの影響は?」 ⇒「(新産業創世記)「土俵」が変わる(1)AI社長の下で働けますか 決断が人の役割 - 経営判断を下す日立のAI」   ■ ロボアドバイザーやビッグデータ解析がやっている本質とは? 「そうした野心的なファンドの一つであるエマAIの創業者は、アルゴリズム取引は手掛けずに「文字通りアナリストの複製」を目指すと言っている。他のプログラムには織り込まれない欧州の金融政策といった事柄を考慮に入れるのだという。」 AI投資ツール「ロボアドバイザー」を開発・利用している人たちは、自分自身の投資スタイルに関するいくつかの質問に答えるだけで、ロボアドが最も適切なポートフォリオを提示してくれると信じています。その提案の裏に隠されたアルゴリズムの正体を知ることもなく。過去の株価変動および、その変動に影響を及ぼしているであろう各種変数をビッグデータ解析し、もっともらしいアルゴリズムで「これで儲かりまっせ」という組合せを提案してくれるのですが、過去トレンドデータから本当に将来予測が可能なのでしょうか。しかも投資主体が望む価格変動する方向に。 どんなに大量のビッグデータを扱って、何百種類の変数と株価の相関関係から、いくつかの仮説を打ち出して、儲かりそうな選択肢を提示してきても、あくまでそれは「相関関係」であって、「因果関係」ではありません。回帰分析で得られる「相関関係」は、たまたま株価と同じ(または正反対の)動きをする変数を見つけ出しているだけで、その変数の動きが株価自体を動かしているという、 原因 → 結果 という「因果関係」をあわらしているとは限らないのです。しかし、バフェット氏は長年の市場観察と金融理論から培った投資法則と売買タイミングを身に付けています。その投資法則は、必ずしも定量化されて、「回帰分析」される対象データがあるものではありません。 「エマAI」が「文字通りアナリストの複製」を目指していると言っても、所詮、デジタル処理できるデータを相手にしているのです。そこでのデータ処理のためのロジックの基礎は「相関分析」に代表される統計解析手法にすぎません。統計解析処理自体が本当に儲かる投資判断ができるかを自己証明することは理屈として難しいでしょう。   ■ バフェット氏が本当に市場で勝ち続けられている本質的な理由を考えてみる! 本記事が指摘しているバフェット氏の成功の秘訣は次の通り。 (1)バフェット氏が成功しているのは判断ミスをしている人が反対売買をしているから 「バフェット氏が投資手法をオープンにしたままでこられたのは、市場で大多数の人々が間違いを繰り返しているがゆえに強みを保てるからだ。人間をまね、人間のゲームで人間を打ち負かす技術を創り出そうとしている新種のファンドは、人間の投資家の最も悪い特徴をすべてまねるだけに終わるかもしれない。」 (2)定性的な企業価値判断の材料はアルゴリズム処理ができない 「人々が市場について考える材料にしようとする情報やデータの大部分は、個別企業の浮き沈みに当てはめてもほとんど意味を持たない。コンピューターは大量のデータ処理に強みを発揮するだろうが、経営者の性格やブランドの持久力に関する見極めなど、バフェット氏が卓越性を示してきた質的な判断には苦しむかもしれない。」 本記事は、次の言葉で締められています。 「金融市場は誕生以来、欲望と恐怖に突き動かされてきた。どれほど技術が進歩しても、人間の本性は変わらない。大資産家のカール・アイカーン氏は、こう言い表している。「AIを研究して金持ちになる人がいる。私は人間生来の愚かさを研究して金を稼ぐ」」 ビッグデータを相手にして儲けられるのではない。市場で勝とうとしている愚かな判断をしてしまった人をうまい具合に負かすことで儲けられるのだ。 行動経済学のロジックが進化し、AIに搭載されて、愚かな人間同士の駆け引き自体がアルゴリズム実装された時、AIが本当の意味で人間に投資の世界でも勝利するはずです。でもそれって、人間の脳内の思考が全て明らかにされて、AIで再現された時。本当にそういう時代がやって来るのか、来るとしてそれはいつ頃なのか、筆者には分かりません。しかし、ひとつだけ分かることは、AI内で人間の思考が再現できるという事実は、もはやそれはAIではなくて、自我を持つ人間の思考体(攻殻機動隊的に言えば、義体化率100%)を作り出すことと同義と思うのであります。 (注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。現役の経営コンサルタントが管理会計をテーマに情報発信します