限界利益と埋没原価を用いて一番儲かる方法を見つけます ③制約条件が動けばセールスミックス問題の解も動く

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■ 制約条件が動くときのセールスミックス問題の解き方とは?

前回は、セールスミックス問題を解く際に、留意すべき制約条件を考慮することを解説しました。これは、「制約理論(TOC:theory of constraints)」の基本コンセプトに従った考え方です。

⇒「限界利益と埋没原価を用いて一番儲かる方法を見つけます ② TOCでセールスミックス問題を解く

この考え方はとてもシンプルでかつ強力なものです。

① 経営プロセスの中でどこがボトルネック(制約条件)かを探す
② ボトルネックの中で最大のスループットとなる選択肢を探す

これを意思決定会計的フレームワークに従って表現すると、

ボトルネック(制約条件)の変数となるものの単位当たり限界利益が最大の選択肢を選ぶ

ということになります。

● セールスミックス問題
X工場では、A製品(高機能版)、B製品(普及版)の2種類の製品を生産しています。いずれも、製品プラットフォームを共通化させているので、生産設備は共用とすることができます。問題をシンプルにするために、段取り替えの時間とコストは発生しないものとします。そのために、1か月単位で生産切り替えの判断を行い、同月内では、A製品かB製品かいずれか1種類だけを生産するものと仮定します。

前回のセールスミックスの例題、X工場でA製品とB製品のいずれかを製造・販売した方が儲かるか、における損益見込表を再掲します。

意思決定会計(入門編)損益見込情報

前回の制約条件は、「生産能力(稼働時間)」でしたので、時間当たりの限界利益がより高いB製品の製造・販売を選択した方がより儲かるという回答を得ました。これを表した利得表も再掲します。

①生産能力が制約の場合
X工場の1ヶ月の稼働時間の上限が4000時間。これが損益見込情報にある全ての要素・変数の中の制約条件、つまりこれをボトルネックと仮定します。

意思決定会計(入門編)①生産能力が制約の場合

では、この制約条件、「生産能力(稼働時間)」が制約条件でなくなってしまったとしたら、セールスミックス問題の解は変わってしまうのでしょうか?

 

■ 販売個数が制約条件の場合、A製品とB製品のどっちを作ったらお得か?

②営業能力(販売個数)が制約の場合
X工場から供給される製品のいずれも、代理店販売チャネルを通しての販売となります。月ぎめの契約販売(引取り)個数の上限が100個。これが損益見込情報にある全ての要素・変数の中の制約条件、つまりこれをボトルネックと仮定します。

販売力が制約条件の場合、X工場はA製品とB製品のいずれを製造・販売するとより儲かるでしょうか?










前回同様、ボトルネックにあたる制約条件について、最大の限界利益を得る選択肢が一番儲かる経営判断ということになります。損益見込情報を参照すると、「限界利益単価」という項目が見当たります。それを確認すると、

A製品:40円/個
B製品:30円/個

この仮定において、一番希少な経営資源である100個/月という販売枠。その販売個数の単位当たり利益が一番大きいものを選べば、それが一番儲かる選択となるはずです。ちなみに、固定費:2,000円は、X工場を操業するのに必要な経費(実務的には減価償却費を想定頂ければ)であり、いずれの製品の生産を選択しようと、発生も回避できないし、金額も不変です。そういうコストは、埋没原価(サンクコスト)と呼び、対象となる選択肢を選ぶ際には無視し得る要素です。それゆえ、売上高(販売金額)、変動費、その差額概念である限界利益だけで、どっちがより儲かるかが分かる、という建付けになっています。このように、選択肢の選びようによっては、発生額が変わってしまうコスト要素を「差額原価」と呼び、本ケースでは、「変動費」がそれに該当します。

多少、焦らせてしまいましたが、販売個数当たり限界利益がより大きいA製品を生産・販売した方が、X工場の経営について、一番儲かる選択肢ということになります。

一応、答えが出ましたが、念のため、販売個数が制約条件となるA製品とB製品両方を生産・販売した際の損益表も提示しておきます。

意思決定会計(入門編)②生産個数が制約の場合

この表を見る際の注意点を2つほど。

まず一つ目は、表記上の問題。制約条件が「販売」個数ですが、表中では「生産」個数と表現しています。これは、当月生産したものは在庫に回らずすべて販売される、それゆえ、生産個数 = 販売個数 の前提があることを示します。在庫が絡むと初心者向けの例題にならないのでここは、非実務的かもしれませんがご容赦を。(^^;)

二つ目は、説明の都合でいきなり「限界利益単価」へ話を振ったこと。これは、販売数量が制約になった場合、常に「限界利益単価」に注目すれば問題は解ける、という意味では決してないということ。これは、次章以下にて、「制約条件」が動く、という状態の中での意思決定の在り方についての説明をさらに深めたいと思います。

 

■ 制約条件が動く時、埋没原価は何の用も足さない

これまでに説明された2つの「損益見込表」の下部に青とピンクでハッチングしている箇所があると思います。ここは、A製品、B製品の製造・販売を選択した際の、各種利益情報を追加してあります。青がより儲かる方、ピンクがより儲からない方を意味しています。生産能力が制約の場合と、営業能力が制約の場合と、同じものもあれば、異なる項目もあります。

不変なのは、
・限界利益単価
・限界利益率
・時間当たり限界利益

変わったのは、
・営業利益単価
・営業利益率
・時間当たり営業利益

変わった項目について、数字自体も変わっていますが、A製品とB製品とどっちが儲かるかを判定する青とピンクの色付けも逆転していたり、同数字になっていたりと動き方に規則性がありません。これは、「固定費」という埋没原価(サンクコスト)が含まれてしまっている営業利益に基づく指標がその理由。埋没原価を含んだ利益概念では、どっちが儲かるか、という意思決定には使えないことの強力な例証になっているのです。全部原価ベースの制度会計(財務会計)上の損益情報では、経営意思決定がしづらいものもある。これは、制度会計の数字至上主義者への強力な説得材料になる。そう筆者は考えています。

 

■ 制約条件が動く時、損益見込表の読み方をどう対処すべきか?

それでは、本稿のクライマックスといきましょう。

今回のセールスミックス例題では、「①生産能力が制約の場合」と「②生産個数が制約の場合」の2つを検証してもらい、それぞれ、B製品がお得、A製品がお得、と異なる結論に至ることも確認しました。

制約理論(TOC)により、スループット(それは生産量であったり利益であったり表現方法はさまざま)を最大にする経営判断が最終的にその企業を一番儲けさせる選択であることを証明しました。そして、その選択肢は、制約条件が変われば、それに従って変わることもご理解いただけたはずです。

「①生産能力が制約の場合」から「②生産個数が制約の場合」へ制約条件が変わった際に、儲けるためのボトルネックも変わりました。①では、稼働時間、②では、販売個数(=生産個数)でした。実務では、①から②へ制約条件が変わったとしても、必ずしも、その制約条件が、稼働時間から販売個数へシフトするとは限らないことも同時に理解しておかないと、このフレームワークを使いこなしたことにはなりません。

意思決定会計(入門編)制約条件が動く、の意味とは?

生産から営業へ、経営プロセス上の制約条件がシフトした際に、同時に、上記の説例では、稼働時間にリンクした生産個数より、販売契約にリンクした生産個数(=販売個数)の方が、A製品もB製品も小さくなる、わざとできるだけそういうシンプルな例をつくったから、結果がそうなっただけのこと。

それゆえ、生産能力が制約の場合は常に「稼働時間」が制約となるとは限りません。また。生産個数 > 販売個数 という不等式が成り立っているこのケースでは、常に、時間当たり限界利益から、個当たり限界利益に、着目すべき利益指標が移っただけのこと。仮に、生産個数 < 販売個数 が成立していた場合、つまり、需要過多の場合は、常に、稼働時間が制約条件であり続けます。

管理会計初心者の方は、初心者向けの教科書に書いてある、「戦術的意思決定では、限界利益だけを見ていれば判断を間違わない」「生産能力に制約がある場合は、稼働時間単位当たり限界利益を見ていれば、判断を間違わない」という類の言葉を鵜呑みにしないように、細心の注意を払っていただきたいと思います。

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