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限界利益と埋没原価を用いて一番儲かる方法を見つけます ④ 限界利益率と限界利益単価のどっちが無双か?

意思決定会計 (入門)
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■ 選択肢が3つ以上のセールスミックス問題の解き方に挑む!

前回は、セールスミックス問題を解く際に、ボトルネック(制約条件)が動くときに、どうやって一番儲かる手段を選択できるか、汎用的な考え方を説明しました。つまり、ボトルネックにおける変数単位当たりの利得(限界利益)が一番大きい選択肢が最上解なのでした。

⇒「限界利益と埋没原価を用いて一番儲かる方法を見つけます ③ 制約条件が動けばセールスミックス問題の解も動く

さて、前々回にて、セールスミックス問題を解く際に信用に足るのは「限界利益率」か「限界利益単価」のどちらの利益指標か、という生煮えのままの問いかけをしていたのはご記憶されていらっしゃるでしょうか? 本稿では、この問題を解くとともに、選択肢が3つ以上になっても、同じ手法で一番儲かる方法を探し出せることを証明したいと思います。

それでは、装いも新たに例題を下記に改題の上再掲。

● セールスミックス問題
X工場では、A製品(高機能版)、B製品(普及版)、C製品(エントリーモデル)の3種類の製品を生産しています。いずれも、製品プラットフォームを共通化させているので、生産設備は共用とすることができます。問題をシンプルにするために、段取り替えの時間とコストは発生しないものとします。そのために、1か月単位で生産切り替えの判断を行い、同月内では、A製品、B製品かC製品のいずれか1種類だけを生産するものと仮定します。どの製品を製造・販売すると一番儲かるでしょうか?

この問いにおける損益見込表は次の通り。

意思決定会計(入門編)損益見込情報(PART2)

さて、これを一瞥しただけで、どの製品が一番儲かるか、瞬時に分かった方はこれまでの説明をきちんと理解した人です。すみません、嘘です。m(_ _)m
選択肢がもう一つ増えようと、何が制約条件かも分からずに、セールスミックス問題を解くことはできないのでした。思い出されましたか?(^^;)

 

■ 手順を追って制約条件を確認していきましょう!

①生産能力が制約の場合
X工場の1ヶ月の稼働時間の上限が4000時間。これが損益見込情報にある全ての要素・変数の中の制約条件、つまりこれをボトルネックと仮定します。

この場合、制約条件である「生産能力(稼働時間)」の単位当たり限界利益が一番大きい選択肢が、結果として営業利益も一番大きくなるのでしたね。それゆえ、損益見込表を見て、制約条件を知った瞬間に、「時間当たり限界利益」に目をやり、C製品が「5.0円/h」と最大であることを確認し、即答できた方は、この段階で合格となります。

念のため、生産能力が制約条件となる損益表を下記に示します。

意思決定会計(入門編)③生産能力が制約の場合(PART2)

ハッチングの色遣いを再確認。青が一番で緑が真ん中、ピンクが最低です。
損益表の下部に並んでいる分析指標を順に見ていきます。

「限界利益単価」
高機能品>普及品>エントリーモデルの順に、大小の値をとります。製品1個としては、A製品が最も限界利益が大きいことが分かります。でも今回は個当たりが制約条件ではないのでこの指標は出番なし。

「限界利益率」
エントリーモデル>高機能品>普及品の順に、大小の値をとります。本稿の主題の一つがこれ。勿体ぶって解説は後回しとします。なお、このケースでは個当たりが制約条件ではないので、これもハズレ指標。

「時間当たり限界利益」
エントリーモデル>普及品>高機能品の順。これがこのケースの回答。何って、制約条件にあるボトルネック、稼働時間当たりの利益が大きい順番となるから。

以下、営業利益関係の指標は事前の意思決定には使えません。なぜなら、固定費という埋没原価(サンクコスト)を含んだ指標となるので。まあ、短期利益計画(予算編成)の際には、最終的な期間損益を確認するためには使いますが。

 

■ 販売個数が制約条件の場合、A製品、B製品、C製品のどれを作ったらお得か?

②営業能力(販売個数)が制約の場合
X工場から供給される製品のいずれも、代理店販売チャネルを通しての販売となります。月ぎめの契約販売(引取り)個数の上限が100個。これが損益見込情報にある全ての要素・変数の中の制約条件、つまりこれをボトルネックと設定します。

販売力が制約条件の場合、X工場はA製品、B製品、C製品のいずれを製造・販売するとより儲かるでしょうか? 個当たりが制約条件となるので、前章で取り上げた「限界利益単価」とか「限界利益率」関係の指標が使えそうですが。。。










前回同様、ボトルネックにあたる制約条件について、最大の限界利益を得る選択肢が一番儲かる経営判断ということになります。損益見込情報を参照し、「限界利益単価」という項目を確認します。

意思決定会計(入門編)④生産個数が制約の場合(PART2)

A製品:40円/個
B製品:30円/個
C製品:25円/個

はい、答えはA製品でした。

 

■ だから「限界利益単価」と「限界利益率」のどっちが使えるんだ!?

では、本稿のクライマックスといきましょうか。上記の「①生産能力が制約の場合」「②営業能力(販売個数)が制約の場合」いずれのケースでも、以下の3つの指標の順位は不変であることにお気づきでしょうか?

「限界利益単価」
「限界利益率」
「時間当たり限界利益」

これに引き換え、営業利益系の指標はケース①と②とで順位を異にしています。つまり、事前の戦術的意思決定のフレームワークの代表選手、セールスミックス問題においては、限界利益に注目しておけば間違いないようです。

そして、「単価」か「率」か、どっちが本物の指標たり得るか?

上記の例では、わざと作為的に「単価」と「率」の順位が入れ替わるように設例しました。実務としてしょっちゅう発生する事例のひとつだからです。なぜ「単価」と「率」とで順位が入れ替わるということが発生するのでしょう?

それは、販売単価と原価単価の変化率が異なるからです。A製品を基準として考えます。B製品の販売単価は、A製品の20%減で、C製品の方は40%減。一方、原価単価(ここでは変動費単価)は、B製品については、A製品に対して17%減、C製品については、42%減。つまり、A製品に対して、相対的にB製品よりC製品の方が、原価単価の減少率が高い、即ち原価率が相対的にB製品より改善する、ということになるのです。

最初歩の管理会計の教科書が、セールスミックス問題を解く際に、限界利益に着目するように言及しているのは普通のこと。さらに踏み込んで、「限界利益単価」なのか、「限界利益率」なのか、解説しているものには滅多にお目にかかりません。

セールスミックス問題を解く前に、スループットが生産・販売数量なのか、生産高・売上高なのか、数量指標なのか、金額指標なのか、それ次第で「限界利益単価」を見るべきか、「限界利益率」を見るべきかが変わるのです。実はこれ、CVP分析の説明の導入箇所で触れているものでした。

財務分析(入門編)_CVP分析 数式モデルの比較

(参考)
⇒「CVP分析/損益分岐点分析(2)基本モデルを理解する - 数式モデルの成り立ちについて

当然、間違ったガイダンスですが、プロフィットセンター長の業績評価指標として、「売上高利益率」を与えることがあります。利益「率」を評価指標に与えると、セールスミックス問題で、せっかく数量情報を把握していても、「限界利益率」を見て間違った経営判断を誘うことがあります。これは、筆者のコンサル人生の中で何回か遭遇した代表的な誤謬のひとつです。もう皆さんは、同じ間違いは犯しませんよね。(^^)

まあ、最終的には、損益表を作成してどの選択肢が最も利益を上げられるか可視化すれば一目瞭然なのですが、選択肢が多いと損益表を作るのも一苦労。だから、損益見込表とボトルネック情報から、瞬時に最大スループットを探し出せば、意思決定も楽になるというものです。どうぞ、商品企画、営業現場、生産現場などでこの手法をお使いくださいませ。

意思決定会計(入門編)限界利益と埋没原価を用いて一番儲かる方法を見つけます ④ 限界利益率と限界利益単価のどっちが無双か?

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